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57話 レストランにて2

 それからしばらく談笑していると、俺たちの頼んだ料理が運ばれてきた。

 エウラリアの頼んだ分は俺の前のテーブルに並べられる。エウラリアの姿は普通の人には見えないから、俺が頼んだことにしてあるのだ。


「わぁぁ……っ! 見てよレナルド、オムライスのこの黄金の輝き! ハンバーグもてらてら!」

「おう、真正面で見てるぞ」


 とろとろの卵に包まれたオムライスは匂いだけでも食欲をそそる。

 ハンバーグにかけられた特製ソースも味わい深そうな深みのある色だ。

 率直に言って美味しそうだな。

 エウラリアはぴょこんとテーブルに飛び乗ると、オムライスとハンバーグの間に立ってスゥと肺に空気を吸い込んだ。

 そして「に、匂いだけでもう美味しい……っ」とクラつく。


「この空気だけを吸って生きていける世界はどこにあるんだろう」

「料理人にでもなればもしかしたら叶うかもな。もしくは、料理を司る妖精になれば」

「……レナルド、キミ料理人になる気はない?」

「諦めてくれ。俺は融合魔術師以外の職に就く気はない」

「まあそうだよね。キミがそういう人間だってことはわかってるし、それはそれでボクとしても結構嬉しい。……あ~、でも良い匂いだなぁ。ねぇレナルド、もう食べていい? ボクそろそろ我慢できないや」


 俺は「食え食え」とエウラリアを促す。

 このままだとよだれ垂らしてもおかしくないからな。

 料理を目の前にしておあづけは辛いだろう。我慢なんかせずにどんどん食ってくれ。


「いっただきまーす! もぐもぐ……んー、おいひーいっ!」


 エウラリアはほっぺたを押さえてご満悦だ。

 こっちまで幸せになれる笑顔だなぁ。はつらつとしてるから見てて気持ちがいい。

 エウラリアが食べたのを見てから、俺も同じ料理を口に運ぶ。

 身体の小さなエウラリアだけじゃ二品の料理は絶対に食べきれないからな。


「……うん、美味いな」


 やっぱりエルディンは稼いでるだけあって良い店知ってるな。

 めちゃくちゃ美味い。

 エウラリアと俺は夢中で料理を口に運んでゆく。


「美味しいなぁ~っ。ボクが料理人になれば、この匂いを毎日嗅げるのかなぁ」

「僕はよくわからないけど、消費者と作り手ではまた変わって来るんじゃないかな。料理を食べるのが好きな人と料理を作るのが好きな人はまた別だと思うよ」

「なるほど……うん、それもそうかも。ボク、食べるのは好きだけど作るのはそんなに好きじゃないや」


 エルディンの言葉でエウラリアはなにやら納得したようだ。

 それにしても……生産者側と消費者側は違う、か。

 たしかにどんな分野にでも、作るのが好きだって人と作った物を楽しむのが好きだって人がいるよな。


「俺は自分で魔道具を創るのも好きだし、他人の創った魔道具を見るのも同じくらい好きだなぁ」


 魔道具に関しては、俺の場合はどっちも当てはまる。

 融合魔術を行使するのも好きだし、他人が融合魔術を行使している様を見るのも好きだ。

 どっちも同じくらいにワクワクしてくる。


「それはつまり、レナルドにとっては融合魔術師が天職だってことなんじゃないかな。どちらにも興味のあるものって普通は中々見つからないと思うよ」

「そうそう! よかったねレナルド、融合魔術に出会ってなかったらこんなに充実した人生送れてなかったかもよ?」


 エルディンとエウラリアにそんな言葉を投げかけられて、俺は改めて考える。


「そうかもしれないな。……いや、きっとそうだ。こうして皆と仲良くなれたのも、融合魔術のおかげだ」


 エルディンも、セレナも、イルヴィラも……そしてもちろんエウラリアも。

 今ここにいる人間全員と、俺は融合魔術を介して知り合った。


「僕とレナルドが初めて会ったのは祭りの時だよね。並んでる魔道具を見て、ただものじゃないと確信したよ」

「エルディンにそう言ってもらえると嬉しい」

「私が師匠と出会ったのも、融合屋の前ですしね」

「そうだな。あれがなきゃ、俺がセレナを弟子にとることもなかったわけだ」

「あたしもまあ、一応そうなるのかしらね」

「挑戦状を叩きつけられた時は燃えたぞ。やってやるって気持ちになった」

「その結果がイルヴィラにゃんなわけだよね」

「それは……まあ、そうね。認めたくないけど事実だわ」


 三人との出会いがまるで昨日のことのように思い出される。

 俺は蘇ってくる記憶を感じながら、エウラリアの方を向いた。

 融合の極意に辿り着いたことでエウラリアと出会った。

 思えばあれから全てが始まったんだよな。


 俺の視線に気が付いたエウラリアは決め顔を作り、バチッとウィンクをしてくる。

 俺は苦笑を返した。なんでウィンクなんだよ。


「ほらほらレナルド、早く食べないとせっかくの料理が冷めちゃうよっ」

「ああ、そうだな。温かいうちに食べなきゃだよな」


 そして俺はエウラリアと一緒に料理に再度手を付け始める。

 そんな俺たちを見て、三人は思い思いの言葉を口にした。


「あんたたち仲良しよねー」

「そうだね、見てて気持ちがいいよ」

「微笑ましいですけど、で、でもリアちゃんには負けませんっ。十二年のブランクなんて跳ね返して見せますからね、師匠っ!」


 どうしたセレナ?

 お前は何を言っているんだ?


「ん~っ、美味しいっ。料理自体もすごく美味しいけど、やっぱり皆でわいわい言いながら食べると美味しさも増すね!」


 エウラリアがふとそんなことを言う。

 たしかにそうかもしれない。

 賑やかなのは長年苦手だったが、そう悪くもないもんだな。

 常に誰かしらが笑っているこの光景が、なぜかとても大切なものに思えた。


「あ、師匠が笑ってます」

「え? ……ああ、俺笑ってたか」


 気付かなかった。

 俺よりも先に気付くなんて、やるじゃないかセレナ。


「師匠の笑顔は貴重ですからね。心のアルバムに永久保存しました。もう一生消去不可です」

「言い回しがなんか怖いな」


 最後の一言が余計じゃないか?

 それがなければ師匠思いの弟子だと思えたのに。


「……なんというか、セレナもちょっと残念だよなぁ」

「師匠に残念扱いされた!? ……でもちょっと嬉しいかも!」

「そういうとこだぞ」


 速めに気付いてくれると師匠としては嬉しいんだが。

 ……ここまで嬉しそうな笑顔だと、治るのは大分先になりそうだな。

 そんなことを考えながらハンバーグを口に運ぶ。


「……うん、美味い」


 口の中に広がるハンバーグの味は、やっぱり一人で食べるより美味しい気がした。

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