第七話 作戦前
夢を見ていた。とても不思議な夢だった。ひまわりが綺麗に咲き乱れた丘の中に1人で立っていた。そして丘の上の方のひまわりが波が迫ってくるようにだんだんと赤く染まっていく。そして私のいるところまでが赤くなった途端......途端.....何が起こったっけ?思い出せないな。でもあまり良くないことだったのは確かな気がする。
アナは体に布団を巻いたままベットから転げ落ちる。なぜか今日はとても寒い。なぜだろうか。布団を羽織ったままゆっくりと体を芋虫のように動かして立つ。窓の外を見ると雪が降っていた。昨日、ラユラさんが寒くなるとは言っていたが今日はまだ6月。雪が降るのには早すぎる気がする。
少し気になったが考えるのに栄養を使いたくない。暖かいココアでも飲みたいな。オルに作ってもらおう。そういえばオルはココア知ってるのかな?
「あ、おはよう。アナ」
「おはよう、オル。今日は寒いね」
オルはもうすでに起きていたみたいだ。リビングでストレッチだろうか。両足を大きく広げて体を前に倒している。硬くもなく柔らかくもない美味ようなところだ。どちらかと言ったらオルの筋肉は柔らかいと思う。私はあれはできない。筋肉が硬すぎてだ。
「朝ごはん。なんか不思議な粉があったんだけど知ってる?粉コーヒーとは少し違ったんだけど」
オルがストレッチをやめて立ち上がって私にカウンターに置いてあった薄茶色のビニールでできた袋を投げてきた。これはココアの粉だな。袋のイラストにガッツリとココアと書いてある。オルはココアを知らなかったみたいだ。というか読めなかったのか。
「これはココアって言って甘い飲み物だよ。飲んでみる?」
「飲む飲む」
オルガ子供のような顔をしながらポットに水を入れて自分の手のひらでお湯を沸かす。一応、ガスボンベで動くガスコンロはあるがオルは自分の能力でやりたいみたいだ。能力を使える時間を延ばすためにはいい練習だとラユラさんも言っていた。
私も風を呼び出してカウンターに置いてある朝食を机に運ぶ。今日の朝食はありふれたものだ。二つの小さなバターロールにサラダ、ベーコンとスクランブルエッグ。オーソドックスな朝食だ。
オルと一緒に暮らし出して1週間くらい時間が経った。初めから私もオルも何も抵抗なく過ごしている。相変わらずラユラさんにはここにいつ続けるように言われている。それに最近ここにくる頻度も少なくなっている気がする。食料は毎日玄関の前などに置いてあるが私たちが寝ている時にきているみたいだ。
「アナ。お湯できたよ。どうすればいい?」
「そのお湯をコップに移してカウンターに置いてこの粉を中に入ってるスプーン1杯分入れて混ぜたら完成だよ」
「オッケー」
オルがコップにお湯を注ぐ。ゆらゆらと湯気がコップの中から上がってすぐに消えた。そして私はそのコップにココアの粉を入れていく。透明だったお湯が薄茶色に変わっていく。まるでまだ絵の具のついた筆を水に浸したみたいだ。ゆっくりとモワッと広がっていく。スプーンでそれを混ぜてコップの中の液体全てが白色の混ざった茶色になった。
私たちは自分のコップを持って机に座って朝食をとる。
「今日の予定は?」
オルが聞いてきた。
「特に何もないよ。いつもどうり訓練して終わり」
私は答える。
「それじゃあ、アナ。今日は僕に付き合ってよ」
オルガ1枚の紙を取り出して机の上に置いた。魔法紙みたいだ。
「これ俺の部屋の本に挟まっててさ。多分神託前までいけると思うからそこまで行ってみない?」
「無理だよ。ドライアドたちにずっと見られているんだよ?」
「それは大丈夫。今雪降ってるから彼女たちは木の中で冬眠中だよ」
確かに。ドライアドたちは冬には活動しない。だがそのことはラユラさんも知っているはずだ。何か他の監視役がいるはずだと思うが。
「そのくらいラユラさんも知っていると思うよ?」
「大丈夫だよ。多分。それに図書館に行けば白猫に会えるじゃん。そうすればなんとかなるかもしれないじゃん?」
そうかもしれないが。前にあった時の反応からおそらく白猫もエレナたちのことは知っていると思う。そうなるとわざわざ危険な場所に行くのはおかしな話だ。
「私の考えだと多分白猫もこのことを知っているはずよ」
「そうだけど.....」
ダメだよ。その魔法紙を私に渡して。絶対に勝手に使っちゃうでしょ。
「嫌だ.....」
「渡しなさい」
「はい....」
オルが私に魔法紙を渡してきた。私はそれを受け取り、席を立って朝食の食器を片付ける。食器を洗って自室に戻ってオルからもらった魔法紙をみる。これがあれば少し希望が見えてくるかもしれない。オルには悪いが私1人で使ってしまうか。私の体が光に包まれる。
〜〜〜
「昨日は、本当に申しわけありませんでした。お詫びとして私の....その」
「ちょ、ちょっと待って!待って!いいからこの場所からでてってくれませんか!?」
「しかし、それでは....」
「本当にいいですから!!!」
内心ではそのままいてください!と言いたいのですが、その辺はモラル的な面でしっかりと否定.....否定しておきます。
なぜかお風呂に入っている時に昨日僕が気絶......いや、助けたダーフエルフの女の子がお風呂場に入ってきました。ほとんど全裸?一応タオルを巻いていましたが......ほとんど全裸でした。胸のAボタンBボタンが浮き出ていました。この裏の世界と言うべきか人間界に昔あったことが今でも続いています。今回みたいに。願ったり叶ったりだが.......一応モラルは気にしておきました。
「あの......港様。私は昨日のことのお詫びをしたくてですね....」
風呂場の入り口についているのれんの近くにまだいるみたいだ。その辺から声が聞こえる。僕は急いで体を拭いて見せたは拙い部分を隠す。
「そんなの気にしなくていいですから!それに僕が困りますしあなたもこんなことはしたくないでしょう!」
「それはそうですが.......」
そうなのかよ!ちょっと胸に本当にグサッと刺さったぞ今の言葉!
