第九話 日々の習慣の怖さ
僕の朝はとても早い。普段から朝に稽古をしていたからだろう。時計を見ると朝の5時だ。日々の習慣というものはとても怖い、どんなに眠くても体が眠ることを拒んでいる。ベッドの上で伸びをすると僕はベットから出た。電気がないから部屋の中が少し薄暗い、周りがよく見えない。
「痛った」
何かが小指に当たった。昨日床に置いておいたダンボールにぶつけたみたいだ。
僕はその場で昨日きていた制服を脱いでシャワーを浴びた、さすがにこのまま学校に行こうとするのはまずいと思う。
シャワーを浴びた後、新しい制服を着て、僕はダンボールの中に入っているものを見てみた。ダンボールの中には教科書、背中にかけるバックと手持ち用のバックが一つずつ、軍服みたいな頑丈そうな服、それと2丁の銃があった。一つは”FN P90”。ベルギーのFN社が作った短機関銃だ。それと”SIG SAUER P226”。ザウエル&ゾーン社が作った自動拳銃だ。中からその銃を出してみると一枚が出てきた。学校の予定表とそれぞれの教科についての説明だ。色々な教科がある、古代語、数学、世界史、理科etc...。
色々あるな、と思いながら予定表を見て見ると驚いた。四時間目までしか授業がない。それも一回の授業で45分しかない。ラッキーと思っていると下の方に注意書きが書いてあった。月〜金曜日までの昼以降は五人組で訓練または作戦を実行。土日には授業がなし、と書いてある。普通の学校とは全然違う仕組みだ。慣れるまで大変そうだ。
僕は今日の授業の準備をしてコテージを出た。まだ朝日が昇っていない、少し霧が道を包んでいる。
なぜこんなに朝早く家を出たって?それは白猫に呼ばれたからだ。あの猫は人使いがとても荒い。猫にこき使われる日が来るとは想像もしてなかった。
はぁ、とため息をついたら後ろから声がした。
「早いな、港。どうしたんだ?」
後ろにはホルス先生がいた。すごく変な服を着ている。Tシャツには”Go to hell.!!"(地獄に行け!!)と書いてあってその下には化粧の濃い女性のキャラクターが舌を出している。正直言ってダサい。それにサイズが合ってないのだろう、ものすごくピチピチだ。筋肉の形がはっきりとわかる。
「先生こそ、どうしたんですか?こんな朝早く」
「俺はトレーニングだ、さっきこの島を25週ほど走っていたところだ。」
25週!結構な距離だろう、でもこの人?はケンタウロスだ。どおってことないのだろうか。
「僕は白猫さんに呼び出されて」
「エレナの件か?」
驚いた、ホルス先生も知っていたのか。
「そうです。白猫さんに聞いたんですか?」
「そうだ、お前の前は俺が説得係をしていたんだよ。校長は人使いが荒いだろう?」
「そうですね、もう少し眠っていたかったです」
僕らは少し笑った。
「それじゃ、俺は先に学校に行ってるからな」と言うとホルス先生は走り出した。
その後ろ姿を見ていると、面白いものを見つけた。ホルス先生のTシャツの背中には”I want to go to heaven.!!"(天国に行きたい!!)と書いてあった。どうやら表と裏で物語になってるらしい。その下には泣きじゃくる女性のキャラクターが書いてあった。表の女性と同じ人だろうか。ホルス先生のTシャツのセンスの無さには驚いた。僕もそんなに人のことを言えたもんじゃないが。
〜〜
白猫には図書室に来るように言われていた。階段をいくつか降りた先に図書館がある。僕は廊下を歩いて図書館に向かう。図書室前の廊下に着くと入り口の前に白猫がいた。二本足で立って、尻尾を使って器用に本を読んでいる。
「おはようございます、白猫さん」
「おはよう、遅かったね。坊主、校長より遅く来るなんていい度胸してるよ」
