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ある日、僕は神様の子供になりました。  作者: tomo
黄金のリンゴ
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第十三話 脱出

「ネミル、接近する吸血鬼はいる?」


 フードを脱いで小さな少女が顔を上にあげて鼻をヒクヒクと動かした。驚いた。人狼の少女だ。頭の上に白銀の毛をまとった可愛らしい耳が見える。しかし、なぜ獣人族がここにいるんだ?彼らとはまだ何もコンタクトをとっていないはずなのに。

 

「な.....い」

「メリアス、軍隊は何分後に来る?」

 

 今度はダークエルフの女性がフードを脱いで腕時計を見た。なんでここに冥界で暮らしているはずのダークエルフがいるんだ?冷静に物事を考えられるようになるにつれ色々と分からなくて頭がこんがらがってきた。


「あと10分だ。どうする?対象は保護したことだし逃げた方が良くないか?」

「そうだね」

「エレナ。悪いんだけど君の能力でここから脱出できる?」


 急に話しかけられたせいで少し返事が遅れた。私がいない間に色々と話が進みすぎじゃないだろうか。


 少し間を開けて深呼吸して、私は返事をする。


「全員は難しいかも。何回か影を経由すれば学校まで戻れると思うけど一緒に行けるのは私を含めて2人が限界かな」

「それならさっき使った魔術とやらを使えばいい」


 メリアスと呼ばれていたダークエルフが答えた。その後ろで人狼の子がコクコクと頷いている。ミルルみたいでかわいいな。


「それは無理かな。この屋敷全体で”禁止”の魔術が働いてる。色々と禁止されてるな。魔術使用禁止。脱出禁止。裏切り禁止。ここから抜け出すにはもう一回転送石のある部屋まで戻らなきゃ行けないな」


 ”禁止”魔術。指定した人間は指定された行動を禁止されるという魔術だ。効果の大きい魔術だから使うのには上質な魔血インクが必要になるが、ここには揃っているな。吸血鬼の血だったら問題なく使える魔術だ。


「2人とも、さっき渡した紙持ってるよね?」

「待ってるわ」

「も、てる」


 人狼の子は喋り慣れてないみたいだ。ちょっと喋り方がおかしい。だけど可愛いな。


「よし。エレナこのローブ羽織ってくれ。あとこれもね、魔術紙。軍隊の襲撃と同意に転送石のある部屋に移動する」

「了解」


 港がバックから一枚の黒色のローブを取り出した。前イギリスでオークション会場に侵入した時に使ったやつと同じものだ。


「それとこれ」


 港がSIG SAUER P226とマガジンを渡して来た。ずっしりとしていて重いな。おそらく弾はオリハルコン製だ。


 少し、緊張する。魔獣を殺すのと魔人を殺すのにはなぜか抵抗がある。道端の虫を殺すのと人を殺すことの違いと同じだろう。同じ命なのになぜだろう。


「大丈夫。エレナが戦う必要はないよ」


 港が私の頭のに左手を置いた。私の気持ちの迷いに気づいてくれたんだろう。落ち着かせてくれた。こういうところは港のいいところだ。


『エレナ様。そちらの方々はどなたですか?』

 

 その場にいた全員が一斉に首を動かし声のした方を見た。そこにはミニガンを持ったお世話係の子が扉を塞ぐように並んでいる。見た所この屋敷にいる全員がこの場にいるみたいだ。


 この世の中でこれ以上に絶体絶命な状況を見たことがない。どうする?私は港の方に視線を移す。港は腰についた閃光弾に手をゆっくりと伸ばしている。


 ガシャ!っと一番前の子が安全装置を解除して港の方に銃口を向けた。港の動きに気がついたみたいだ。


 港がゆっくりと両手をゆっくりと上にあげた。それと同時に銃口を向けていた子が私の方に向き直った。


『エレナ様。そちらの方々はどなたですか?お答えください。お返事がない場合、侵入者と判断し排除します』


 今度はその場にいる全員が一斉に銃口こちらに向けてきた。最悪だ。ここから逃げるプランが思いつかない。このまま10分間この状態を保つのも難しそうだ。


「彼らは私の客人よ。無礼は許さないわ」

『申し訳ありません、エレナ様。旦那様がお呼びです。お客人の皆様もこちらへどうぞ』


 そこにいる全員が同時に口を開け、銃口を下げ、卒業生を送り出すみたいに左右に並んだ。


 私たちはその場でお互いを見て、港が首を下に下げた。それと同時に私たちは横に並んで彼女たちの方に歩いて近くによる。


『ご案内します』


 彼女たちが歩き出した。私たちもそれに続く。


 しばらく廊下を歩いていると、港が私の耳元で小声で囁いた。


「エレナ、あと6分後に軍隊の攻撃が始まる。それと同時に逃げ.....」

「貴様の言う軍隊とは、こいつが率いていた奴らのことか?」


 突然、私たちの目の前に下半身が蛇、上半身が女性の怪物が現れた。右手には大きなゴブリンの生首がある。血が床に2、3滴垂れた。


 顔は笑っている。普通にこの人が人間だったらとても美人で笑い方もとても可愛らしい、とてつもなくモテただろう。だが彼女の目の中の闇はとてつもなく深い、潤いがないというのだだろうか、目が平坦に見える。そしてその目の中の闇に引き込まれそうだ。気配も異常だ。今までの魔獣、幻獣とは比べ物にならないくらい重い。その場から足が動かない。


