第八話 下水管の中って気味悪いよね
ザーーーーと下水管に水の流れる音が響いている。そこに私たちの走る音はあまり聞こえない。
エレナたちは今、下水管の流れに逆らって走りながらオークション会場に向かっている。下水道の中は薄暗く、生暖かい空気が漂っている。ライトをつけてなかったら前が見えないほどだ。たまにネズミの鳴き声などが聞こえたりして気味が悪い。
「なあ、このライトいらなくない?重くて嫌なんだけど」
「なかったら、全く見えないよ?」
「でも、俺の火でよくない?」
オルが左手を少し上にあげて火を呼び出そうとする。
「待って待って!ここで火を出したらダメでしょ!」
アナが慌てて止める。なぜだろう。
「ガスが漂ってるかもしれないんだよ!?爆発しちゃうじゃん!」
なんと!危なかった。危うく死んでしまうところだった。下水管を初めて通ったからわからなかった。そんなことよく知ってるな、アナは。みんな一回は通ったことがあるのだろうか?
「お前ら、あんまりはしゃぐなもうそろそろ着くぞ、警戒しておけ」
「はい」
オスカー兄さんに少し怒られてしまった。ラユラが少しなだめている。
「オスカー、そこを右に曲がって一つ目のマンホールが目的地よ。準備して」
イルスさんが教えてくれた。私たちは右に曲がる。そして2分ほど走ったら真上にマンホールが見えた。マンホールの穴から少し光が差し込んでて。雲の隙間から太陽が差し込んでいるみたいになっている。
オスカー兄さんが止まってかかとを合わせて目をつぶった。港たちに連絡を取っているんだろう。私たちはその間に準備を進める。バックからローブとサイレンサーをつけたSIG SAUER P226を取り出す。弾は対人用ゴム弾だ。一応オリハルコンの弾も持って行こう。ローブの内側にしまう。
「準備できたか?一応確認しておくが、そのローブには”同化”魔術が付いている。景色に同化することができるから警備に見つかる心配はないはずだ。発動条件はローブを体で覆って喋らないことだ。簡単だから大丈夫だろだが、人に触れられると魔術が停止するから注意するように。使っている者同士も触れないように」
オスカーがはしごを登って行く。カンカンカンと音が水道管のなかに響いてやまびこのように奥に反響している。
「よし、お前らきていいぞ」
オスカーがマンホールの穴から顔を出す。よくあんな重いもの一人であげられたな。
「それじゃ、先どうぞ」
オルが譲ってくれた。先に登ろうとするとアナに止められた。なんでだろう?
「なんかやらしいことを考えているんじゃないでしょうね」
「そんなことないって〜」
「じゃあ、先に行きなさい」
「わかったよ」
オルがトボトボとはしごを登って行く。本当にやらしいこと考えてたのかな。でもズボンを履いてるからやらしいことはできなと思うけどな。
「全く、オルは.....」
「でもズボン履いてるから何もできないよ?」
「そうだけどなんかいやじゃん」
「そうかもね、先に行くね。アナ」
「オッケ」
私はアナの前にはしごを登って行く。はしごが少しベタベタしてて気持ち悪い。
マンホールを出ると、もうすでにオスカーが裏口のドアの鍵を開けていた。電子ロックだから少し心配していたが問題なかったな。
「よし、開いたな」全員来たか?」
「アナが...」
「大丈夫です、行きましょう」
ガコンとマンホールが閉まる音がした。風邪を操って閉めたみたいだ。
「全員ローブのフードをかぶれ、魔術を発動しろ」
みんなの姿が見えなくなった。私もフードをかぶる。するとみんなの姿が見えた。ちょっと透けているけどよく見える。普通は見えないらしいが、同じ魔血を使っていると見えるらしい。みんな裏口から中に入って行く。裏口に警備がいないのはどうかと思うな。SIG SAUER P226を構えながらゆっくりと前にすすむ。
しばらく進んだ後、左右に通路が分かれていた。イルスさんが右側の道を指差した。右がに行くらしい。イリスさんの能力”運命予想”を使って一番安全な道を選んでいるらしい。右側に曲がっている途中で左側からマシンガンを持った警備員がやって来た。あれに見つかったら大変だったな。
何回か角を曲がると地下に続く扉が現れた。この建物はかなり入り組んだ作りになっている。見取り図がなかったらここまで来るの難しかっただろう。そして見た目からは想像できないくらい綺麗で新しい。
オスカーが扉の電子ロックの解除にかかる。
「お前、あの獣人見たか?」
「見た見た、あれはやばいよな」
通路の奥から警備員が話す声が聞こえる。まずい。こっちに来る。オスカー兄さんに知らせないと。
しかしオスカー兄さんはものすごく集中していて声に気がつかない。警備員二人が角を曲がってこっちにくる。
ピっと電子ロックが解除された音がした。オスカー兄さんがこちらを見る。そして後ろの二人に気がついた。おせーよ!
