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異世界神話の異端者《ワールド・ブレイカー》  作者: mossan
第一章【止まない雨】
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第十節【賢人の正体】

 目を開けると、リズナとマークが俺を見下ろしていた。


「……ぁ゛~。おはよう?」


 というか、俺は何で気を失っていたんだ?その辺りの記憶が全くないんだが……。


「あの魔物を倒した後、突然気を失ったんだ。覚えてないのか?」

「あぁ……」


 体を起こしながら体を確認する。

 すると、体内の魔力が殆ど残っていないことに気が付いた。どうやら久振りに魔力枯渇で気を失っていたみたいだな。情けない…。


 よっと、立ち上がると一瞬ふらついてしまうが、脇に居たリズナが支えてくれた。

 そういえば、リズナも元の姿に戻っているな。ちゃんと戻れて安心した。


「それにしても驚いたよ。君が倒れたと思ったら、君の持ってた武器が形を変えて彼女になって、しかも……」


 そう言ってマークは俺の胸元を見つめる。視線に釣られて目線を下すと、そこにはイリアが下がっていた。


『ごめんなさい、カイト。気を失ったあなたの診断をする為に、彼に事情を話しました』

「いや、俺を心配してくれたんだろ?ありがとうな、イリア」

『いえ、……どういたしました』


 周囲を見渡すと、俺の放った一撃で貫いた天井はそのままになっており、遠くに転がっているハンスの他に女の子が一人、湖から上半身を出した状態で倒れているが、リヴァイアサンとガジロスの姿は見つからなかった。


「ガジロスなら、君がリヴァイアサンを討ち取った時、悲鳴を上げながら逃げて行ったよ」


 そういや気を失う寸前、ガジロスの方を見たら武装が解かれたガジロスが大慌てで逃げていく後姿が見えたような……。その後すぐに意識を失ったからハッキリとは覚えてないが、リヴァイアサンへの一撃を見て心折れたんだろうな。


 俺が倒れている少女を抱きかかえて水辺から離れた所に寝かせていると、広間に振動が走り出した。


「今度は一体なんだ!?」


 突然の振動にマークが周囲を警戒し、リズナは俺の服にしがみ付いてきた。

 俺は湖に視線を向ける。すると、湖の水位が徐々に下がり始め、湖の底へと続く階段が姿を現した。


「湖に階段が…?しかも底にあるのは、祭壇か……?」


 マークの言う通り、湖の底には祭壇が現れ、階段はその手前まで続いていた。


 俺はゆっくりと階段を下り始める。それに続くようにリズナとマークも階段を下りてきた。

 階段を下り切ると、祭壇の前の足場には、かつて見た物に似た魔法陣が刻まれている。


『懐かしい、ですね』

「……あぁ」


 イリアも俺と同じことを考えていたようだ。


 俺は何の躊躇いもなく魔法陣の上に乗ると、魔法陣から湖の壁に光の線が無数に走り、暗い穴の底を煌々と照らし出した。


「キレイ……」


 その幻想的な光景に息を呑むリズナとマーク。

 しかし、俺の視線は祭壇の上部に、そこから生み出される物に向けられていた。

 そこには一枚のカードが浮かび上がっており、完全に形を成すと、自然と櫂斗の手元に落ちてきた。

 

『【海歌姫セイレーン】のカードですか』


 カードには長い髪が鳥の翼のような羽が付いている、美しい女性の姿が描かれていた。


「これで二枚目、か」


 そう言って腰のホルダーにカードを仕舞いこんだ。

 振り返ると、マーク達が何か聞きたそうな顔をしていた。


「これは、迷宮の攻略した時に出てくる、まぁ、攻略の証みたいな物だ」

「攻略の証。カイトは他にも持っているのか?」

「あぁ。といっても、これで二枚目だけどな」

「二枚……つまり、カイトは他にもこんな迷宮を攻略しているのか。

 ……流石は“賢人”と呼ばれるだけのことはあるな」

「いや、偶々運が良かっただけ……」


 と、言いかけて動きが止まる。

 今マークは何と言ったか……“賢人”?


