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今度こそ二人っきりにせんと

 義隆と亜真女はんの仲を、大文字で更に良うするってゆう目論見は失敗してしもた。京の風物詩を見ることができてうちは嬉しかったし、みんなと一緒に見物に行けたのも楽しかった。けど、うちとお銀ちゃんが楽しんでばかりで、肝心のあの二人のことをすっかり忘れてしもてたんや。これはあかん。

 一応、お雪はん曰く、きっかけ作りにはなったらしい。うちにはようわからへんけど、お雪はんがそうゆうんやったら、二人の仲は良うなってるんやろう。

 けど、うちはもっと義隆と亜真女はんの仲を良うしたい。そのためには次の一手を打たなあかん。そやから、うちは大文字を見物に行った翌日にお銀ちゃんと相談することにした。


 「お銀ちゃん、義隆と亜真女はんの件なんやけど」

 「昨日の今日でか。そなた、そんなにせっかちな性格じゃったか?」


 お銀ちゃんが呆れ顔でうちに応じた。


 「そうゆわれるとうちも考えてしまうけど、早めに手を打つんはええことやろ?」

 「時と場合によりけりじゃ。昨日の大文字の効果も確かめんうちから手など打てんじゃろう」

 「しばらく様子を見るってことなん?」

 「そうじゃ。少なくとも、あの二人の間柄が変化したのかを見てからじゃよ。まぁ、昨日の様子からじゃと仲が悪くなってることはまずなかろうから、心配はしとらんがの」

 「うーん、そうなんか」

 「どうせ亜真女はこれからもちょくちょくこっちへ来るんじゃ。焦る必要はない」


 確かにお銀ちゃんのゆうとおりなんやろうけど、なんかもどかしいなぁ。


 「納得しとらん顔じゃな。なに、その間に次の一手を考えておけばよかろう。ああ、細部まで細かく考えなくても、大まかにならできるじゃろ。少なくとも、仲良うなった場合と悪うなった場合の方針くらいならまとめられるはずじゃて」

 「確かに、それくらいならできそうやな。それに、しばらく考える時間もいるし。二人の経過を見ながら考えよかな」

 「おう、それがよいわ。『急いては事をし損じる』というじゃろ」


 うん、確かにゆうな。お婆さまにその言葉を教えてもらったことがある。ここはじっくりと様子を見ながら考えた方がええんか。


 「わかった。うちもしばらく様子を見る。その間、お銀ちゃんはうちの相談相手になってんか」

 「まぁ、それくらいはいいじゃろう」


 苦笑いしつつも、お銀ちゃんはうちの相談相手になってくれることに同意してくれた。

 ということで、うちとお銀ちゃんは、しばらくあの二人の様子を見ながら次の手を考えることにした。




 あれから何日かが過ぎた。大文字を見物してからの義隆と亜真女はんの仲やけど、前と変わったようには見えへんな。

 けど、お銀ちゃんやお雪はんからすると少し変わったらしい。前よりも話をするようになったんやって。特に亜真女はんから話しかける頻度が多くなったそうや。ゆわれてみたらそうなんかもしれへん。でも、うちだけがわからへんってゆうのは嫌やなぁ。


 「うちにはもうひとつわからんけど、二人の仲はちょっとだけ良うなったんやんな?」

 「まぁ、一応という程度じゃが」


 今晩は珍しく義隆がおらへん。知り合いに誘われてお酒を飲みに行ったんや。夕方から出て行って、帰ってくるのは寝る前くらいってゆうてた。

 そやから、晩ご飯はうちとお銀ちゃんとお雪はんの三人だけや。うちは良い機会とばかりに、義隆と亜真女はんの仲を進展させる次のきっかけについて二人に相談してみた。


 「それなら、更に仲良うなるために、次はどんなことすればええんやろう?」

 「どんなことと言われてものう。また祭りにでも繰り出すか?」

 「本来ですと、家に呼んで食事をしたり遊んだりするというのは、お互いがかなり仲良くならないとしないことなんですけどね。義隆さんと亜真女さんの場合は、既に当たり前のようにやってますから、外出するっていう選択肢しかないのが苦しいです」

