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36話 取り調べは即終了で

 警備隊所有の建物へと連れてこられた俺は、シエンタに全てを洗いざらい話した。

 露店を出そうとしたこと。そこで男に声をかけられたこと。言いくるめられついて行くと、暴力で脅してきたこと。

 二人きりの密室で、シエンタは自らの頭の中の情報と照らし合わせるようにコクコクと何度か頷き、時折相槌を返してくれた。

 そして、全てを聞き終えると背もたれに体重を預ける。

 ギィィ、と安物の椅子が軋む音がした。


「なるほど、そういうことか。……話はわかった」

「信じてもらえますかね?」

「ああ、敬語はもういいぞ。貴殿の疑いはもう晴れた。これが反応しないからな」


 そう言ってシエンタは前のめりになり、机の上に置かれていたライトを持ち上げ、こちらに向けてくる。

 ただ光るだけの機能しか備えていないと思い込んでいたそれには、もう一つ魔石がはめ込まれていた。


「……『審判』の魔石か」


 嘘をつくとなんらかの反応が出る魔石。

 何と組み合わせるかによって反応は異なるが、わざわざライトと組み合わせているところから、おそらく光の色でも変わるのだろう。

 俺の発言に、シエンタは「ほぅ」と小さく声を漏らす。


「わかるか。どうやら腕はたしかなようだな、融合魔術師殿」

「レナルドだ。……さっきも名乗ったが」


 敬語は良いと言われたのだ。もう普通に話していいだろう。

 ただ、普通に話すのもちょっと緊張するけどな。なにせこの人からはオーラを感じる。


「レナルド殿か。すまない、人の名前を覚えるのは苦手でな」


 シエンタはそう言いながら、椅子に座る俺をジィーッと上から下まで観察しているようだ。

 なんでそんなことをされているのかはわからないが……変わりにこちらも観察してみよう。


 シエンタの第一印象は、白い麗人だ。

 王都警備隊の特注品である白い隊服は「清廉」を表しているらしいが、シエンタにはこれ以上なく似合っていた。膝丈のスカートに白いハイソックスを履き、その間からは白い肌が覗いているのにもかかわらず、邪な気持ちが全く湧いてこない。

 右側だけを三つ編みにした特徴的な銀髪は利発的な印象で、ツリ目ではない程度にキリリと角度のついた瞳は意思の強さとカリスマ性を感じさせる。

 にもかかわらず唇には女性らしさも兼ね備えていて、向かうところ敵なしだ。

 ついでに胸部も大きく膨らんでいる。エウラリアとは大違いだ。


「あ、なんか今レナルドにけなされた気がする」


 いや、けなしてはないぞ。エウラリアはエウラリアで可愛らしい。

 ただ見た目のベクトルが可愛いか綺麗かで違うだけだ。

 そんなことを表情で伝えようと思うが……難しすぎるな。伝わってるか、この思い?


