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ある日、僕は神様の子供になりました。  作者: tomo
樹海の秘宝
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第一話 ゴースト

 またまた目が覚めた。朝のはずなのに部屋が明るくない。蛍光灯がついていないのとカーテンを閉められていているせいだろう。真っ暗だ。


 僕はベットから体を起こしてカーテンを開ける。少し力の弱い光が差し込んできた。あー、曇りだ。黒が少し多めの灰色の雲が空を覆い隠し日光を遮っている。


 それよりここはどこなんだろう。病院なのはわかるがどこの病院だ?


 僕は病衣のまま廊下に出る。真っ白に塗装された廊下が左右に続いている。全体的にこの病院は暗めだな。電球が天井についているにもかかわらず1つもついていない。それになんなんだ?この変に静かな病院は。人の気配がしない。


 僕の肌に少し鳥肌が立つ。ここにオーディンがこれたということは危険な場所じゃ.......ん?そういえば”不可視”魔術使っていたな。


 僕の頭に最悪な状況がよぎった。ここは敵の病院でここで監禁されている!?でもそれだと僕の腹を治療した理由がわからない。かなり丁寧だったし。それに隅々まで掃除が行き届いている。一体ここはなんなんだ?


「あのぉぉぉ.......誰かいませんかぁぁぁぁぁ........」


 廊下に僕の声が響く。普通の病院でこんなことをしてはいけないことはわかっているんだが、早く1人でもいいから人に会いたい。世界に僕がが1人残されているみたいでとても怖いんだが。


「はいはい。ご用の際はボタンを......」


 僕の目の前にナース服を着た女性が現れた。よかった、人.......。


 僕の口がひとりでに大きく開いた。この人、今、僕の足元から現れたぞ!?どうなってんだ!?


「あーー!!!!王....違う。院長!!!起きましたよ!!!」


 え!?なんで叫んでんの?それに。よく見たらなんか膝から下半透明なんですけど.....。めちゃくちゃ怖いんですけど!!!


 僕は右側に勢いよく走りだした。あのままあそこにいるのは少し危険と判断したから.............怖かったからです!。


「待ってくださーいよー!!傷口開いちゃいますよー!」


 僕は後ろを向く。さっきの女性がすごい勢いで僕の方に近寄ってくる。走ってないし、飛んでるよ!!いや、浮いてるの方が正しいのかな?いやいや、そんなことはどうでもいい。とにかく逃げよう!


 僕は走るスピードを上げる。怪我が治ったばかりの病人がこんなに早く走れるとは少し驚きだ。


「なら止まってください!そしてら僕も止まりますから!」

「それじゃあ追いつけないじゃないですか!」

「なんで捕まえようとするんですか!」

「それはあなたが患者だからです!」

「もう大丈夫です!」

「それを判断するのは院長です!」


 僕は2、3段飛ばして一気に階段を降りる。傷口が開こうと知ったものか!。今はとにかくあの人?から離れた!!


「止まってく...」

「待ってぶつか....」


 彼女が床を通り抜けて僕の目の前に両手を広げてに現れた。僕はそのまま彼女の胸の中に飛び.....突っ込んだ。しかしなんの感触もなく僕は地面に落ちた。後ろを見るともうさっきのナースは消えていた。さっきまでいたであろう場所には白い靄がかかっている。


 僕は肺に入っている空気をゆっくりと全て吐き出す。本当に怖かった。


「おい。港。何を必死になってるんだ?」


 僕の目の前に黒いコートに身を包んだジェバムが現れた。とても不機嫌そうな顔をしている。


「なんかお化けみたいなのが.....」

「ああ、彼女のことか?」


 ジェバムが後ろに指をさした。


「後ろにいるんですか?」

「ああ。お前もしかしてゴーストダメなやつか?」


 はい、そうです。なんてあまりにもカッコ悪くて言えないが。僕はお化け系が全くダメだ。昔みた”ringo"って映画を見てから全くダメになってしまっ!!!!!!


