第十五話 決着
右、左上、右上、左下、真ん中、真下.......。
次々とエルの操る針が止まることなく僕の体に迫ってくる。それらを日本刀と鞘でうまいことそらして戦っているがそらしているだけで攻撃に移れない。防戦の一手だ。このままでは僕の体力に限界がきて負ける。眼の能力もあと10分持つか持たないかだ。
「なんだ!口だけか!」
口だけで何が悪い。何もせずに逃げ回っている奴らよりかはよっぽどましだ。
僕はすべての攻撃を防ぐか避けながら後ろに下がる。ガシャガシャと瓦礫が重なる音が聞こえる。
どうやってエルを空の上から地上に降りさせよう。骸骨たちに攻撃させるべきか?だが飛び度道具があまりにも少ない。ミニガンはそこら中にあるが弾丸が鉄製だ。当たっても傷1つつけられない。
今この場にあるオリハルコン製の弾はSIG SAUER P226の6発だけ。それに彼らの回復力では羽を攻撃して怪我を負わせてもすぐに元に戻ってしまう。どう羽を奪うかが問題だ。
「全員、ミニガン発射!目標、空中で旋回中の吸血鬼!」
お世話係のの制圧を終えた骸骨たちがミニガンを空に向けて一斉に撃つ。弾丸が放水のようにエルに向かって降り注ぐ。僕はその間に瓦礫の陰に隠れてSIG SAUER P226で羽の根元を狙う。
「私に銃は効かないと言っただろう!!どこだ!どこにいる!!」
空中で銃弾がエルの周りで円を描くように止まった。くそ、てっきり針で防ぐと思っていたのに。これじゃあ弾丸が邪魔で羽の根元が狙えない。もっと強力な飛び道具が欲しい。一回の攻撃で羽を破壊できるような。
いや、違うな。奴を一度でも地面に落とすことができれば勝機がある。羽を奪わなくても地面に落とす方法..........試したことないがやってみるしかないな。
僕の隠れている瓦礫を銃弾が貫いて僕の目の前を通過した。エルが銃弾をあちらこちらに飛ばしているみたいだ。骸骨たちの反応がどんどん消えていく。好都合だ。
僕は地面に手をついて骸骨を呼び出す。装備は弓だ。そう限定する。今までそんなことをやったことがなかったからできるかわからないが、これれにかけるしかない。
ちょっとだけいつもより時間がかかって骸骨たちが地面から顔を出した。背中には矢筒が見える。。よし、地面から弓..........全員手にボーガンを持っているんですけど......。
「弓、ないの?」
出てきた骸骨がたちが一斉に首を縦に振った。あ、ないのか。ならしょうがないな。
「どこだぁ!!出てこい!!!」
エルが空中で騒いでいる。瓦礫が砕ける音が聞こえない。銃弾はもうなくなったみたいだ。
僕は日本刀を鞘に戻して、腰の閃光弾のレーバーを抑えながらピンを抜いく。
「僕があの吸血鬼の相手をする。お前らは森の方から羽を狙って矢を撃ってくれ。撃つタイミングは任せる。あたりさすればいい」
骸骨が頷いた。
僕は瓦礫寄りかかりながら閃光弾を投げる。2秒ほど経った後にパン!と音がして瓦礫の影が伸びた。その瞬間に瓦礫の陰から飛び出してエルを見る。エルは空中で目を抑えている。もろに見たな。
僕は残りのSIG SAUER P226を全て撃つ。右足、腹部、左肩の順で当たって弾がなくなった。3発も無駄にした。SIG SAUER P226を地面に置いて日本刀をゆっくりと抜き、右手に日本刀、左手に鞘を構える。ちょっとカッコ悪いが見た目はどーでもいい。
「死ね!!」
エルが全ての針を僕の方に飛ばしてきた。僕は目を開けて限界まで情報を取り込み空気の流れを読む。空気の流れは風がない限りはゆっくりと進んでいる。冷たい空気は下、暖かい空気は上に流れるように。その空気の流れに少しでも乱れあがあればそこから攻撃が来るということだ。
これであまりにも速すぎて見えない攻撃を予測することができる。僕は全方向から来るを攻撃を全てそらす。金属同士があまりにも早いスピードで擦れているからか手持ち花火を振り回しているみたいに火花が散る。
僕の身体中の神経の末端までが極限まで研ぎ澄まされていく。
指先に当たる風がくすぐったく、目の奥と脳が熱い。筋肉が皮膚を突き破る勢いで盛り上がる。関節が軋む。奥歯が擦れて、口の中に血の味が充満する。息が荒い。喉が痛い。空気が肺に入っていかない。
「もう限界だろう。人間の体ではそれが限界だ」
エルの口が動いているのが見える。だが何も聞こえない。視界が狭まる。もうなんで体が動いているのかがわからなくなってきた。
