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ある日、僕は神様の子供になりました。  作者: tomo
吸血鬼の姫
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第六話 粉コーヒーって便利ですね

「それで、誰が行くの?」


 今、僕らはリビングでテーブルを囲んで明日の潜入作戦について話し合っている。机の上にオークション会場の建物の見取り図がある。その地図によれば地下3階にある牢屋に吸血鬼、獣人たちが捕まっているみたいだ。


「もう、くじでよくない?」


 今、話している彼女は、イルス・テルス、北欧神話の運命の神、ノルンの子。金髪の青色の目をした女の子だ。僕より一つ年上と言っていたがそうは思えないほど幼い容姿の先輩だ。能力は”運命予想”。その場での自分の運命を予想できる。


「それずるいだろ、お前絶対にあたりくじ引けるじゃん」


 今、話している彼は、ゼルト・ルシュ、ギリシャ神話の盗みの神、ヘルメスの子。身長がとても高い180cmは軽く超えていると思う。能力は”盗みの力”。触れているの自分の体の面積分なんでも盗める。


「それじゃ、じゃんけんにしようよ」

「くじと、何にも変わってねーだろうが!」


 なんの話をしているかというと、誰がオークション会場に参加して罠をしかかるか、そして誰が吸血鬼、獣人を保護するかだ。話し合いの結果、2:6で人員を分けることに決まったんだが、誰がオークションに参加すかがなかなか決まらない。バレた時のデメリットが大きすぎるからだろう。誰も死にたいとは思わないからな。

 よしさっさと終わらせてしまおう。


「僕、そのオークション行ってもいいですか?」


 みんなが一斉にこっちを向いた。オスカー以外のみんなはこっちを向いた。ほとんどの人の顔は驚きと一人分なくなったという嬉しさが入り混じった感じだ。


「待ってよ、港!なんでわざわざ危険なところに行くの!?そんな必要ないんだよ!?」


 エレナが心配してくれた。僕としてはとてもうれしい。顔の筋肉が緩まないように意識しながら話し続ける。


「いや、僕が行くのは結構重要でさ。白猫に少し教えてもらってて、オークションに来る奴らほとんど知り合いらしいんだよ。そんな中、全く顔も知らない奴が突然来たらさすがに警戒されると思うんだ。こいつ何者だってね」

「それの何が港のいく理由になるのよ!」

「僕は今までオークションに来た奴らの名前を全て知っているからだよ。顔は知らないけどその辺は他の情報でなんとかなるしね。だからそんなに心配しなくても大丈夫だよ」


 見た所エレナは納得してくれてないな。内心はとてもうれしいのだけれど、あまり話し合っている時間もないしな。どうするべきか。


「オスカー、俺もオークションに行ってもいいか?」


 驚いた。まさかゼルトさんが来るとは思わなかった。


「よし、お前らこれが作戦だ。オークションに行くのは港とゼルト。残りが潜入する。港のキャラはお坊ちゃんでゼルトのキャラはその護衛な。潜入組の作戦の開始はオークション終了後、彼らが地下牢から出された時を狙う。俺らが彼らを保護した合図があったら港たちはこの爆弾を爆発させろ」


 オスカーがレンガみたいな塊を机の上に置いた。目で見たら”プラスチック爆弾”と頭に情報が入って来た。なんてものを持っているんだ。ちょっと怖いな。


「これをオークション会場のブレーカーのところに設置しておけ。ただ単にブレーカーを壊すだけの量を渡すから心配するな。そして我々潜入組はその混乱に乗じて脱出。同じく港たちもな。潜入組の装備はSIG SAUER P226のゴム弾、オリハルコン製の弾、暗視スコープと今日配って置いたローブのみ。港たちの装備はプラスチック爆弾と遠隔起爆装置と隠しナイフ。質問あるやついるか?」


