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7話 戦闘と実力

 列車の連結器へと進んだ俺は、吠える男がいる車両へと繋がる扉に手をかける。

 俺は正直ワクワクしていた。

 融合魔術の腕では誰にも負けたくないというのもちろんあるが、それ以上に他人の融合魔術を見れるいい機会だと思ったからだ。

 この先に、俺と同じく融合魔術を生業としている人間がいるのだ。

 これで職人魂が刺激されない訳がなかった。


 猛烈な期待を伴いながら、車両の扉を開ける。

 そこにいたのは頭を隠す様に蹲る数人の人々と、車両の中心に我が物顔で仁王立ちする男だった。


「動くなよお前ら! 俺は強い! 俺は凄い! 見ろこの刀、『鋭利』を融合してあるんだぞ! 俺様が全員ぶっ殺してやる!」


 男は下卑た笑みを浮かべ、ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てている。

 ……なんというか、正直第一印象で言うとあまり関わり合いになりたくないタイプだな。

 俺の描いていた融合魔術師像とはだいぶ違う人間だ。


「ああいう人はこの時代にもいるんだねぇ」


 男の様子をみていたエウラリアが嘆く。


「ああいう人?」

「『自分が一番強いんだ!』って無根拠に思いこんじゃう痛い人」

「そういうのは時代問わずなんだろうな。ここまでのヤツは俺も初めて見たが」


 そんな会話をしていると、男がこちらに気づいた。


「……ああ? 誰だお前? 車掌……じゃ、ねえよなぁ?」


 短い金髪を掻きながら俺の方を向く。

 何か言っていたが、そんなものは俺の耳には入らなかった。

 こちらを向いた拍子に見えた、男が持つ刀に目を奪われていたからだ。

『鋭利』が融合された刀。そこには融合魔術特有の、波打つような火傷の痕……俗にいう融合痕が見えた。

 そして肝心のその腕前は――


「……」


 ――酷く拙かった。

 魔石の良さを全く活かせていない。

 男の言っていた通り、シャープビーの『鋭利』の魔石を埋め込んでいるようだが、正直酷いものだ。

 大体、融合痕などというものはよほどの低練度でもなければ見た目には残らない。そんなものがある時点で、目の前の男の力量は推して知るべしだった。


「……ハァ」


 落胆からため息が漏れる。

 まあ、薄々はそうではないかなとは思っていた。

 本当に優れた魔術師が、こんな人の道に外れた行為をするわけがないもんな。


「てめえ今、俺のこの刀を見てため息を吐かなかったか?」


 男は青筋を浮かべて俺を見る。

 俺の態度が癇に障ってしまったらしい。


「いや、随分拙い融合魔術だと思ってな。気を悪くしたならすまない。……じゃあ、俺はこれで」

「ちょっと待てや!」


 この程度の融合魔術なら、わざわざ見に来た意味もない。

 だから元の車両に戻ろうとしたのだが、男は俺を呼びとめる。


「俺の渾身の作品であるこの刀をコケにされて、はいそうですかって易々と返すと思ってんのか? 丁度いい、試し斬りの相手になってもらうぜ」


 そう言うと、男は刀を構える。


「覚悟しろ、てめえは俺を怒らせた!」


 そしてそのまま俺へと向かってきた。


「まさかこうなるとは……」

「普通に予想できた展開だと思うけど……レナルドってもしかして馬鹿なの?」


 エウラリアに言い返したくはあるが、事実こんな展開になってしまっては言い返すことも出来そうにない。

 しかたないので反論を呑みこみ、俺は男と向かい合う。


「せゃあっ!」


 男が振るった刀を、俺は横に避けた。

 窓にかかっていたカーテンが、刀によってスパッと切り裂かれる。

 それを見て、男は満足げな笑みを浮かべた。


「どうだ、すげえだろ!? これが融合魔術ってやつの凄さだ! 次はその身で味わえや!」

「いや、元々鋭利な刀に『鋭利』を融合して何がしたいんだ? たしかに少しは切れ味も上がるだろうが、そんな僅かな違いを気にするような腕前にも見えないぞ」


 副業冒険者に躱される時点で剣の腕前も大したことがない。

 この辺は田舎だから、きっと調子に乗ってしまったんだろうな。一度でも王都やらを見て回れば、こんなバカなことを起こすこともなかっただろうに。

 己の力量を正しく認められていない目の前の男に、俺は僅かに憐憫の情を抱いた。


「てめえ……殺すっ!」


 憐れむ俺に逆上した男は、再び俺に刀を振りかぶる。


「お前に本物の融合魔術師の力を見せてやる。……エウラリア」

「はいはーい」


 俺はエウラリアからスライムの魔石を受け取り、それを鉱山で受け取った金貨に融合した。

 そして男に金貨の面を向け、『伸縮』で限界まで伸ばす。


「うげっ!?」


 急速に伸びた金貨は男の腹に命中し、そのまま列車の横腹に突っ張り棒のように固定された。


「な、なんだこれ……おい、ふざけんなよ……!」

「うるさいからそこでじっとしてろ。……お、丁度いいのをしてるじゃないか」


 俺は男が親指に付けていた髑髏のリングに目を付けた。

 それに再びスライムの魔石を融合し、『伸縮』で大きくして男の頭を通す。

 そして金貨で突っかかっているところまで身体に通したところで、逆にリングを縮めた。


「ぎゅっ!?」


 男の身体は鉄のリングに締め付けられる。

 少しきつくしすぎた気もするが、逃げられるよりはマシだ。

 自業自得だと思ってぜひとも寛恕してほしいところだな。


「て、てめえ、こんなことして許されると……」

「うるさい」


 不必要になった金貨を、長さを適度に調節し、口に突っ込む。

 横に長いから、大きさ的に口から出すことはできないだろう。

 身動きもとれず、喋る事も出来なくなり、男はやっと観念したようだ。


「これで一安心だな。さあ、元の座席に帰ろうエウラリア」

「他の人ポカンとしてるけど、このまま元の車両に戻っちゃっていいの?」

「俺は口下手だからな。説明できることは何もない」


 どうせ次の駅に着いたところで、色々と事情聴取をされることになるだろう。

 せめてそれまでは心穏やかに過ごしたかった。

 まったく、折角すごい融合魔術が見られると思ったのに、これでは骨折り損のくたびれもうけだ。

 意気消沈する男を置いて隣の車両へと戻り、席に着く。

 エウラリアは男のいる車両をチラリと見ると、しみじみと呟いた。


「列車なんて超ハイテクな物を造っちゃう人もいれば、あんな風なお馬鹿さんもいる。人間って不思議だなあ」

「人間の一番の特徴は多様性だからな」

「へー、そうなんだ。まあ、キミも変わってるもんねぇ」

「そうか?」


 あまり自覚はないのだが、エウラリアが変わっていると言うならそうなのだろうか。

 なんとなく窓の外を眺める。

 先程の戦闘が嘘のように、流れゆく景色はとてものどかなものだった。

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