どれくらいこの状態が続いているんだろう。体をどうやって動かしているのかわからなくなってきた。
「せめて、苦しまずに死ね!!」
突然、地面が盛り上がり、中から1本の針がから現れた。そして僕の日本刀を真上に弾き飛ばした。くるくると回転しながら日本刀が空高くに上がる。
骸骨たちは何をしている?なぜ矢を打たない?僕は森の方を見る。”骸骨”という情報が入ってこない。入って来た情報の中に”骨のかけら”と”壊れたボーガン”を見つけた。作戦は読まれていたみたいだ。
ここで僕の体は限界を迎えたみた。その場に膝をつく。足が震えだして両足で立つことができない。腕が上がらず、だらんと下に垂れる。首がかろうじて動くぐらいだ。
エルが僕の目の前に羽をたたみ着地した。エルのことを睨みながら空の上の日本刀を見る。くるくると回転して落ちてくるがエルの上には落ちない。背中スレスレを通って地面に落ちる。
「なあ、悪役ってこういうところでダラダラと無駄話するから負けるんだよな」
エルが僕の右手を僕の腹に腕を突っ込んだ。僕の腹に穴が開く。バシャ!と、血が垂れて口からゲロをはくみたいに大量の血を吐き出す。僕の足元が真っ赤に染まっていく。まじか。これは死んだな。ヒューヒューと息が変だ。意識が薄れていく。だが、
「お前のそれも無駄話だ」
僕は最後の力を振り絞ってゆっくりと日本刀の鞘をエルの顔の前に突き出す。なんのことか全くわかっていない様子だ。その間にも僕の腹と口から血が溢れるように垂れる。
「なんのつもりだ?」
僕は血を吐き出してから聞こえるよう言葉を出す。
「今にわかる」と言った瞬間、エルの後頭部から血が吹き出した。そしてゆっくりとおでこから日本刀の先端が出て僕の鞘の中に戻っていく。
「な...にをし...」
驚いた。まだ意識があるとは。目が動いてはいるが僕のことが見えてはいない。目で僕のことを捉えられていない。だがさすがの生命力というべきだろう。おでこの傷口が日本刀を巻き込みながら回復し始めている。
「気がつかなかったか。日本刀で前方からくる針を防いで、鞘....で後ろからくる針を防いでいた」
「それが......なん...だ?」
「前方からくる針は、電流が右回り。つまり、僕の方を向いているのはN極。反対に後ろからくる針は左回りにしてS極。俺は日本刀をN極の磁石。鞘をS極にした。そうやってお前と同じように範囲は狭いが磁力を使って操ってお前を殺した」
僕は鞘を握る手に力を込めて。まっすぐ左に切って脳を切る。その瞬間、エルの瞳孔が開いて、僕の腹に刺さっていた腕から力が抜けて僕の腹からずるりと抜け倒れた。僕も横に倒れた。腹の穴は塞がり始めているが、少しずつではあるが足の先から冷えていくのを感じる。これは塞がるのより先に僕は死ぬな。
初めて死というものを実感した。こんなにも怖いものなのか。
「使えないやつめ。どれだけ奴らが金をつぎ込んだがわかっていないのか?」
僕の目の前の突然もう一体の吸血鬼が現れた。執事のやつだ。なんのことを言っているんだ?
「まあいい」
「ルイン。死んだのか?そいつは」
「ああ、死んだ」
今度はエキドナが彼の隣に現れた。なんだ?それよりもなぜこいつらはエルのことを助けなかった?近くにいたはずなのに。僕の最後の攻撃くらいは簡単に止められたはずだ。それにルインとはルイン・ウェルネスのことか?顔を見たことがないからわからないが吸血鬼の貴族の中で一番権力を持つやつだ。
「港から、離れろ!」
後ろからエレナの声がした。エルガ死んだことで”禁止”魔術が解けたんだ。よかった。だけど何をしているんだ!?
「エレナ。逃げろ!!」
喉に詰まっていた血が一気に出た。
「嫌...きゃ!」
「大人しくしてな」
ゼルトの声も後ろから聞こえた。クッソ!何が起きている!それよりも早く逃げないと!
僕は地面に両手をついて立ち上がる。腹からバシャバシャと血が出た。これ以上血は失えない!
「ほう、まだそんな体力が残っていたのか」
「残ってねーよ。黙ってろ蛇女。ゼルト、エレナを話せ」
恐ろしく怒っている。体温がどんどんと上がっていくのがわかる。
「そりゃー。無理な話だな。彼女は俺らの計画に必要だからな」
「なんのこと...う!!」
僕の脇腹に1頭の幻獣が突っ込んで来た。僕はそれを一度受け止めて日本刀で頭を切り落とす。
「ほう、やるな」
「エレナを放せ!!」
僕は地面に倒れる。クッソ!!、もう足が動かない!!。ここで終わりなのか?エルを倒してやっとエレナを取り返したのになんで!
