第七話 オークション会場
「これ実際に買ったらいくらくらいですかね」
「一千万くらいじゃない?」
「この服も絶対高いですよね。生地がシルクですよ」
「それな、いったい全額いくらするんだよ」
僕は今、ゼルトさんと一緒にリムジンに乗ってオークション会場に向かっている。「お金持ち感を出すためだ」とオスカーは言っていたが服はともかくリムジンまでやらなくてもよかったと思う。まあ、くつろがせてせてもらおう。
しばらくすると車が止まった。
「着いたみたいだ。行こう港。そのステッキを忘れるなよ」
「オッケーです。ゼルトさん。行きましょう」
僕の左手には少し古めのステッキがある。中にはプラスチック爆弾と遠隔起爆装置と雷管、隠しナイフが入っている。
車を降りて前を見ると少し古めの赤レンガでできたビルがある。あまり人通りが少ない場所で狭い道だな。よくリムジンが入ってこれたな。運転手さん、これ大変だっただろうな。
僕らは入り口に向かって歩いて行く。入り口の横にサングラスをつけた屈強な白人の警備員が立っている。サングラスは誰でもいかつくできる万能なアイテムな気がする。発明した人はいかつくなりたかったのだろうか。そんなわけないか。
「ボディーチェックをします」
右側の白人が僕の体のボディーチェックを始めた。足のところから頭に向かって念入りに調べている。空港でボディーチェックをされたことがある人はわかるかもしれないが、あの人たちって股間の近くとか念入りに調べない?
「ありがとうございます、どうぞ」
二人が扉を開ける。中は古い映画館みたいな作りだ。左右に上に上がるための階段があり、真ん中に大きな扉がある。オークション会場への扉だろう。
「ご案内します、こちらへどうぞ」
一人の男が僕らの目の前に現れた。60歳くらいだろうか。顔に目のところを隠す用の仮面をつけている。目は笑っているが怖いな。僕らは階段の上に連れて行かれ、一つの部屋に案内された。
「お時間になりましたらアナウンスでお知らせします、それまでこちらでお待ちください。それでは失礼します」
扉がゆっくりと閉まる。僕は能力を使いながら部屋の中を見渡す。部屋の中にはソファとテレビ、机、なんかの仮面、それとワイングラスと氷で冷やされている結構高価なワイン。隠しカメラや盗聴器はないな。
「大丈夫そうです、ゼルトさん。この部屋に問題ありません」
「わかった」
僕らは同時に息を吐く。結構、緊張した。
「バレたかと思ったな」
「そうですね、でも大丈夫そうです。ちょっと休みましょう」
机の上の仮面を見てみる、仮面といってもさっきの人がつけていたやつと同じようなものだ。隣にメモが書いたある。”ご入場の際におつけください”だそうだ。
「ゼルトさん、これ」
「なんだこれ、変なやつだな」
「会場に入る時につけるみたいです」
顔につけて、鏡を見る。はっきりいってダサい。白色で右目の上のところに青と赤の羽が付いている。もうちょっとかっこいいやつが良かった。ゼルトさんは僕よりは似合っているな。
「おい、港、聞こえるか?」
頭にオスカーの声が響いてきた。ちょっとだけビクッとしてしまった。
”意思疎通”魔術。耳の裏に小さく貼ってテープで光を隠している。同じ魔血インクで書いた者同士でテレパシーのように会話ができるというものだ。口に出さずに頭の中で会話するので少し疲れる。
「はい、聞こえています。そちらの状況をお願いします」
「今、下水道の中を移動中だ。だいたい1時間半で裏口真下のマンホールに着くと思う」
「わかりました。ついたら連絡お願いします」
この魔術の発動条件は自分と相手が動かず足のかかとを合わせていることだ。そうしているとテレパシーが発動する。もうちょっとかっこいい発動条件が良かった。
潜入組は移動しなければならないから、僕ら二人は必要な時以外ずっと止まってかかとを合わせておかなければならない。
「港、いつ仕掛けに行くか?」
そうだ。僕らはこれからプラスチック爆弾をブレーカーに仕掛けなきゃいけないんだ。僕はこの建物の見取り図を思い出す。この部屋からっけっこう近い場所だな。今から行っても大丈夫そうだな。
「今からやりましょう。見取り図によるとこの部屋を真下に降りて左に2つ行ったところにブレーカーがあります」
「よし行こう。ちょっと待ってろ」
ゼルトさんが右腕の袖をまくる。そして右手を床につける。
「そこのカーテン外しておいてくれ。ロープがわりにしよう」
「わかりました」
カーテンを外している時にゼルトさんの方を見ると、ゼルトさんの右手が床にどんどんと入って行く、そして肘くらいまで入った時、中心から腕を円を描くように動かして行った。どんどんと床に穴ができて行く。人が一人通れるくらいの穴ができただろうか。ゼルトさんが腕を抜く。彼は能力で床のコンクリートを盗んだのだ。
「よし港、通れそうか?」
「通れます」
「なら急ごう、この穴5分しか持たないからさ」
「了解です」
カーテンを近くの棚にくくりつけて僕らの体重に耐えられるか少し引っ張る。大丈夫そうだ。
「ステッキ忘れるなよ。そんじゃお先に」