「誰だ。そこにいるのは」
二人がこっちらにマシンガンを向けゆっくりと近づいて来る。目に殺意がこもっている。このままだとまずい。SIG SAUER P226を向ける。
「いや〜どう思う?あの吸血鬼」
「かわいくね、後でヤッちゃおっかな〜」
「ダメに決まってるだろ、商品だぞ」
「わかってるって、おうお前ら。何で銃を向けてる?」
扉が開いて中から二人でて来た。その瞬間に私たちは扉の中に入って階段を駆け下りる。助かった。危うくバレるところだった。
オスカーがフードを脱ぐ合図をした。フードを脱ぐ。
「エレナ、地下駐車場までどのくらいだ?」
見取り図を見る。ここから少し離れているな。
「ここからちょっと離れていて、だいた5分くらいだと思うよ」
「わかった、その近くに隠れていよう」
「了解です」
私たちはフードをかぶりなおす。そして駐車場の近くを目指す。
〜〜〜
「了解です」
オスカーから連絡が来た。この会場に到着したみたいだ。
「ゼルトさん、いつぐらいに終わるかわかりますか?」
「今、26番目だからもう少しで終わりだと思うぞ」
「ありがとうございます」
舞台には檻に入れられたマンドレイクがいる。かなり怯えている顔が見える。かわいそうに。頭の上の芽がしおれている。あいつらろくな食事を与えていないな。舞台袖に移され始めた。
「お次の商品はこちらです!」
反対側の舞台袖から檻に入れられた5歳くらいの少女が運ばれて来た。身体中に鞭で打たれたあとがある。こいつら、本当に最悪だな。
「こちらは世にも珍しい、人間と吸血鬼のハーフでございます!!」
会場がどよめいた。もちろん僕らも驚いた。身を乗り出して彼女のことを見る。爪が吸血鬼のように黒くないがよく見たら背中に翼が生えている。爪の色は訓練すれば変えられると聞いたが、あの年齢でその技術を習得できるとは思わない。やはり、本当に人間と吸血鬼のハーフなのだろうか。だがそんな情報一度も聞いたことがない。図書館の文献にもそんな情報書いてなかったぞ!?
「始めは100万ドルから」
「500万ドル!」
「800万ドル!」
「5000万ドル!」
会場のあちらこちらからプレートが上がる。この会場のほとんどの人間が彼女を奪い合っている。
「8000万ドル」
会場がどよめいた。上げているのは上のVIPの席にいるやつだ。顔をのぞかせた。あいつは.....ヴァエル・メレル!。幼女性的虐待の疑いをかけられている人身売買のボスだ。実際にあいつは少女に性的虐待をしている。まずいな。今日の作戦絶対に成功させなければ。
「おい!オーナー。そいつは今すぐこちらに連れてこれるか?」
ヴァメルが叫んだ。もっとまずいじゃないか。これは阻止しないと。
「ゼルトさん、支払いって後払いでしたよね」
「そうだ。受け渡しの時に支払いをするぞ......お前やる気か?」
「はい、あいつに彼女が渡るのはまずいですよ、絶対に」
「わかった」
僕は自分のプレートを準備する。
「はい、可能でございます。ですがその場合、そちらにこの商品をお連れする時に代金をお支払いしていただきますがよろしいですか?」
なに!それじゃあ助けられるのか?
すると、ゼルトさんが僕の腕をつついて、一枚の紙を渡してきた。なんだこれ。
「小切手だ。それを使って彼女を助けろ」
「どこでこれを?」
「さっき並んでる時に一枚盗んでおいた」
「やりますね」
「どうせ、汚い金だ。好き勝手に使ってしまえ」
僕はプレートを掲げて叫ぶ。
「8100万ドル!」
会場がまたどよめいた。あいつに挑むのかって感じだ。
「8200万ドル!」
「8300万ドル!」
心臓の鼓動が早く、汗が頬を垂れる。
「9000万ドル!」
勝負をかけて来たな。相手がいくらまで払えるのかを探らないと。
「9050万ドル!」
どうだ?次にどれくらい金を積むだろうか。
「9100万ドル!」
相手も探って来たな。アニクに一億ドルと言ってしまったから、その上下近くに金額を抑えないと疑われてしまう。ここからちびちびと行かないとな。
「9150万ドル!」
「9200万ドル!」
「9250万ドル!」
「9400万ドル!」
少し金額を上げたな。相手はもうそろそろ限界か?
僕は少し間をあけてから難しそうな雰囲気を出しながら言う。
「9450万ド..ル!」
「9555万ドル!」
これが相手の限界かだろうか。勝負を仕掛けるか?いや、もう少し待とう。
「9560万ドル!」
ヴァエルのガードマンがコソコソと話しかけているのが見えた。行けるか?