「すみません」
白猫は尻尾に本を絡めるとそのまま扉を開けた。
「鍵はどうしたんですか?」
「さっきピクシーに開けておいてもらったんだよ」
残念だ、あの毛並みにもう一度触りたかったのに。
僕らはそのまま図書館の中に入って行った。
中に入って気がついたが、少し本の量が増えている気がした。ペースとしては一ヶ月に一冊のはずだからそんなことはないと思うんだが。
「白猫さん、本少し増えましたか?」
「いいや、気のせいじゃないか?それか私が持ち出していた本が戻ったからじゃないか?」
「そうですか」
「何か気になることでもなるのか?」
「いいえ、何も」
僕らはそのまま図書館の中央に歩いて行った。
中央のスペースにはソファーと机が新しく置いてあった。白猫に聞くと新しく買ってきたそうだ。僕はソファーに腰掛け白猫は向かいの椅子のクッションに座った。
「エレナの様子はどうだ?」
「まだ何とも言えません。昨日、いじめてるやつらの主犯格らしき奴らがきました。でも問題なく追い払えましたよ」
「そのくらいは、把握している」
少し苛立った。把握しているのなら、あいつらを何とかして欲しい。
顔に少し出てしまったのだろう、白猫が気がついたようだ。
「お前が苛立つ気持ちもわからんでもない。でもなこの学校のほとんどの生徒は吸血鬼にやられてんだ。もしも学校側がエレナをかばってしまうと”学校は吸血鬼をかばっている”と言うことになってしまう。それは避けたいと言うのが私たち教員の考え方なんだよ、すまない」
白猫が頭を下げた。猫も人間も謝るときは頭をさげるものらしい。
「いやいや、白猫さんが謝ること....なのか?」
「そこは謝る必要ないって言ってくれよ」
僕は少し苦笑いした。
「それと港、これは少し大事な話でな」
港と呼ばれるのに違和感を覚えた。それもそうだ、ずっと坊主って呼ばれてからだ。
「お前に以前この図書館の本を全て見せてしまったがそれがちょっとまずいかもしれなくてな。この図書館の情報は全て機密事項で、普通に本を使うのはいいんだが、持ち出すことは私以外できない。だがお前は頭の中に図書館の全てが入っている。そしてそれらを自由に持ち出している。もしもそれが危ない輩に知られてしまうと結構まずい。そのことをベラベラとしゃべらないようにな」
僕は少し間を開けて話した。なんとなくだ。
「昨日、あのいじめっ子たちに話しちゃいました。」
「その辺は問題ない、昨日彼らはそのことを覚えていない」
「なんでですか?」
少し間が空いて白猫が話し始めた。
「私の知り合いにテミスという”掟の神”がいてな、その能力のおかげだ。彼女の能力は”不変なる掟”。彼女が紙に書いた掟を物または生き物に貼ると貼られたものまたはその中にいるものは絶対にその掟を破れない、というものだ。私が彼女に頼んでこの学校内ではそのことを知ってしまうと忘れる、という掟を作ってもらった。だから学校内では気にしなくてもいいが、学校から出たら絶対に言わないこと。わかったか?」
「了解です」
そのあとしばらく白猫と話した。学校のことや、いろいろなことだ。
〜〜
チャイムの音が聞こえた。僕は席を立って出口にい行こうとする。すると白猫もついてきた。
「どうしたんですか?」
「前に言っただろ、私と一緒に出ないといけないって」
これは白猫の毛並みを触れるチャンスじゃないか?僕は白猫に向かってゆっくりと手を伸ばす。しかし寸土のところで白猫にするりとかわされてしまった。
「甘いな」
「チッ、バレてましたか」
僕は扉を開けて教室に向かう。歩いているうちに肩が痛くなってきた。さすがに全ての教科書を持って行くのは辛かっただろうか。僕はゆっくりと階段を登って教室に向かった。




