第十二話 吸血鬼の再来
「エレナ!!」
僕は目を覚ました。汗で服がびちょびちょだ。
あれ?どこだここは。見たことがない。ここは…牢屋だな。なぜ僕は牢屋に入れられている?僕はエレナをコテージまで連れていて.....吸血鬼にやられたんだった。鉄格子の奥にオスカーとラユラさんそして白猫がいる。どんな状況だこれ。
「起きたか、港。」
「オスカー。どうして僕は牢屋に入れられているんですか?」
「お前が危険だからだ」
「僕がなぜ危険なんですか?裏切ってないですよ!?」
「そんなことはわかっている」
「それじゃあなんですか!?僕は行くところがあるんだ!」
エレナを連れ戻したい。返事もしたいし。
「行かれては困るということだ」
僕は唖然としたがすぐにその意味がわかった。
なるほど…….。そういうことか。
「てめえ!!!!」
僕はベットから出て、オスカーのところに走り出した....が手錠をつけられていたらしい。ガシャン!と手錠の鎖が伸びきって音を立てる。両手がベットの方に持っていかれて上半身が前のめりになる。
「知っていたな、オスカー!!!」
手錠が手首に食い込む。血が滴るが不思議と痛みはない。
「黙れ、今回の任務のためだ」
「ふーふーふー」
僕は野犬のように唸る。ギリギリとはが擦れる音がする。
「港くん、わかってあげて。オスカーだって辛いのよ」
「黙れ。何もしなかったやつが今更何を言ってるんだ」
僕は低い声でラユラさんに向けて話す。
「オスカー。吸血鬼側からの要求を教えろ……….教えろ!!!!」
「教えることはできない。もしも教えたらお前はエレナを助けに行くだろう」
「当たり前だ。彼女は泣いていた。さっさと教え…..が!」
僕の体に電撃が走った。身体中の筋肉が固まる。僕はその場に倒れる。
「静かにしろ。世界の命運と1人の女の人生。どちらを取るべきかは誰にでもわかる。諦めろ。彼女が望んだことだ」
「他に…何か方法があったはずだ」
「我々にそんな時間はない」
「ふざけるな、そんな理由で妹のように可愛がっていたエレナを諦めるというのか」
「黙れ!!。俺だって辛い。だがこれしか方法がないんだ」
がっかりだ。かなり尊敬していたし、人として本当に好きだったのに...。
「こっちのセリフだ。逃げやがって。なに同情なんか求めてやがる。お前はエレナを仕方なく見捨てたんじゃない。見捨てたくて見捨てたんだ」
「違う!!」
「なぜ違うと言い切れる。だったらなぜ他の方法を考えなかった。どうしてお前のような単細胞バカが1人で解決できると思ったんだ。仕方ない、と割りきたんだろうが。この弱虫が」
どんどんと腹の底から言葉が湧き上がってくる。
「港くん!言い過ぎよ!」
「黙れ、弱虫二号。いいか、自分の仲間すら守れなかったやつが今になってギャーギャーと言い訳を並べるな。もしも本当に辛いと思っているのなら俺を外に出して吸血鬼側の要求を教えろ。俺1人でなんとかしてやる」
「そんなことできるわけないだろうが!」
「黙れ!お前に話してるんじゃない。白猫に話してるんだ!」
白猫の目を見る。そしてすぐに白猫が目をそらした。
「目をそらす......」
「2人とも。行くよ。港、あんたは世界の終わりまでここで過ごしな。飯は出る。安心しろ」
「ふざけん....が!」
オスカーにもう一度電気を流された。意識が飛んでたみたいだ。僕が顔を上げた時にはもう誰もいなかった。その間に白猫たちはどこかに行ってしまったみたいだ。身体中が痛い。
血ではない、ムカムカとした何かが身体中を駆け巡る。
落ち着け。まずは一旦情報の整理からだ。