 「む、そうか。自宅で何かするために呼び寄せたとしても、あの二人にとっては既に特別なことではないしの」


 だから一緒に遊びに出るしかないわけなんか。


 「でも、二人だけで遊びに行くほどの仲というわけではなさそうなのが難点ですよね」

 「趣味が一致しておるわけではないし、口実となると、わしらか」

 「うちら? また一緒に出かけるん?」

 「そうなるんじゃが、前回のような失敗はしたくないの」

 「そうやなぁ」


 二人が遊ぶ口実になるのはかまへんけど、お銀ちゃんのゆうとおり、遊ぶのに夢中になってしまうと本末転倒や。う~ん、一体どうしたもんかなぁ。


 「とりあえず外に連れ出す口実が必要なんですよね。でしたら、鴨川へ涼をとりに行くというのはどうですか?」

 「涼をとりに行く? なにすんの?」

 「涼みに行くんじゃよ。今の時期は暑いからの。とはいうても、現代じゃと冷房の効いた部屋におる方が涼しい。じゃから、実質的には遊びに行く口実のひとつじゃな」

 「鴨川で遊ぶと仲良うなれるん?」

 「鴨川の川沿いはみんなの憩いの場になってるんですが、恋人同士もよく見かけるんですよ。ですから、鴨川に出かけて二人きりにさせればどうかなって思ったんです」

 「やけに踏み込んだ提案じゃな。そなたは、自然な成り行きに任せるのではなかったのか?」

 「もちろんそうです。ですから、二人きりになってからのことは知りませんよ、私は」


 お銀ちゃんの突っ込みをお雪はんは笑って受け流さはる。

 それはともかく、居間のお雪はんの案はええな。みんなで鴨川へ遊びに行って、あの二人を二人っきりにするんか。これならうちらが邪魔にならへん!


 「お雪はん、それにしよう!」

 「まぁ、そなたが乗り気ならば、わしもよいぞ。反対する理由もないしの」


 お銀ちゃんも賛成してくれた。それじゃ次の案は『鴨川へ遊びに行く』や!

 うちらは具体的にどうしたらええんか、更に話し込んだ。




 うちらが鴨川へ涼をとりに行こうってゆうたら、義隆は快く受け入れてくれた。最初は大文字を見に行ったばかりやのにってゆうてたけど、うちの尻尾をもふもふできるかもってゆうたら、すぐにゆうこと聞いてくれたんや。

 それはともかく、義隆から亜真女はんに電話で連絡してもろて、みんなで一緒に行く日を調整してもろた。義隆は「亜真女はんが家に来たときにゆうたらええやん」ってゆうてたけど、こうゆうんは電話で個人的に約束を取り付けさせるんが効果的なんやってお銀ちゃんがゆうてたから、うちらは渋る義隆に電話をかけさせた。

 そんで約束の日、うちらは再びお雪はんに手伝ってもろて浴衣を着た。大文字のときと一緒のやつな。


 「はいはい、皆さん忘れ物はありませんね? 義隆さんはそこの紙袋を持っていってくださいね」

 「あ、はい。これですね」


 義隆が手にした紙袋には、うち、お銀ちゃん、亜真女はん、そして義隆のお弁当が入ってる。紙袋の中に入ってるお弁当の入れ物は使い捨て用のやつで、取り皿はお店に売ってる紙皿、割り箸、そんでお茶は空いたペットボトルに入れてる。食べ終わったら全部ごみ箱に捨てられるやつばっかりやから、帰るときは楽ちんになるって寸法や。

 なんでお弁当を持っていくのかってゆうと、大文字の見物のときと違って、今回は夕方から遊びに行くからや。鴨川の近辺にはお店がぎょうさんあるけど、せわしないやろうから、川沿いでゆっくりと食べたられるようにってお雪はんが作ってくれてん。


 「亜真女さんは、玉尾さんのお守りを持ってます?」

 「は、はい。こ、これがないと遊びにいけないですからね」


 亜真女はんは小さい巾着袋を持ち上げて、お雪はんの目の前にかざした。


 「うむ、誰も忘れ物はないようじゃの」

 「そんなら出発や!」


 お銀ちゃんの言葉に続いて、うちは元気よく出発の宣言をした。ふふん、今度こそ失敗せぇへんで!




 前回同様お留守番することになったお雪はんを残して、うちらは家を出発した。

 お盆を過ぎて多少は涼しくなったものの、それでも外は依然として蒸し暑い。とてもやないけどお昼に外へ出たいとは思わへん。ただ、午後四時を過ぎると空気が変わる。どうにもならへんかったあの暑さが、かなりましになるんや。

 うちらはそれを知ってたから、遊びに行くんは夕方からにしたんや。夏なら日が暮れるのも遅いし、遊ぶのに充分やろうって義隆がゆうてた。

 京阪電車に乗ったうちらは、しばらく電車に揺られて丸太町駅で降りた。終点の出町柳駅よりもひとつ手前の駅なんや。ほんまは神宮丸太町駅ってゆうそうなんやけど、最近変わったばっかりやから、みんな丸太町駅としかゆわんらしい。


