第十話 模擬戦
教室に着くと少し教室が騒がしかった。中に入ってみると黒板の前の方で男子生徒たちがうるさかった。手には”FN P90”と”SIG SAUER P226”を持ってはしゃいでいる。
「これやばくね」
「それな、これが一人一つずつもらえるっていくらかかってるんだろう」
昨日の落ち込んでいた姿は想像できない。人間はこんなにも早く立ち直ることができるらしい。教室を見渡すとある程度グループができていた。僕には少し難しいかもしれない。少し人見知りなもので。
僕はリュックを後ろの自分のロッカーに入れた。結構スペースがある。全部入った。
「おはよう、港」
「おはよう、エレナ」
エレナは問題なく学校に来れたみたいだ、少し安心した。
その後、しばらくエレナと話していると、教室のドアが開いてエド先生が入って来た。服装が軍服みたいにいかつい服を着ている。手には出席簿を持っていて真剣そうな顔つきをしている。
「お前ら、今すぐ訓練着に着替えて、”FN P90”と”SIG SAUER P226”を持って訓練所に来い。それと女子は隣のクラスに移ってから着替えろよ。男どもはここのクラスで着替えろ。のぞいたやつはユニコーンとペガサスの馬糞の始末な。準備が終わったら今から配る紙を破れ。そうしたら訓練所まですぐに来れる」
前の席から一枚の名刺ほどのサイズの紙が配られて着た。紙には”訓練所前転送石”と古代語で書かれている。
「それじゃ、後でね」とエレナが影の中に消えていった。周りの生徒たちが少し驚いていたが、もう能力を使いならした生徒もいるから今更ワイワイと騒ぐ奴はいなかった。
もうすでに準備が終わった生徒がいたらしく所々が眩しい。目が開けられないっていうわけでもないが。以前、僕が破った時はものすごい光に囲まれたから、実際に破ってる人を見たら結構眩しいものかと思ったが、そうでもなかった。僕も準備が終わったので紙を破って訓練所まで飛んだ。
〜〜
訓練所に着くともうすでに結構生徒が来ていた。結構ガヤガヤしていた。銃や、自分の神様からもらった武器について話して盛り上がっている。だが意外なことにしっかりと列で並んでいる。前に夜、ここに来た時はわからなかったが、結構広い場所みたいだ。
「おお、港。お前、結構似合ってるじゃないか」
エド先生が話しかけて来た。手にプリントをいくつか持っている。
「エド先生も似合ってますよ。それと今日やることってなんですか?」
「今日はお前たちの...戦闘力と言えばいいんだろうか。今から4人組で中学から進級して来た生徒たちと模擬戦をしてもらってどのくらい戦闘ができるかを調べる授業と言えばいいだろうか?わかるか?」
「なんとなくは、つまり中学から戦闘している奴らと戦えってことですよね」
「そういうこと」
戦ったことがあるやつなんて僕らの中にはほとんどいないはずなのに、なぜこんなことするのだろう。普通に訓練した方がよっぽど為になるだろ。
「なんでそんなことやるんですか?勝てるわけないじゃないですか」
「それは聞かれるとこまる。訓練のほとんどはホルス先生が決めているが、生徒会の方からも少し関わっていてな、多分、これは生徒会のやつらが決めたことだろう。自分たちの力を示したいんだろ。」
それは僕も賛成できる。
「4人組ってどうなってるんですか?」
エド先生が一枚の紙を渡してくれた。
「そこに書いてあるのがお前の4人組のグループだ」
それと、とエド先生が小声で言ってきた。
「お前のグループは白猫の校長によって決められていてな、おそらく新入生の中では結構上のレベルだと思うぞ」
にやけながらエド先生が列の前の方に消えて言った。
僕はもらった紙を見てみた。
エレナ・バン・ヘル
オル・ロン
アル・キルア
成瀬・港
この4人らしい。
名前からして日本人は一人もいないみたいだ。やっぱり日本人はめずらいいみたいだ。
「これから、模擬戦の説明を始める!」
列の前の方で誰かが叫んでいる。昨日のラグビー選手みたいなやつに声が似ている。
「前からゴム弾が入ったマガジンと場所と銃の使い方が書いてある紙を一緒に前から一人一つずつ配る、”FN P90”は50発”SIG SAUER P226”は15発入っている、それらを確認しておくこと。各々の武器は使ってもいいが致命傷になる怪我を負わせるのは禁止とする。勝利条件は相手全員が戦闘不能にするか、相手のフラッグを奪った場合となる。対戦相手はこちらで決めておいた。これから一時間後に裏手の森で模擬戦を始める。解散!」
前で話していた生徒はは昨日あったラグビー選手みたいなやつだった。昨日の言葉遣いと全然違ったせいで全くわからなかった。みたところ少し気分が良さそうだ。もしもあいつが生徒会の一員なら、模擬戦はきおつけた方がいいかもしれない。
僕は4人組を探した、どう探せばいいのだろう。少し人見知りの僕には結構きつい状況だ。顔は全て覚えているが、名前と顔が一致しない。先にエレナを探さないと、ぼっちになってしまう。急がないとやばいな。
「港〜こっちだよー」
どこからかエレナの声がした。周りを見渡してみると木下にエレナと2人ほどいる。おそらく残りの人たちだろう。どうやって集めたのだろうか。よくみてみると、みんなとても仲が良さそうだ。馴染めるか心配だ。確か初めの印象が大切だと聞いたことがある。