「……なんで“賢人”の名前がここで出てくるんだ?」

『カイト、あれだけの力を使っておいて、今更誤魔化すことはできないでしょう……

 というか、さっき彼と話をした時に聞かれたのでイエスと答えておきました』

「お前の所為かよ!!!?」

『いえ、私が答えなくとも彼は既に確信を持っていたようでしたので』


 まぁあれだけのドンパチを繰り広げたんだ。マークは聡い奴だし、気付いてもおかしくはない、のか?


 そう、今更ではあるが、お伽話に出てくる“賢人”と呼ばれる人物の正体は櫂斗だ。

 “賢人”がこの世界に現れたのは今から約五百年前だった。

 櫂斗は目覚めた遺跡から出た後、五百年後の悲劇を回避する為に世界中を飛び回っていた。

 まず手始めに世界に新たな魔法の概念を提示した。

 その後は世界を巡り歩き、帝国に虐げられていた異人種達を保護し、彼らが安心して暮らせる場所を創り出した。

 疫病に苦しむ村落を救い、救われた民が王国を建国した。

 帝国に反乱した民族に手を貸し、共和国の建国に手を貸した。

 ギルドを設立し、いずれこの世界に訪れる同郷の人達を保護する居場所を作った。更に、コツコツ創り貯めた魔導具アーティファクトをギルド本部の地下に置き、いずれ来る召喚者の手に渡るようにした。


 そして、今、櫂斗は再び動き出した。

 理由は友を救う為だったが、それでも動き出すことを決意した。

 これからはもう身を隠すこともせずに行動をするだろう。もうノンストップで走り出す。それくらいの気概を持って動く。

 そう決めた。


「まぁ、もう隠す理由も無くなったしな。だからといって広く宣伝するつもりは更々ないけどな」

「どうしてだ?あれだけの力があれば、いや、今までの歴史を考えたら、王国でも共和国でもかなり高い地位を得ることも、それこそ新たな国だって作ることも出来そうだけど……」

「まぁ、そんなものには大して興味もないしな。そこん所は、まぁ時間が出来た時にでも話すよ。

 それより今は、早く屋敷に戻ろうぜ?」


 疑問を抱くマークを置いて、俺は階段を上り始めた。

 俺には目的がある。その目的を為し遂げる為に必要なものは何でも利用するつもりだが、必要以上のものは持ってても意味はないからな。


 階段を足早に上り終えると、俺は倒れ居る少女を抱きかかえた。

 そして後から上ってきたマークに、入り口横で絶賛気絶中のハンスを抱えるようにアイコンタクトを送った。

 マークは苦笑いしながらもハンスの首根っこを掴んで引き摺りながら付いてくる。


 帰り道は楽だった。

 来る途中に狩り尽した魔物は、まだ復活していないお陰だ。

 来た道を戻る最中、折れた相棒(颯天)を回収し俺達は間もなく迷宮の出口に辿り着いた。


「……ぁ」


 外に出ると、島の人々を長年悩ませていた雨は上がっていた。

 分厚かった暗雲は薄れ、散り散りとなった雲の隙間から太陽の日差しが【ジャパリア島】に降り注いでいた。


「雨が……止んだ……」


 マークは呆然とそう言った。二年間もこの異常について調査をしていたんだから感慨深いんだろう。

 