オスカーは「世界の命運」と言っていた。てことはエレナが何かをすることによって僕らはこの世界を救える……とは言わないが、救える可能性が高まるということだ。そして吸血鬼が現れた時に行っていた、”エル・ルドルフ”というやつを思い出す。思い出せない。ていうことは図書館に乗っていない情報だな。
まあ、おおよその予想はできた。吸血鬼に救援を求めめた時に要求の中にエレナが入っていたということだ。そしてあのクズどもはその要求を飲んだということだ。
幸いなことに脱出方法はいくつかある。それをどのタイミングで使うかだ。見た所、監視はいないし、防犯カメラもない。だがどこかに魔術か神の能力の能力は付いているだろう。
僕は能力を発動してあたりを見渡す。特に反応はない。というかこの牢屋がどこにあるかがわからない。これでは脱出の算段が立たない。
僕は服のポケットを調べる。クッソ。隠しておいた魔術紙取られてるな。まぁ。靴べらの裏の裏までは見なかったな。僕は魔法紙を取り出す。魔術は神託行きの”転送”魔術だ。これはタイミングを間違えると厄介だな。昼間は生徒がいるし、夜はケンタウロスが見回りしているし。まあこの魔術は脱出の鍵になるのは確かだな。
ご飯の運んでくる人に聞くか。
カコとどこからか音がした。左側の郵便ポストみたいなところから食事が出てきた。
かなり厳重に警戒されてるな。これでは脱出は難しくなってくるな。いざとなったら能力を三つ目の能力でなんとかするしか。
お腹が鳴った。食事をとるか。
僕は運ばれてきた食事を食べる。まずい。
〜〜〜
エレナが消えて2日が経った。なぜか港もいなくなっていた。オルはのんきに「駆け落ちした!」なんて言って笑っていたが、ミルルちゃんによればエレナはいなくなった日、ある手紙を見て顔色が変わっていたと言っていた。やはり何か変だ。
「ねぇ、オル。何か情報ない?」
「情報って言われてもさ、アナ。俺らの情報の集め役は港だったから集めてないんだよね」
「ごめん、あなたに聞いた私がバカだった」
「そうそう、お前はバカだよ〜」
風に港の場所を探させているけど、どこに行ったかの痕跡が不自然なくらいない。何か強大な力の介入があった気がする。
「ねぇ、オル。なんとか港を探し出せないかな」
「どうだろ、俺としてはアナの能力の方が向いていると思うよ」
「そうなんだけど、毎日探しても全く反応がないのよ」
「もしも大火事なんかが起こったら探せるかもしれないけど、さすがにそれはまずいからね」
「そうよね。よし!」
「どうしたの?」
「図書館でその情報を探すことにする。オルも手伝って!」
「わかったよ。まずは図書館に向かおう」
私たちは校舎に向かって歩き出す。途中でミルルちゃんに会った。とてもつまらなそうな顔をしている。エレナと港がいなくなってからあまり元気がない印象を受ける
「ミルルちゃん!どうしたの?」
「アナねえ......なんでもない」
ミルルがどこかに走っていく。こんなこと言いたくないが、私はミルルを少し疑っている。ミルルがこの学校に来てから色々とうまくいきすぎている気がする。気のせいであってほしいが。
「アナ、白猫の校長がいるぞ。あそこ」
オルが指差した先に本当に白猫がいた。珍しいな、白猫が図書館以外にいるなんて。私たしは白猫のところに行く。尻尾に煮干の入った袋を持って煮干をかじっている。
「白猫さん」
白猫が私たちをみおろす。
「なんだ?」
「港のエレナはどこに行ったんですか?」
「私にもわからない」
「なら私たちに図書館に本を見せてください」
白猫の目が少し泳いだ。何か隠しているな。
「見せてもらえますよね」
「無理だ」
「なんでですか?」
「無理なものは無理だ」
