表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある日、僕は神様の子供になりました。  作者: tomo
アルツベン高校
5/57

第四話 死ぬ日までの生き方

 目が覚めるとそこには真っ白い天井があった。


 口には酸素マスクがついて、近くからはピッ ピッ ピッ ピッ とリズムのいい音が聞こえてくる。

体を起こそうとするが体が動かない。手足が固定されているようだ。

首は動くらしい左側を見るとガラス越しにナズ兄さんとナナさんがこちらを見ている。二人とも目が少し腫れている。


 周りを見ると結構ハイテクそうな機械が置いてある。

ここは集中治療室らしい。空気がとても澄んでいる気がする。標高の高い山の空気より綺麗だと思う。


 ナズ兄さんとナナさんさんが僕が起きたことに気がついた。二人とも笑顔でこっちを見ている。ナズ兄さんが携帯で電話をかけ始めた。多分じいさんとばあさんに連絡しているんだろう。


突然、左肩のあたりに激痛を感じた。


「ウゥッ!!」


 体を猫のようにまるめようとしたが固定されているからできるわけもなくベットがガタっと動いた。

その音に気づいたのだろう。医者っぽい人と看護師?が二人出てきた。体型がベイOOクスに似ている。


「大丈夫だからね」


 医者っぽい人が言ってきた。右手に注射器を持っている。全然大丈夫じゃない。怖すぎる。

僕は力一杯暴れそうとしたが看護師に両腕を両足を抑えられて全く動けない。ここで僕は気がついた。この看護師たちの方が医者よりもよっぽど怖い事を。


そこからまた寝ていたらしい、いや麻酔を打たれたと言った方が正しいのだろう。



 次に起きた時は普通病棟にいた。


 ナナさん、ナズ兄さん、ばあさん、じいさん、道場の皆さんがお見舞いに来てくれた。学校の同級生は一人も来なかった。


 レイは助からなかったと聞かされた、病院で死亡が確認されたらしい。多分みんなレイの葬式に行ったのだろう。僕はまた助けられて運よく生き残ったらしい。レイの両親からはとても恨まれた。泣きながら僕の病室に飛び込んで来てレイのお父さんからは思いっきり殴られた。お母さんはその場で泣き崩れていた。


 事件の新聞やニュース番組を見てみたがなぜかミノタウロスのことは流れていなかった。金髪の少女のことも。警察は死体の殺され方などからセスナ・クルシュを最近起きていた変死体の犯人とし近いうち指名手配するそうだ。ニュースキャスターが言っていた。新聞の一面にも書いてあった。僕が言った”彼女は吸血鬼だ””ミノタウロスのような怪物がいる”などの情報は全く使われていなかった。なぜかはわからない。医者からは仲のいい同級生の死のショックで記憶がめちゃくちゃになっているのだろうと言われた。


〜〜〜


 事件から明日で一週間が過ぎる。左肩の怪我はもうほとんど治っている。痛みはない。最新の医療の進歩はすごい。

 外を見ると夕方だった。あの時のオレンジ色の不思議な夕焼けにそっくりだった。


「港....」

 ナズ兄さんが心配そうに話しかけて来た。稽古の時や普段の気迫はまるでない。

後ろでナナさんとばあさんが心配そうに見つめてくる。じいさんは家に帰った。稽古があるらしい。


「大丈夫だよ、ナズ兄さん。ナナさんもばあちゃんもありがとう」

 僕はなるべく心配をかけないように笑った。だけど笑えているとは思えない。

今は一人にしてほしい。


それに気づいたのかばあさんが口を開いた。


「それじゃ港、私たちは家に帰るからね。何かあったら電話してね」

「わかった、ありがとうおばあちゃん」

「港君、これ本。暇があったら読んで見てね」

ナナさんが本をベットの隣の台に本を置いた。

「ありがとう、ナナさん」

いろんな人が本をくれたらしい。もう台にいくつかある。


ガラガラ


 扉が開いてみんな帰って行った。部屋には僕一人だけになった。

泣きたい。

僕は布団に顔を伏せた。でも涙は出て来なかった。


 そのまま眠ってしまったらしい。しばらくしてから顔を上げると部屋がもう暗くなっていた。

就寝時間を過ぎているせいか電気が消えている。

部屋が暗闇に包まれている。

とても静かだ。


バサバサ!!


 ベットの隣の台から本が落ちた。見て見ると一番上の本の内容は恋愛系の泣ける話だ。題名もそれっぽい。


ん?

 僕は違和感を覚えた。なんで僕はこの本の題名と内容を知っている?一度も読んだことはないはずなのに。

それにカバーもついてるのに。どうして?

 考えていると僕は自分の体の異変にも気付いた。服を少し脱いで噛み付かれたところを見て見る。あまりにも怪我の治りが早すぎる。左の肩のところを牙で背中まで貫かれたのになぜかもうふさがっている。傷の跡も残っていない。よくよく考えるとこんなことは今の医療技術でできるわけない。


「僕は人間なのか?」


僕が小さな声で呟く。部屋が静かだったせいか。少し響いた。


「珍しい、自分でそのことに気づけるなんて」


 病室の隅から声がした。声のした方を見るとそこにはあの時の金髪の少女がいる。歳は同じくらいだろうか、月の光に照らされてとても幻想的だ。その場だけ別世界に見える。


 しばらく見とれていた、なんて綺麗な人なんだろうと。

しかし、突然恐怖を覚えた。


「君、どうやって入って来た?」


 そう彼女の立つところは部屋の隅の窓の近くだ。窓は開いていないし僕の病室は少し特殊でこの時間帯だと自動的にロックされるようになっている。

僕はナースコールのボタンを探した。確かベットの後ろについていたはず...ない。


「探しているのはこれ?」


 彼女の手にはナースコールのボタンがある。

彼女は話を続ける。


「こんばんは、成瀬港君。私はエレナ・バン・ヘル。あなたにある高校の推薦状を届けにきたの」


高校の推薦状?何を話しているんだ?