「9650万ドル!」
ここだな。
「1億万ドル!」
会場が一気にどよめいた。決まったか?
「1億万ドル、これ以上のお値段をおかけなさるお客様はいらっしゃいますか?」
会場に緊張した空気が漂う。空調機器が付いているはずなのに蒸し暑く感じる。
「いないようなので147番のお客様がお買い上げです!」
カンカン!と裁判官が叩くような木でできたハンマーを叩いた音が響く。
「お客様、そちらにお持ちしましょうか?」
どうするべきだろう。一人減る方がいいだろうか。だが僕らが脱出するリスクが高まってしまうかもしれない。
「港、彼女をこっちまで連れて来てもらおう、オスカーたちの負担を少し減らそう」
「でも脱出の時.....」
「大丈夫だ。”転送”魔術を使って逃げる」
「わかりました」
「もってこい!」
間違えて頭の中で叫んでしまった。
「うるせえよ、喋り方忘れたか?」
「すみません」
大きな声を出すために大きく息を吸う。
「部屋に戻るから部屋に持ってこい!」
こんな雑な話し方をしたのは初めてだ。
「かしこまりました。お部屋にお持ちします」
彼女が檻から出された。首に鉄の鎖のついた首輪が付いている。そして引っ張り出された。
あいつ、後で怒ってやろう。
「お部屋までご案内します。こちらへどうぞ」
後ろにタキシードを着た若者が現れた。忍者みたいなやつだな。
僕らは席を立って前の若者についていく。
「こちらでお待ちください」
さっきとは少しちがう部屋に通された。しばらくその部屋で待っていると扉がノックされた。
「お待たせしました。おいこっちにこい!」
鎖に繋がれた彼女が扉の前に連れて来れられた。なんて顔をしているんだ。
「挨拶するんだよ!」
連れて着たやつが鞭で彼女の背中を打った。血が床に飛ぶ。
「ごめん...なさ..い。挨拶するので...やめて...ください..」
「バケモノが口答えを知るんじゃね....」
僕は隠しナイフを取り出してそいつの首につける。さすがに我慢の限界だった。相手の顔色が一瞬で変わった。
「うちの物に何してるんだ?お前」
「申し訳有りません、しかしこれくらいしないと....」
僕は思いっきりそいつの顔を殴る。が!って声が聞こえて、廊下の奥に吹き飛んだ。歯が1つ中を飛んだ。
「口答えするな、それとこれが代金だ取っておけ」
値段を書いておいた小切手を投げて、扉を閉めた。
「ごめんな、ちょっとその怪我見せてみな」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
その子はその場に土下座した。
「鞭で打たないでください....」
みてるこっちが泣きそうになってしまう。
僕はゆっくりと近寄って彼女の顔を上げさせる。そして床に落ちていた鞭をとる。
「ごめんな.....」
僕は彼女の目の前でその鞭の持ち手を折った。鞭もナイフで切った。
「もう大丈夫だよ、僕は君のことを鞭で打ったりはしない」
まだ顔が恐怖で引きつっている。無理もないな。
僕は腕を伸ばす。彼女は少しビクッとしながら目をつぶった。
僕は彼女をぎゅっと抱きしめる。
背中の傷はもうなかった。さすが吸血鬼の子だ、怪我の治りが早い。だが傷跡はまでは治らないみたいだ。
「もう君を鞭で打ったりする人はいない。僕は君を助けに来たんだ」
彼女の手が震えているのを感じる。
「僕の名前は成瀬港というんだ。君の名前を聞かせてもらっていいかな?」
僕は意識して笑顔を作る。
「私は、ミルル・ルドルフです」
「ルドルフ!?」
急にゼルトさんが驚いた。存在を完全に忘れていた。一体どうしたんだ?
ゼルトさんが近寄ってきて小声で僕に耳打ちする。
「おい、港。ルドルフという名前は吸血鬼の王と同じ名前だ!」
吸血鬼の王!?
僕は少し文献を思い出してみる。あった。現在の吸血鬼の王の名前は..ジェヴァム・ルドルフ。確かに彼女の名前と同じだ。ということは彼女は吸血鬼の王の娘、ということになるのか?
僕は彼女の方に向き直る。心配そうな目でこっちをみてくる。今はそんなことを気にしている場合ではないな。
「よろしく、ミルル。これからは僕が君を育てる。だから安心してね」
軽く、頭を撫でる。するとミルルが泣き出してしまった。安心できたのだろうか?
「僕のことは港と呼んでね」
僕はもう一度ゆっくりと彼女を抱きしめる。胸の中でまだ泣いている。体を抱きしめていて気がついたが痩せているな。帰ったらいっぱい食事を取らせてあげよう。
念のために言っておくが僕はロリコンではありません!