ゼルトが僕の横を歩いていく。エレナがこっちに手を伸ばしている。僕も手を伸ばす。届け。届いてくれ!!
「う!!てめ!」
エレナがゼルトの小指を踏んづけて肘で顎に一撃入れた。ゼルトが少し怯んだすきに手を振りほどき僕の方に走って来た。違う。いいかれ逃げて欲しいんだ....。
ルイン・ウェルネスがこっちに羽を広げて近寄って来ている。まずいって。それは僕はエレナの方にゆっくりと近づく。そしてエレナの足を掴んで引っ張る。
ルインの手がエレナの頭スレスレで飛んだ。そしてルインが羽を大きく羽ばたかせてその場に止まった。僕はエレナを抱きしめながら日本刀をルインに向ける。
「お前、どこかで.....」
「昔、子供の頃に一度会ったよ。あんたと」
僕の姉を殺した吸血鬼だ。忘れもしない。そいつだ。
「そうか、はっきりとは覚えていないがそんな気がするな。その女をよこせ」
「嫌だね」
僕はエレナを抱えながら後ろにズルズルと下がる。
「もういいよ。港。大丈夫だから。ありがとう」
「ダメだ。絶対に。そうはさせない」
エレナが僕の手を解こうとしたが僕はもっと強くエレナのことを抱きしめる。絶対に嫌だからだ。
「私があなたたちのついて行ったら、港はどうなるの?」
「一応は生かしてやる」
「ね?港。あなたは生きられるの。だからお願い。放して」
「嫌だ」
僕は立ち上がってルインのことを睨みつける。敵うわけがない。100%負ける。だが僕はここで引けない。
「来い。殺してやる」
僕はエレナを後ろに投げて日本刀を両手に構える。腹の穴はまだふさがってはいないがちは止まったみたいだ。傾けても血が垂れてこない。
身体中の細胞が「まだ戦うのか!?」と言わんばからりに悲鳴をあげているみたいだ。あちらこちらが痛い。
「なら、お望み通り殺してやろう」
ルインが僕との間合いをまば敵をした間に詰めた。両手が僕の顔に迫ってくる。やばい!これは避けきれ......。
「よく言った。港。あとは私に任せるといい」
僕は誰かによって後ろに引っ張られた。そして目の前のルインの両手をがっちりと握ると突風が僕の後ろから吹き、ルインの肉体を切り裂いていく。何もないところからルインの皮膚が裂けて血が出る。
それと同時に大きな影が僕らを覆い隠した。空を見上げるととてつもなく大きな物体が空に浮かんでいる。空中にオールのようなものがいくつも見える。船なのか?
「港。大丈夫?」
エレナが僕のことを肩を担いで立たせてくれた。女に立たされるなんてカッコ悪いな。僕。
「エレナ。あの人は誰?」
「ジェバムよ。会ったことあるでしょ?」
ジェバム!?なんで彼がここにいるんだ?黄金のリンゴを食べたとはいえ体力は戻らないはずなのに。
「港にい!!!」
「う!」
今度は僕の背中の方からから懐かしい声が聞こえた。振り返ってみて見るとそこにミルルがいた。
「ミルル!なんで君までこんなところに?」
「パパに連れてきてもらった!」
よかった。あの後ジェバムがミルルを娘と認めなかったらそうしようとか、吸血鬼たちに馴染めるか心配だったが見た所とても元気そうだ。というかこんな戦場に娘を連れてくるのはいかがなものだろうか!
「わわわわ!!!港にい!お腹!穴空いてる!!」
ミルルが驚いてその場に尻餅をついた。そうだった。僕腹に穴空いてるんだった。意識した途端に腹が痛くなり始めた。僕はその場にうずくまる。止血は出来ているが。なんせ傷口をもろに外に触れさせているから菌の感染とかがどうなっているのかがわから.....!!!
僕は日本刀を抜いてミルルに向かって投げる。ものすごく驚いた顔をミルルはしてその場に固まってしまったが、日本刀はミルルの頬を少しかすめて後ろの幻獣の頭に突き刺さった。
「ウウウウゥゥゥゥゥ!!!」
周りを完全に幻獣に囲まれてしまった。最悪の状況だ。僕にはもう能力を使う体力も、気力も何も残っていない。まずいな。魔法紙もないし....。あーーやべ。意識が薄れてきた。
「...........ぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!」
どっからか叫び声が聞こえる。上かな?天使でも迎えにきたのか?。そうだとしたら騒がしい天使だな。
僕はその場に横に倒れる。体力の限界みたいだ。筋肉に力が入らない。ザラザラとした壁に勢いよく倒れたせいで肌を少し擦った。
そして僕は目を閉じた。
最後に視界に移した景色は燃える幻獣たちだった。




