表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/66

44話 夢の中

 途中で夢だと気付く夢がある。

 明晰夢とか言うんだったか。眠っている最中に自分が夢を見ていると自覚できるあれだ。

 今日の夢はどうやらまさしくそれのようだと、目の前に広がる景色を見た瞬間に気が付いた。


「……」


 融合屋の前でジッと魔道具を見つめる赤髪の少女。年齢は五歳ほどに見える。

 俺はその少女に少し興味が湧いて、話しかけてみることにした。


「お母さんとお父さんはどうしたんだ?」


 少女はくるりとこちらを向く。


「いないよ? わたし、おねーちゃんと一緒に二人で住んでるの」

「そうか。……魔道具、好きなのか?」


 融合魔術で素材と魔石を組み合わせたもの。それが魔道具である。

 ガラスに頬をつけて食い入るように向こうを見つめる少女が、幼き日の自分と被った。

 俺の質問に、少女はニカッと歯を見せて頷く。


「うん、好きっ! お兄さんも好きなの?」

「ああ、そうだな。大好きだ」


 俺もまた、少女と同じように魔道具が大好きだった。

 だから魔道具屋の店の前にいて、だから少女と出会ったのだ。


「わたしね、魔道具が世界で二番目に好きなの!」

「へぇ……」


 だが、少女の一番好きなものは魔道具ではないらしかった。

 ならば何なんだろうか、と俺は考える。


「一番は何か、聞いてもいいか?」

「うんっ。あのね、一番はおねーちゃん!」

「ああなるほど、お姉ちゃんか。良い姉妹なんだな」


 心の底からそう思った。

 だが心温まった俺とは対照的に、少女の顔にふと影が落ちる。


「……あれ? おねーちゃん、いない?」


 キョロキョロと辺りを見回す少女。

 しかしそれらしき人は俺の目から見ても見当たらない。


「わ、わたし、はぐれちゃった……? お、おねーちゃあん……!」


 ぐずりはじめる少女に、俺は狼狽える。

 ま、待て、泣かないでくれ。

 泣かれたら俺にはどうしたらいいかわからん……!


「そ、そうだ! いいか? ちょっと待ってろよ?」


 ふと降りてきた考えに従い、俺は融合屋の中へと入る。

 そして店主に交渉し、魔石と素材を言い値で買い受けた。

 それらを持って、少女の前に戻る。


「いくぞ、よく見てろよ?」

「……?」


 不思議がる少女の前で、俺は木剣とスライムの魔石を融合させた。

 持ち合わせではこれしか買える値段のものがなかったのだ。

 これで、なんとか泣き止んでくれれば……!

 俺は祈るような思いで少女の方を向く。


「うっわぁ……すっごい……!」


 少女は目を輝かせていた。

 もしかしたら間近で融合魔術を見たのはこれが初めてなのかもしれない、と俺は思う。

 そのくらいの驚き方だった。


「すごい、すごい! お兄さんすごい!」

「そ、そうか?」


 服の裾を引っ張られるが、嫌ではない。

 むしろこれだけ興奮されれば嬉しくない訳がなかった。

 少女は興奮冷めやらぬまま、俺に告げる。


「お兄さん、わたしに融合魔術を教えて!」

「俺が……?」


 少しだけ考えて、首を横に振る。


「いや、それは君にはまだ早い。融合魔術は子供がやっていいほど安全なものじゃないんだ。もうちょっと大人になるまで待った方がいい」

「それじゃ駄目なの!」


 少女が大声を出した。

 その声には幼い子供とは思えぬ迫真さが孕まれていて、俺は思わず尋ねる。


「駄目って、なんでだ?」

「おねーちゃん、まだ七歳なのにわたしのためにいつも働いてくれてるの。でもわたしは何も出来ないからどこにも雇ってもらえなくて……。だから、融合魔術を覚えてお店をだして、お金を稼ぐの!」