「さっ、帰ろうぜ。マリスさんが心配して待ってるんだから、ちゃんと謝れよ?」

「ぁ、あぁ。解ってる……すまな、いや、ありがとうカイト」


 俺の顔を真っ直ぐ見ながら礼を言うマークに、俺は肩を竦めながら来た道を戻った。



§∞§∞§


= マーク =



 屋敷に着いた時は夜も更けていた。

 昨日の早朝、あの屋敷を出た時には帰ってこれない覚悟もして出立したものだが、私はこうして生きて帰ってこれた。


 あれから私達は、私が乗ってきた馬とリズナが乗ってきた馬に分かれて乗り屋敷への道をゆっくりと戻ってきた。


 道中も雨が降ることは無く、本当に問題を解決することができたと実感が湧いてくる。

 といっても、私が成したことではなく、前を往く彼が、カイトが成してくれたことなんだが。


 彼と初めて会った時、その力を見て、迷宮探索に手を貸して貰おうという下心から近付いた。

 悪い言い方をすれば、力目当てだったのだ。


 だというのに、彼は駆けつけてくれた。

 生きて帰れるかも解らない迷宮に、単身で。

 そして彼は、私の期待通り、いや、期待以上の成果を出してくれた。


 一体彼にはどんな礼をすればいいのだろうか……。

 いや、彼のことだから礼などいらないと言うかもしれないな。

 だからこそ、いつか彼が力を貸して欲しいと思った時に手を貸せるよう備えよう。


 そんなことを考えていると、遠くに屋敷が見えてきた。

 屋敷からは灯りが漏れており、まだ人が起きていることが見て取れた。

 今屋敷に居るのはたった一人だ。その彼女がこんな真夜中まで、帰ってくるかどうかも解らない私を待っている。その姿を思い浮かべるだけで申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


 そんな気持ちでいると、いつの間にか屋敷の前まで来ていた。

 私が門の前で入ることを躊躇っていると、隣にいた櫂斗は私の様子など気にも留めることは無く門を開け放った。


 すると、門を開けた音を聞いたマリスが、玄関の扉を開け放って外に飛び出してきた。


 彼女は、門から入ってきた私達に目を向けると、両目を見開いた。

 しかしそれは一瞬の出来事で、すぐに目にいっぱいの涙を浮かべて駆け寄ってきた。

 私はそんな彼女になんと言葉を掛ければいいのか解らずに固まってしまう。その間にマリスは私の目の前まで来ると動きを止め、涙を浮かべた目のまま私を睨んでくる。

 困ったように目線を逸らすと、カイトが私を見ていた。彼の視線を受けて、私が何を言うべきか、ようやく解った。


「……た、ただいま、マリス。心配を掛けてすまなかった」


 そう言うと、マリスは勢いよく手を振りかざした。

 私は殴られることを覚悟して両目を固く閉じ、来る衝撃に備えた。


 しかし、覚悟した痛みは一向に訪れなかった。

 恐る恐る目を開けると、同時にマリスが抱き着いてきた。


「おか、おかえり、な、さいませ……!!ご主人様ああああああ!!!」


 抱き着きながら、嗚咽を漏らしていた。

 抱き締める力の強さ、正直痛いくらいの強さだったが、今はその痛みすら尊いものに感じた。

 私は、マリスの背に手を回すと、優しく背中を撫でた。泣いた子供をあやすように、何度も、何度も。

 繰り返し撫でる内に、私の目からも涙が零れ落ちた。


「ご主人様……マーク様、私は、マリスは、マーク様をお慕いしております!!

 私の全てはマーク様のものです!!死ぬ時も、あなたの為にこの命を捧げたいと思っております!!

