第四節【ガジロス盗賊団】
翌日。
旅支度を終えた俺とリズナ、そしてクウマは再びギルドに訪れていた。
ここからジャパリア港に向かう方法として、丁度ギルドに依頼が来ていた『商団の護衛任務』を受けに来たのだ。
別に金に困ってる訳ではないが、あるに越したことはないからな。
稼げる時には稼ぐのが俺のスタンスだ。
早速受付で依頼を受けギルド支部の裏に回ると、商会の馬車が止まっていた。
「どもども~。クレイアーク商会のアモイと申しますデス~!
お兄さん達~、今日は護衛の依頼を受けて頂いて感謝しますデス~!」
アモイと名乗った彼女は、外見はリズナより少し年上の見た目の少女で、薄い茶髪の髪を短く切り揃えており、商人らしさの欠片も無い屈託ない笑顔を見せていた。
「俺は鳴神櫂斗。それで、この子はリズナだ」
「……ん」
「そんで俺はクウマってんだ。よろしくなっ」
「はぃ~、よろしくお願いするデス~!
私は見た通りに戦闘力は皆無なので、頼りにしてるデスよ~!」
アモイはそう言って元気に敬礼した。
彼女が所属する【クレイアーク商会】とは、【クオリア】で唯一、世界中で商いを行うことを認められているクレイアーク一族が興した組織だ。
世界中とは、あの【ガルト帝国】も含まれている。
あの鎖国気味で入出国の規制が厳しく、今や世界規模で展開しているギルドですら受け入れられていない帝国でも商いをすることを許可されている唯一の商会だった。
そんな商会の、こんな島国とはいえ商団を纏めている代表がこんな小さな女の子であることに少なからず驚いていた。
「にしても、お嬢ちゃんみたいな子が【クレイアーク商会】の商人とはなぁ」
「アハハ~。こんなちんちくりんなナリをしていますが、こう見えても結構やり手の商人なんデスよ~?」
アモイは小さな胸をエヘンと張って、握った右手で胸を叩く。…あ、咽た。
「ェホケホ……!
コホン……。それではそれでは~、早速出発しようかと思いますデス~!
道中は魔物だけでなく、盗賊も出没しているみたいですから、期待してますデスよ~」
その言葉を合図に、俺達は馬車へ乗り込んだ。
商団は三台の馬車で編成されており、先頭の馬車に商団員と俺達が乗り、残りの二台に物資が積み込まれていた。
いつもなら、十台を超える馬車から成る商団であったみたいだが、不作の影響がここにも表れているようだ。
ここから【ジャパリア港】までは街道沿いを走り、一つの集落を経由して向かうらしい。
途中、街道は森の中を通り、そこが盗賊に狙われ易いとのことだった。
・
・
・
馬車は途中に現れる魔物を狩りながらも順調に進んだ。
クウマは〔銀ランク〕に相応しい実力を持った男だった。
剣鉈と弓を巧みに使いこなし、俺が前衛の時は弓で援護を、俺が後衛の時は剣鉈を振るって前衛を器用にこなしていた。
そうして俺達は、例の森の街道に辿り着いたのだ。
「ここが例の森か」
「はい~。この森のどこかに、盗賊団のアジトがあるそうなんデス。
【ビエイド】に居た盗賊達も、この盗賊団の傘下みたいデスね~」
「あぁ、あいつらか…」
「???」
【ビエイド】に居た盗賊は、昨日俺が壊滅させた奴等のことだろう。
「いやな、昨日潰された盗賊達ってのはさ、カイトが一人で壊滅させたんだよ!」
「はえ~…お一人で、デスか~。それはスゴイデスね~!!」
昨日の奴等はそれ程戦闘力は高くなかったからな。
それこそクウマの実力なら、余裕に一人で制圧できるくらいだった。
「ちなみに、彼等は【ガジロス盗賊団】と名乗っているらしいのデス。
団長のガジロスは元帝国兵で、帝国から抜けて訪れたこの【ジャパリア島】で、商団や集落を狙って強盗をしているのデスよ~」
「…元帝国兵、か」
【ガルト帝国】にはあんまり良い思い出ないんだけどなぁ。
怖いし堅苦しいし寒いんだもん…。三重苦だよ。あの国。
