第二話 吸血鬼の病院
「おはよう、成瀬君でいいのかな?」
「おはようございます、ジェヴァム・ルドルフ様。助けていただいたことに感謝と銃口を向けたことお詫び申しあげます」
目を覚ますと、目の前に白衣を着たジェヴァム・ルドルフがいた。パイプ椅子の背もたれのところに胸のところを当てて、逆向きに座っている。あれは楽な座り方で僕も結構好きだ。
「ようこそ、私の病院へ」
お辞儀をしようと体を起こそうとしたが体がベットに引き寄せられた。僕はベッドの上で手足を縛られている。ベットの腰のところが少し上に上がっていて楽な体勢だが、手足を縛られてしまっては動きづらい。寝返りも打てない。
「なぜ僕は縛られているんですか?」
「それはすまない。我々も君のことを100%信じれないのでね、それに君は神の子だ。恐れているものも多くてね」
「なるほど。それはそうですね」
ジェヴァム・ルドルフの顔はとても優しい顔をしている。正確には優しい目なのだろうか。だがその目の中にも少しだけ悲しみが混ざっている。無理やり笑っている気がする。
「成瀬君、それともう一つ。君がセイレーンの襲撃から助け出そうとした人たちだが全員無事だ。首を切られてしまった1人はどうすることもできなかったがそのほかの人たちはもう退院している。記憶も操作しておいたから我々のことは覚えてはいない」
「そうでしたか、ありがとうございました」
そんなことより、ここが病院?なんのことだ?それになんで吸血鬼の王が病院で働いているんだ?というか、「私の病院」って言ってたよな、彼は院長なのか?僕の頭の中を色々な疑問が行ったり来たりしている。
「吸血鬼の王、ジェヴァム・ルドルフ様。なぜあなたは病院で働いているんですか?というか院長なんですか?それとセイレーンに襲われていた方々は?」
「少し落ち着いてくれ、それと私には敬語は使わないでくれ。日本人の敬語は気持ち悪い」
「すみません」
「順を追って話すから少し落ち着いて聴いて欲しい。答えられる疑問には全て答える」
「わかりました」
やっとだ。これで僕の知らない情報が揃うはずだ。学校の職員室から盗んできた資料の情報は全て見たがそこまで詳しくは書いていなかった。吸血鬼側からの要求は人質と許嫁。それはエレナだった。しかし相手側の要求がそれだけとは考え難い。もしかしたら他に要求があったのかもしれない。それが今からはっきりとする。
僕の血液が喜んでいるかのように温まっていく。いや興奮しているのか。隠れてエロ本読んだ時の高揚感に似ている。
「はじめに、この病院は私が人間とこ共存を目指して作った病院だ。ネットで調べれば名前も出てくる。この病院の医者は全て吸血鬼で患者は人間。患者から血を吸っているのではなく、許可をくれた患者からの献血、毎月人間の病院団体から送られてくる輸血用の血、魔術協会との我々の血と彼らの血の物々交換。この三つでこの病院の吸血鬼、その家族の食事をまかなっている」
なるほど、人間との共存を目指していく上ではいい関係を持っている気がする。吸血鬼の血を操る能力での人間に対する医療と人間の血をうまく交換し合えている。だが......
