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ある日、僕は神様の子供になりました。  作者: tomo
黄金のリンゴ
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第十一話 30分

「ギミル。左側から毒、来ます!!」

「全員、左側に構えろ!」

「間に合わない!」

「任せろ!」


 アウルがそう言ってその場に両手をついた。するとその瞬間に氷の壁が地面から湧き出て来たかのように現れて毒を一時的にだが止めた。そして毒が溶けた水と混じり合ってどこかに流れて行く。


「隊長!右側か....」

「フン!」


 右側から勢いをつけて迫って来たヒュドラの頭をギミルが長剣の腹で受け止める。長剣がグミのようにしなってヒュドラの頭を押し返した。見た目からよくわかるがやっぱりギミルは怪力だな。


「第2部隊!後ろ足に槍、ぶち込め!」


 奥の岩の陰からすこし小柄なゴブリン達が槍をヒュドラの後ろ足に打ち込む。肉を切り裂いて槍がヒュドラの中に入り込んで行く。ブシュ!と血が吹き出し槍を真っ赤に染める。


「第2部隊、後退!魔法隊。援護!」


 小柄なゴブリン達がヒュドラに背を向けて後ろに走ったと同時に奥の丘から無数の魔法がヒュドラに向かって飛んで行く。だがヒュドラには当たらずにその手前、ヒュドラの視界を阻むように着弾した。それと同時に僕らが大声でヒュドラの前足に斬りかかる。


「うおおおお!!!!」


 後ろを向こうとしていたヒュドラが僕たちの方に向き直る。その瞬間にFN P90でヒュドラの目を狙って撃つ。オリハルコン製の弾がヒュドラの緑色の目を撃ち抜き、目から真っ赤な血が涙のように垂れる。


「左斜め上、毒、来ます!!」

「僕が行きます!」


 盾を左から落ちてくる毒に向ける。それと同時に僕は眼の能力で魔術の残り時間を見る。残り時間は1時間25分だ。ちょっと急いだ方がいいな。ドスン!と僕の盾に何かが乗っかった。それと同時に僕は盾を左に大きく降って毒を奥にばらまく。ところどころから煙とジュワァァ!と油で何かを揚げているような音が聞こえる。


「港!あとどれくらいだ?」

「残り1時間弱です!」

「わかった。それと援護頼む!」

「わかりました」


 日本刀をしまってFN P90を両手で構える。そして大きく目を開けて能力を発動する。左上と右上のヒュドラの口に”毒”を作っている。僕はそのヒュドラに向けて撃つ。黄色に光る長細いものがヒュドラの下顎を貫く。


「オラアアアアア!!!」


 それと同時にギミルが大きく振りかぶって長剣を落としてヒュドラの前足の指を切り落とした。ぐるぐるとヒュドラの前足が空中に血を撒き散らしながら飛んだ。


「ガアアアアアアアアアア!!!!」


 恐ろしくて、機械でも作り出せないような叫び声が僕の耳の中に響く。ヒュドラ達が一斉上を向いて叫んでいる。前足を切られたからか?いやこれは狙っているな。全てのヒュドラの顔が上をむ向いて叫び声を反響させている。僕と同じように周りの兵士たちが一斉に耳をふさいでその場に座り込む。まずい。この状況で毒を撃ってこられると防げない!。


 僕はその場に両手をついて骸骨を操れる限界まで呼び出す。地面の中から真っ黒の骨を持つ骸骨達が現れる。よかった彼らにはヒュドラの叫び声は聞こえてないみたいだ。それもそうだ。彼らは僕の声しか聞こえない。というか聴けない。


「ヒュドラの叫びを止めてこい!!!」とかなり大きな声で叫んだつもりだったが骸骨達には聞こえなかったみたいだ

。首を傾げ、周りの骸骨達に「聞こえたか?」と確認するように見ている。ここで彼らに暴れられてもな。


 僕は耳をふさぎながら立ち上がって一体の骸骨の耳もとでさっきと同じくらいの声で叫ぶ。


「ヒュドラに総攻撃!」

 