 誰もいない、みんなが納得...エレナがしてなさそうだな。


「ないならよし。港とゼルトは明日の午後5時に出発、残りの奴は午後5時半にここを出発する、解散!寝ろ寝ろ!」


 オスカーが立ち上がって僕らのことを押して急かす。僕らは二階の各々の部屋に行く。


 今回の任務、僕の両親が犯した罪を償う第一歩だ。そんな気持ちで僕はベットに入る。



〜〜〜



「寝れない」というとオルはベットをでた。時計を見ると午前3時38分。一応三時間ほどベットの中で目はつぶっていた。少しは疲れは取れただろうか。


 俺がまだ少年兵だった時は明日が作戦の日でも全く気にせずに寝れていたものだが、今は寝れない。人を殺すことに全く疑問も持たずにここまで生きてきたから、人を殺してはいけない世界を知らなかった。というか、僕は人間ではない気がする。人を殺すことに疑問を持たないのはいけないことな気がする。あぁ、生きるって難しい。


 階段を降りてキッチンに向かう。棚を開けて何かないか見てみたら、粉コーヒーがあった。水をポットに入れてガスコンロにかける。コーヒーフィルターを準備して、椅子に腰をかける。


「オル、何してるの?」


 リビングの入り口にアナがいる。


「コーヒー作ってるだけだよ、アナも飲む?」

「そんなの飲んだら眠れなくならない?」

「今日はもう寝ないから大丈夫だよ」


 水が沸騰したみたいだ、ピーと耳の中に音が響いた。僕は立ち上がって粉コーヒーにお湯を注ぐ。お湯の色が濃い茶色に変わっていった。


「ねえ、オルなんで寝れないの?」


 少し驚いた、一体何の話をしているんだ?いや、俺のことに決まっているか。もしもそうなら何でアナが知っているんだ?


「なぜそのこと知っている?」

「昨日のジープの中でオスカーさんに少し聞いたの」


 オスカー、やっぱり知っていたのか。まぁ知っていても不思議ではないな、あれでも生徒会長だし。


「そっか、でもアナが気にすることないよ。これは俺の問題だし」


 そう、これは俺の問題だ。ズカズカと土足で踏み込むな。


「でも、オル顔色が最近よくないし」

「黙れ、他人がズカズカと踏み込んでくるな」


 ものすごく低くて相手を威嚇するような声が出た。アナに対してこんな声が出てくるとは思わなかった。

 

「あっつ」


 目の前に気を使うの忘れてた。コーヒーがコップから溢れて俺の足に垂れてきた。入れすぎた。近くのタオルで溢れたコーヒーをふく。白いタオルが薄茶色に染まって行く。戦場で包帯が血に染まって行くみたいだ。


「オル..」


 アナが俺の後ろに立っている。なんて顔してるんだよ。


「ごめんなさい、でも....」


 でも、じゃねーよ。何もわかってないな。


「きゃ!」


 俺はアナの両手を左手で握って上にあげて後ろの壁に押し付ける。そして右手で腰のハンドガンを頭に押し付ける。


「何もわかってないな、俺は別に殺すことに抵抗はない。俺のいた地域じゃムカつく相手がいれば殺すんだよ。警察に助けを求めても無駄だよ。あいつらはただの飾りでしかない。人を助けるはずの警察が一般市民を殺してんだから。街には腐敗臭と火薬の匂いが漂い、毎日悲鳴と銃声が響く、そんな地域だ。俺もムカつく奴を何人も殺してきた」


 俺はトリガーをゆっくりとひく。


「君を殺すことなど造作もない、野生の動物のように」

「それじゃあ、殺すことに抵抗ないのに何で毎晩、過去の記憶にうなされてるの?」


 手が震えだした。ハンドガンがカチャカチャと音を立てる。どうして手が震えている、俺は何かに怯えているのか?


「うっ!」


 アナが俺の腹にひざ蹴りを入れて来た。コーヒーを飲んでなくてよかった。飲んでたら間違いなくゲロったな。

 俺は後ろに尻餅をついた、アナが前から倒れこんでくる。片足で立ったからバランスを崩したんだろう。体を後ろに進めたはずだったが、なぜか前に進んだ。アナにぶつかる。僕は目をつぶる。


「ちょっと、オル?叫んであげようか?」


 目を下に落とすと、目の前にアナの顔があった。そして俺は両手でアナのことを抱きしめている。何が起きた!?

