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40話 寝たふり

「ふう……っ」


 部屋の一室に荷物をおろし、俺はため息をつく。


「レナルド、お疲れかい?」

「まあ、ちょっとな」


 ベッドの腰掛けながら、ぱたぱたと目の前を舞うエウラリアにそう返す。

 正直言うと少し身体がだるい。

 王都初日から色々あって、気づかないうちに体力を消費していたようだ。


「あー、じゃあまた後日にした方がいいかなぁ。話したいことがあったんだけど」

「いや、気にするな。別にぶっ倒れるほど疲れたってわけじゃないし、話なら聞くぞ」


 俺はベッドの隣をボフボフと叩き、座るよう促す。

 疲れてはいるが、大事なパートナーの話を無下にするほどの疲労ではない。


「そ? じゃあ、お言葉に甘えて……よいしょっ」


 滑らかに着地し、そのままベッドの縁に腰掛けるエウラリア。

 それからしばらく、ふんふふーんと交互に足を振る。

 話すタイミングを見計らっているようだ。


「で、聞きたいんだけどね?」

「何をだ?」

「んもう、分かってるくせに。セレナって人の話。キミに弟子がいたなんて全然教えてくれなかったじゃん。ボク、傷つくなぁー」


 ハァ、とわざとらしくため息をつく。

 演技がかってはいるが、まるきり演技というわけでもなさそうだ。


「いや、弟子と言っていいのかどうか……。当時のセレナはまだ五歳だったからな。その上俺の融合魔術の腕もまだまだ未熟だったしで、正直まともなことを教えられた自信はない」


 昔の記憶を思い返す。

 まだ言葉も話しはじめたばかりな幼い子。セレナの印象はそんな感じだ。

 俺が王都を離れてっきり会っていないし、ほとんど何も教えられていないのだから、よく考えてみれば師匠を名乗るのはおこがましいだろう。第一、あっちは俺という存在を覚えているかどうかすら怪しい。なんせ物心ついたばかりだっただろうからな。


「五歳の子に融合魔術教えるってどうなの? 危なくない?」

「……返す言葉もないな。放っておけなくて、つい教えてしまった」


 たしかにエウラリアの言う通りだ。

 融合魔術は殺傷力のある魔術ではないが、融合の過程で火花も飛び散るし、危険があることには変わりない。

 当時の俺はまだその辺りの意識がなっていなかった。だから気軽に教えてしまったのだ。

 今ならそんな幼子に融合魔術を教えたりはしない。危ないからな。


「なんにせよ、基礎の基礎しか教えてあげられなかった子だ。それがまさか、王都一の融合屋になってるとはなぁ……」


 たしかに筋は良かったように記憶しているが……もう十三年も前の話だ。大分記憶もおぼろげである。

 あの時セレナは五歳だったから……今はもう十八歳か。月日が立つのは早いものだ。


「ともかく、秘密にしていたつもりはないが、教えなかったのは悪かった」


 エウラリアは融合魔術の妖精だ。俺の融合魔術に関することは全て網羅しておきたいのだろう。

 その気持ちは前々から知っていただけに、今回は俺の落ち度だ。

 大人しく謝っておくことにする。


「まったく、ボクに隠し事するなんて生意気だぞぉ? ぷんぷんだよ、ぷんぷんっ! ……でもまあ、そういうことなら許してあげる」

「おお、優しいな」

「えへへ、でしょでしょ? もっと褒めてもいーんだよ?」

「いや、甘やかしすぎるとわがままな子に育つというからな。程々にしておこう」

「ちょっと待ってよ、ボクは子供じゃないってばぁー!」


「ぷんすか、ぷんすか!」とあろうことか口で言葉にしているエウラリアを笑いながら、俺はベッドに潜り込んだ。

 瞼が重い。今日はすぐに眠れそうだ。

 話をしたからだろう、瞼の裏にセレナの顔が思い浮かんでくる。あどけない顔の幼子だ。

 あんな小さな子が今や王都で一番の融合魔術師というんだから、何があるかわからない。


「おーいレナルド! 眠りに逃げるのはズルだぞ! ズルズル! ボクを大人と認めろー!」


 ……まあ、妖精であるエウラリアが突如俺の前に現れるくらいだもんな。

 人生ってヤツは俺が思っていたのの何倍も波瀾に満ち溢れているってことか。


「レーナールードー、起きてるのはわかってるんだぞー!」


 掛布団の中に潜り込み、えいえいと肩を踏んづけてくるエウラリア。

 その衝撃で俺を起こそうという考えのようだが、エウラリア自体が軽いせいで全然衝撃がない。微笑ましくて笑ってしまいそうになるのを抑えることのほうが大変なくらいだ。

 このまま続けられたら吹き出してしまいそうだし、ここは寝ていると思わせるために一芝居打つことにしよう。


「うーん、むにゃむにゃ……エウラリアが何を言っても俺は寝てるから聞こえないな……」

「ええっ!? れ、レナルドってば狸寝いり下手すぎるでしょ! そんなのじゃ子供も騙せないよ!?」


 肩の上から聞こえるエウラリアの驚いた声。

 どうやら俺の芝居は大失敗だったようだ。なぜだ、完璧な作戦だったのに。

 くそ、こうなれば次の作戦も望み薄か……? なにせ、子供でも騙されないって言ってるしなぁ。……いや、一応やるだけはやってみよう。


「むにゃむにゃ……エウラリアは優しくて頼もしくて、自慢のパートナーだなぁ……むにゃむにゃ」

「うぇ? え、えへへ……普段はそんなこと言わない癖に、本心ではそう思ってるんだ?……ゆっくり寝ると良いよ。あ、ちょっと布団乱れてる。直してあげるね?」


 めちゃくちゃ騙されてんじゃねえか。

 大丈夫かエウラリア、ここまでちょろいとなんか逆に不安になってくるぞ……。

 あ、掛布団直してくれたのはありがとな。


「じゃあ、ボクも寝ーよおっと。うん、今日はとっても良い気持ちで寝れそう!」


 そう言ってモゾモゾと寝る体勢に入るエウラリア。

 どうやら怒っていたことすら忘れてしまったらしい。


「……」


 薄目を開けて見て見ると、すでにすぅすぅと安らかな寝息をたてていた。

 ……エウラリアのヤツ、俺をこんなに微笑ましい気持ちにさせて一体どうするつもりだ。


「うーん、むにゃむにゃ……。そんなことないって。レナルドだって頼りになるし、一緒にいるととっても楽しいよ……むにゃむにゃ」


 ……本当に寝てるのか? 寝てるんだよな? そうだよな?

 素直に受け取っていいのか、それとも起きていてお返しに俺をからかっているのか、判断がつかない。

 こんなことなら寝たふりなんてするんじゃなかった……!

お待たせしました!

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