「……あ、にらめっこ? あっぷっぷ~っ!」


 全然伝わってなかった。

 と、そのあたりでシエンタの観察は終わったようだ。


「うん、やりそうじゃないか。なにより一流の目をしている。融合魔術師のことは何も知らないが、それでも君が本物であるかどうかはわかるつもりだ」

「あんたみたいな人にそう言ってもらえると嬉しいよ」


 これは正直な気持ちだ。

 シエンタが言ったことは俺にもある程度当てはまる。分野が違ったとしても、『凄い人間』が放つ雰囲気というのはなんとなくわかるものだ。

 これほどの雰囲気を持つ人間に認めてもらえたということは、偽りなく誇らしいことだった。


「最近王都は融合魔術師が集まり過ぎて適性試験の基準が厳しくなったらしいが……貴殿なら、それも問題なく合格できるだろうな」


 シエンタは何の気なしに告げる。

 ……え、ちょっと待って。


「……試験って、アイツラが俺を騙すためについた嘘なんじゃ?」

「いや、試験自体は本当にあるぞ。王都の融合魔術師の質を落とさないため、新しく店を始めようとする者には融合魔術師適性試験を受ける義務がある」


 マジか。


「じゃあ、本当にあのまま露店を出してたら、俺は警備隊に御呼ばれされることになってたってことか?」

「まあ、遅かれ早かれそうなっただろうな」


 落ち着いた声で答えるシエンタ。

 てっきり、俺を裏通りに連れていくための方便だとばかり思っていたが……。


「なら、そこだけはアイツラに感謝……できないな、うん」


 危うく有り金全部持ってかれるところだったし。

 感謝はしない。


「クククッ、貴殿は面白い。悪党に感謝する必要などないだろう」


 シエンタは楽しそうに笑う。

 笑うと女性らしさが増すな。思わず見とれるところだった。


「そうだ、なんなら今から試験を受けるか? 私が話を通してやるが。なんでも、特別いい成績で試験を通過した者には、店を出すための一等地が与えられるらしいぞ?」

「ありがたい、お願いするとしようか」


 願ってもない申し出だ。受けるよりほかにない。

 ただし、問題が一つある。


「でも、一等地はいらないな……。その特典?って、拒否することもできるのか?」


 俺は別に、大人気になりたいわけではないのだ。

 ただ、実力を高めたいだけ。

『王都で一番腕のある融合魔術師』にはなりたくても、『王都で一番人気のある融合魔術師』にはなりたくない。

 そんな俺にとって、一等地という特典はむしろマイナスなものになりえた。


「うんうん、レナルドってそういう人だもんね。ボクはわかってたよ」


 エウラリアが机の上でウンウンと頷く。

 そうだな、お前はこの気持ちを理解してくれる数少ない存在だ。感謝してるよ。


 で、そこのところはどうなのだろうか――とシエンタに視線を移すと、彼女はぽかんと間の抜けた表情をしていた。

 凛々しかった眉が上がり、まるで邪気のない乙女のような顔をしている。

 俺が呆気にとられているとその理由に気がついたのか、シエンタはゴホンと紛らわすように咳をして、元の凛々しい顔に戻る。

 しかしやはり少し恥ずかしかったのだろう、頬が僅かに染まっていた。


「……すまない、少し驚いた。貴殿は自分が一等地を受け取ることを確定事項のように話すのだな」

「気に障ったか? なら悪いな。でも、正直確信レベルの自信はある」


 その程度もできないんじゃ、エウラリアに愛想尽かされちゃうしな。

 今度はしっかり俺の思っていることが分かったのか、エウラリアはにししと笑う。


「ふむ、自信がある男は嫌いではないぞ。では望み通り、話を通してくる。ここで少し待っていてくれ」


 そう言い残し、シエンタは部屋を出て行く。

 中には俺とエウラリアだけが残された。


「すごい自信だねぇ、レナルド」

「ああ。オーシャニアの街での経験が、かなり俺に自信をくれたみたいだ」


 そんなことを言うエウラリアに俺は答える。

 シエンタがいなくなった今、話しているところを見られることもないだろうしな。


 実際、昔よりも自信がついてきたように思う。

 技術に経験が伴ってきたからだろうか。それならば嬉しいのだが。


「うん、良い感じ! カッコいいよ!」


 俺の目の前に浮かびあがりながら、エウラリアがグーサインをしてきた。


「……褒められると、あれだな。どうしたらいいかわからんな。こ、困った」

「カッコよさ消えたよ!」


 マジか。刹那で消えたな。

 まあ、消えてしまったのなら仕方ない。

 元々そんなものに拘ってはいないし。




「レナルド殿、待たせたな。今しがた話をつけた。付いてきてくれるか?」

「ああ、わかった」


 数分後、戻ってきたシエンタに従い、俺は密室の部屋を出る。

 融合魔術師適性試験か……どんなものなんだろうな。楽しみだ。

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