第六話 策略
「うちの息子をよろしくお願いします。それでは失礼します」
赤い綺麗な服を着て首に黒うさぎの毛皮を巻いた吸血鬼の貴族が息子とともに人混みに戻って行った。
下のダンスホールでは絶え間なく音楽が流れ吸血鬼たちが踊っている。まるで一日中働いている機械のように。このパーティーは私の紹介パーティーらしい。執事の人が言っていた。
さっきから自分の立場を確保しようと吸血鬼たちが必死になって私に挨拶をして来る。聞くのもめんどくさくなってきた。
「大丈夫ですか?今お茶をご用意します」
お世話係の子が私にお茶を入れてくれた。いい匂いと音だ。ポットからカップへ紅茶が移動して行く。
「どうぞ」
「ありが..........」
「そんなものを私の妻に飲ますな!」
エルが突然現れて紅茶の入ったカップを弾く。ダンスホールの演奏が止まった。一斉に会場の全員の視線が集まる。紅茶が舞って光に照らされて綺麗に地区宇宙をまう
「申し訳ございません。旦那様。今すぐ入れ直し.......」
バシン!と皮膚と皮膚が勢いよく合わさった音がしてお世話係の子が地面に倒れた。彼女の顔が手のひらの形に赤くなる。
「人間が私に意見するな。首を出せ」
お世話係の子が首筋のところを見せるとそこにエルが噛み付いた。そして血を吸う。どんどんと彼女の皮膚から骨が浮き上がり身体中の血が吸われてあっという間にミイラみたいに干からびてしまった。
私は彼女のすぐ横に座って彼女の目を閉じる。これが私ができる唯一のことだ、ただただ開いている目を閉じることだけだ。情けない。
「執事、この子を墓地へ運べ」
「御意」
執事の吸血鬼が後ろから現れて彼女を運び出す。彼女の顔はとても穏やかで幸せそうだった。そうやって子供の頃から教育されてきたからだ。
「吸血鬼に血を吸われるために生きろ」
「吸血鬼に血を吸われるのが誇りである」
こんなことを子供の頃から教え込まれる。こんな生活が彼女たちにとっては幸せなのだ。しかし、これは、第三者から見れば誰もがおかしいと口を揃えていうだろう。なぜなら死ぬのに抵抗すらしないのだから。だかこれは彼女たち自身がおかしいと感じない限りそれはおかしいということにはならない。だからこの屋敷にいる人間は反乱を起こそうとはしない。反乱を起こそうと考えられないようにされている。私が彼女たちを可哀想と哀れみ、この屋敷から脱出させても彼女たちがそれを望まない限りそれは救いにはならない。ただの誘拐になってしまう。おかしな話だ。だがそれが事実で真実だ。あまりにも辛い。こんな時、港だったらどうすすのだろうか。
「前を失礼します」
さっきと全く同じ容姿の子が現れて床に落ちている紅茶をタオルで拭く。
彼女たちには親はおらず。全てクローンだ。顔、声、体つき、身長、血液型、全て同じで吸血鬼が1番好む人間をクローンで作り出しているらしい。だから食べるもの、寝る時間もなにもかも全て同じだ。
何人のお世話がかりの子が殺されただろうか。少なくとも20人近く目の前で死んで行った。私はただその場で見ているだけだった。何もできない。何もしない。それが私に貸せられた役割なのだ。もしもエルの機嫌を少しでも損ねることをしてしまうともしかしたら吸血鬼からの助けがなくなるかもしれない。そんな呪縛のようなものに体を締め付けられている。まるで大蛇に身体中を締め付けられているように。辛い。もう心というものをどんなものか忘れ始めている。
「エレナ。もう寝たほうがよさそうだな。おいエレナを寝室まで連れて行け」
「御意。旦那様。エレナ様こちらへ」
私は彼女についていく。周りを気にもせずただただその後を。まるで機械人形のように。最近誰とも話していない気がする。そんな毎日を送っている。
「お洋服を返させていただきます」
いつのまにか寝室についていたみたいだ。さっきのお世話係が手にパジャマを持っている。着替えるのもめんどくさい。
「いや、このままで大丈夫。ありがとうね。おやすみなさい」
私はベットに飛び込む。そして、すーっと意識がなくなって私は眠りについく。
〜〜〜
「どうした!そんなもの....か!!」
ギミルが剣を縦に振り下ろしてきた。僕はそれを剣を横にして受け止める。ギミルの剣と僕の剣が交差する。そしてギミルが体重全てを僕にかけてきた。耐えきれない、ゆっくりと左膝をついた。左肩にじわじわと自分の剣の刃が近寄ってくる。
僕は左側に刃先を突き刺しギミルの剣を受け流す。ギミルの剣も左側に突き刺さった。僕は自分の剣に体重をかけながら右足でギミルの左脇腹に蹴りを入れて右側に転がる。しまった。剣がなくなった。僕は地面に右手をつけながら骸骨を呼び出す。今回出てきたのは槍を持った骸骨だ。剣じゃないのかよ!だが武器がないよりはマシだ。
「それをくれ。そんで戦え!」
