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ある日、僕は神様の子供になりました。  作者: tomo
樹海の秘宝
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第二話 魔術師の酒場

「海風、気持ちいいですね〜」

「呑気なもんだな、お前ら。これから大事な任務に行くのに」

「いいじゃない。オスカー。こんなときくらい」


 僕らは今メキシコ湾の海岸沿いをジープで移動中だ。窓から気持ちがいい海風が吹いている。任務がなければすぐにでも泳ぎに行きたいんだが、自由な時間はラスベガス観光に費やしてしまった。少しでも残しておくべきだったな。


「ネミルちゃん。初めての海はどう?」

「き、れい」

「そうだね〜」


 後部座席でアナ、エレナ、ラユラさんがネミルで遊んでる。ネミルは嬉しそうだ。あまり人に懐かない子と聞いていたから少し心配だったが、大丈夫そうだ。


 ”転送”魔術を使ったネミルとメリアスは冥界に飛ばされたみたいだ。僕が昨日準備をしている時にメリアスがネミルを僕のところに送ってくれた。その時にギミルとアウルも一緒だった。人間界を観光すると言っていた。


「オスカー。もうすぐ国境です」

「わかった。そのあとはどうすんだ?このまま車移動か?」


 僕は地図を開く。このまま南下するとあまり治安のようない地域を通らなきゃならない。別に怖くはないが僕らの存在を明かすわけにはいかない。そうすると。


「国境を越えたら協力者のところへ行こうと思ってます」

「了解だ」


 オスカーが信号で止まった。アメリカの信号は面白い。日本とは違い縦にライトが並んでいてワイアーなんかで吊るしている。地域によっては違うと思うが、ここのは落ちてきそうで少し怖い。


 目の前の横断歩道を6人くらいの子供達が歩いて行く。その後ろに保護者だろうか車椅子に乗った女性と車椅子を押す中学生くらいの少年が続く。


「おい、引っかかってるぞ?」

「僕。ちょっと行ってきます」

「俺も行く」


 車椅子のタイヤが歩道の溝に引っかかって動けなくなっている。子供達が一生懸命押しているが少しも動かなそうだ。


 僕とオスカーは車から降りて彼らに近寄る。これから海に行くみたいだ。浮き輪やバケツを持っている。


「大丈夫?」

「ママのタイヤが動かない.....」


 ほとんどの子の目が潤って今にも泣き出しそうだ。子供に愛されているお母さんなんだな。


「ちょっと待ってね。オスカー。右側お願いします」

「任しとけ」


 僕らは車椅子を歩道の上に持ち上げる。キュ!と金属がしなる音がした。体格からは想像でいないくらい重いなこの人。いや、車椅子かな?


「ありがとう!!!!」


 子供達が僕らを取り囲んで騒ぎ始めた。


「どうもありがとうございます」


 車椅子に座っていた女性が僕らに頭を下げた。こんな暑い日によくフードをかぶれるな。


「いいお子さんたちですね」

「そうですね。私の子ではないんですけど」

「そうなんですか?」

「ええ。この子たちは孤児院の子でしてね。私が親代わりなんですよ」


 座っている子が近くの女の子の頭を撫でた。女の子は恥ずかしながらもとても嬉しそうな顔をした。


「オスカー。早くしてくれない?。後ろに車来てるんだけど?」


 後ろからラユラさんの声がした。後ろを向くと窓から身を乗り出して後ろ側を指差している。ほんとだ。2、3台の車が止まっている。


「すみません、僕らはこの辺で」

「ええ。どうもありがとう。あなたたちに神のお導きがありますように」


 彼女が首から下げていた十字架を握りながら微笑んだ。その瞬間風が吹いてフードが少し上がって顔が見えた。真っ白な肌で緑色の目をした綺麗な人だ。右目の上に小さなホクロがとても印象的だ。


「ありがとうございます。それでは」


 僕らは急いでジープに乗って車を出す。


 窓の外では子供達が大きく手を降っている。その後ろで、鋭く尖る視線に僕らは気づきもしなかった。



〜〜〜



「なんだ?お前たちは」

「船をお借りしたい。小型のボートで右側から見た三番目の」

「どうするつもりだ?」

「これを」


 僕はポケットから金貨を三枚机におく。


「ふざけているのか?」

「いいえ。これを読んでもらえますか?」


 僕は小さな封筒を男に見せる。勢いよく封筒を奪い中身を読むと少し不機嫌そうな顔になったが、ふん。と鼻で男が笑い、金貨と封筒を手に持ちながら小屋から出て、僕らをその小さなボートのところに案内する。


 僕らは車の移動を終えて、ある海に面している湖にいる。そこには貸し出し用のボートがいくつもありその湖を探検できるというものだ。しかし、真の姿は魔術師の隠れ家である。


 男がボートに乗り込みブルシートをはがした。するとボートの中心には木でできたトランクボックスが1つある。いかにも海賊のお宝見たいな箱だが実際は違う。


「ほら、入れ」

「どうも」

 

 正確に行ったら隠れ箱か?どっちでもいいか。僕はそのトランクボックスに足を入れる。僕の足が底を突き抜けて箱に吸い込まれていく。僕は目を閉じて、足に地面が当たってた時に目を開ける。


