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ソング  作者: 奥野鷹弘
前編
6/30

05.恵の死

恵は、そこにいた

 まるで使い慣れたような新しいような判らない静かなエレベーターの中に、二人は恵のいそうな場所へと向かう。何とも言えない不安さと祈りの空気がまとう。かすれかかったような音で、目的の階についたことを自覚する。さらに辺りを見渡した二人はさらに歩み進めた。不思議と目的の場所につくまでは、誰ともすれ違いなどせず、迷うこともなく、ある場所に辿りついた。

その、健と由実がたどり着いた場所というのは、病院の屋上である。



 病院の屋上は昔に描いてものとは違い、緑で豊かな自然世界のような場所だった。そこにはポツンと立ち尽くす恵の姿も見受けられた。恵を見つけた二人は思わず、口をそろえて呼びかけた。でも恵は微動だにせず、二人を物としてみるような眼で見つめていた。ただ、恵に繋がれた点滴スタンドだけが勢いよく返事をした。そんな恵を見てジッとしていられず、健は身体を動かそうとしたのだが思うように動かなかった。また、由実のほうも個人的な都合でどう動けばいいのか判らずにいた。


 そんなもどかしい二人の間に、健の携帯着信がなった。相手は、先ほどの収だった。健は、とりあえず何が何だかわからずに電話に出ることにしてみた。収の声はまるで何かに怯えながらも、興味が沸いてるような覇気で会話してきた。

 「おぉ、健か?お、お前、どのサイト開いたんだ?」

 「・・・いや、俺は普通に・・・。ただ、真っ白い画面で怖くなったからそのままにしてしまったんだが。」

 「ふ、普通にって、ありえないだろっ??まぁいい、教えてやる。お前が開いたサイトにこんなことが書いてあった。そもそも、このサイトは、お前の調べている【大原あゆみのファンサイト】だ。ただ、それはいい意味でも悪い意味でのサイトだ。まあ、アンチで作りあげたサイトに近いがな。」

 「それはいいから、本題はなんだ?」


健は急かすかのように、収を追い詰める。


 「【大原あゆみの歌は、呪い】らしい。ただそれは、簡単にシッポがつかめる呪いではないらしい。情報をあつめてまとめたのか知らないが、その呪いの元は……………『歌』。

それも、俺らが耳にしていた『All love』が発祥。なぜそうなったかは意図的な文字化けをさせていて掴めないが、それは一般に耳にする曲より、生の効果に近いハイレゾ音源と関係があるらしい。ある意味、繋がったな。そして、それもただ聴いただけでは発動しない。殺されている者は皆、何かしら関係があったらしい。そして、何かのきっかけで地獄へとみちび・・・か・・え・・・・・」


 健の電話の調子が悪くなり始めた。収は気にせずにしゃべり続けている。由実は吹っ切れたのか、恵を呼び起こそうとその場で声掛けしている。よく見ると、恵は後ろへと後尻している。後尻している奥のほうを見てみると、腐敗した柵がポカリと裂けていた。それでも恵は歩みを止めることをせず、進んでいく。口元では何かをつぶやいているのがわかり、健は無事ではない覚悟で飛び込むこと決め急いだ。

だんだん近づいている声は【好きだから】という言葉だけが、恵から延々とつぶやかれてる。

健が恵に追いつきを肩をゆするものの正気に戻る気配がなく、ひたすら名を呼び続けた。後に続いた由実も必死に恵を正気に戻させようとしたとき、ふいに別人だということに気が付かされた。


二人が恵だと思ってゆすっていたそれは恵の姿ではなく、苦しげに顔がゆがんだ看護婦の姿だった。思いもよらぬ出来事に由実は悲鳴を上げ、健は何を手にしていたのか判らず、一種の放心状態に陥った。


一方でふたりが見えないところで歩いている恵は、地獄に呼びつけられているかのようにだんだんと奈落へと向かう。今までの想い出を脱ぎ裂くようよう、胸に立てた爪が皮膚をも削り、見てもいられな程の血がたらたらと流れ出す。


そんな恵を知らないふたりはどうすることも出来ず、ただただ膝まつくことぐらいしか出来ないでいたころ、どこからか聞き覚えのあるメロディーが鳴り響いた。健や由実、恵に奏でた。



ふと何かに気づいたとき、恵は一気に吸い込まれるかのように壊れた柵をくぐり、地面へと転落していった。

 健の勘が当たった頃には、地面に叩きつけられて血を流す恵の姿がそこにあった。


 それからのこと、由実と健は違う看護婦に呼び起こされた。みると二人は、先ほどの緑溢れた屋上の姿ではなく、柵がガッチリされた普遍な屋上になっていった。よく耳を澄ませると、敷地内周囲でざわめき声が聞こえる。健は思いのままに看護婦さんに説明と確認したところ、恵は自分の階から自殺したことが判明した。そして二人はというと、立ち入り禁止のドアが開いていたのを見つけ、看護婦さんは不思議に思い駆けつけたというのであった。健と由実は何とも言えぬ空虚感に包まれ、恵との最後別れを惜しんだ。少し落ち着いたころに二人はそれぞれの重い口を開き、事実確認をしていったところ、二人が味わったこの不可解な経験にブレなど生じていなかった。そうだと判った健と由実は、その場を後にすることにして、問題視としたあの歌の歌手【大原あゆみ】を調べることに準備をし始めたのであった。


元凶は、あれからなのか。

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