 うるさかったみたいだ。骸骨がびっくりしたかのように顔を振って僕の口から耳のあったであろう部分を遠ざける。そして嫌そうな目をしながら他の骸骨のところに走って言って身振り手振りのジェスチャーで他の骸骨達に僕の指示を伝える。他の骸骨達も僕の指示を聞いて嫌そうな目で僕を一回見たがすぐにヒュドラの方に向き直って走り出した。


 僕は左耳を肩でふさぎながら彼らを援護するようにFN P90をヒュドラに向かって打つ。ヒュドラの叫んでいるせいで発砲音は聞こえず、銃口からのフラッシュと弾丸でしか撃てているかを確認できない。だが塞いでいてもパチンコ店の前を通った時の音は比べものにならないくらいの叫び声が僕の鼓膜を揺さぶっている。


 少しだけさっきより声が小さくなった。骸骨と僕が撃った弾が効果あったみたいだ。10頭くらいのヒュドラが骸骨達に向かって攻撃を仕掛けている。だが骸骨達はその攻撃には怯まずに剣をヒュドラの肉体に突き立てている。


「第3部隊!槍をどこでもいいからあるだけ打ち込めーーーーー!!!!」

 

 ダメだ。聞こえてないみたいだ。地面にうずくまったままだ。どうやって奴らの叫びを止めよう。いや、どうやって指示を伝えるかが問題だ。テレパシーなんて使えないし......。近くに行ってジェスチャーで伝えるか?。いやいや。もっといい方法があるぞ!


 僕はバックの中から照明弾を取り出す。そしてピンを抜いてヒュドラの顔に向けて思いっきり投げる。だがヒュドラの顔にとどくわけもなく首のあたりで爆発した。少しだけ何匹かのヒュドラが叫ぶのをやめて動いたがすぐにもう一度叫び出した。ダメか....。だけどギミルなら。


 僕はバックからもう一度照明弾を取り出してギミルの方に走る。ギミルは長剣を地面に刺して耳いを塞いでいる。僕に気がついた。僕の方を見た。


「ギミル!!。野球知ってる!!!」

「は!?」

「だから野球!!!」

「頭おかしくなったか!?」


 よかった。ちゃんと聞こえている。めちゃくちゃ喉が痛い。


「知ってる???」

「知らん!!!」


 おいおいおい!!まじかよ!ここまで貯めておいて、「知らない」はないだろ!まあいいや。早く説明した方がいいな。魔術の残り時間ももう1時間を切っている。


「こんな感じで長剣を構えて!」


 僕は日本刀をバットのように構えてギミルに見せる。


「なんでだ.......」

「いいから早く!」

 

 ギミルが渋々立って長剣を僕と同じように構える。顔がすごくこわばっている。こんな叫び声の中にいたら普通の反応だ。僕は口を限界まで大きく開けてギミルに少し早口で説明する。


「今からこの照明弾を投げます!この照明弾をヒュドラの頭めがけて長剣で打ってください!行きますよ!」

「ちょっと待て!何がしたいのかがわからない!!」

「この照明弾でヒュドラの動きを少し止めます!その間に槍を打ち込ませます!!」


 ギミルの顔が納得したように見えた。そして口をム!っと閉じて長剣の両手で持ち上げる。


「こい!!」

 

 僕はギミルに向かって照明弾を下投げでゆっくりと投げる。照明弾のレバーがグググググ!とtゆっくりと上がっている。そしてギミルの腕に血管が浮きでて、長剣が照明弾に当たってカン!っと音がなり、照明弾がヒュドラの頭の上に向かって飛んでいき、だんだんと小さくなっていく。そして大体10秒ほど経った後にヒュドラの頭上で大きな光を帯びながら爆発音が聞こえ、太陽のように空を照らした。その瞬間に叫び声が止まった。それと同時に僕は兵士たちに向かって叫ぶ。