 ですから……ですから、もう私を置いていかないで下さい!!」


 愛の告白だった。

 普段のマリスからは想像もできない程感情的になっていたが、それでも彼女のその必死な想いは伝わってきた。


 暫く抱き合っていると空が白み始め、太陽が昇ってきた。

 暖かい陽光に包まれつつ、私達は涙を流し続け、生還した喜びを分かち合い続けた……。



§∞§∞§


= 櫂斗 =


 マークは屋敷に入ると、緊張の糸が切れてしまい倒れるように眠ってしまった。今は彼の自室へ運び、ベッドに寝かせている。

 マリスさんはというと、そのままマークの横の椅子に腰を下ろして眠ってしまった。

 マークはもちろん、マリスさんも彼が無事に帰ってきたことに安心して気が緩んだんだろう。


 俺達はというと、空いている客間に気を失っている少女を寝かせると、割り当てられた部屋に戻り、ようやく人心地ついた。


『今回もなんとかなりましたね』

「ああ……。だけど、色々と引っ掛かる所が多かったな」

『引っ掛かる所ですか……』


 まずはハンスの脱走。

 逃げ出した方法もだが、脱走後、躊躇いもなく迷宮に向かったこと。そして、身に着けていた魔導具アーティファクトについてだ。

 そこらで手に入れることも出来ない、国宝級の魔導具アーティファクトを身に着けていたことが不可解でならない。


 次にガジロス。

 致命傷だった傷をどうやって癒し、更にハンスと同じ魔導具アーティファクトを装備して迷宮で俺を待ち伏せていた。

 更に、今隣の部屋で寝ている少女についてだ。ガジロスと共に現れ、武装となってガジロスに強大な力を与えていた。

 ガジロスは一体どこで魔導具アーティファクトと少女を手に入れたのか……。

 一連の出来事が無関係とは思えない。

 裏で今回の出来事を仕組んだ何者かが居る筈だ。

 その何者かの存在が、ただただ気持ち悪かった。


『解らないことにいつまでも頭を悩ませていても仕方ありまんよ』

「解ってるよ。これからのことも考えないといけないし……、どうすっかな~」

「……ぅみゅう」

「ん?」


 隣を見ると、リズナが目を擦りながら船を漕いでいた。

 よく考えてみたら、こんな幼い子が長い時間馬に乗って走り、しかも迷宮に入った後は戦闘に巻き込まれてしまったんだ。

 普通ならどこかで折れてしまっていてもおかしくない。

 それをこの子は、こんなに小さいのに乗り越えたんだ。


「まぁ、色々考えるのは今じゃなくて、起きてからでもいいだろ……。今日はもう寝るかな」

「……ん」


 思い立ったがなんとやら、俺はすぐに寝巻に着替えるとベッドに寝転がった。

 すると同じく寝間着姿になったリズナが下から潜り込んできて、俺の腕を枕にしてくる。

 ……まぁ、もうすっかり慣れたけど。


「おやすみ、二人とも」

「……な、さい」

『お疲れ様でした。二人とも、今は存分に休んでください』


 すぐに隣から規則正しい寝息が聞こえ始める。


 その寝息を聞きながら、俺の意識も闇に飲まれていった……。



§∞§∞§


= ガジロス =


 俺は迷宮から出て、夜の森の中をがむしゃらに走り続けていた。


「はぁはぁはぁはぁ!!……クソっ!!クソっ!!クソっ!!クソオオオオオオオオオオオオ!!!」


 フザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナ!!!!!


 なんであの男が俺と同じ力を使える!?どうして俺以上の力をあの男が持っている!?俺に…俺だけの力のはずなのに、俺が選ばれた筈なのに!!!なのになぜ!?どうして今、俺はこんなにも惨めに逃げているんだ!!!?



―――ガッ!!


「グアッッ!!!?」


 出っ張っていた木の根に足を取られ、片腕がないことで体制も立て直せずに転倒してしまう。

 口の中に広がる土の味が、更に惨めな気持ちにさせ、俺をより一層苛立たせる。



「………」



 そこでようやく、自分を見つめている存在に気付いた。


「テメェ……」


 あの男だ。


 俺を助け、魔導具アーティファクトとあの女を渡した白外套を纏った野郎が、無様に転がった俺を見下ろすように立っていた。


「どういうつもりだ!!あの力は俺の、俺だけの力じゃなかったのか!?

 なのにどうしてアイツが、俺以上の力を持ってるんだよ!!!」


 俺の怒鳴り声を聞いても、白外套は全く反応しない。

 それどころか、一歩ずつこちらに近付いてきている。


「お疲れさまガジロス。君はちゃんと役目を果たしてくれたよ」

「役目……だと!?」


 白外套のフードの隙間から目が見えた。

 冷たい眼差しだった。まるで、路傍の石を見るかのように、俺に何の興味もないということが、ありありと伝わってきた。


「あぁ、やはり私の目に狂いはなかった…あの人こそ、―――だ……!!」


 その目が徐々に得体のしれない光が宿り始めた。

 そして、その狂気を孕んだ目に映る自分が震えていることに気付く。


「できれば君には、あの場で殺されて欲しかったけど……まぁ、それは次の機会のお楽しみに取っておこう。

 ボクは楽しみは後に後にってタイプだからね!」


 一歩、一歩、俺に語り掛けながら近付いてくる。


 立ち上がって逃げ出そうとも考えたが、体に力が入らず起き上がれない。


 そして、白外套はおもむろに手を翳すと、笑みを浮かべたまま、



「ありがとう。そして、さようなら」



 暗い森の中、白外套の手が光り、一瞬世界が光に染まった。


 それがガジロスが見た最後の光景だった……。



「さぁて、次はどうするかなぁ……!」



 誰も居なくなった暗闇の中に、不気味な声が響き渡った……。

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