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第五節【始まり】

目の前の光景に、誰もが固まって動けずにいた。


 呆然と自分の胸から生える腕を見ていると、背後から何かが動く気配を感じた。


「……く、そっ」


 無理矢理首だけ動かして背後を見ると、地面に水溜りのように溜まった“影”から、漆黒の腕が伸びて俺を貫いていた。


「…う、嘘…」


 遠くで掠れた声が聞こえる。

 そこには目を見開いて絶望の表情を浮かべる玲奈の姿があった。


 玲奈はフラフラと歩きながらこちらに近付こうとするが、途中で見えない壁にぶつかり止められてしまう。

 にも関わらず、玲奈はこちらから目を逸らさず、息を荒くしながら見えない壁を殴り始めた。


「櫂斗君が!!このままじゃ櫂斗君が死んじゃう!!!通してよ!!?早く!!!」

「……!!玲奈駄目っ!!」


 玲奈の激昂を目の当たりにした恵美が正気に戻り、見えない壁を殴り続ける玲奈を諫める。

 しかし玲奈はそんな恵美を振り払うように激しく動いて抵抗している。


「離してお姉ちゃん!!だって、櫂斗君が!櫂斗君がぁ!!」

「きゅ、救急車を!!け、携帯はっ…!?…ダメッス!圏外になってるッス…!!」


 救急車を呼ぼうとした健太だったが、携帯が使えないと知ると項垂れてしまう。

 どうやら円の中は電波が届いていないらしい。


「…―――っ。―――ゴハッ!」


 俺は玲奈を安心させようと声を出そうとするが、口から漏れるのは掠れた息と逆流した血だけで、言葉は発せられなかった。



 すると、“影”は腕を強引に引き抜き、再び地面に溶けて消えてしまった。


 胸を塞いでいた腕が抜かれたことで、胸の穴から血が溢れ出し、瞬く間に地面に血溜まりが広がっていく。


(…ッ!ヤベェ…。この出血量じゃ処置をしても……死……)


 支えを失った俺は、血溜まりの中にうつ伏せに倒れ伏してしまう。

 倒れたままの体勢で顔だけを玲奈達に向ける。

 すると玲奈達の足元の光の線が変形し始め、何かの模様を描き出した。


「な、なんだよコレ!?魔法陣…?みたいな…」

「くそ!!ヤバいって!!!早く出ないと、なんか絶対ヤバいって!!!」

「出して!!ここから出してよ!!!」


 魔法陣に気付いた生徒会メンバーが取り乱し始め、円に沿って抜け道がないか探したり、見えない壁をよじ登ろうと様々な方法で脱出を試みている。

 

 そんな中、玲奈と恵美、健太だけは、自分達のことよりも倒れ伏す俺を見ていた。



 そんな状況で櫂斗は、冷静に、ただ冷静に思考を巡らせていた。 



 (…失われていく)



 血が。


 意識が。


 己の意思が。


「…水瀬さん駄目だ!!これ以上は君が壊れてしまう!!」

「いやぁ!!離して!…櫂斗君が、櫂斗がぁ!!」


 意識は朦朧としており、霞む視界に映るのは悲痛な顔で俺の名前を叫ぶ玲奈の姿。

 そしてそれを止めている英雄。

 英雄の横で綺麗な顔を歪めて零れそうな涙を堪えている恵美姉。

 そして何も出来ずに項垂れて涙を流している健太達の姿だった。


 玲奈は力が抜けたように地面にへたり込む。

 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をしても尚、弱々しくこちらに向けて手を伸ばしてくるが、それは見えない壁によって阻まれる。


「どうして…!?」


 涙を流しながら見えない壁に毒吐く。


「………。ごぷ……」


 そんな彼女の名前を呼ぼうと口を開けるが、血が溢れ出るだけで、やはり声を出すことはできなかった。

 

 

 その時、みんなの下に描かれた魔法陣が光を発し始めた。


 魔法陣から光の柱が空に伸び、辺りを昼間のように照らし出す。



「櫂斗君…起きてよ…ねぇっ…!!」


 

 強くなる光。


 その光に飲み込まれていく少女を為す術なく見る事しかできない自分が、ただ不甲斐なく自然と目から涙が溢れた。

 俺は残った力を振り絞り、手を玲奈に向けて伸ばす。

 届かないと解っていても、伸ばさずにはいられなかった…。



「…―――。」


 

 そして魔法陣から放たれる光が、目を開けていられない程に強くなり、瞬く間に世界は白夜となった。


 俺はその光に、その向こう側に飲み込まれていく幼馴染を見送る事しかできない。



 

 そして―――



 「櫂斗ーーーーー!!!」


 


 光の奔流

 