「うお!!!!!!!!」

 

 僕はその場から一気に立ち上がって壁の方まで後ずさった。僕の胸を真っ白な腕が貫通して僕の顔をつかもうとしたからだ。


「あははははは!!。君。面白いね」


 僕の前でナース服のゴーストはケラケラと笑っている。彼女の仕業か。


「君、あんまり彼をからかうな」

「すみません。院長。それじゃ私はこれで」

「ご苦労さん」


 彼女は白い霧を立てながら床の中に消えていった。ほんんとうに怖かった。心臓が口から飛び出そうってこういう時のことを言うんだな。


「そんなに怖かったのか?」


 ジェバムが口を押さえながら話してきた。小刻みに揺れている。笑いをこらえているみたいだ。


「はい。あんまり得意ではないくて」


 僕はそう答える。


「そうか。でも彼女は精霊だぞ?」


 僕は驚く。精霊!?彼女が!?


「精霊なんですか!?」

「ああ、幽霊は冥界にしかいない。大抵は精霊を見て間違えてできた迷信だ。彼女はもともとこの廃病院に取り憑いていた精霊でな。実際、この病院は彼女のものだ。私のものではない」

「そうなんですか」


 精霊と知ればそんなに怖くはない。だがまさか幽霊がないなんて驚きだ。それをもう少し小さい時に知りたかったな。


「それじゃ。行こうか」


 ジェバムが廊下の右側を指差して歩き出した。


「どこにいくんですか?」

「診察室だよ。どれくらい傷の具合をちゃんと見ておきたくてね」


 僕はジェバムの後をついていく。彼の黒いコートが左右にゆらゆらと揺れる。


「僕ってどれくらい寝ていたんですか?」

「1日だけだ。今回は私がサービスして最高の治療をやったしな」

「それは。ありがとうございます」


 僕の体がこうも軽やかに動くのもそのおかげだろう。いやー。持つべきは吸血鬼の医者ですね。


「港君。ありがとう。君のおかげで私は心から愛せた者と時間を過ごせる」


 ジェバムが僕に背を向けながら喋った。あまりのも突然のことだったせいで少し戸惑ってしまった。


「何を照れてるんだ。恥ずかしいのは私の方だ」

「そうですね」


 僕らは少し笑う。


「ミルルどうですか?」

「かわいいぞ。だが妻と私で教育の方法が違くてな。この前の戦場にミルルを連れて行っただろ?あの後めちゃくちゃに叱られたよ」

「そうだと思いますよ」


 僕らはこんな感じの世間話を話していた。ミルルはどうだ。黄金のリンゴの味はどうだったか。みたいな話だ。だが突然、僕の足が止まった。


「あれは......なんですか?」

「あれか」


 病院の窓から黒光りした大きな船が見える。歴史の教科書なんかで見るガレオン船だ。パドルと大砲がいくつか見る。その船の上ではポツポツと人影が見える。誰なんだろう。


「君は見るのは初めてか。私は久しぶりなんだけどね」


 ジェバムが僕の隣に立った。


「あれはノアの戦艦。ノアの箱船の元になった船だ」


 僕はジェバムの方を見る。ノアの戦艦。存在は知っていたが実物を見るのは初めてだな。僕は以前、オスカーが取りに行くって言っていたのを思い出した。ん?それがここにあるっていうことは。


「港!」


 僕の右隣から声がした。エレナだ。


 僕は声のした方を向く。もう側にいたみたいだ。僕の背中に手を回して抱きついてきた。僕の視界の下にエレナの顔がある。めちゃくちゃ恥ずかしい。顔が真っ赤に変わっていくのが鏡を見なくてもわかる。