 僕の目の前にはガヤガヤと賑やかな酒場が現れた。あちらこちらで手に酒を持った男たちが騒いでいる。


「おー。こりゃすごいな」


 ここは魔術師の酒場と呼ばれる魔術師たちの隠れ家だ。ここには世界中の魔術師たちが集まる。あちらこちらで魔術紙が光っている。


「港君。協力者の場所はわかっているの?」

「いいえ。なんであそこのマスターみたいな人に聞きましょう」


 僕らは酒場の中を進む。するとだんだんとその場の空気が変わって静かになっり、360度。あちらこちらから視線を感じる。


「おい女だ.....」

「なぜここに女が.....」


 こんな感じの話が聞こえるが僕は気にもとめずにカウンターで酒を作っている店員に話しかける。


「この人に会いたいんですけど」


 僕は一枚の小さな紙をカウンターの上におく。店員がその紙を手に取って見ると少し驚いたがそのまま奥の扉の方に走りだした。


「あ”〜〜〜〜?なんでこんなところのに女がいるんだ〜〜〜〜?」


 1人の右手に酒の入ったグラスを持っている大柄な魔術師がエレナに詰め寄って来た。僕はエレナの前に立って大男の顔を見上げる。かなりよっているな。顔が真っ赤で息が酒臭い。おいおい。息に含まれてるアルコール度数70%ってどんだけ飲んでんだよ。


「私たちはウェルシュ様にお会いしたくここに参りました」

「女をここに入れてはならないのを知らないのか〜〜〜?」

「承知しております」

「ならばなぜここに入ってこれた。まさか見張りを殺して!!!」


 おっとまずいな。その考え方はちょっとまずいぞ。酒場の空気が変わりざわざわとして来た。この場で問題はごめんだ。


「誤解です。僕らは招かれたんです」

「誰にだ?」


 僕はなるべくゆっくりと1つも誤解を生まないよに言葉を選びながら話す。


「ウェルシュ様です」


 その場がどよめいた。


「そんなわけがなかろう!!!俺らのボスの名前を呼ぶんじゃぇ!!!!」


 ガシャン!!とガラスの割れる音と同時に僕の頭に強い衝撃が走った。頭をグラスで殴られたみたいだ。頭から血と酒が垂れる。だが僕はその場に倒れることなく大男の目を強く見つめる。


 周りを囲む野次馬がどよめき、騒ぎだした。「やっちまえ!!」なんていう声が聞こえる。


「港....きゃ!!!」

「動くんじゃねえよ。お!。こいついい体してんぜ」


 僕に近付こうとしたエレナを他の魔術師が後ろから鷲掴みにした。「ぐへへへ」なんていう声が周りから聞こえる。こいつら........。


「おい。小僧。その女を置いていけ。そしてらとしてやるよ」

「彼女に危害を加えないと約束してくださいますか?」

「無理に決まって.........ひ!!」


 大男がエレナに手を伸ばそうとした瞬間、僕は日本刀を目の前の大男の首に当てる。そしてエレナに抱きついている小柄な男に向かって冷たく、刺さるような言葉を送る。


「やめろ。死にてえのか?」

「ああ!!やんのか小僧!!!」


 周りの野次馬どもが騒ぎだし椅子に座っていた奴らも立ち上がって手に酒瓶やグラスを構えた。


 しかし、僕は脅しを無視して大男に向き直ってヘソの上あたりに一枚の”現状維持”魔術を貼り、首を搔き切る。「が!!」という声とともに大男がその場に固まる。


「何を!!」


 周りの魔術師たちもその場に固まった。何が起こったのかを理解できていないみたいだ。


「彼女を離せ」

「何してるかわかってんのか!」


 小柄な男が近くのテーブルから果物ナイフをとりエレナの首に当てた。


「その剣を床にお...」


 僕はその間にも大男の体を切り刻んでいく。しかし血は垂れることはなく傷口もない、だが彼らはわかっているはずだ。僕が何をしているのか。


「この魔血インクは質が悪くてな。あと3分ほどで効果が切れるぞ?」

「うるせえ!!剣を床に....」


 僕は次々と大男の体に剣を当ててスライドしていく。


「わかった!やめてくれ!!」


 小柄な男がエレナを話した。僕は日本刀を鞘に収めて”現状維持”魔術を剥がし”治癒”魔術を使う。恥ずした瞬間に大男の服が切れ、傷口が現れたがちが垂れることはなくすぐにふさがった。


「行きましょう」


 あー。やっちまった。このまま見逃してくれると嬉しいんだけどな。


 オルがニヤニヤと笑っている。その後ろではアナとラユラさんが頭を抑えている。


「港。好きな女の事になるとすぐに頭に血がのぼるよな」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ。何やってんのよ。港」

「誰も頭の怪我のことは心配してくれないんですね」

「港。だい、じょうぶ?」


 ネミルが僕にタオルを渡してくれた。


「ありがとう〜。ネミル」


 僕はネミルの頭を撫でながら頭の傷にタオルを当てるゆっくりとタオルが真っ赤になっていく。


「港。ありがとう」

「ごめんな。あんな助け方....で!」


 ガシャン!と空の酒瓶が割れ、ガラスが床に散らばった。僕はエレナを手を握って日本刀を右手に構える。


 魔術師たちが僕らを囲み始めた。僕らはゆっくりっと移動して壁を背にする。


「おい。港。これお前が作った問題なんだからお前で解決しろよ?」

「おいおい。オスカー。先輩の威厳を見せてくれよ」

「あはは。諦めてください。オスカー。来ますよ!」


 魔術師たちが魔術紙を取り出し僕らに向けた。それと同時に僕らは彼らに向かって走りだ.......。


『やめろ!!!』


 太く、重い声が酒場に響いた。声の主を探すと上につながる階段に1人の老人が立っていた。魔術師たちが一斉に床に膝をつく。


 老人がさっきの店員に支えられながら階段を降りて僕らの前に立つ。


「ようこそ。魔術師の酒場へ。私がこの場所を収めている、ゲル・ウェルシュだ」


 ゲル・ウェルシュ。この世界の魔術師の中で頂点に位置する人間で、エド先生の父親だ。

 



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