 私は彼女のことを知っている。私たち神の子なら絶対に知っている。全ての幻獣の生みの親、エキドナだ。なぜこいつが、私たちの敵、それもリーダーがこんなところにいる?


「ギミル.....。お前!!.....!!」

「動くな、久しぶりだな。港。一ヶ月ぶりか?大きくなったな」

「........ゼルト」

「日本刀って重いんだな。よくこんなのを振り回せたものだ」


 デルトがエキドナの後ろから現れた。港が抜こうとした日本刀を奪って港の首に刃を当てている。


「落ち着け、殺したのはこいつだけだ」

「が!!」


 エキドナが港の腹に蛇の尾で左脇腹を鞭のように殴って港を吹き飛ばした。壁にあたり、膝から落ちた。


「おーー。痛そ。これ返すな」


 ゼルトが日本刀を港の目の前に突き刺した。日本刀が少ししなって震えた。港は立ち上がり日本刀手に取り鞘に戻す。


『エキドナ様。旦那様がお待ちです。他のお客様もこちらへ。もしも危害を加えた場合、あなたがたを排除します』


 お世話係の子たちが話に割り込んできた。それと同時にキン!と剣が鞘に刺さった音がした。メリアスが剣を抜いていたみたいだ。ネミルも牙を出して、爪を伸ばしている。腕と顔に少し狼のような白銀の毛並みが所々に現れている。


「ネミル......落ち...着け」

「い、やだ。ギミル、死んだ。あいつ港、殴った!殺す!」

「ネミル!」

「...........わ、かった」


 ネミルの爪や牙が引っ込み、体から白銀に光る毛がなくなって人間の肌に戻った。


「ネミル。ギミルなら生き返れる。冥界に報告しに行った時にハデス様に頼もうな」


 港がネミルの頭を撫でる。ネミルがそれを聞いて嬉しそうに微笑んだ。


「ほんと、に!」

「本当だよ。冥界で生まれた生き物は魂で生成されているんだよ。だからもう一度生成してもらえば大丈夫だよ」

「よか、った」


 お世話係の子たちが歩き始めた。私たちはその後ろをついていく。重く、ドロドロ絡みつくような緊張感が私たちを包んでいる。周りにいるほとんどが敵、味方は4人だけ。前言撤回だ。これこそが絶体絶命というんだろう。


「う!!」


 港が歩いている最中に左胸のあたりを押さえた。結構痛そうだ。


「港、大丈夫?」


 私は港に尋ねる。


「大丈夫。あと少しで治ると思うよ。準備は大切だね」


 港が着ているローブの内側を見せてきた。港の左脇腹の近くが黄色く光っている。魔術を使ってるみたいだ。おそらく”治癒”魔術だろう。少しでもおかしなところを正常な状態に戻す魔術だ。だが魔法紙はどこだ?


 私は自分のローブの中を見る。何もない。触って見るとわかった。このローブの中に紙を触ったみたいなシャカシャカとした感触が伝わってきた。


「このローブの中には緊急時に役に立つ魔法紙が入ってるからずっときておいてね」


 しばらく廊下を歩いて左に曲がったところに突然大きな扉が姿を現した。いかにも偉そうな人がいそうな部屋だ。


『旦那様。皆様をお連れしました』

「入れ」


 お世話係の子たちが大きな扉を開けた。部屋の中心の椅子にエル、その後ろに執事の吸血鬼、あと知らない吸血鬼、エキドナ、ゼルト、そしてその部屋の壁を埋めつく数のお世話係の子たち。その手にはミニガン。あー、さらに前言撤回。もっと最悪で絶体絶命状況がここにあった。


〜〜〜


 少し、眠い。最近戦い続きで体の疲労がピークだ。魔術でなんとかもたせているがそろそろヤバい。あくびしないようにしなければ。


 しかし、色々とやられたな。一緒にきた彼はまさかジェバム側のスパイだったみたいだ。全く気がつかなかった。どうりで冥府軍の襲撃を知っていたわけだ。色々と計画が崩れいていくな。

 

 エルがゆっくりと口を開いた。


「ようこそ、私の城へ。エキドナ様、援軍と情報提供に感謝する。エレナ。こちらに来い。私の妻だろう」


 背中の中を何かが通った。周りを見てもそうだ。ほとんどん人が鳥肌が立っている。次期、王に選ばれるだけあって威圧感が半端じゃない。


「エレナ、大丈夫....」


 エレナの様子が少し変だ。何が起きているんだ?