 「よ、義隆さん。こ、これからどうするんです?」

 「出町柳まで歩くつもりです。少し風もあるし、ちょうどええでしょう」

 「それやったら出町柳まで電車に乗ってた方がよかったんとちがうの?」

 「何を言うか。美尾よ、風情があってよいではないか」


 む、そうゆうもんなんかな。まぁ、今回はうちとお銀ちゃんが楽しむために来たんと違うし、あの二人がええんやったらしょうがないか。

 駅から出たうちらは、鴨川の東側にある川端通りに出た。この道はその名の通り、鴨川に沿って南北にずっと延びてる道や。その川端通りと東西に延びてる丸太町通りの交わったところに京阪電車の神宮丸太町駅があるねん。ちなみに、この丸太町通りを東に進むと平安神宮があって、西に進むと御所があるんや。

 それはともかく、そこからうちらは階段を使って鴨川の東側にある河原へと降りた。

 義隆と亜真女はんが前をゆったりと歩いていくのを、うちとお銀ちゃんは眺めながら声を潜めて内緒話を始める。


 「お銀ちゃん、いつ別行動したらええの?」

 「待て、今はまだ早い。時を待つのじゃ」


 今日までに色々と考えていたんやけど、二人きりにさせることで気分が盛り上がるはずやから、何としても別行動をとるべきってゆう結論になった。ただ、うちらは見かけが幼いからあんまり遠くには行けへん。下手をすると、おまわりさんに保護されてしまうらしい。そやから、あの二人から適度に離れて遊べるところで別行動をすることにしたんや。

 けど、問題はいつどこで別れたらええんかってことなんや。何しろ、当日鴨川を散策するってゆうこと以外なんも決まってへんかったから、予定の立てようがなかった。

 そやから今、お銀ちゃんと時期を見計らってるところなんや。


 「ただ、こうやってつかず離れず歩いておったら、充分ではないかと思えるようになってきたがの」


 丸太町通りから荒神口通り付近まで歩いてきた。最初はうちらの様子を何度もうかがってた義隆と亜真女はんやったけど、次第に二人で話すことが多くなってる。たまに遊ぶふりをして二人の脇を通って話を聞いたら、義隆が観光案内をしてるっぽい。


 「そっか、亜真女はんって、まだこの街に慣れてへんかったんか」

 「去年引っ越してきたばかりじゃしな。これは好都合じゃ」

 「義隆の頼りになるところを見せるんやな!」


 目的地にいくなら電車を使って一気に行った方がええって思ってたけど、こうやってゆっくりと歩くことで思わぬことに気づいた。何事もやってみんとわからんもんやな。




 あれから更に北へと進むと、今度は賀茂大橋ってゆう橋が近くなってくる。ようやく出町柳に着いたわけや。

 それで、なんで義隆がここを目的地にしたかってゆうと、賀茂大橋の奥で川が分岐してるからやねん。正確には、西側から流れてきた鴨川と東側から流れてきた高野川が合流するんが、この出町柳ってゆうところなんや。大きな合流地点だけあって川に挟まれた所は人が何人も入れるし、両岸も広めで遊ぶ場所もある。

 それと、このちょうど合流してる部分には、大きな平べったい一枚岩がぽつんぽつんと置いてあって、向こう岸へと行けるようになってるんや。そやから、水量の少ないときは渡れるようになってる。


 「お、着きましたよ、合流地点」

 「そ、そうですね。け、結構歩きました」


 賀茂大橋をくぐり抜けると、合流地点が目の前に現れた。日が傾いてきたから少しずつ朱くなってきてるけど、この辺はまだ昼間のように賑やかや。


 「あ、ま、また楽器の練習をしてますね。ど、どこの大学かな?」

 「う~ん、私服っぽいからわからへんなぁ」


 ジョギングってゆう走る運動をしてる人がたまに通り過ぎていく中、義隆と亜真女はんは対岸を見てる。さっきからなんか楽器の音が不規則に聞こえてると思ったら、誰かが練習してるらしい。