「港君、いま自分で気がついたと思うけど、あなたはもう人間ではない。あなたは今、神の子なの」


 何を言っているんだこの人は。僕は頭をフル回転させて考える。しかし頭のおかしい人という考えしか思いつかない。


「ちょっと聞いてる?」


彼女は少しため息をついた。


「ごめん、君の言ってることが全くわからない」

本当に分からなかった。

「頭いい子だと思ったのに、めんどくさい.....これが一番手っ取り早いかなぁ」

少し沈黙が続いた。


 そして僕は彼女の左手に何か光るものがあるのに気がつくナイフだ。

ナイフというには少し小さいが何かを切るためのものには間違いない。僕は叫んで助けを呼ぼうとした。

しかしなぜか思うように声が出ない。口を手で塞がれている。


「ごめんね、今叫ばれちゃ困るの」


 この手は彼女の手らしい、しかし僕から彼女までは手の届く範囲ではない。絶対に無理だ。

そして僕は目を疑った。彼女の右手がない。いや正確には闇に飲まれている。

そして彼女は僕に向かって走り出した。ナイフを僕に向けて。僕はとっさに右手を彼女の前にかざす。


「ウッ!!」


 手の甲からナイフの先端が見える。かなり鋭い。腕を伝って血が垂れる。少しドロドロしている。真っ白なベットシーツが赤色に染まって行く。僕は彼女からナイフを奪うために右手でナイフを握った。そして彼女にナイフから放してもらおうと左手で彼女の左手でつかもうとする。


「日本人って女性に暴力を振るわないんじゃないの?」


 そんなの知らない。少なくとも僕は違う。

しかし僕の左腕が動かない。左腕の方をを見ると僕の手から肘までのところが闇に飲まれている。


「ちょっと暴れないで。」


これは彼女がやっているらしい。


「それと舌、噛まないようにね」


この言葉と同時に彼女が僕の右手からナイフを抜いた。


ピュッ


 僕の右手から血が少し吹き出た。そして彼女は僕の右手を僕の目の前に持ってきた。

僕は目を疑った。右手の傷口が生き物のように動き出している。そしてあっという間に傷口がふさがった。


「これでわかったでしょ。これが港君が神の子っていう証拠」


いつのまにか僕の左手は解放され口も自由になっていた。


「でも、まだ君を信頼できない、なぜこれが神の子の証拠なのかもわからない」

「港君、私の名前はエレナ、君じゃない」

少し怒っている。

「ごめん、エレナ」


そしてエレナがナイフを再び持ち直した。


「待っ...」


僕が言い終わる前にエレナは自分の手の甲を刺した。


「結構痛いね..」


そして傷口を僕に見せて来る。彼女も僕と同じように傷口があっという間に治った。


「確かにこれは神の子という証拠ではない、でもね。」

彼女は淡々と話し続ける。そして冷静に言い放つ。

「私たちが人間ではない証拠なのは確かよ」


 僕はうなだれた。色々な疑問が僕の頭の中で暴れまわっている。

だがこれが今、一番聞くべき質問だろう。

僕は口を開けた。


「なんで僕は神の子になったんだ?」

「それはここに来ればわかる。それとあなたが体験したこと全てについてもわかる」


 彼女から何も書いていない封筒を渡されれた。

”アルツベン高校の封筒”

これはこの封筒の名前だろうか。

住所は書いていない。これでは返信ができない。


「エレナ、これ住所が書いてないよ」

エレナに尋ねて見た。


「大丈夫、もしもここに来るのであればこの封筒を破って、そうしたら私の通う高校に来ることができる。」

不思議と疑問は持たなかった。


「わかったよ、エレナ」


すぐに破ろうとしたらエレナに止められた。


「ちょっと待って、まだ説明は終わってないの!」

「まだあるんの?」

 ちょっとイライラしている。早くレイを殺した事件について知りたかった。

もちろん僕が姉ちゃんを失ったあのことについても。


「もしも、この高校に来た場合、”成瀬港”というこの世の情報は全てなくなることになる」


破ろうとする手が止まった。

どういうことだ?

エレナに尋ねてみた。


「つまり、あなたの家族はあなたのことを完全に忘れてしまう。君が今まで関わったこと全てがなかったことになる」


 手が震え出した。絶望するという状況はこういうことを言うんだろう。

 確かに僕は僕の体験したこと全てを知りたい、だけど僕はそれと引き換えに僕はまた家族を失うことになる。

テレビで究極クエッション!とかいう番組があったのを思い出した。何バカなことを言っているんだと思っていたが、いざやってみると確かにあれはやってみると結構楽しい。だがそれは”絶対に起こらない”という状況の場合のみだ。その状況がないだけでこんなにも辛いものなんだということを知った。

僕が考え込んでいるとエレナが口を開いた。


「それともう一つ、もしもこの封筒を明日までに破らなかった場合...」


 そうだ、その手があった。そうすれば僕は神の子だろうが、今の家族と一緒に

暮らすことができる。しかしそれは僕をさらに絶望に突き落とした。



「明日の夜までには、あなたは死ぬことになる」





 ”人間、いつ死ぬかわからないだから一日一日を精一杯生きろ”

誰かが言っていたのを思い出した。”死ぬ日がわかった場合の生き方”はどうすればいいのだろう。こんな疑問を持った。何が正解は僕はわからない、少なくとも絶望とともに最後の日々を送るのは確かだ。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