 永遠に続くと思われた白夜だったが、その光も徐々に収まり始める。


 そして間もなく見慣れた風景が戻ってきた。


 光が収まり元に戻った世界。


 しかしそこには幼馴染の姿は無かった。


 そこにはただ一人、胸の穴から血を流し続ける俺だけが残されていた。



 ぽっかりと空いた胸の穴を喪失感が埋め尽くす。


 そんな中、大量の血液を失った俺は、意識を、失った―――。



   §∞§∞§



=     =



―――始まるよ。



   ―――新しい物語が。



      ―――きっと今度こそ。



         ―――全て上手くいく。





               ―――そう、全ては***の為に………



   §∞§∞§



= 玲奈 =



 ―――手を伸ばした。


 

 私の大切な人に。



 ……でも、伸ばした手は届かなかった。



 私は無力なのだと、嫌という程痛感させられた。



 何もできず、ただ涙を流し続けるしかできなかった。



 そして、視界を光が埋め尽くした。



 光の向こう側に倒れ伏せる彼を残したまま。



 傷付き、倒れながらも、こちらに手を伸ばす彼を残したまま。



 私は彼を助けることが出来なかった……。



 それが、私が見た、最後の光景だった―――



   §∞§∞§



 硬い地面の感触に、次第に意識が覚醒に向かっているのを感じた。

 

「………ぅ、ん」


 薄っすらと目を開けると、辺りは暗闇に包まれていた。

 石畳の床に寝ていたらしく、体中が軋むみたいに痛む。


「…ここは?」


 暗闇に目を凝らしてみたけど、一向に目が慣れる様子がない。


「…誰か、居ないのか?」


 すると暗闇の中から知った声が聞こえた。

 皇君の声だ。


「皇君?どこに居るの?」


 先程とは別の方向からも聞こえる。

 今の声は、琴美ことみちゃんの声だ。


「何も見えないな…。皆、声を出し合ってお互いの状態を確認しよう!」


 皇君の提案で、暗闇の中で点呼が行われていた。

 どうやらここには、生徒会のメンバー全員がいるらしかった。


 皆は突然こんな場所で目覚めて困惑しているようだった。

 皇君は皆がパニックにならないように声をかけ続けている。

 

 そんな中、私は冷静に現状の把握に努めてみた。


 地面は石畳で出来ており、立ち上がって手を前に出して歩いてみると、すぐに壁に到達した。

 そして壁伝いに歩いてみると、またすぐに壁にぶつかる。


 どうやら、四畳半くらいの広さの部屋らしく、最後の壁には鉄製の扉が嵌っており、押しても引いてもビクともしなかった。


「…玲奈、大丈夫?」

「お姉ちゃん?…うん、私は平気。お姉ちゃんも無事?」

「ええ。私も大丈夫。…さっき壁におでこをぶつけただけ」


 どうやらさっきの点呼の途中に聞こえたの鈍い音と、可愛らしい呻き声はお姉ちゃんの声だったらしい。


「そっちの部屋はどう?外に出られそう?」

「扉があるけど、開きそうにないわね。そっちも同じ?」

「うん。…部屋の構造は同じみたい」


 その後も暫く部屋を探索していたが、特に脱出できそうな仕掛けもなく、ただ時間だけが過ぎていった。

 皆も徐々に不安が大きくなったのか、言葉数も減っていき、今では静寂な時間の方が長くなっていた。



 どれ程の時間が経っただろうか?


 遠くから金属音が響いた。

 その音は徐々に近づき、そして私の前の扉からも同じ音が鳴った。

 試しに扉を引いてみると、特に抵抗もなく扉が開いた。

 

 扉を潜ると階段が上に伸びており、遠くには光が見えた。

 通路は細い一本道で、誰とも擦れ違わない。

 階段を上ると、再び扉に辿り着いた。

 先程の鉄製の扉とは違い木製の扉で、扉の上部には小窓が付いており、そこから柔らかい光が通路に差し込んでいた。


 私は意を決して、扉を押し開けて外に出た。



「……ここは?」



 扉から出ると、そこは高い灯台の見晴台の上だった。

 私は手擦りに駆け寄って周囲を見渡してみる。


 灯台は広大な湖の片隅に建っており、湖とは反対側には世界遺産にも登録されていそうな石造りの大きな街が存在していた。

 

 僅かに聞こえてくる街の喧騒と、石造の家から漏れ出る光が、確かにそこに人が生きていることを感じさせた。


 空を見上げると、見たこともない量の星々が輝く夜空が広がっていた。


 目に見える物総てが、この世とは思えないような、それ程まで目の前の光景は美しかった。



 だからこそ理解させられる。


 今、私が立っているこの場所が、日本ではないのだということを。

今日から遅めの夏休み!(五連休

この連休で第一章は上げきって見せる!!


そして願わくば、第二章にも突入したい、けど高望みはしないっ!(ぉぃ



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