 なんぜかエレナは魂の抜けた人形のようになってエルの方に近寄っていく。僕はエレナの腕を掴んでエレナを止める。


「歓迎に感謝します。屋敷主、エル・ルドルフ様。ですが彼女はもうあなたの.....」

「彼女を離したまえ。エレナ。早くこっちに来い」


 エレナの歩く歩幅が大きくなって進もうとする力が強くなった。何が起こっている?


「恐れながら。現在の王、ジェバム・ルドルフ様から伝言を預かってまいりました」


 おそらく、まだエレナを自分の妻だと思っているということは一緒に来たジェバムの使者が裏切り者っていうことはちゃんと説明が行われていないということだ。

 僕はポケットの中からジェバムから受け取った契約書をエルに見せる。


「これは現在の王、ジェバム・ルドルフ様から預かった誓約書です。ここに書かれていることを読み上げさせてもらいます」


 僕は脳みそから口に直結する神経の末端までを意識して相手の機嫌を損ねないよう細心の注意を払って読み上げる。もしも少しでも怒って戦闘になった場合僕らに勝ち目はない。

 

「1 吸血鬼はアルツベン高校に対し全面的に協力する。

 2 アルツベン高校に対する要求は無効とする。

ここに家紋もあります。もしも歯向かうのであれば王に対する反逆とみなし吸血鬼全勢力を持ってこれを排除する、とも書かれています」


 エレナの腕を掴みながら契約書をエルの前の机の上にゆっくり置く。


 僕はそれと同時に眼の能力を発動してこの部屋にあるあるだけの情報を取り込む。この部屋には多くの本や紙がある。内容は様々だがあとで思い出して整理しておこう。


 それと脱出の準備だ。僕は右手をポケットに突っ込んでリモコンを握る。


 なんのリモコンかというとプラスチック爆弾を爆破させるためのものだ。もしもの時のためにこの屋敷のすべての柱に爆弾を埋め込んでおいた。まずはこの屋敷の”禁止”魔術の効果をなくさなければ。この屋敷内にその魔術が働いている。ならばその屋敷というくくりをなくせばこの魔術は切れる。おそらくエレナのこの行動も魔術によるものだろう。


 僕のその行動を合図にメリアスがネミルの左手を握る。あとはスイ.....。


「私の知ったことではない。私は現在の王、ジェバム・ルドルフには従わない。私は新たな吸血鬼国家を作り出す。すなわち私はジェバムに従う必要はない。よってエレナは私の妻とする」


 こめかみ近くの血管が浮き出たのが鏡を見なくてもわかった。最悪だ。これは予想していなかった。ジェバムの予想と違う結果になった。ということは今すぐに脱出を始めないと、ここに僕らの勝機はない。


「エル・ルドルフ。侵入者だ。警備をさせていた幻獣が何匹かやられた。少々席を外す」

「ありがとうございます。エキドナ様」


 誰だ?誰がこんな辺鄙な屋敷に攻めて来たんだ?というか本当に誰だ?

 

 だがそれのおかげでエキドナとゼルトが消えた。よし、今脱出するべきだ。


 僕はスイッチを押して起爆する。1秒後くらいにドン!と空気が揺れ、足元の床の感覚が消え、僕らはそのまま下に落ちていく。その瞬間に後ろの方から大きな光が見えた。おそらくネミルたちが脱出したんだろう。


「貴様!私の城に...!!」


 エルが僕の方に右手を伸ばす。それと同時に彼の背中のあたりから針を大きくしたようなものが僕の頭めがけて飛んで来た。僕はそれを自分の足元にある瓦礫をけって後ろに飛び交わす。


「お前ら!エレナに当てずに撃て!」


 エルがそう叫ぶと全方位からガシャ!という音が聞こえた。お世話係の子たちが僕に向かって銃を向ける。そして銃口がオレンジ色に輝き始めた。僕はエレナと抱きしめ、ローブの中に身を隠した瞬間、僕のローブに全方向からの銃弾が飛んで来た。”現状維持”魔術のおかげでローブが銃弾を防いでくれているが勢いは死んでいない。銃弾が僕の体に直撃する。かなり痛い。

 

 だがそれもすぐに終わった。左肩に大きな衝撃が走ったと同時に僕の背中に地面の感触が伝わって来た。


 僕はエレナを抱きしめながら魔法紙を破く。

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