46話 姉妹って素敵
「お姉ちゃんって……イルヴィラ、お前セレナのお姉ちゃんなのか!?」
「そうよ? あたしとこの子は姉妹なの。ねーセレナ?」
「うんっ、お姉ちゃん!」
ニコニコ笑顔で頷きあう二人。
どうやら本当に嘘ではないようだ。
まさかセレナの姉とすでに知り合っていたなんて……すごい偶然もあるもんだな。
「でも二人が姉妹だなんて、なんか意外だね」
「そうかしら?」
「うん。だって胸もセレナの方が大きいし――」
「ああんっ!?」
「ひぃぃっ!? な、なんでもないです! ごめんなさい!」
今のはエウラリアが悪い。
俺はフォローしないからな、自分で収集をつけてくれ。
いや、そもそもフォローしようと思ってもできないけど。
「あ、あたしはまだ成長期がきてないだけだから! そのうちちゃんと大きくなるから!」
「ほんとごめんイルヴィラ……ボク、キミが現実逃避したくなるようなこと言っちゃったんだね……」
「げ、現実逃避じゃないわよ? あたしはまだ諦めてないんだからっ!」
「でも大丈夫、ボクは小さい胸もおっきい胸もどっちも好きだから。元気出して?」
「それの何が大丈夫なのよ!?」
静観しているうちに、みるみる男の俺には横入りしにくい会話になっていっているわけだが。そこの発情妖精を誰か何とかしてくれ。
ともかく、ここは気配を消しておくしか――
「師匠。師匠はどっちが好きですか?」
……セレナは怖いものなしだなぁ。とんだキラーパスだ。
こんなことなら前もってこういうときに話を振らないようにって教えておくべきだった。
「そ、そうよ、あんたはどうなの?」
「ボクも気になるな。レナルドってあんまりそういう話しないし」
「教えてください師匠。師匠のことはなんでも知っておくのが弟子ですから」
おいやめろお前ら、俺に視線を集めないでくれ。
俺はこういう時に上手く逃げられるようなトークスキルは持ち合わせていないんだぞ。
「……ノーコメント。悪いが用事を思い出した。それじゃ、俺はこれで」
そう口にするや否や、俺は走ってその場を立ち去る。
口で逃げられないなら、物理的に逃げるしかない。
「あ、レナルドが逃げたわ! 追うわよ二人とも!」
「うん、お姉ちゃん!」
「待てーレナルド!」
なんでいつの間にか一致団結してんだ。
というかそもそもなんで俺が追われてるんだよ? おかしくないか?
逃げ出した俺だったが、トップクラスの冒険者であるイルヴィラ相手に逃げられるわけもなく、なんとか自分の店まで逃げ込んだところであえなく御用となった。
「さあ観念しなさいレナルド!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺はそんなに悪いことをしたのか……?」
「そりゃあ……あれ? そういえばそうね。なんであたしレナルドを追いかけてたんだっけ……?」
イルヴィラは顎に手を当てて考え込む。
そうだ、冷静になって考えてみてくれ。俺が追われる理由なんかないだろ?
「脱線してた話を元に戻そう。セレナとイルヴィラが姉妹だって話だろ? その話をしようじゃないか。な?」
俺は三人を説得する。
その甲斐あって、なんとか納得させることに成功した。
もっとも、セレナは最後まで納得いかないような顔をしていたが。
「師匠の好み、知りたかった……」じゃないんだよ。お前のその俺への情熱はどこからくるんだ。教えてくれ。
ともかく、ここは俺から話を切り出そう。
そうしないとまた胸の話題に戻ってしまった時に困るのは俺だからな。
とりあえず、二人が姉妹だとわかって思ったことといえば……。
「イルヴィラはセレナと姉妹だからあんなに融合魔術について詳しかったんだな。最初に試されたときに感じた違和感にやっと合点がいったよ」
サンドスライムの魔石で腕試しさせようとしたとき、少しばかり詳しすぎると思ったんだ。
『サンドスライムは二つの性質を持っていて、なおかつ『砂化』が発現する割合が一割』なんてこと、普通の冒険者が知ってる訳がないもんな。
そんな俺の発言を聞いて、セレナが驚きの声を上げる。
「え!? お、お姉ちゃん、師匠を試すような真似してたの!?」
「あー、まあ、そうね」
「信じられない……師匠にそんなことするなんて……」
フルフルと首を横に振るセレナ。
まるでこの星の終わりを告げられたみたいな顔になってるんだが、それほどの大事か? 別に俺はもう気にしてないぞ。
そんな大げさな反応をする妹を見て、姉のイルヴィラは目に見えて慌てだした。
「い、いや、違うのよセレナ? あの時はレナルドがあんたの師匠だって知らなかったから――」
「お姉ちゃんなんかもう嫌いっ!」
「っ!? そ、そんな……!」
あ、イルヴィラが地面に膝をついた。
目が虚ろになって、口が半開きになって……もう見るに堪えない。
どんだけ妹のこと好きなんだ。ここまで来ると凄いな。
そんな姉を見て、セレナはさすがに言い過ぎたと思ったらしい。
恥ずかしそうに小さな声で、でもイルヴィラにしっかりと聞こえるように呟く。
「……うそ、やっぱり好き。……大好き」
「セレナー!」
イルヴィラは感極まってセレナに抱き着く。
その瞳からは涙がとぷとぷと溢れていた。
感情の変化が急激過ぎてちっとも共感できねえ。
「ああ、あんたはあたしの最高の妹よ……!」
「ううん、お姉ちゃんこそあたしの最高のお姉ちゃんだよぉっ」
「セレナ……!」
「お姉ちゃん……!」
姉妹の熱い抱擁。
それを俺とエウラリアは眺める。
「置いてきぼりだな、俺たち」
「姉妹愛って美しいね、レナルド……!」
ちょっと待て、エウラリアまで目が潤んでないか?
なんで?
「妖精には兄弟とか姉妹とかの概念がないから、人間のそういうのを見るとついね……うぅ、良い話だなぁ……」
へぇ、そうなのか。初めて知った。
初めて知るエウラリアの情報もありながら、俺はイルヴィラとセレナの仲睦まじい姿を眺めていた。




