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54話 エルディンとの生活

 セレナとイルヴィラの家を出た俺たちは、俺の店へと戻ってきた。

 そのまま二階の生活スペースに直行する。


「へぇ、ここがレナルドの住んでる家か。あんまり生活感ないね」

「まだ家建てたばかりだからな。ほとんど住んでないから生活感も当然ない」

「いきなりこんなことに巻き込まれちゃったもんねー。ボクなんてまだこの家のどこになにがあるかすら曖昧だよ」


 安心しろエウラリア、それは俺も同じだ。

 まだこの家に慣れるのには数週間はかかりそうだな。

 まあ、慣れてしまえば良い家なのには違いない。セレナが家具を選ぶのも協力してくれたわけだし。


「ここに置いていいかい?」と許可をとってから、エルディンが自身の荷物を床に置く。

 エルディンの荷物は剣と生活必需品とその他諸々で、全て片手で収まるレベルの少なさだった。

 国中や果ては国外までをあちこち飛び回っていることが多いから、荷物は必要最低限しか持たないのだという。

 そうだよな、こうして普通に接してるけどエルディンって凄いヤツなんだよな。


「エルディン。何はともかく、これからよろしくな。もし何か不便なことがあったらすぐに言ってくれ」

「ああ、よろしく頼むよレナルド。それにエウラリアも」

「うん、よろしくねエルディンっ」


 俺たちはエルディンと握手を交わす。

 身柄を守ってもらう訳だから、出来る限りエルディンに不都合がないようにしないとな。


「それにしても、ちゃんと挨拶できて偉いよレナルド。よしよし」


 で、なんでエウラリアは俺の頭を撫でてるんだ?

 かと思えば、エウラリアはふわふわとエルディンの元まで飛んでいき、エルディンにこそこそと耳打ちする。だが肝心の声量のコントロールがお粗末すぎて内容がこちらまで筒抜けだ。


「レナルドは言われたことはきちんとやろうとする良い子だよ。でもちょっと鈍感なところがあるから、エルディンももし何か言いたいことがあったらちゃんと言葉にして伝えてあげてね?」

「言い返したいが、言い返せねえ……」

「あれ、聞こえてた!? 耳打ちしたんだけどなぁ」

「普通に聞こえてたぞ」


「あはは、ごめんごめん」と謝るエウラリア。

 エウラリアの母親的目線にはなんとなく気恥ずかしさを覚えてしまうが、言っていることは的を射ている。

 曲がりなりにも一緒に行動してるからな。他の人が知らない俺の面も知っているということだろう。

 だが、それは逆に俺がエウラリアの知られざる一面を知っているということにもなりえる。


「エルディン。エウラリアには気を付けてくれ」

「エウラリアに気を付ける……かい? そりゃまたどうして」

「コイツ、普段は良いヤツだが、イケメンとか美少女相手にはときたま発情するからな。変態妖精なんだ」

「あはは、またまた」


 いや、本当なんだって。まあたしかにエウラリアの無害そうな見た目からは信じられないのも無理はないが。

 なあエウラリア? 事実だよな?

 ……あれ、エウラリアがわなわな肩を震わせて怒ってる。口も尖らせて大層ご立腹のようだ。


「な、なぁにぃ~? ボクのこと発情とか変態とか、好き放題言ってくれちゃって……! ……あ、あれ? 言い返す言葉が見つからない……!? なんで!?」


 図星だからだぞ。


 とまあそんなこんなで、俺たちとエルディンとの生活が幕を開けた。




 共同生活二日目。

 朝起きた俺は、一階の店部分で融合魔術を行使していた。


「ふう……」


 額の汗を拭い、一息つく。

 そろそろエウラリアも起きてくる頃だし、ここまでにしとくか。


「朝からやってるんだ。感心感心」


 片づけ始めた俺の耳元で、声がした。

 こんな至近距離まで近づいてくる人間はいない。つまりこれはエウラリアだ。


「おおエウラリア。早いな、起こしちまったか?」

「ううん、全然。というか融合魔術じゃ目覚まし代わりにはならないよ。音もしないしさ」


 それもそうだな。エウラリアの眠りを妨げていたなら申し訳ないと思ったのだが、ただ単に早起きしただけのようだ。


「で、どうなの? 調子の方はさ」


 くるくると、エウラリアは俺が創った魔道具の周りを興味深そうに回る。

 時折魔道具に近づいては、おっかなびっくりでちょんちょんと触る様が可愛らしい。

「別に普通に触っていいぞ」と言うと「あ、そう?」と言って今度は体全体で魔道具にむぎゅっと抱き着く。そんな融合の妖精を微笑ましく思いながら、俺は質問に答えた。


「何日か間が空いたからな。腕が鈍ってないか心配だったが、杞憂だったようだ」

「レナルドは一回壁を超えてるからねー。ちょっとやそっとじゃ腕も鈍らないと思うよ。あ、でももちろん油断してたらあっという間にズドーンッだけどね?」


 エウラリアは自身の身体を急降下させ、身体全身で「ズドーンッ」を表現した。

 小さい身体でも、目の前でダイナミックに動かれるとそれなりに迫力が感じられる。


「ズドーンッは怖いな。そうならないためにも普段から融合魔術には触れておくことにする」

「うんうん、そうしてくれたまえ。えへへ」

「何笑ってんだ?」


 突然はにかみだしたエウラリアは、少し照れくさそうに頭の後ろで手を組んでいる。


「いやぁ、キミはいつも一生懸命で好感が持てるなあと思って、ね!」


 俺の視界から外れるように勢いよく肩にとまるエウラリア。

 勢い余って肩にとまるというより肩にぶつかった感じになったが、怪我はないようだ。


「融合を司る妖精に好かれるなんて、俺は幸せ者だな」

「ふふん、その通り! だからキミはもっとボクを崇めると良いよ!」

「それは止めとく」

「ぶー! なんでさ!」


 そんな会話をしていると、エルディンが部屋に顔を出す。


「朝食ができたよ。といってもあまり出来は良くないから、期待しないでほしいんだけど……」

「わーい! 食べる食べるー!」


 肩にとまっていたエウラリアがグワッと飛び立ち、キッチンへ向かう。

 やれやれ、元気なヤツだ。

 誰に見せるでもない微笑みを浮かべながら、俺は遅れて二人のいるキッチンへと向かった。


 ちなみに余談であるが、エルディンの作った朝食の出来はイマイチだった。

 食べられないほど不味くはなかったが、「食べられる」というだけで決して美味しくはないくらいだ。

 完璧超人だと思ってたが意外と苦手なものとかあるんだな、と彼の新しい一面を知ることになった俺だった。

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