「人間と共存を目指さない吸血鬼たちはどうしているんですか?」
問題はそれだ。この病院には人間の血がかなりの量ある。それを奪いに来ない理由が見当たらない。
「それは今の所大丈夫だ。9割の吸血鬼は人間との共存を目指しているし反乱も起きていない。それに残り1割の吸血鬼たちの数は少ない。100人くらのはずだ。もともと吸血鬼の数が少ないからな」
「脅しとかはないんですか?」
ジェヴァム・ルドルフの眉がピクッと動いて顔色が変わっていく。おそらくミルルについてな気がする。彼らには僕らがミルルを保護したことを伝えていない。彼らが自らオークションのやつらに売りつけたという疑惑があるからだ。
「一応はある。だが君には関係ないことだ」
ここは賭けに出たほうがいいな。
「ミルル・ルドルフのことですか?」
ジェヴァム・ルドルフの顔色が変わった。さっきよりはいい色だ。小学生の時に使っていた肌色の絵の具とはじめに出てくる水っぽい肌色だ。そして目には希望が見える。
「なぜ君が...その子の名前を知っている?」
かわいそうだが、僕にもエレナの救出がかかっている。
「彼女は今ある場所に保護されています。もしもその場所を教えてほしければエレナ奪還に協力してください........しろ」
ジェヴァム・ルドルフを睨みつける。めちゃくちゃ怖い。僕は今吸血鬼の王に対して命令をしている。もしも彼が怒ったらただじゃ済まないだろうな。冷や汗がゆっくりとスライムが落ちるスピードで垂れる。汗ってドロドロするのだろうか。
「君は私の立場を理解して言っているんだろうね」
怒っているな。絶対に怒っている。爪が黒くなって、口の中から長い牙が出てきている。僕の人生ここで終わりかもな。体をベットに固定されてるし、戦おうとしても武器がない。瞬殺されるだろうな〜。
「はじめに言っておこう、君たちにエレナのことを要求したのは私だ。私の命は残り少なくてな、末期がんのせいで残り三ヶ月くらいだろう」
僕の心が少し不安定になる。彼に対しての怒りと彼が末期ガンと知ってのなんとも言えない感情が混ざっている。怒ろうにも怒れない。だがそんなことは関係ない。今は僕のことが最優先だ。
「どうしますか?今ここで僕を殺して娘さんに会えなくなるか。僕に協力するか」
しかし、ジェヴァム・ルドルフの目と口元が少し笑った。そして話し始めた。僕は少しあっけにとられた。なぜ彼が笑い始めたのかがわからなかったからだ。
「その辺は大丈夫だ。君がきたということを君の学校に連絡しておいた。君とミルルを引き換えで君が我々の島に無断で入ってきたことをチャラにするという条件で。それと治療費も。さて、君がどういう人間か気になってここにきたが、拍子抜けだったな。自分1人で好きな女すら助けられないやつが、私に命令するとは。笑っちゃうよ。あぁ。あとこれ渡しておくよ。君の日本刀。結構かっこいい剣だよね」
ジェヴァム・ルドルフが僕の方に日本刀を投げてきた。それと同時に僕の手足が解放された。
「だが、いいだろう。協力はしないが協力してもらう。もしも私に協力したらエレナを助けだせるかもしれない」
ジェヴァム・ルドルフが何を言っているのかがわからなかった。僕の顔が理解できていない感じだと思うがそんなこと気にせず話を続ける。
「今からオスカー君が来るだろう。だが君をオスカー君に手渡そうとは思わない。ここで一つ君にチャンスをやろう。今日から三週間後に結婚式が行われる。それまでにエレナを助けだせ。私もエレナのことを知っているし娘のようなものだ。彼女を私の弟に嫁がせるのも嫌だからな。私の弟はルイン・ウェルネスと繋がっている....ならわかるな?」
殺せということか。できるだろうか、残り三週間で。
僕は服を着替え、装備と整える。FN P90に弾を詰めていく。そしてポケットから魔法紙と魔血インクを取り出してある転送石の名前を書く。書いている時にジェヴァム・ルドルフに尋ねてみる。
「それじゃあなぜ、あなたの弟に王位を譲ろうとしたんですか?」
「吸血鬼はしきたりにうるさくてな。ミルルに譲るということもできるが一番年寄りに譲るというのがルールでな」
「だけど殺してしまったらまずいんじゃ?」
「彼を殺せば私の王位継承権をも打つのはミルルだけになる。そしてミルルの世話係として私の家臣を指名する。それが私の計画だ。私の計画に加わるか?そうすればエレナを助けられる。殺せなくても構わない。私は結婚式当日私の弟暗殺する。だがそうなるとエレナの命は保証できない」
なるほど、なら僕はどうするべきだろうか。少し迷う。
「成瀬君、これは私の弟の家に私がおいておいた転送石の名前だ。これを破けばいける。頼んだぞ」
「もしも、あなたの弟さんを殺せた場合、エレナの命を保証してもらえますか?」
「保証する」
ジェヴァム・ルドルフの低い声が僕の耳の中に響く。そして彼の目はとても真剣だった。1+1くらいはっきりとしていて簡単な計画だ。
僕は彼から魔法紙を受け取る。そして両手で持つ。
「失礼しま.....港!?お前何を」
「悪いね、オスカー。僕はエレナを助ける」
僕は紙を破く。行き先はエル・ルドルフの家ではない。冥界だ。協力してくれるかもしれない人.....いや神様に会いにいくために。