そんな話を聞いていると、胸のイリアが少し震えたのを感じた。
瞬間、俺は《探知》を発動して周囲を調べた。
(…囲まれてるな。多い)
馬車を取り囲むようにして、五十を超える人数がこちらの様子を窺っている。
クウマは俺の様子が変わったことを察知して己の武器に手を掛けた。
「…どれくらい居る?」
「五十以上居るな…。囲まれてる」
「五十デスか!?」
アモイは俺が敵を探知していることよりも、取り囲んでいる敵の数の方に驚いているようだ。
確かに、普通に考えたらそんな数の盗賊に囲まれていればテンパってもしょうがないだろう。
だが、そんな中でもクウマは落ち着いていた。
荷物の中から剣鉈を二本取り出して腰に差すと弓矢を持って外の様子を窺っている。
そんな中、リズナは不安そうな顔をして俺の服の裾を掴んでいた。
「安心しろ、リズナ。この程度の相手、すぐに倒してくるからな。
昨日だって、ちゃんと約束守っただろ?」
「……ん」
俺はリズナの頭に手を置いてから〈颯天〉を掴んで馬車から降りた。
外に出ると同時に、俺達を囲んでいた盗賊達の動きも止まった。
俺の後に続いて降りてきたクウマも、周囲の気配に怪訝な表情を浮かべていた。
(反応は動いていない。こちらの様子を窺っているのか?)
暫く敵の出方を見ていると、集団の中から一人の男が出てきた。
「【ガジロス盗賊団】の頭領、ガジロスだ!
荷と女を置いていけば苦しまないように殺してやる!!」
うわぁ…。B級映画の悪役かよ…。
ガジロスと名乗った男は、二メートルを超す巨漢で、盗賊らしい軽装に似つかわしくない大剣を二本背中に背負っていた。
顔には大きな傷跡があり、雰囲気だけなら歴戦の戦士の風格を醸し出していた。
「残念だけど、お前等に渡す物なんて何もない。
今なら見逃してやるから、何もしないでさっさと帰った方が身の為だぞ?」
わざわざ忠告してあげる僕、優しいなぁ。
そうしみじみと思っていると、俺達を取り囲んでいた者達の雰囲気が変わった。
……悪い方に。
「……聞き間違いか?今、『見逃してやる』って言ったのか?」
「ん?意味が解らないか?
…えっとな?まだお前等は俺達に危害を加えてないからな、このまま何もせずにアジトなりに帰ってくれれば、俺もお前達を殺さなくて済む。ってことなんだけど?」
―――ブチッ
ん?何だ、今の音。
「……は、ハハッ!聞き間違いじゃねえか!そうかそうか!!
……テメエ等全員皆殺しだ!!!女子供も例外じゃねえ!!」
その言葉を引き金に、周囲の盗賊達が一斉に馬車に向けて動き出した。
「敵の数は六十五人だ!!クウマは援護をしてくれ!!」
「…あいよ!」
俺はクウマに支持を出すと、すぐさま《ブースト》を発動させ〈颯天〉を抜き放った。
「《炎壁》!!」
馬車を囲むように《炎壁》を発動させ、盗賊達から守る。
「魔法!?こいつ、魔術師か!!?」
突如現れた炎の壁にガジロスが驚きの声を上げる。
驚いたのはガジロスだけではなく、配下の盗賊達も足を止めて呆然としていた。
櫂斗は一度深く息を吸うと、一気に馬車から一番近い敵に肉薄し、肉眼では視認できない一振りでその首を刎ね飛ばした。
「敵は殺す」。元の世界とは違い、命が軽いこの世界において、情けをかけることは後々自分の首はおろか、周囲の者の首をも絞めかねない。
故に櫂斗は、殺意を持って向かってくる“敵”に対しては一切の容赦をすることは無い。
それが、“今の”櫂斗だった。
首を失い、倒れ伏せる盗賊。
それを合図に、固まっていたガジロスが正気に戻った。
「お、お前等!馬車はあとでいい!!
まずはあの餓鬼を八つ裂きにしろ!!!」
「俺のことも、忘れないで欲しいねっ!!」
そう言いながら次々に矢を放つクウマ。
彼が放つ矢は的確に敵を射抜き、息の根を止めていた。
「チィッ!!糞が!!お前等は後ろの弓兵の相手をしろ!!