「全員あるだけの槍をヒュドラに向かって打ち込め!!それと伝達班!!!サイクロプスに向けて合図!!!」


 僕はヒュドラの方を向いて骸骨達に向かって叫ぶ。


「俺のところに槍を持ってこい!!」


 骸骨達が僕の方に走り出して僕とすれ違った。ぼくは彼らを気にも止めずに日本刀にポケットから小瓶を取り出しての本当にバシャ!っとかける。日本刀に透明な液体がついて刀の先から地面に垂れていく。その液体が落ち切らないうちにヒュドラの前足の間に突き刺してすぐ抜いて後ろに向かって下がる。それと同時に骸骨達が槍を持ってきた。僕は日本刀を腰の鞘に戻して槍を10本ほど受け取る。そしてそれを紐でくくって一つの束にする。


「アウル、援護頼む!!」

「任せとけ!!」

 

 僕はヒュドラの方を向き直って走る。そして周りにちらほらと槍を持ったゴブリン達が見える。1、2、3、4、5.........9人、ぴったりだ!


「今槍を持っている奴以外は次の作戦準備!!魔法隊、援護用意!!」と言ってヒュドラの方に走り出す。ドドドドと足音が地面に響く。他のゴブリン達はもう差し終えたみたいだ。


 僕はさっき日本刀を差した場所にこの槍の束を突き刺す。大量の血が槍にかかって僕の靴を赤く染めていく。僕はそれと同時に後ろに向けて走る。目の前の丘の上が光って魔法が飛んできた。そして僕の頭上を通り越してヒュドラの近くに落ちる。


「港!サイクロプスが配置についたぞ!始めるか?」


 ワイバーンに乗ったギミルが僕の近くに来てそう尋ねた。


「いや、まだです。あの薬の効果が出始めてからです!」


 僕は体をもう一度ヒュドラの方に向ける。さっきの魔法の土煙のせいでよく見えない。どうなっているだろうか。僕は目を大きく開けて能力を使うがよく分からない。もっと情報を取り込めばわかることもあるかもしれないが今は体力を温存しておくべきだ。だんだんと土煙が消えてきて下のくぼみにヒュドラの大きな胴体が現れた。所々に槍が見える。


「グオオォォォォォ.........」


 ヒュドラの弱々しい声が聞こえてくる。そしてヒュドラの首が全て地面についてぐったりとした姿が現れた。それと同時に後ろから歓声が聞こえてきた。


「ギミル、サイクロプスに作戦開始の指示を出してください」

「了解だ」


 ギミルの乗ったワイバーンが空に飛んだ。そして奥に見える山を越えて姿が見えなくなった。


「アウル、魔法隊であのヒュドラを攻撃可能な距離で囲んでくれ」

「わかった」

「もしもの時には頼む」

「わかっているって」


 アウルが後ろにいたダークエルフの集団に向かって走って行った。


 僕らがヒュドラに向かって刺しまくっていた槍には筋弛緩剤が付いていた。筋弛緩剤とは簡単に言えば筋肉を麻痺させる薬だ。その効果のおかげでヒュドラは筋肉が動かずにその場に倒れこんでいる。だがその効果が切れるのも時間の問題だ。僕の言った、「もしもの時」の意味は効果が切れた時の話だ。だから僕は今ちょっと焦っている。効果は30分ほどしか効果がないからだ。それに効果が切れそうだからともっと多くの筋弛緩剤を打ち込んでしまうと心臓の昨日が呈してヒュドラは死んでもう一度一からやり直しになってしまう。それだけは避けたい。


「準備できました」


 僕の後ろに1人のゴブリンが現れた。その後ろには20人ほどのゴブリンが隊列を組んでいる。顔は緊張と恐怖でこわばっている。多分僕もそんな顔をしていると思う。顔中の筋肉の感覚を感じているからだ。


「全員自分の命を最優先にしろ。それともう一度確認だ。もしも顔を切ってすぐに再生したヒュドラの首を見つけろ。いいな!」

「はい!」

 

 僕はヒュドラの方をもう一度向いて走り出した。


 僕らはこの30分の間に脳を持つヒュドラの首を見つけなければならない。それをすぎたらゲームオーバー。僕らは確実に死ぬ。なんせこれからヒュドラの体を登るのだから。それに体をきってすぐに再生したやつが脳を持つ奴とは限らない。だがここで諦めるわけにも行かない。僕らはヒュドラの体についた鱗にしがみついて登っていく。


 この世で最も死に近いであろう30分が始まった。



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