「うん。お二人さん。目の前でイチャイチャされてもこまるよ」


 僕らは手を離す。エレナの後ろにニヤニヤとしたアナとオルがいた。2人とも久しぶりだな。何も変わってない。


「付き合えたんだってな。よかったじゃんか。港」

「茶化さないでくれよ。オル」


 するとアナが僕とオルの間に入ってジェバムの前に立った。


「ジェバム様。港を借りてもいいですか?」

「ああ、ちょっと待ってくれ」


 ジェバムが包帯を取って僕の腹に右手を置いてきた。僕。妊婦じゃないんだけどな。だが急に血流を感じれるようになった。血がお腹のあたりに集まっている。


「お前妊娠してんのか?」

「僕と同じこと考えるなよ。オル」


 僕は顔では笑顔を作るが、内心では少し驚いている。


「大丈夫そうだ。連れて行け」

「ありがとうございます」


 ジェバムが右手を離した。その瞬間、血流が感じなくなった。おそらく吸血鬼は血を操る能力で僕の体を調べたんだろう。便利な能力だ。


 前、エレナがさらわれた時。相手の吸血鬼に日本刀を止められた理由もこの能力で説明がつく。血の中の鉄分を一箇所にまとめて鉄と同じ強度にしたんだろう。


「港、それじゃあ行こう」


 エレナに腕を掴まれた。なんでわざわざ掴むのさ。嬉しいけど。


「港!」


 ジェバムに呼び止められ、振り向くと何か投げてきた。僕はそれを右手で受け止める。手開いて見てみると中には真っ黒の何かの球が入っていた。サイズはお団子くらいだろうか。


「これは?」

「持っておけ」


 ジェバムが背を向け歩き出した。これが何なのかを教えてほしかったんだけどな。


 僕はポケット...ないのか。右手にその球体を握りしめたまま。アナたちの後をついていく。



〜〜〜



「久しぶりだな。港。まあそこに座るといい」

「よく僕に会えましたね。白猫」


 僕は病院から外に出て、ノアの戦艦近くにいくつも建てられていたテントの中で、大きめのテントに入れられた。そのテントの中の机の上に白猫がいた。眠そうだ。いや、いつものことか。


「何の用ですか?」


 少し語尾を強めて怒っている感をだす。


「いや、まずは少し話を聞いて欲しい」


 そのくらいの話は予想できる。


「ここまで計画したことだ。ですよね。わかっていますよ。オスカーも出てこいよ。そこにいるんだろ?」

「バレていたのか」


 フードを脱いだオスカーが机の後ろに現れた。眼の能力を使っていたおかげでわかった。最近、能力が少しずつ強くなっている気がする。軽くであれば一日中、”全能の眼”は使えるようになった。


「何を恥ずかしがってんだよ」

「うっせ」


 オスカーがフードを椅子にかける。


「エルと戦っているとき気がつきました。それに牢屋に入れるときになんでわざわざ”転送”魔術をだけ取り忘れたのか気になっていましてね。あれも計画のうちだったと考えたほうが辻褄があうんですよ」


 それに僕が腹に穴を開けられたのに生きられた理由もそうだ。僕が生き残れたのは”治癒”魔術が働いたおかげだ。エルの電気ショックを食らったときに発動していたと思っていたがあの時は発動していなかった。つまり牢屋でオスカー電気ショック食いまくったおかげで電気に体がなれたのだ。