骸骨が僕に槍を投げてギルルに向かって走っていく。だが勝てるはずもなくバラバラになった。そして地面に戻った。その間に僕は槍を両手で持って膝で二つに折る。そして両手に持って短刀がわりに構える。木でできていてよかった。もしも鉄でできていたら膝を痛めただろうな。
「しぶといな、お前。動きもなかなかだ。だが絶対に私には勝てない。それは自分がよくわかっているだろう」
そんなことはわかっている。だが僕は引けない。絶対に。
「嫌だね、僕はあなたを倒してヒュドラを殺す」
「無理だ。絶対に。人間の世界に帰れ」
ギミルが姿勢を低くして僕に向かって刃先を向ける。そして僕に向かって飛んできた。速い!僕もギミルの方向に走り出す。そして両手の槍を投げつける。くるくると弧を描いて飛んでいく、そしてギミルの体に当たった。しかしギミルは止まらない。笑っている。
「そんなのが俺に効くわけなかろう!」
「そんなことわかっているよ!」
ギミルが僕に向かって右手の短刀を突き出してきた。僕はそれを寸土のところで体を横にして避ける。そして左手でギミルの上の右手首を握り、右手をギミルの右脇に手を入れ、体勢を低くしてギミルの腕を右肩にかける。そしてそのまま体を流れる水のように動かして右足でギミルの足を後ろに押し出してそのままギミルの体を背中に背負って投げる。
一本背負いという名前だっただろうか。じいさんに教えてもらった柔道の技の一つだったかな。
ギミルと目が合う。こんな状態でも笑っている。だが僕はその理由をすぐに理解した。ギミルがそのまま両足で着地して僕を投げる。僕の視界が逆転した。そして背中に衝撃が走った。痛い。
「殺すな!」
「安心しろ。殺しはしない。だが惜しかったな。いい線いってたよ。お前。だが俺を倒せなかった。残念だったな」
僕は声を出さずに口だけ形を作って笑う。
「あなたの負けですよ。よく周りをみてください」
ギミルが右からみて左側に視線を移す。しかし全く気がついてないみたいだ。
「後ろですよ」
ギミルが後ろを見て動きが止まる。後ろでは1体骸骨が僕の銃を構えて、もう1体が日本刀をギミルの背中に向けている。他の奴は.....ギミルに向けて拳を向けている。勝てるはずないのに。
「いつのまに...」
「槍を受け取った時にですよ。その時にその骸骨たちはもうすでにきていたんですよ。僕に向かって武器を渡そうとしてました。でも僕はそこで命令を変えました。”戦え”と。これが僕の狙いですよ。あなたに僕は殺せない。殺す前にあなたが死ぬからです」
骸骨たちがカタカタと顎で音を鳴らす。笑っているな。
「どうしました?放してください。そして僕をヒュドラ退治に混ぜてください。お願いします」
寝転がったまま僕は彼の目を見つめる。なんか失礼な態度だな。
「あはははははははははははは!こりゃ参った。参った。ほらお前ら出てこい」
ギミルが突然、笑い始めた。そして僕のことを立たせてくれた。それと同時にアウルとサイクロプスが突然、現れた。
「文句ないだろ?お前ら。悪かったな。港。試して」
ん?ん?ん!?よくわからない。
「わかってなさそうだな。これはお前がヒュドラ退治に参加できるかの試験だよ。そんで....これがお前のテント...な!」
アウルが僕に多くな布の塊を渡してきた。中に鉄のパイプが入っている。骨組みだな。
「なんでテストなんかしたんですか?僕を利用することもできただでしょうに。それに神の子が嫌いでしょうに.....」
アウルがゆっくりと深呼吸して口から声を出す。
「確かに我々は君たちが憎い。だがそれ以上に感謝もしている。君の学校の白猫さんとかにもな。だから君を無駄死にさせたくないんだよ」
「あれ?それじゃあヒュドラが移動し始めたっていうのは.....」
「嘘だ!気にしないでいい」
ギミルが満面の笑みで話した。嘘を笑いながら言われても困るんだが。
アウルが僕に向かって右手を出してきた。手の中には銀色の鎖がある。ブレスレットみたいだ。
「これは我々の仲間がつけているものだ。これを君にやろう。これは軍隊長の証だ。それを他の兵士たちに見せればほとんどのことは聞いてくれるは思う。まだ神の子を恨んでいる兵士も多くてな。ここにいる私たちは君を認めるがまだ認めていないものも多い少しその辺だけ注意してくれ」
「わかりました」
僕はブレスレットを受け取って左手につける。左手につけたことには特に意味はない。なんんとなくだ。
「それじゃ、よろしく」
「おうおお」
「よろしくって言ってると思う」
僕は彼らを見る。なんとも不思議な光景だ。ダークエルフ、サイクロプス、ゴブリンが僕の目の前にいる。正確にはサイクロプスの顔は見えないが。
僕の心の中で何かが固まった。ずっしりと重たいものができた。なんだろう。