 「みんな、そろそろお腹空かへんか?」

 「すいたー!」

 「わしもじゃ。もう夕餉にしてもかまわんじゃろう」

 「そ、それじゃ、あ、あの三角州みたいな所の先で食べない?」


 亜真女が指さしたんは、義隆が鴨川公園って呼んでたところの先っぽや。ちょうど誰もおらへんから使えそう。


 「よし、なら、わしらが場所取りをしておいてやろう。美尾、行くぞ!」

 「あ、うん!」


 いきなりお銀ちゃんに驚いたけど、うちもすぐに応じる。そしてすぐさま飛び石のように置いてある大きな岩の上を渡り歩いた。この飛び石、ちょうど三角州のような所の南端につながってるから、橋を渡るより近道や。


 「む、ここは石畳じゃったのか」

 「なら、この端っこに座らへん? ここならなんとか」


 三角州の先っぽに着いてみると、この辺りは石畳で座るんが少しつらいように思えた。お銀ちゃんもそう思ったらしくどうしようか相談してたら、義隆と亜真女はんに追いつかれてしもた。


 「ここはちょっと座れへんな。しゃあない、公園の中にしよか」

 「やっぱり芝生の上がええよねー」


 義隆の一言で公園の芝生でご飯を食べることになった。お尻が痛いのはやっぱり嫌やもんな。

 お雪はんが作ってくれたお弁当の中身は、義隆と亜真女はんがゆうにはいかにもお弁当らしいものやそうや。ご飯はおにぎりになってて、ひとつずつサランラップで包んである。おかずは卵焼き、鮭、鶏肉の甘辛煮、ひじき、それにおひたしや。


 「どれもうまそうじゃの」

 「そ、それではいただきましょう」


 亜真女はんの声でうちらの夕ご飯が始まった。

 うちはまず、鶏肉から口に入れる。うん、口の中で広がるたれの味が甘くも辛くもあってちょうどええ。次に、うちは取り皿の上に乗せた半分に割ったおにぎりをお箸でほぐして少し口の中に入れた。うん、やっぱりこれやな。

 ちなみに、半分に割った片割れはお銀ちゃんの取り皿の上にある。

 亜真女はんは取り皿に卵焼き、鮭、ひじきを乗せて少しずつ味わってる。逆に義隆はおにぎりだけをぱくついてた。


 「外で食べるなんて久しぶりやけど、たまにはええなぁ」

 「そ、そうですね。ま、まるでピクニックです」

 「えっと、遠足ってゆう意味やったね」


 家の中と違って、周りの景色を見ながらみんなと一緒に食べるんは楽しいなぁ。ご飯を食べにくいのは玉に瑕やけど、お銀ちゃんふうにゆうたら風情があるんやね。




 みんなでお話ししながら食べてたから、いつもよりもちょっと時間がかかってしもた。でも、まだ日は沈んでへん。

 お腹は八分目程度かな。すぐに動いても大丈夫や。

 今のところ、義隆と亜真女はんの雰囲気は悪うないと思う。ちょっとずつ盛り上がってきてると違うんやろか。ただ、更に盛り上げるためには二人っきりにせんといかん。問題はどうやって二人っきりにする口実を作るんかってゆうことなんやけど。

 さっきお銀ちゃんは時期尚早やってゆうてたけど、もうええんと違うかな。ここで何もせぇへんかったら、またずっと四人一緒のままや。


 「なぁお銀ちゃん、相談があるんやけど」

 「ほう、奇遇じゃの。わしもあるんじゃよ」


 なんや、お銀ちゃんもなんかあるんか。ちょうどええから、義隆らから少し離れて話を始める。


 「あのな、そろそろあの二人を二人きりにせんといかんと思うねん。それで、今からあっちの飛び石のところで遊ぼうと思うねんけど」

 「わしもちょうどそう思っとったところじゃ。日没の時間を考えると、これ以上は引き延ばせんじゃろう」


 うちはお銀ちゃんと考えが一致して安心した。それなら、早う二人から離れんとな。


 「義隆、亜真女はん、うちら、あっちの飛び石んところで遊んどくな」

 「ああ。あんまり遠いところに行ったらあかんよ」

 「き、気をつけてね」

 「ふははは、まるで親子みたいじゃの!」


 お銀ちゃんが捨て台詞を残して先に進んでゆく。義隆は呆れてたけど、亜真女はんは苦笑してた。

 そんな二人を残して、うちらは飛び石のところまでやってきた。うちらはまだ歩いてへん西側の岸に続いてる飛び石に乗る。


 「あの二人は……おや、亜真女一人か?」

 「義隆、公園の奥に向かってんな。あ、紙袋捨てた」

 「なんじゃ、ごみを捨てに行っただけか。おお、戻ってきた」


 また二人が一緒になったのを確認すると、うちらは飛び石を伝って西側の岸まで進む。

 こっちの岸やと楽器の練習をしてる人や涼みに来てる人がおる。そんで、走ってる人に自転車に乗ってる人が往来してた。なかなか忙しい。

 あんまりちらちら様子をうかがっても怪しまれるから、うちとお銀ちゃんはしばらくあちこちを散策することにした。そうゆうたら、確か義隆が何年か前にここでテレビ番組の撮影をやってたってゆうてたな。