俺が餓鬼をブチ殺す!!!」
そう言って背中の大剣を一本抜くと、一気に櫂斗に向かって走り出した。
櫂斗はすぐさまそれを察知すると、自らもガジロスとの間合いを詰め、一瞬で剣の間合いに入った。
櫂斗は振り下ろされた大剣を刀で受け流し、刀の柄でガジロスの腹を殴り、蹲ろうと頭を下げた所に膝を叩き込んで大きく後退させる。
「頭領さんさ、出し惜しみなんてしてないで、さっさと本気出しておいた方がいいぞ?」
櫂斗はそう言ってガジロスの背中に差さっているもう一本の大剣に視線を送った。
「……テメェ。舐めやがって……。
上等だ、もう後悔しても遅えぞ……テメエの目の前で、馬車の中の奴等も皆殺しだ!!!」
ガジロスはそう叫ぶと、二本目の大剣を抜き放った。
丸太のように太い腕で、二本の大剣を軽々と扱うガジロスは顔を赤を通り越して赤黒くして向かってきた。
「へぇ…これは中々」
少し離れた所から、クウマの感嘆の声が聞こえる。
櫂斗は口元を少し釣り上げると、〈颯天〉を正眼に構えてガジロスの動きを見つめていた。
ガジロスは大剣の間合いに櫂斗が入る寸前に一気に速度を速め、怒涛のラッシュを繰り出した。
普通なら両手で扱う大剣を、軽々と振り回すガジロスのあまりの手数の多さに、櫂斗は反撃する余地はなく、回避を余儀なくされる。
「シネシネシネシネシネシネシネエエエエエエエエエエエエエ!!!!
さっきの威勢はどうしたよ!!?この糞餓鬼がああああああああ!!!!」
櫂斗は後ろ向きに後退しながらガジロスの攻撃を躱し続ける。
「……のか」
櫂斗は大振りの一撃を後ろに大きく跳んで躱すと溜息を吐いた。
「がっかりだよ…。
元帝国兵って話だったから、少しは期待してたんだけどなぁ」
「なん…だとぉ……?」
櫂斗は試していたのだ。
帝国兵の今の実力を。
その為に初撃でガジロスを斬りはしなかったし、全力を出すように忠告した。
だが、全力を出したガジロスは、ただ力任せに剣を振り回すだけで、碌に剣技も使わなければ視線のフェイントすらしてこない。
攻撃を躱され続けていることに対して、相手との実力差を理解すらできない。
そんなガジロスに落胆していた。
櫂斗の失望したような視線を受けたガジロスは一瞬自分が何を言われたのか理解できなかった。
反撃もできずに、ただ自分の攻撃を避けることしか出来なかい餓鬼が何を言っているのか、理解できなかった。
「迷宮調査の前の腕慣らしにもならなかったが、これ以上時間を掛けるのも無駄だしな。
……次で終わらせてやるよ」
櫂斗の言葉を聞き、ガジロスはようやく理解した。
目の前の餓鬼は、自分のことを見下したのだ。
いや、違う。
最早、自分のことを、もう見てすらいないのだ。
ガジロスは一気に頭が冷めていくのを感じた。
それは、冷静になったからではない。
全くの逆だ。
激昂し過ぎて、逆に頭が冷めたのだ。
「…………いいぜ。帝国兵士の剣技を見たいってんなら見せてやるよ。たっっっぷりとな……」
そう言ってガジロスは大剣を構えた。
一本は天を突くように空へ掲げ、もう一本は逆手に持って地面に突き立てて。
そして、櫂斗はガジロスが魔力を高め始めたのを感じ取った。
瞬間、櫂斗は強化した脚力で一気にガジロスとの間合いを詰めようとした。
「くたばれえええええええええええええええ!!!!《地砕斬》!!!」
ガジロスは魔力で保護した大剣で地面を砕き、飛び散った破片で櫂斗の動きをけん制した。
更に地面に突き立てていたもう一本の大剣を持ち上げると、剣先には抉られた地面が巨大な戦槌のように付いており、動きを止めていた櫂斗に向けて振り下ろした。
櫂斗は一度目を閉じ息を吐くと、〈颯天〉を数回回してから肩に担ぐように構える。
「《鳴神流・砕牙》!!!」
櫂斗は長い年月を使い、《魔法》と《鳴神流》に生かす方法を考え続けてきた。