「私たちの種族ではこれはルールなので.....」
「そんなことしなくて大丈夫ですから!」
あ!これが使えるかもしれないな。
僕は左手の銀のブレスレットを彼女に見せつけるそして言い放つ。本当は言いたくないですよ!本当はお世話されたいですが.......そこはね。
「君に命令します。そんなことはしなくて大丈夫です!」
「本当ですか!ありがとうございます!」
ドタドタと足音がして彼女の気配が消えた。あそこまで喜ばなくてもいいじゃないか。心がズタボロだ。
脱衣所に入って不空を着替える。こっちのお風呂は少しぬるめだった。聞いてみるとお風呂というものは冥界にないらしい。どちらかというと水浴びの方が主流みたいだ。わざわざ温めるのがめんどくさいらしい。僕はお風呂に入りたかったので骸骨たちに作らせました。
「どうかしましたか?隊長」
お風呂のテントからでたらその近くにアウルが立っていた。結構ニヤニヤしている。知っていたな。
「昨日助けたダークエルフの子が入ってきました」
「知ってるよ。でどうだった?俺の妹は」
あんたの妹だったのかよ!
「妹だったんですか!?」
「おう。血は繋がってないけどな」
なぜか少し安心した。なんでだよ。俺!
「よく自分の妹にそんなことさせられましたね」
「お前は絶対拒否すると思っていたからな」
アウルがドヤ顔を決めた。うざいわ!
「それでなんでここにいるんですか?冷やかしに来たわけじゃないでっすよね」
「そうそう。忘れるところだったよ。明日の朝.....って言ってもよくわからないだろうからこれな。これが冥界の時計だ。なくすなよ」
アウルが少し大きめの時計を渡して来た。木組みの中に円柱のガラスがあって、その中にひし形の宝石みたいなものが入っている。よくみるとガラスに1、2、3と数字が書いてある。中の宝石のようなものは紫色に輝いていてとても綺麗だ。
「その宝石がオレンジ色にしたの方からだんだんと朝になるにつれ変わっていく。そのオレンジのやつが9のところに差し掛かったらこの前お前がギミルと戦ったところにこい。作戦会議をする」
「わかりました」
この石は”時計石”という名前みたいだ。僕はポケットにしまう。ずっしりと来るな。
「それと.....お前に作ったこの風呂というものに入ってもいいか?」
アウルが目をキラキラとさせて僕に聞いて来る。この人は子供か!
「いいですよ。それじゃまた明日」
「おう、これ服脱ぐんだよな」
「服脱いで体を洗ってからでお願いします」
「了解した。それじゃ明日な!」
アウルが僕が作った風呂場に走って行った。転ばないか心配だな。
僕はそのまま自分のテントに歩いていく。途中ゴブリン達がギャンブルで盛り上がっている声が聞こえたが僕が近くを通った途端一気に静かになって何処かに行ってしまった。やはり嫌われているな。僕は。
しばらく歩いたら僕のテントが見えて来た。周りには一つもテントがなくポツンと一つだけ建っている。僕が彼らを気にしてなるべく遠くに建てたのだ。少し遠すぎるかもしれないが、あまり気まずくなりたくはないしこの場所が最善の策だと思う。
僕はテントに入って中に大雑把においてあった寝袋に身を包む。寝袋に入るといつも思うがミノムシになった気分になる。冥界には夜がなく年中マグマのせいで明るい。この明るさの中で寝れるか心配していたが案の定、すぐには寝れなかった。
しばらく時間をかけてゆっくりと眠りについた