 俺は急いで両手をはなす。後ろに少し下がった時にお尻に何か当たった。さっきまで持ってたハンドガンがそこにあった何でだ?


「ねぇ、オル。私は君には人を殺すことに抵抗があると思うよ。現に今、私のことを殺せなかったじゃない。ハンドガンを捨て私を助けてくれた。だからそんなに自分を否定しないでよ」

「違う!俺はお前を殺せる!絶対に!」

「なら殺してみろ!お前のその手で!」


 アナが落ちてたハンドガンを俺に渡して来た。そして俺が持った瞬間、銃口を自分の頭に突きつけた。


 今まで、何人も死ぬ瞬間を見てきた。死んだ奴の顔は今まで忘れたことがない。それが殺した相手に対する礼だ、とかいうかっこいいものではない。ただただ、忘れられないだけだ。それが俺が毎晩見る悪夢だ。死ぬ直前の顔、不意打ちで殺した奴以外は頭に銃を突きつけて殺した。それが一番簡単だったから。そのほとんど奴が命乞いをしているような顔だった。だけど今、目の前にあるアナの顔はなぜか自身に満ち溢れていた。こんな奴、初めてだ。


「一つ教えて欲しい」

「何?」

「平和って何?」


 少し時間が経ってからアナが口を開いた。


「平和はただの人間の妄想よ。この世の中にそんなところはどこにもないわ。私たちの学校では、保護される代わりに私たちは戦わなければならない。あなたの地域では紛争。大人になって社会に出た時、力のない人は捨てられ、力のある人は力のない奴らの下克上に怯える毎日。世の中こんな感じよ」


 なるほど、平和を少し夢見てこの学校に来たんだが....ないのか、少し残念だな。


「ねぇ、オル。平和な世界を作ってみない?」


 銃を突きつけられながらそんなことを言える人はアナぐらいな気がする。


「どうやって?できると思うの?」

「私にもわからない。でもやってみない?」

「なんでそんなできないことに挑戦するんだよ」

「楽しいからに決まってるじゃん、楽しいことやりながら生きるのが一番だよ」


 なるほど。アナの原動力は楽しいことなのか。俺には考えられないな。でも楽しいっていう感覚は今わかった。無意識に顔の頬の筋肉が上に上がることか。


「いいね、やってやるよ。君のその無謀な夢」


 僕はハンドガンをアナの顔から下げる。そして安全装置をかける。そして腰に戻す。

 思い買いして見ると俺の人生、誰かのために使ったことがなかったな。これが最初か。最初の人がアナなのは悪い気はしない。


「コーヒー飲む?冷めてるだろうけど」

「いいね、私はアイスコーヒーが好きだし」


 机の上のコーヒーのカップを掴む。少しぬるいかもな。僕はそれをアナに渡す。


「ありがとう」

「ちょっとぬるいよ。アイスコーヒーにしたいなら氷入れたほうがいいと思う」


 ポットに水を入れてガスコンロに火をつける。僕はそのガスの火を手に呼び寄せる。青く不気味な火が手のひらにともる。ガスコンロの火がもったいないな。ガスコンロの火を決して、手のひらの火でポットの水を温める。ガラガラと氷の当たる音が聞こえる。アナが氷をあさっているみたいだ。


 窓から日光が差してきた。リビングが白い色に近い明るい色に染まっていく。こんな日常を平和と言うのだろうか。難しい夢になりそうだな。でもこんなにも胸が踊る気分は初めてだ。


 ポットの注ぎ口から湯気が出てきた。僕は手のひらの火を消して新しく粉コーヒーをフィルターに入れる。


「オル、それ水に直接混ぜて作るタイプだよ」


 そんなコーヒーがあるのか、初めて知った。今まで俺は間違えて作っていたのか。どうりで使い終わったフィルターに残りカスが残っていなかったわけか。

 カップに粉コーヒーを入れてお湯を注いで少しかき混ぜる。あっという間にできた。便利なものだな。

 一口飲んで見る。味もまあまあいける。悪くはない。


 俺はソファーに座る。眠気が一気に襲ってきた。カップを前のテーブルに置く。

 少し目を閉じたらあっという間に眠った。もう寝るのは怖くないな。




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