白猫が木から降りてそして森に消えて行ってしまった。
「なぁ、アナ。白猫の校長何か隠してるよな」
珍しい、オルと同じ意見を持つなんて。いや、誰だってそう思うか。
「そうね.....少し調べて見ましょうか」
「どうやって?」
「オスカーと」ラユラさんにでも聞きましょ」
「2人とも任務に行ってるぞ」
そうだった。忘れていた。打つ手がないかもしれないな。
「ミルルちゃんにもう一回話を聞こうかな〜」
「あんまり賛成できないな。結構落ち込んでたし」
「だけどそれしか方法がないでしょ」
「そうだけど...」
「なら見るつちゃんを探そう、オル」
「わかったよ」
森の中には獣や神獣がいるからあまり入りたくないがしょうがない。私たちはミルルの走って行った方に行く。
〜〜〜
「ミルルちゃん!」
アナがミルルの方に槍を投げる。当たらなかったがミルルの前に突き刺さりイノシシが後ろに引く。
俺は手に火を呼び出す。そしてイノシシにむかって火を放ち、イノシシの周りを火で囲む。イノシシが行き場を無くしてウロウロしている。
「大丈夫?」
アナがミルルのところについた。ミルルの顔は夕食が全て大っ嫌いなものだった時の顔だ。もっと怖がっていると思ったが、肝が座った子だな。
さて、このイノシシをどうしよう。このまま丸焼きにするのもいいが、それは少し可愛そうだしな。
俺は左手をイノシシに向けたままアナに尋ねる、
「アナ、槍であいつを楽にして欲しいんだけど。このまま丸焼きにするのはちょっとかわいそうなんだけど」
「そうよね、どうしよう」
「このまま逃していい?」
アナが頷く。俺はイノシシの後ろに火で道を作る。目の前を塞ぎ、イノシシの背中の方に道を作る。まるで火のアーチだ。イノシシが後ろに入り出した。イノシシが森の奥に消えて行ったのを確認すると、僕は火を消した。
「ありがとう、オルにい、アナねえ」
ミルルが頭をさげる。膝が少し擦り剥けて、血が出てるが少しずず治り始めている。
「ミルル、膝大丈夫?」
俺が尋ねる。
「大丈夫、もう治り始めてるから」
ミルルが答える。
「ごめんね、ミルルちゃん。こんな時にあれなんだけど。エレナについて少し教えてほしくて」
アナが話の本題を切り出す。唐突だな。もう少し時間をおいても良かっただろうに。
「エレナねえのこと?どんなことかな」
「エレナがいなくなった日のこと。確か手紙を見たらどうなったんだっけ」
「顔色がすごく悪くなってた。その手紙も少しあれだったし、なんて言ったらいいんだろう、見たことない紋章がついてたよ。赤色で人の手が書いてあった」
その紋章が誰のものなのか、何のものなのか、すぐに予想ができた。吸血鬼の紋章だ。紋章の中心に人の右手が切られたものが書かれており周りをいばらが囲っている。そして赤色だ。嫌な予感がする。これから世界を救うっていう時に吸血鬼が現れた。それもおそらく敵として。吸血鬼の何人かが敵にいることは聞いていたが,もしも吸血鬼全員が敵になった場合。私たちの勝機はない。
体の体温が一気に下がるのを感じる。水風呂に入った時のように足の先、手の先から冷えて行き、その冷えが体全体を包む。そしてここに来る前の記憶が頭をよぎる。とても残酷で、憎たらしく、そして私が心から望み、心から後悔した記憶が来...・
「アナ!」
オルの顔が目の前にある。心配と焦りが混じったような顔だ。
「大丈夫か!?」
私は.....そうか。またか....。
「ありがとう、オル。もう大丈夫」
このことに吸血鬼が絡んでいるということがわかった。その情報だけで十分だ。先生たちに報告すればきっと動いてくれる。
私たちは学校に向かう。