「僕の名前は、成瀬港です。神様はオーディン。北欧神話の知恵の神です。よろしく」
なるべく雰囲気のいいように言ったつもりだがどうだっただろう。よくわからない。
「よろしく港、俺の名前はオル・ロン。俺の神様はヘパイトス。能力は”火の加護”。よろしく!」
僕と背がほとんど同じだろうか、元気な男の子で黒人の子だ。右腕には大きな盾がある。かっこいい。
「ねえ、オル、その盾重たくないなの?」
「そうでもないぜ、結構軽いよ、この盾。持ってみる?」
オルが僕に盾を手渡してくれた。盾の裏にあった腕を通すところに右腕を入れてみる、が全く持ち上がらない。盾が地面に突き刺さった。
「結構重くない?これ。俺は右腕だけじゃ持ち上げらないけど」
「それはそうだろうが、私たちの武器は持ち主以外には扱えないようになってるんだから」
後ろから髪が黒髪なクールな女の子が話しかけてきた。腰に槍がある。結構大きいけど扱えるのだろうか。
「久しぶりね、港君。って言ってもわからないと思うけど。私の名前はアナ・キルア。神様はアネモイ。風の神様よ。能力は”風の加護”よろしく。」
誰だろうか、全く記憶にない。僕の記憶にないってことはあったことはないと思うんだが。エレナが少し不機嫌そうだ。なんでだろう。
「ごめん、アナ。僕は君には一度のあったことないと思うんだけど?」
「それはそうよ。私は日本にしばらくいた時に剣道の大会で君のことを少し見ただけだもの。あなたは知らなくて当然よ。声もかけなかったし」
「そうなんだ。よく覚えてるね。」
「まぁね、あのビクビクしている試合は面白かったもの」
マジか、あの初めての試合を見られてたのか、恥ずかしい。
「そうだったの?アナ」
「そうだったんだよ、エレナ。羨ましいの?」
「ちょっと、アナ!やめてよ」
なんか二人は仲がいいみたいだ。
「それはそうと、エレナ。君の神様って誰?」
「さっき、説明してなかったっけ?」
「ごめん俺は結構記憶力よくないんだよ」
オルが少し恥ずかしそうに顔を下げた。
「私の神様は、ハデス。冥府の神様。私の能力は”影の加護”。影から影を好き勝手移動したり物をしまったり出したりできるの」
「そうだった、ありがとうエレナ」
ハデス。ギリシャ神話の冥府の神様。エレナの武器が鎌なのは少し予想ができる。
「それと、敵が誰か知ってる?」
「わかんないけど、行けばわかるでしょ」
アナが銃にマガジンを入れながら答えてくれた。結構苦戦しているみたいだ。
「説明書見て見なよ。結構簡単だよ」
「私は銃嫌いなのよね、槍の方が簡単だし、戦いやすいよ」
アナが槍を振り回す。ヒュンヒュンと風をきる音が聞こえる。かなりの腕前だろうか。
「槍、習ってたの?」
「ちょっとね」
「なぁ、港。模擬戦まであとどれくらい?」
僕は腕時計を見てみる。あと20分ほどで始まるな
「あと20分くらい。そろそろ行こうか」
僕らは立って歩き出した。こんな高校生がいるんだろうか。武器を身体中につけて森の中を歩いている。あまりにもおかしすぎて笑いそうだ
「そういえば、オルは落ち着いてるね。エレナとアナは緊張しないなんとなくの理由がわかるけどオルはなんでそんなに落ち着いてるの?」
「俺の住んでいたところが紛争地域でさ。銃も見慣れてるし、使い慣れてるんだ」
やってしまった。少し思い出したらわかったことだったのに。何をしているんだ僕は。
「ごめん、オル」
「大丈夫だよ、港。もう慣れてるし。いろんなこと聞いてくるやつらよりはマシだよ」
オルが優しい人でよかった。
そのまま僕らは歩いて森の一角にあるっ広場に着いた。サバゲーのフィールドに似ている。少し大きいぐらいだろうか。真ん中に小川が通っていて建物がいくつかある。すでに何人かの生徒が来ていてボードのようなものを見ている。
僕らも近く見にに行ってみる。僕らの名前の横に第23団と書いてある。少し思い出してみるが、この世の中の第23団の数があまりにも多すぎて思い出すのが大変だ。エレナに聞いてみよう。
「エレナ、第23団ってどんな人がいるの?」
エレナの手が震えて顔色が良くない。大丈夫だろうか。
「エレナ、どうしたの、顔色が悪いよ」
「それはそうだろう、お前の相手は俺らだからな」
後ろを振り返って見てみると、昨日のいじめっ子たちがそこにいた。
少し予想していたが、それが的中してしまった。最悪の状況だ。
僕らと彼らの間に少し不穏な空気が流れる。僕らの空気のせいか騒がしかったのに静かになった。
「第23団の皆さん、模擬戦場に来てください、時間です」
どこからか大きな声が聞こえた。そして彼らが何処かに行く。
「港とか行ったけお前」
ラグビー選手みたいなやつが話しかけて来た。
「昨日のこと後悔するなよ」
かなり威圧的な声と顔だ。ヤクザかよ。
「お前、名前なんていうの?」
僕も威圧的に問いかけたつもりだったが。あんまり慣れないことをしない方がよかった。ぜんぜん効果がなさそうだ。
「俺は、ボス・アルシュ。俺の神はアレス。戦の神だ。能力は”破壊の力”。」
響き的にやばそうなやつだ。
僕らは模擬戦とは聞いているが全くそうも思わない場所に向かう。
少し、緊張してきた。ちびったらどうしよう。