その中の一つ。
魔力で発生させた《風》を圧縮して刀身に纏わせ、それを突きに合わせて一気に解き放つ技、《砕牙》。
《砕牙》は一直線にガジロスの巨槌に向かって伸び、巨槌に触れた瞬間、大剣諸共粉々に砕け散らせた。
「「「「…………………は?」」」」
一瞬の出来事に呆然とする盗賊団の面々。
何が起こったのか解らないという感じだ。
ガジロスも刀身が砕け、柄だけになった得物と刀を突き出したまま静止している櫂斗を交互に見て固まっている。
「……脆いな」
その呟きに、ガジロスは顔を真っ青にし、体は見ていて愉快なくらい震えている。
櫂斗は刀を振り払い、両腕をだらりと下げた状態で、ゆっくりと一歩、ガジロスに向けて歩み寄る。
「ぁ……ああぁぁ……化け物ぉおおぉおぉおおおおおおっっ!!!?」
するとガジロスは踵を返し、足を縺れさせながら逃げ出し始めた。
そんなガジロスの後姿を、櫂斗は冷めた目で見つめていた。
そしておもむろに刀を持っていない方の手を空に向けると、無詠唱で魔法を発動させた。
「……《サンダーボルト》!!」
急に空に黒雲が立ち込め始め、黒雲から発せられた閃光がガジロスやその周辺に居た盗賊達を目がけて落ちてきた。
―――ピシャアアアアアアアアアアアアアン!!!!
轟音が辺りに響き渡り、落雷があった周辺に居た盗賊達は、一瞬で消し炭となって絶命していた。
その圧倒的な力を前に、固まって動けずにいた生き残った盗賊達は悲鳴を上げつつ散り散りに逃げていった。
「ハァー…スッゲェ威力だなー。
で、どうする?残党に追撃でも仕掛けるか?」
クウマが剣鉈で肩を叩きながらこちらに近付いてきた。
クウマからは離れていた場所に落雷させたとはいえ、彼は全く動揺していなかった。
「いや、戦意喪失してるみたいだし、逃げる奴等を追いかけても何の得もないだろ」
「そうか。それじゃあ俺達も馬車に戻ろうぜ?」
「あぁ…」
こうして俺達は【ガジロス盗賊団】を退けた。
アモイは普段以上にテンションを高くして俺達にお礼を言い、リズナは俺の腰をガッチリとホールドして離れなくなってしまった。
それ以降は特に問題が起こることも無く、俺達は【ジャパリア港】の一つ手前の村落に辿り着き、そこで一泊することになった。
§∞§∞§
深夜の森の中。
「…………糞っ!!!クソッ!!!!クソおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
一人の男の叫び声が静かな森の中に木霊していた。
顔には酷い火傷の跡があり片目は焼け落ちており、右腕炭化し肩口からブスブスと音を立てて嫌な臭いを発していた。
「あ、…んの糞ガキゃああああああああああ……!!!
許さねえ……っ!!!絶っ対ぇ八つ裂きにして……ブッッ殺してやるりょおおおおおおおおおお…!!!」
男の残った一つの目は真っ赤に血走り、地面を何度も殴りつけて苦痛と怨嗟の叫び声をあげている。
「へぇ。あれだけの魔法を喰らって生きてるとは…。
生命力はゴキブリ並だねぇ」
唐突に、男の頭の上から声が聞こえてきた。
無理矢理首に力を入れ、顔を上げる。
そこには、真っ白な外套を着、フードを深く被った不思議な雰囲気の人物が男を見下ろしていた。
フードから覗く口元は三日月型に歪んでおり、倒れ伏す満身創痍の男を嘲笑っていた。
「だが、その想いの力は良いよ。
……だから、君にチャンスをあげるよ」
謎の人物はそう言って倒れ伏す男に手を翳し、癒しの光を浴びせた。
夜の闇の中、その光は不気味にその場に居る三人を照らし出していた。
雨は降り続いたまま、今日も夜は更けていく……。
仕事忙しくて書く時間が足りない。
こうなったら、〇事中にプロット妄想して帰ってきてから文字起こしするという方法に出るしかないか…。