 と、説明してみると驚いていた。「そこまでわかっていたのか」、という感じだ。


「すまなかった。港」


 オスカーが頭を下げた。初めてこの人が自分の意思で謝ったところを見たな。本気で悪いと思っているんだろう。


「僕に謝罪はいいですよ、別に僕は怒ってはいませんし。まあでも」


 僕はオスカーに近づく。そして


「ぶ!!」


 僕はオスカーの顔面を右手で本気で殴った。オスカーがテントの布に当たってテントが揺れる。


「これでチャラにしましょう」


 こんなにも罪悪感を感じずに人を殴ったのは初めてだ。僕はオスカーに近寄って手を握って立てせる。やべ、顎のところ殴っちゃったみたいだ。だら〜んと気絶してる。


「どうしましょう」


 僕は白猫の方を見る。猫の呆れた顔は初めて見た。人間とほとんど変わらないな。


「これでも貼っておけ」


 白猫が僕に一枚の魔術紙を渡してきた。”治癒”魔術だ。魔血インクの質がよくないせいで一回しか使えないな。これ失敗品じゃん。ひどい猫だな。


 僕はオスカー服につける。質が良くないからどれくらい時間がかかるかわからないが大丈夫だろ。


「港。改めて私から謝罪する。すまなかった。今回の作戦はあまりにも難しくてな。あれしか思いつかなかった」


 おお。白猫が頭下げた。両前脚を顔の横につけている。猫なりの土下座なのか?


「大丈夫って言いましたよね。あんまり謝罪されるのは好きじゃないんですよ」

「そうか。それじゃあ、よくやった」


 ん〜〜〜〜?別に褒めて欲しかったわけじゃないんだけどな〜〜。感謝して欲しかったんだけど、まあいっか。


「それで、港。かなり厄介な事態でな。1つ目をいうとアルツベン高校、正確にはアスピドケロンがやられた。おそらくエキドナだろう。エル・ルドルフのところに現れたのもその報告をしたというところだろう」

「それって結構やばいですよね」

「ああ、やばい。負傷者が多数出てな。幸いにもノアの戦艦で全員救出できたんだが問題はまだある。オリハルコンが採れないということだ」


 オリハルコンが採れないということは銃が使えなくなるということか。あの化け物を相手に肉弾戦は少し難しいだろ。能力があるならまだしもそれにも限界がある。銃を失うのは辛いな。


「怪我人の方は?」

「今、怪我人を軽傷者は魔術で回復、重傷者を吸血鬼にお願いしている。だがそれに伴い魔術紙、魔血インクも底をついた」


 なるほど。だから魔血インクまで使っているのか。


「それでだな。現在行動可能な部隊はオスカーのところだけでな。そこでお前たちに任務だ。アマゾネスの里に迎え。あそこ以外に魔術関連で頼れるところはない」


 アマゾネス。ブラジル、アマゾンのジャングルに住む、女性だけで構成された種族だ。ハーレムじゃん!とか思うかもしれないが彼女たちはめちゃくちゃ強い。襲おうとすれば絶対に股の物はなくなる。それに魔術の天才でもあり、何万年もの時間が経ってもまだ誰も見つけられていない。


 だが、僕は場所を知っている。入り方も。入り口も。成長する図書館の文献に書いてあった。めちゃくちゃ行くの大変だけど。


「そういえば図書館って大丈夫なんですか?」

「ああ、問題ない。この鍵を使えばどこの扉からでもいける」


 なるほど。それなら一安心だ。なくなったから全て書いてくれとか言われたらどうしようと少し心配だった。


「出発は明日。陸路で向かってくれ。もう準備は済ましてある」

「飛行機じゃダメなんですか?」

「武器が持ち込めるわけないだろう」


 それもそうだ。それよりここはどこだっけ。


「ここってどこですか?」

「ここはアメリカの島だ。陸路だと大体三週間ってところかな」

「わかりました。それじゃ失礼します」


 僕はテントの幕を押して外に出る。


「港。エレナを救ってくれたことに感謝する」


 お。感謝してくれた。嬉しいけど少し照れるな。


 僕は返事をせずににそのままテントをでた。返事をするべきだったんだろうけど、やめておいた。照れている顔を見られたくなかった。


「どうだった?」


 エレナがテントのすぐ横に立っていた。心配そうな顔をしている。


「特に何も。オスカーは1発殴った」


 エレナが少しびっくりした顔をしてから笑顔に変わった。よかった。怒ったらどうしようって思ってた。


「そうなんだ。でもあれはオスカー兄さんが悪いよ」


 幸せだ。

 

 恋人の笑顔を隣で見られる。僕にとってはこれが今生きてきた中での一番の幸福だ。


 僕らは隣に並んでテントの隙間を歩く。

 

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