第一話 僕の最後の平和な日常
目が覚めた。
懐かしい夢を見てた。五年前、僕が初めて吸血鬼に会った時のことだ。
あの後、ニュースや新聞などを見て見たが。あの日のことは、地震が起こったことによる、石油タンクの爆発事故として世間に知られていた。何度か僕らも新聞記者やテレビ局にインタビューされた時に話したが全く相手にされなかった。まぁ、五年も経つのだからもうあのことを掘り返そうとする人はいなくなっていた。僕ももうほとんど覚えていない。
「寒い」
冬の朝はとても寒い。布団の中の暖かい空気を逃したくない。
布団を着ることができたらなーと考えていると。
ドタドタドタ!
廊下を歩く音が聞こえる。多分、ナズ兄さんだろう。
「起きろ港!稽古始めるぞ..ってまだ寝てんのか」
「ナズ兄さん起きてるよ..おはよう」
「なら早くしろ五分後に稽古始まるぞ」
「わかりました今行きます」
布団を蹴飛ばした。一気に冷たい空気が入ってくる。
そして足の先まで震える僕はこの感覚が嫌いではない。Mなのかなぁと思ったりする。
急いで道着を着る。そして道場に急いで走っていく。
〜〜
「おはよう、港。じいさんには勝てたかい?」
「ダメだったよ。ばあちゃん」
「全く65のジジイが15の子供相手にいつもいつも勝って..大人げない」
ばあちゃんが呟いた。
「うるさいぞ、ババア、いくつになっても勝利は嬉しいもんなんだよ」
じいさんが僕の頭をわしゃわしゃしながら後ろから出て来た。
「今日の試合は悪くなかったぞ港。だがまだ体の芯がブレる時がある。注意しなさい。」
「はい、お師匠」
「よし、朝飯だ。お前ら準備しろ」
じいさんだ声をかけた。
「ジジイ、今日お前の飯なしだ!」
「悪かった、悪かったよ。ばあさん。朝飯だけは...」
「食べたきゃあんたも準備手伝いな!」
こんなばあさんとじいさんの日常は僕は大好きだ。多分他の皆も大好きだと思う。
どん!
「でも師匠、港は今じゃこの道場で1位2位を争うほどの腕前なんですよ〜」
僕の肩から前に腕を組んで背中に胸を当ててきたこの人は”横山なな”なず兄さんのお嫁さんです。
最近、胸がないことに悩んでるらしい。
「おい、ななも準備しろよ」
「何よ、ナズちゃん、いつも一人でパパパッって終わらせちゃうくせに〜。ねぇ港君」
「そうだね、ナナさん。でもありがとうナズ兄さん」
ナズ兄さんが少し笑った。
「こっちに来い港朝飯だぞ。ほらななもこっちに来い」
食卓にみんな集まった。
「いただきます」
じいさんが言った後にみんなで揃って言う。
『いただきます』
テレビからニュースが聞こえてきた。
「一週間前に13地区の動物園から逃げ出した猿やカワウソ、シマウマ、ライオンなどの捜索のめどは立っていないそうです。動物心理学専門家の熊手ようしさんの話によりますと”柵の強度から言って動物が自力で逃げ出すのは不可能でしょうどうやって逃げ出したかなどを考慮するとやはり人間の仕業かと思われる”そうです。動物園側は営業妨害で裁判所に訴えを出す方針だそうです」
「次のニュースです」
声が変わった。おそらく新しく入ってきた新人のアナウンサーさんだ。
「おとといの夜、26地区の繁華街で変死体がまた見つかりましたこれで被害者は13人目です。
警察は犯行の手口などからかなり同一犯と推測し犯人を..」
じいさんがテレビを消した。
「最近物騒ね〜。ここうちの近くよ」
ナナ姉さんが心配そうに呟く。
「大丈夫だ、人間相手で負けるような鍛え方はしとらん」
じいさんが自慢げに言う。気分が良さそうだ。朝食が久しぶりに魚だからだろう。
こんな感じの生活が僕の日常、朝毎日早く起きて稽古をしなくていけないから辛いと思う人もいるかもしれないけど、両親がいなくていつも姉ちゃんと一緒に朝ごはんを食べていた僕にとってはとても幸せな時間だ。
「港ちょっと時間大丈夫かい?」
「ふぁんで(なんで)?」
魚を食べながら僕はばあさんに尋ねた。
「学校よ、今7:45よ。8時には出ないといけないのに」
「今日、卒業式だったよね。後で行くからね〜」
「なな、着物を着ろよ。前の授業参観の日のあの派手な服はダメだからな。」
「えぇ〜〜〜〜、ナズちゃんひどいよ」
僕に飛び火がかかる気がしてすぐに食べ終えた。
「ごちそうさま」
「行ってきます。じいちゃん、ばあちゃん」
「おう」
「行ってらっしゃい」
後ろでナズ兄ちゃんとナナさんが言い争い?多分イチャイチャしているのだろう。
僕はリビングからそそくさと出て自分の部屋に戻って制服に着替えて準備を始めた。
僕を拾って育ててくれたこの家族には感謝しかないそれと後二人。
チーン
僕は鈴を鳴らした。そして毎日感謝をする。
一人は僕の姉さんもう一人はなず兄さんのお姉さんだ。
なず兄さんのお姉さんとは一度も話したこともないし写真でしか顔を見たことがないけどあの時勇敢にも吸血鬼に挑んで行ったその背中からは優しさを感じた。その時のことはとても鮮明に覚えている。だから僕は彼女のような人になあろうと決めた。言葉ではなく背中で語ることのできる人に。
ゴーン ゴーン
一時間おきに鳴る古時計が鳴った。今八時なんだろう。
いつもこと音が僕の泣きそうになる気持ちを抑えてくれる。僕はなず兄さんの教えを守っている。以前子供の頃、聞いてみたが僕はなず兄さんの言う"男”と言うのがわからないだけど泣かずにいれば僕は”男”なることができると思う。僕はカバンを持って玄関に行く。そして家を出る。
「行ってきます」
僕は大きな声で言う。
「行ってらっしゃい。きおつけてね」
きずいてくれたのばあさんだろう。
ナズ兄さんたちはまだ言い争い...いやイチャイチャしている。
羨ましいなぁ
がららら
僕は戸を開ける。腕時計を見ると8:05。
少し急いだ方がいいな。
僕は走って坂道を下る。
通学途中、信号待ちで電柱にふと目をやるとそこには5枚ほどの迷子のペットの写真がついていた。
どれもつい最近らしい。しかしかなり多い。犬、猫、インコ、ハムスター、ワニ、亀、かなりの種類がある。
「しかし、ワニなんて飼えるのか?」
などと考えていると信号が青だったのを見損なったらしい。
信号が点滅して赤に変わった。もう一度待ち直しだ。
時計を見ると8:20かなりまずい。
遅刻だ。最終日に遅刻なんて...みっともない。
僕は急いで学校に向かう。




