第十話 襲撃者
「お前は確実に死ぬ。これは天命だ。しかし変えることもできる。お前がこの先に生きることができる未来は1つだがあった」
オーディンがニヤニヤと笑っている。
全くもって気にくわない。将棋をやっている子供が、次で勝てるという、と確信しているような顔に似ている。
命に限界がない神にとって僕ら人間のたった一つの命なんて痛くもかゆくもないのだろう。
だが僕はここで死ぬことはできない。死ぬ気も毛頭ない。
「それで、その1つの未来に行くには?」
「それを教えることはできん。私に未来を覆すことはできん。覆す行為もだ」
「教えることは大丈夫なんですか?」
「知らん。なんともないから大丈夫だろ」
そんなことならもう少し深いことを教えて欲しかった。
「断る。それともう一つ、ここの迷宮を出たら時の神、クロノスを探せ。奴は人間界にいるはずだ」
「それは....どういう」
「時間みたいだ、そろそろ始めろ。わからないことはアマゾネスのものに聞け」
瞼を開けているんだが全く何も見えない。
また戻ってきたようだ。この迷宮に。
松明に火をつける。パチパチと音を立てながら炎が燃え、あたりを照らす。
〜〜〜〜〜〜
「あああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
最悪だ。港が死んだ夢を見た。
エレナは右手で顔を抑える。
どうすればいい。いや、どうしたら、港を助けることができる。全くイメージがわかない。
「エレナ?起きたの?」
アナがゆっくりと扉を開けた。
「うん」
「大丈夫?」
「大丈夫、じゃないかな」
「だよね」
アナが右手に持っていたにポットに入った水をグラスに注ぐ。
「イユさん。いる?」
アナからグラスを受け取り水を口に含む。冷たい水が喉を通って腹に入っていくのがわかる。
「イユさん?わかんないな。どうすんの?」
「ちょっと聞きたいことがあって」
一つ、見つけた。アーキュスは港は絶対にミノタウロスを殺せない、と言ったが。果たしてそうだろうか。港が勝てないのは港があったことのあるミノタウロスだけだ。もしも私がそのミノタウロスを殺すことができたなら。
港が死ぬことはないはずだ。ないはずであってほしい。
「ちょっと待ってね」
アナが窓の近くにあった紐を引いた。鈴が鳴り、忍者のように1人のメイドが現れた。
「どうしました?」
「イユさんはいますか?」
「イユ様はただいま警備隊と森を回っております。緊急のようでしたら呼びますがいかがいたしましょう」
「どうする?エレナ」
「お願いします」
「かしこまりました。しばらくお待ちください」
メイドが森の中に消えた。
「ねえ、アナ。そういえばいつの間にこんなところに移動させられたの?」
今気がついたがなんか前の部屋より牢獄感が増した。なんか窓にまで柵がついてる。
「エレナが気絶してからだよ。なんかこっちの部屋に移ってくれって」
「そういやオルは?」
「なんか他の場所に連れて行かれたよ。聞きたいことがあるんだって」
「そうなんだ」
嫌な予感がするような、しないような。
〜〜〜〜〜〜
森の中には何人もの戦士が倒れている。その奥ではイユと黒い鎧をまとった大男が戦っている。
木々がいくつもへし折られ、鋼と鋼が交わり、鈍い音が森に響く。
「貴様はアマゾネスの里のものだろう」
「そうだったら?」
「里の場所を教えろ」
「嫌だ」
イユが少し押され始めた。大男に何度も剣撃を加えているがその全てを大剣で軽くあしらわれ、反撃されている。
「っ!!!」
「どけ」
「あぁぁ!!!」
大男がイユの剣ごとイユを斬りつけた。後ろに飛んで体が真っ二つになることは避けたイユだったが左腕から血が垂れる。
「里の場所を教えろ、そうすれば命は助けてやる」
イユは腰のポーチから魔術紙を取り出して傷口に貼った。緑色の光が傷口の周りを照らし、光がなくなる頃には傷がすっかりとなくなっていた。
「はぁ、無視か。いい身分だな」
大男が大剣を肩に乗せ、立ち上がった。
「イユ様.......お逃げください」
それと同時に倒れていた戦士たちが立ち上がり権を構えた。しかし手に持つ剣がカタカタと揺れている。
怪我を治すことができても心の恐怖までは治せるものではないようだ。
「全員、撤退準備」
「イユ様!!!!!」
「死ね」
その場の戦士が一斉に剣を向けた。しかし、足が前ではなく後ろにジリジリと進んでいる。
「撤退し、里で戦闘準備を整えなさい。上官命令です」
イユが落ちていた剣を手に取った。
「イユ様、大丈夫です。里の方には報告しました。イユ様も撤退してください。エレナ様がお呼びです」
メイドが突然、姿を現した。そしてすぐに消えた。
それを合図に所々で光が出始め森から1人もいなくなった。
「ゼルト様。いかがいたしましょう」
「黙れ」
木の陰から声をかけたゴブリンの顔が丸くくり抜かれ血がどろりと垂れる。
「さて、始めますか」
ゼルトが大剣で地面を真っ二つで割った。地面に大きな亀裂ができ、その中に木々がなだれ込む。そしてそれと入れ違いになるように、魔物がウジャウジャと現れた。まるで墓から出てくるゾンビのようだ。
「いけ、アマゾネスの里を探せ」
魔物が隊列を組み、ぞわぞわと森の中に消えた。