ゼルトさんが下に降りて行く。僕も続いて降りて行く。下の部屋は真っ暗だった。近くのスイッチを押してライトをつける。
「どっちだっけ?」
「左側です。人に注意して行きましょう」
「そうだな」
ゼルトさんがさっきと同じように左側の壁に穴を開けて行く。その間に僕は扉が開かないように固定する。
「よし。できた行こう港」
部屋の右の角にはいずって通るくらいの穴ができた。ゼルトさんが先に行く。先にステッキを入れてから僕も隣の部屋に移動する。
「よし、最後だ。もう一回...」
「ゼルトさんちょっと待ってください」
僕は目を大きく開いてブレーカーの部屋に続く壁を見る。高さ2m15cm、横5m。この壁の中心から右に54cmのところにブレーカーがあるはずだ。僕はその場所に手をつける。
「ゼルトさんここに穴、お願いします」
「わかった」
ゼルトさんが手をつける。手のひらの形に穴ができた。その間に僕はステッキからプラスチック爆弾と雷管と遠隔起爆装置を取り出す。そしてプラスチック爆弾を電線にくっつけて起爆装置と雷管をつける。粘土みたいに柔らかいな。気持ちがいい。起爆装置の電源をつけて....よし、これで準備オッケーだ。
「できました。戻りましょう」
僕らは急いできた道を戻る。もともといた部屋に着いてカーテンを急いでつけ直しているとアナウンスが流れてきた。
「皆様、長らくお待たせ致しました。これより入場を開始します。入り口付近でナンバープレートと座席ナンバーをお渡しします。商品をお買い上げいただく時にそのプレートをおあげてください。それではご案内します」
”商品”といったところにイラついた。歯と歯が擦れてギリリっと音がする。
「港、仮面、似合ってるな」
「ゼルトさんの方が似合ってますよ」
僕らは服のシワを直しながら苦笑する。少し緊張が和らいだ気がする。
扉が開いた。さっきの老人が立っている。
「お待たせして申し訳有りません。こちらへどうぞ」
僕らから見て右側に手を差し伸べて進んでいく。僕らは老人について行く。階段の降りている時、下にかなりの人がいた。この中の人間の顔ぶれは様々だ。マフィアのボス。会社の社長、投資家、生物学者、僕の役みたいなボンボンの子、いろいろいる。
僕らもその列に案内されプレートと座席番号を渡された。
147番のプレートを渡された。
奥の大きなドアが開いた、列がゆっくりと中に向かって歩いていく。
「おいお前、見ない顔だな。初めてか?」
前にいた小デブが訪ねてきた。こいつは誰だろう。少し思い出してみる。黒人で、仮面は左目のところが黄色で右目のところが黒色で眉毛のところに白い羽が2つついている.........インド北部のマフィアのボスだな。白猫に見せてもらった紙に写真に写っていた。名前はアニク・ルダル。
「お初にお目にかかります。アニク・ルダル様。私の名前は大霧大河と申します。僕の父は日本でヤクザをしています。宜しくお願いします」
アニクの眉が少し動いた。何か気に障ったか?
「ヤクザとはなんだ?」
そんなことか....びっくりさせやがって。
「ヤクザとは日本のマフィアだとお思いください」
あぁ。最悪だ。なんでこんな小デブに丁寧語で話さないといけないんだよ!
「そうか、ガキのくせにしっかりしているな。ところでなんでこんなところに来た」
「ありがとうございます。ここに来た理由は獣人を買うためです。やっぱりガードマンは獣人の方が良さそうですし」
「そうか、お前もか。だがここにいるほとんどのやつがお前と同じような目的で来ているからな、買うのは難しいぞ。金はどれくらい持って来た?」
「一億ドルほど。組の金の大半持って来ました」
「そうか、ギリギリのラインだな。まあ頑張れや」
「ありがとうございます。それでは失礼します」
「おう」
僕らはアニクの横を通り過ぎて座席に向かう。アニクのガードマンに少し睨まれた。中に入るとミュージックホールのような空間が広がっていた。舞台のところが光で照らされていて座席のところは薄暗い暗闇に包まれている。
僕らは席に着く。右奥のところだ。席についてかかとをくっつける。ゼルトさんも同じように座った、すると頭の中にゼルトさんの声が聞こえてきた。
「さっきのやつは誰だ?」
「さっきのはインド北部のマフィアのボス、アニク・ルダルです」
「なるほど、よくあそこまで自分を下げて話せたな」
「結構頑張りましたよ」
「それとお前ほんとにあんな金持ってるのか?」
「持ってるわけないじゃないですか。嘘ですよ」
舞台に一人、上がってきた。
「大変長らくお待たせしました、これよりオークションを始めます。今回の商品は30品になります。それではお楽しみください」
しゃべっていたやつが舞台の袖に消えたと同時に、舞台の袖からガラガラガラと台車の音が聞こえてくる。
「まず最初の商品は人狼の親子です!」
オークションが始まった。
会場にはなんとも言えない空気が漂う。緊張、欲望、いやそれらが混ざったような冷たく刺すような空気が僕の体を撫でるように通ってゆく。鳥肌が立ってきた。ぶっちゃけ言っちゃおう、早く帰りたい!!




