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45話 きっとお姉さんは素晴らしい方なのでしょう

 昼時を少し過ぎ、昼食をとり終えた人々が各々の仕事に戻り始めるころ。

 俺は店の設備やら何やらを揃えるために、セレナと一緒に王都を歩いていた。


「さて……と。師匠、あと他に必要なものはありますか?」

「いや、もう大丈夫だ。ありがとな」


 さすが王都一の融合魔術師。良い店を知っている。

 しかもセレナの口添えでどこの店もかなり安くしてもらうことができた。

 おかげで手持ちの少ない俺でもなんとか店の設備やら家の家具やらを買い揃えられたのだから、セレナさまさまだ。


「セレナは良い人だね!」


 エウラリアが俺の肩からぴょこんと顔をだす。

 セレナは嬉しそうにはにかみながらもブンブンと手を振った。


「いやぁ、そんなことないですよ~」

「勝手に店に侵入さえしてなきゃもっと良い人なんだがなぁ」

「私の中の溢れ出る師匠への思いがそうさせたんです。反省はしてますが後悔はしてません!」


 言い切るな言い切るな。

 このままだとお前普通に再犯しそうで怖いから。


「……にしても、王都は融合屋が増えたなぁ。いたるところに魔道具が並んでる」


 ほんの数日しかいなかったからあまり覚えているわけではないが、ここまで多くはなかったはずだ。

 少し歩けば融合屋。また少し歩けば融合屋。

 適当に店に入っても融合屋なんじゃないかってくらいには数が多い。


「師匠がいたときと比べると相当増えてると思いますよ。今はどこの国も融合魔術師の囲い込みをしてますし、その中でもこの国の王都の高待遇は一つ抜けてますからね」


 十年間で色々と情勢も変わったってことか。

 まあ、興味がないからその辺りは深く聞かないが。


「……なんかこうして一緒に王都を歩いてると、あの日のことを思いだすな」

「あの日?」


 首をかしげるセレナ。赤い髪が風になびく。


「セレナと会った日だよ。たしか丁度こんな感じの穏やかな天気の日だっただろ? ほら、まだ五歳のお前がガラスに頬をくっつけて必死に中の魔道具を覗いててさ」


 丁度夢に見たからか、その光景は今でも鮮明に思い出せた。

 ぺたんと頬をつけて中を凝視していたセレナの姿は今思い返してみても微笑ましい。


「師匠、私との出会いを覚えててくれたんですか? 嬉しいですっ。……ああでも、ちょっと恥ずかしいですね」


 幼き日の自分を思い返して、セレナはほんのりと頬を染める。

 というか、セレナの方こそよく覚えてたな。

 あの時まだ五歳だろ? 俺は五歳の時の記憶なんて残ってないぞ。

 よほど俺との出会いが衝撃的だったのだろうか。

 ……ああそうか、初めて目の前で融合魔術を見たからか。それでよく覚えてるんだな。

 なるほど、それなら納得だ。


「じゃあセレナはその時から融合魔術に興味があったの?」

「えへへ。そうですね、物心ついたときにはもう融合魔術の虜でしたね」

「おおっ! レナルドもだけど、セレナも嬉しいこと言ってくれるなぁ。融合魔術を司る妖精として、今ボクはかなり誇らしい気持ちだよ」


 スンッと胸を張るエウラリア。その頬はニヘヘと緩んでいる。

 たしかにセレナも俺も、融合魔術にかける思いはかなり強いからな。エウラリアにしてみたら嬉しくなってしまうのも分かる気がする。


「たしかセレナは『一番好きなのがおねーちゃんで、二番目が融合魔術』って言ってたよな。あれは今も変わってないのか?」

「たしかに言いましたね。私が師匠と出会ってから四分十五秒経ったときの言葉ですよね? もちろん今も変わってませんよっ!」


 いや、秒数とかは覚えてないけども。

 むしろ何で覚えてる? お前ときどき怖いぞ?

 まあでも、相変わらず姉妹仲は良いようで何よりだ。


「へぇ、セレナってお姉さんいるんだ。会ってみたいなぁ~」

「俺も十三年前は結局合わずじまいだったからな。一度くらい顔を合わせておきたい」


 エウラリアの言葉に同意する。


「おお? レナルドが? 珍しいこともあるもんだねぇ」

「まあな」

「今日は空から魔石が降って来そうだ。気をつけなきゃ」

「そこまで珍しくねえだろ!」


 ほぼほぼ超常現象じゃねえか。まったく……。

 初対面の他人と会うのは気が引けるのだが、セレナの姉となれば話は別だ。

 大切な弟子の大切な人だからな。

 まあ、弟子って言っていいほど大層なことは教えられてないんだが。


「とっても優しくてしっかり者のお姉ちゃんなんですよ。私も是非師匠とリアちゃんを会わせてあげたいです!」


 うんうん、セレナは良い子だなぁ。

 こんな子の姉なんだ、きっとその人も素晴らしい人物に違いない。


 と、丁度その時。

 道の反対側を、見覚えのあるシルエットの女性が通り過ぎた。あれは……。


「あ、にゃんこだ!」

「げっ、妖せ……エウラリアじゃない」


 赤い髪の女――イルヴィラは、エウラリアを見てギョッと眉を寄せた。

 その反応を見て、エウラリアが腰に手を当てる。


「『げっ』って何さ『げっ』って! 失礼しちゃうよまったく」

「ああ、それはごめんなさい。つい……って、あんた、にゃんこって何よ!?」

「え、にゃんこ言葉のにゃんこだけど……?」

「誰がにゃんこよ!? あたしはイルヴィラ! あとあれは黒歴史だから早急に忘れなさい。良いわね?」

「まあまあイルヴィラにゃん。そんなに怒んないであげてくれ」


 エウラリアにも悪気があったわけじゃないんだ。多分。

 だから、な?


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、イルヴィラにゃんって何!? レナルド、あんたまであたしをからかうのねっ!? まったく、あんたらは二人揃ってぇ……!」

「イルヴィラは今日も元気いっぱいだねぇ」


 そんな言葉を呟くエウラリアに、イルヴィラは恨みがましい視線を向ける。


「元気いっぱいどころか、あんたたちと出会って数分で疲労困憊なんだけど……」


 イルヴィラは俺たちのせいで疲れてしまったようだ。

 ごめんなイルヴィラにゃん、ちょっとからかいすぎてしまった。


 ああそうだ、セレナを置いてきぼりにしちゃまずいよな。

 ちゃんとイルヴィラに紹介しないと。


「あ、紹介するぞ。俺の……えーと、弟子のセレナだ」


 師匠と慕ってくれているわけだし、弟子って認識で良いんだよな?

 セレナも怒らないよな?


「……って、あら? セレナじゃない」


 驚いたような顔をするイルヴィラ。

 その口ぶりと言い……もしかして知り合いなのか?

 セレナの方を見ると、セレナはニッコリと花のような笑顔を浮かべてこう言った。


「久しぶり、お姉ちゃん!」


 ……え、お姉ちゃん!?

 セレナの姉ってイルヴィラだったのか!?

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