第二話 筋肉痛には電気ショックを
「あぁぁぁ!」
オルは目を覚ました。時計を見ると午前4時だった。
ベットから出てシャワーを浴びに行く。汗でびちゃびちゃだからだ。
この学校に来てからの朝はいつもこうだ。今日は寝れただけマシだがもう寝るのが怖い。銃、火薬の匂い、血、お金、死体の腐敗臭、それらが生まれて初めて知ったこの世の全てだった。生きるためには他人を裏切り、誰も信用せず、ただただ貪欲に力をつけ、自分の身を守る。だがその世の中の仕組みが今、僕の中で、ガラガラと音を立てて崩れている真っ最中だ。
この学校の全てに、”オル・ロン”という人間を全否定されているようだ。他人と助け合い、信じあい、笑って、何かの優越感に浸る。この前の模擬戦の時の優越感は人を殺した時の優越感とは違った。達成感というのだろうか、とても気分が良かった。
シャワーを浴びようと蛇口をひねる。すると水が出て、さらにはお湯に変えることができる。平和とはこういうものなのだろうか。平和というものが全く理解できない。平和とはなんだ?
朝食をとり部屋に戻って制服に着替える。今日の6時に神託の前に行かなきゃいけない。時計を見ると5時前だ。あと一時間もある。
オルは再び椅子に座り目を閉じる。やっぱり少し眠い。
〜〜
どうするべきか。本当に逃げたい。十分前になんて来るんじゃなかった。生徒会長と二人っきりでいるこの状況はやばい。隠してたテストが見つかった時と同じくらいやばい。なぜこんなことになってしまったんだ。
あのスパルタな感じ僕は大嫌いなんだが。
「おはよう、お前は成瀬港だな」
うお!喋りかけてきた。僕は恐る恐るオスカー・ライの方を見る。
「はいそうです..」
「この前の模擬戦は見事だった。あのボスを倒せるとは思っていなかった」
この人に見られてたのか。
「それはどうも、ありがとうございます」
なんか恥ずかしいな。
「だがお前、なぜ吸血鬼の子を助けようとしている」
一瞬、僕は唖然とした。オスカー・ライが何を言っているのかが分からなかった。この学校で吸血鬼の子と呼ばれているのはエレナだ、エレナのことをそう呼ぶってことは、こいつはエレナをよく思っていない奴の一人だ。こいつなんで生徒会長やっているんだ。生徒会長は生徒の信頼がないとできないはずなのに......こいつ、エレナを利用したのか?。
「お前、生徒会長だよな。どうやってなった?」
声が低い、なんでだろう。そしてとてもイライラする。胸のところがムカムカして息がしづらい。
「その口使いはなんだ。何様のつもりだ?」
「黙れ、僕の質問に答えろ」
「めんどくさいな、俺を生徒会長にしたら吸血鬼の子をいじめ放題だぞって言って信頼を集めたからだが。何か問題でも?」
僕はその言葉を聞いた時、僕は腰の日本刀に手をかけた。体を大きくひねり、左手で鞘を抑え、右手で刀を持ち、抜刀の構えをとる。目を大きく開いて、左肩にかけてるウィンチェスター M1887の情報を取り込む。弾は入っていない。
少し、オスカーが後ろに下がった。そして左肩のウィンチェスター M1887に右手を伸ばす。
大丈夫だ。僕の方が早く攻撃できる。しかし、僕が刀を抜いた瞬間、オスカーの肩のあたりが白く光出した、そして僕に向かってその光が鞭のように迫って来た。情報を取り込むと”雷”だとわかった。死ぬほどの電圧ではない。おそらく感電させて意識を奪うつもりだろう。
僕はそのまま、抜刀した刀でオスカーの雷を受け止める。一瞬、まばゆい光が視界を覆ったが、すぐに僕は左手でオスカーの腹めがけて力一杯殴りかかる。僕は気絶してはいない。身体中に電気が走ったが、日本刀で雷を受け止めて分散させた分、僕の体に流れて来る電気が減ったおかげでだ。
僕は左手でオスカーの腹を力一杯殴った。しかし思うように殴れなかった。体が少し痺れているからだろうか。
「いい線いってたよ、お前」
オスカーの全身が白い光に包まれる。その瞬間、僕の体にさっきとは比にならない電気が流れ込んで来た。身体中の筋肉がビクビクして痙攣を起こしている。僕は気絶してその場に倒れこんだ。
〜〜〜
目を覚ましてその場を見渡すと、そこには見知らぬ女性がいた。白衣を着ている。女医さんってところだろうか。多分僕は保健室に運ばれたんだろう。
僕はゆっくりと体を起こす。身体中の筋肉が軽くて楽に体を起こせた。オスカーの電気で体の筋肉がほぐれたのだろうか。
「お、起きたか。港とかいったか?オスカーを殴れたのはあんたが初めてよ」
「すみません、どなたですか?」
「私の名前はミネルヴァ。ローマ神話の医学の神よ」
「ミネルヴァさん、オスカーはどうなりましたか?」
思い出してイライラしてきた。
