涙のあと
https://www.youtube.com/watch?v=dp56UjFTtIg&app=desktop
※音楽と合わせてお楽しみください
永い夢を見ていたかのように、健は看護婦の声によって病院で眼を覚ました。
「……、あ、痛いところはありませんか?」
「…………大丈夫です、でも、ここは?」
「すみません、流れがわからないですよね。
水上さんはマンションの一室で事件に合われて、警察が部屋に乗り込んだあとに保護されたのです。いま、包帯などで腕を巻かれていますが…ドクターの話では傷痕は生活に支障をきたさないぐらいね軽症だったとおっしゃっていました。傷口が塞がり次第、退院してもらって宜しいですよ。」
「あ、はい…」
朝陽なのか夕陽なのかわからないようなオレンジ色の生暖かい光が、健の顔を焼く。治療を終え別の患者の手当てをしに行こうとする看護婦に熱い痛みを感じ、呼び止めてしまった。
それは看病してくれた看護師が可愛かったからではない。手の温もりが久々で離れたくなかった訳じゃない。あの事件で突いた傷が痛いからではない。健はただ、あの子が気になった。
「あの、」
「私から申しあげることは出来ません。あの、守秘義務ですので……。水上さんが手持ちのものであれば、そちらのタンスに仕舞わせていただいておりますので、ご確認ください。」
自分の顔の暑さよりも、看護婦の顔に映える赤さが、由美の事件の頃のように切なく苦しくもどかしい思いを抱かせる。そんな心情、いやの呪いを立ちきるようにタンスをあさりだした。病院のタンスだと知りながらも、中身が限られていると知りながらも、自分が抱えている闇に一筋の光を求めるように何かを探した。あのときに手渡せたものが確かだと信じたくて、健は探した。それもまた赤くて、記号が打ち込まれていて、ハートマークが印されているもの。
健と由美が追い掛け始めたウォークマンと同じくらいの大きさ。すべてはそこから始まり、展開をしながら知っていき大切なものを気付き知り失った。時間が流れても自分として生きていくなかで、人は生まれ死に行き、悩み恨み苦しみ、空を見上げる。
その左手に納められたヘルプマークもまた、新たな物語を告げていく。どちらの血かわからないが、ハートマークだけは紅く染まらず逆に涙で光輝いている………。
「ごめんな、真くん………。」