 それに飽きたら今度は飛び石を伝って反対側へと移った。こっちにも土手に座って涼んでる人がちらほらといる。


 「ん~、あの二人はどんなもんかなぁ」

 「む、ちと暗くて見づらいが、何やら良い雰囲気みたいじゃの」


 うちは遠くでも見えるからわかるけど、二人は笑顔で何やら話をしてる。時折こっちに視線を投げかけてるけど、話す方に熱心みたいやね。ええことや。


 「お銀ちゃん、なんかええ感じやね」

 「会話の内容が聞こえんのは残念じゃがの。あの様子ならば問題なかろう」

 「頑張った甲斐あったなぁ」

 「まったくじゃ。あとはどれだけ仲良うなったかがわかれば言うことなしじゃな」


 一度は失敗したけど、今度は成功したようでうちらは安心した。後はどんどん仲良うなってくれるだけやね。


 「あ~きみたち、ちょっといいかな?」

 「「へ?」」


 三角州の方を眺めてたうちとお銀ちゃんは、後ろから声をかけてきた人に顔を向けた。水色の服に紺色のズボン、そんで頭には紺色の帽子を被ってる人がひとりで立ってる。


 「あれ、おまわりさん?」

 「きみたち、お父さんやお母さんはどこかな?」

 「え? えっと、あっちかな」


 うちが思わず指さした方におまわりさんは目を向けた。けど、遠すぎたせいか見つけられんみたいで反応がない。


 「向こうへ行った方が早いの」

 「うん、それじゃ行こか」


 うちらはおまわりさんを促すと飛び石を伝って三角州へと移り、そのまま公園まで歩いた。途中で義隆と亜真女はんも、うちらにおまわりさんが着いてきていることに気づいたようで、何事かとこっちへ寄ってきた。


 「どうしたんや、二人とも?」

 「え~っと、うちら、なんかおまわりさんに声をかけられてん」

 「それで、保護者が誰かと問われたので戻ってきたんじゃよ」


 おまわりさんが一緒にやって来た理由を知った義隆と亜真女はんは、安堵の表情を浮かべた。でも、次の瞬間、二人の冷静さは吹き飛んでしまう。


 「お二人がこの子達の親御さんですか?」

 「「え、親御?!」」


 おまわりさんの質問に、義隆と亜真女はんの顔が一気に赤くなった。何でそんなに驚いたんかうちにはわからへんけど、隣でお銀ちゃんがにやにやと笑ってる。


 「なぁ、お銀ちゃん、なんで笑ってんの?」

 「大方、今まで良い雰囲気の中で結婚や子供の話をしておったんじゃろう。じゃから夫婦じゃと指摘されてお互いに意識しあってしもうとるから、あんなに慌てとるんじゃよ」


 その後、二人は自分達が夫婦でないこととうちらとの関係を一生懸命説明していた。お銀ちゃんの説明を聞いたうちは、どうやらちゃんと効果があったようで嬉しい。思わずお銀ちゃんと一緒ににやにやと笑ってしもた。


 「事情はわかりました。最近は物騒なんで、これからも目の届くところで遊ばせてくださいね」

 「はい、すんません」


 最後に説教みたいな言葉を残して、おまわりさんは去って行った。


 「み、見晴らしのいいところだから大丈夫だって思ってたんですけど、だ、駄目でしたね」

 「こっちは良くても警官からはわからへんしなぁ。まぁええわ。さて、ちょうど日も暮れそうやし、そろそろ帰るか」

 「ふ、二人とも、ど、どうしてそんなに笑ってるの?」


 亜真女はんがうちらの顔を見て不思議そうに質問をしてきはった。ん~、けどこれはゆうわけにはいかんしなぁ。

 うちはお銀ちゃんに顔を向ける。すると、あっちもどうやら同じ考えらしい。


 「「べつに~」」


 うちらはそうゆうと駅に向かって歩き出した。

 今回はどうも成功したみたいやし、気分がええなぁ。ちらりと二人の様子を見ると、不思議そうに顔を見合わせてる。そんで、お互いに苦笑してた。うんうん、それでええんや。

 うちらは今後のことを想像して悦に入ってたおかげで、足取りが軽かった。

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