「そう怒るな、あれでも根はいいやつなんだ。オスカーはあの後、神託の前にお前と一緒で倒れてたみたいだぞ。お前に電気を流した時にお前の手から感電したらしい。お前よりは電気に慣れてて、ここにきたらすぐに起きたがな」
「そうでしたか」
「ところでなんでオスカーと戦ったんだ?」
「それは、ちょっと色々ありまして、言いづらいです」
「まあいいや、それよりこれ飲め」
ミネルヴァさんがコップに入った紫色の液体を渡してきた。なんだこれ。見た目最悪だな。
「なんですか?これ」
「海馬の鳞と薬草とピクシーの鱗粉を混ぜて水で薄めたものだ」
「それって大丈夫なんですか?飲んでも」
「大丈夫に決まってるじゃない!いいから飲む!」
ミネルヴァさんが僕の口にその液体を口に突っ込んできた。
僕の喉をその変な液体が通っていく。少しドロドロしていて気持ちが悪い。味はそんなに悪くなかった、レモネードみたいな味だ。見た目をなんとかして欲しかった。
「よし、飲んだね」
「はい、飲みました。これなんですか?」
「疲労回復薬ってところね、それともう学校が終わってるから。あとこれ、ホルス先生から」
僕はミネルヴァさんからメモ用紙を受け取る。4時に神託前に集合、と書かれている。なんでだろう。
「今、何時ですか?」
「今ね、3時半、だからちょっと急いだ方がいいかも」
「わかりました」
僕はポケットの中の神託前に行くための紙を探す。一枚もない。しまった切らしてたみたいだ。
「すみません、ミネルヴァさん神託前に行くための紙ありますか?」
「ない!私はそれ嫌いだから使ってない。ここからだったら神託前まで歩いて大体20分くらいだから歩いて行きなさい」
「わかりました」
僕はトボトボと保健室を後にした。
歩いていて気がついたが、初めてこの島の道を歩いたかもしれない。
この島の大きさは日本の屋久島ぐらいの大きさだと聞いた。結構な大きさがあるがほとんどが森に覆われているのでそんなに大きいとは感じないが、毎晩空を見上げると星座が毎日変わっているので場所が移動しているのはとても感じる。
木々のさわさわという音が聞こえる。風が気持ちいい。海が近くにあるから風の匂いが少し塩っぽい。なんか清々しい気分になる。
神託が見えてきた。神託の前で誰かが言い争ってる。まじかオスカーがいる。言い争ってる人は誰だろう。女の子だ。
僕はゆっくりと神託の前に歩いて行く。できれば会いたくない。
〜〜〜
「本当にごめんなさい、ほらオスカーあんたもあやまる!」
「待てよ、ラユラ。なんで俺が...」
「あんたが全面的に悪いんだから謝りなさい!」
「ご...ごめんなさい」
オスカーがぎこちなく頭をさげる。お母さんと息子みたいなやりとりをしているな。
なんで僕は謝れているんだ?いやその理由はわかるな。でも何がどうなってこうなった?
「本当にごめんなさい、港君。エレナちゃんはこいつが助けた子でね、妹みたいに可愛がってたから港君がエレナちゃんを助けようとしてるんもんだからヤキモチ焼いちゃって、あんなことをしたのよ。本当にごめんなさい」
そういうことだったのか、優しい人なのかな。
「そんな、僕も悪かったんです。急に攻撃しちゃったんで」
「そうだよ、こいつが急に攻撃してくるから...」
「あんたが煽ったんでしょうが!きのうご飯一緒に食べてた時に「エレナの彼氏の実力を確かめる!」とか言ってたから心配してたんだけど、あんたの確かめ方は本当にもう...」
「ちょっと待ってください、僕はまだエレナの彼氏ではなくてですね」
「そうだったのか!でもちょっと待て。おい港、”まだ”ってどういう意味だ?」
「いや、それは、その、なんか勢いで言っちゃっただけで、その、深い意味はないです...」
なんであんなこと言ったんだろう。自分でもわからない。
「そうだったのか、港あんなことして悪かったな」
オスカーが肩を組んできた。なんか僕のイメージと全然違くて少し戸惑うな。
「でもな、エレナに手を出す場合は俺を倒してからだからな。ちなみに俺のことはオスカーでいいからな」
少し、低い声で威嚇された。この人本当になんなんだ!?
「あ、エレナちゃんたちがきたみたいよ」
僕は首をおもいっきり後ろに回した。ちょっと首筋を痛めたかもしれない。
さっき通ってきた道から、エレナとオルとアナこっちに歩いてきている。エレナがこっちに気がついた。手を振ってくれてる。なんか変に意識してしまうな。手を小さく振り返した。
「照れてるな、港。今日の晩飯一緒に食べよう。エレナについて教えてやる」
「ありがとうございます」
なんでありがとうございますって言ったんだろう。なんか今日の僕変だな。
「さあ、みんなデリュピュネ様が中で待ってるから行くわよ」
僕らは神託の中に入って行く。なんでか体温がとても熱い。




