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ソング  作者: 奥野鷹弘
前編
8/30

08.牧原歩

大原あゆみ とは、どんな人か。

 毎日の出来事が記載される新聞たちは、大きなファイルに収められながらも、健が来るのを待ち受けていたかのように哀愁と古さの空気をかもし出す。


健は、その新聞たちに話しかけるような独り言をつぶやきながら、一つ一つの記憶を頼りに大原あゆみの事件の日付を探る。その前後で覚えている社会出来事でふるいを掛けながら、思い返す。ふと由実が近くにいないことに不満ながらも、内心では巻き込みたくない気持ちもあり、すこしホッとしているところもあった。


とりあえず健は、なんとか事件の内容と関与するような記事がのるファイルを手にして、由実のもとへと歩み進めた。健に映る由美の姿はいつにもに増して、しなやかで美しく、どこか刹那な時間を共に過ごす恋人のようにも見えた。

一方由美は、何処か遠くの空を見ているようだった。健はそっと近づき由美の名を呼んだ。すかざす首を横に振るった由美の姿に心残りを刻みながら、健は続けて持ち出してきたファイルを机に置きはじめた。

そして何処か長引かそうなこの事件に終止符を打てたらと願いながら、由美に静かに告げた。


「このファイルを開いても、何も起こらないと信じたい。いや、関係すらなく、ただのイタズラと迷信だったと思いたい。でもたとえ何があっても、この時間を大切にしたい。

それとな、由美、お前の…

その

……顔、

フケたな。」


 由実はすかした顔をしながら、健の察したような気の利かせに思わず笑った。いつ頃かのふたりかのように、強く肩をはたき返したり、ツンとした。健も顔こそはっきり出せてないが、引きつりながらも笑い、知る人は知るあの空気を取り戻した。

それから少したったあと、二人は手分けして新聞を読み進めた。

事件の大々的な記事から、犯人のこと、所属事務所の対応、業界での間の話など新聞で読み取れる資料はすべて手にしていった。二人が追い詰めた真実というものは、残酷というより少し悲しい物語が待ち受けていた。

 

 「大原あゆみ。彼女にはついて、俺らはただの芸能人としてしか観ていなかったのかもな。芸能人だからといって、些細な出来事などを祭りネタとして騒ぎ、もて遊んでいたのかもしれない。ここにある記事たちのように、何一つとしてブレがないものがない。ただの記者の思い込みと思想と、ほんの些細な事実だけ盛り込んだ、実のない果実みたいだ。たとえ、知る権利があるとはいえ勝手過ぎやしないか。俺はもっと、大原あゆみについて知りたい。ここにある情報がウソか本当かどうか知るためでなく、本人に関わった人達から、話を聴きたい。由美、どう思う?」

「健。私も想ったの。考え直したワケじゃない。どうしても第三者を通してとか、文章にされたものとか、本人の気持ちがダイレクトに伝わらない時があると思う。それでも必死に伝えようとしてくれるものは、伝わってくるものもあるけれど限界はあるって思ってる。芸能ニュースだって、プライベートも何もかも最近発信されてうんざりしてるわ。個人で発信するのは構わないの、親しみが沸くよね的に受け入れられるけど、そこに第三者は要らない。不意に調べ出した歌手だけど、よく考えれば同じ人間なんだもの。ただその職についた大人なんだもん。牧原歩さんも、こんな記事とか以外にも疲れなかったのかな、て逆に心配してしまうよ。だから、こんなことは望んでいないかも知れないけど、私はちゃんとしたことを知りたい。」


由美は拳に力を入れながらも、健に同意することを誓った。そんな話を促した健は逆に、由美の出した人名に不思議がかっていた。


「…牧原って誰?」


由美は少しキョトンとしながらも、答えた。


「大原あゆみの本名。」


思わず手を叩いた健を見て、由美はメモした手帳を抱え、電話を取りだしながら図書館を飛び出した。

由美のあとを追い掛けるように、健はファイルを場所へと戻した。あとから通りかかったひとりの男性が、気になったようで、乱雑に置かれたと思われるファイルを整理した。



ふたりが目指した先は、大原あゆみが育ったという里親の家である。

牧原歩 は、どんな人物だったのだろうか。

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