 参ったな、と思った。

 真っ直ぐに俺を見上げた少女の視線と、バッチリ目が合ってしまった。

 この子の思いが嫌というほどわかってしまう。断りたくても断れない。

 ……俺がこの子に出会ったのも、運命なんだろうか。

 これはもう、観念するしかないか。


「……わかった。俺はレナルド。君は?」

「わたしはセレナ。よろしくお願いします、ししょー!」

「師匠か……それじゃ、弟子のために一肌脱がなきゃな」


 こうして、俺に小さな弟子が出来た。




 その日から一週間、俺は少女に――セレナにつきっきりで融合魔術のイロハを叩き込んだ。

 その上達具合は正直言って驚くほどだった。

 一週間で融合魔術を成功させることなど、普通に考えたらあり得ない。だがしかしセレナはそれを軽々と成し遂げた。

 俺が融合魔術を学び始めたころと比べても、それこそ比較にならないほどの習熟速度だ。

 姉にこれ以上迷惑をかけられない、という子供とは思えぬ強い思いが、彼女に力を与えていた。

 一度言われたことは二度と聞き返すことはなかったし、一度犯したミスは二度と起こさなかった。

 もしも天才というのがいるのなら、それは彼女のことだと思った。

 セレナは天才で、同じくらいに努力家だった。


 そして、一週間後。

 俺は王都を旅立つ時が来た。

 元々軽く見て回るだけの予定だった俺の財布の金が底を尽きたのだ。

 これ以上王都にいることは不可能だった。

 幸いにして、セレナはその上達具合を見初められ、見習いとして王都の店に入ることがすでに決まっていた。


「ししょーのおかげで、わたしもちょっとだけお金が貰えるようになったよ?」


 駅のホームで、見送りに来たセレナは嬉しそうに語る。


「おねーちゃんも凄く喜んでくれてる。でも同じくらい心配もされた。『師匠って誰!? 変な人に懐いたら駄目って言ったでしょ!?』って」

「あー……そりゃしょうがないな。お姉ちゃんにごめんなさいって伝えといてくれ」


 大事な妹が毎日知らないヤツのところに行ってたら心配して当然だ。

 セレナの姉にも一度挨拶しておくべきだった、と反省するが、すでに後の祭りである。

 もうあと少しで、セレナともお別れだ。

 何か伝えておくべきことはあるだろうか。……そうだな、これだけは伝えておこう。


「セレナ」


 セレナの頭に手を置く。

 しゃがみこみ、視線を合わせる。


「お前ならあっという間にもっとたくさんお金が貰えるようになる。……でも、これだけは忘れちゃ駄目だぞ? お金のために融合魔術を使ったら駄目だ。『融合魔術が好きだ』っていう気持ちで融合魔術を使え。じゃないと腕はいつまでたっても成長しない。これが俺の最後の教えだ」

「あ、えっと……め、メモするからもう一回言ってほしい……!」


 慌ててポケットから小さなメモ用紙を取り出したセレナが、必死な顔で言う。

 最後にして初めて聞き返されたな。

 俺は思わず吹き出した。


「ぷっ……わかったわかった。ゆっくり言うから良く聞けよ?」

「はいっ!」


 そして、ゆっくりと最後の教えを伝えた。


 それからものの数分で、別れの時はやって来る。


「ししょー、今までありがとうございました! わたし、ししょーに教わったこと、絶対忘れない!」

「ああ。頑張れよ、セレナ」


 どんどんと小さくなっていくセレナは、最後まで俺に手を振っていた。

 俺も同じように、見えなくなるまで手を振っていた。




「……」


 目を開けると、見知らぬ天井があった。

 どこだ、ここ……?

 ……ああ、そうか。昨日新しく建てた、俺の店か。


「久しぶりにセレナとの夢を見たな……」


 再会したからだろうな、間違いない。

 そんなことを思いながら、一階へと下りていく。


「おはようございます師匠!」


 セレナがいた。


「ああ、おはよ……いや、待てよ?」

「? どうかしましたか、師匠?」

「……お前、どうやって入った?」


 ここにセレナがいるのはどう考えてもおかしいよな?

 店は昨日しっかり戸締りしたはずだぞ……?


「『開錠』の魔石を手持ちの鍵に融合して、こう、ちょちょいと」

「犯罪じゃねーか!」


 なんてこった。

 信じて別れた弟子が、知らない間に犯罪者になってやがった。


「あ、大丈夫ですよ! 師匠の店以外には絶対やりませんから!」

「俺の店も駄目だぞ!?」


 はつらつとした笑顔で何言ってんだ!?

 犯罪! 犯罪だから!


 と、騒ぎを聞きつけたのか、エウラリアが頭を掻きながら俺たちの元にやってくる。


「あ、やっと起きたのレナルド? おはよー」

「丁度良かった。エウラリア、お前からもセレナに言ってやってくれよ」

「セレナって意外とはっちゃけてる子なんだねぇ。でも可愛いから許すっ!」


 ……ん?

 あれ、おかしいな。何か今許すって聞こえたんだけど。


「ありがとうございます、リアちゃん!」

「うんうん、どういたしまして」


 ……とりあえず、防犯のためにも鍵はちゃんとした魔道具に換えよう。そう心に決めた。

夢の部分はきもち夢っぽく書きました(意味不明)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