計画犯
健は昔から素質を手にしていた。思う強さが行動になるその力は、みんなから『疲れ知らずの飛び込み屋』と格付けられるほど。人を想う厳しさも持ち、時には「気取り屋」と釘を刺されるほど優しさ。それが運となして、離れていく友達も亡くなった子も居なくもない。
感覚の栓を締めて生きるのは並大抵のことじゃない。
まさに、、、今の出来事がそう招いてしまったことも。
由美は嘲笑するように、目の前で亡くなった後輩の彼女のウェディングドレスを着て高い声をあげている。一声をあげるたびに揺れるその白いドレス裾は、床に擦れるほど茶色ではなく紅い血の色のように染め上げていく。ほつれることも気にしないドレスは、もぎ取られてた翼の名根の一部に見えるようにも感じた。
動く事さも出来ないその体は、抑えるのに必死でもあったその両手が、震えが極度を増したばかりに耳から外してしまった。
「・・・・・・たけるっ・・」
由美の声が、どす黒い声に変わって男性みたいな声を発生したのを聞いてしまった時だった。
「・・・、健さん。大丈夫ですか。」
ある声に呼び覚ました健は目を丸くしながら、人物の姿と認識して数100メートルぐらい顔をあげた。そこには整っている姿の新郎ではなく、肩パッドを外してしまったかのような柔らかい姿の青年が佇んでいた。
ハッとしながら、ゆっくりと重たくなった体を身体で支えて健は深々とお辞儀をした。新郎が流した粒よりも大きいかもしれない涙を白いタイルへ次に叩き落とした。忙しい筈である新郎はさらに健に詰め寄り、肩に手を添えた。抑えたいはずの感情が、余計に同じような想いを引き連れて鼻水が糸状に変わりぐちゃぐちゃになっていった。健に添えられた手は両手に代わりバランスを整えられたとき、新郎は言葉を落とした。
健に映ったその瞳の中には、健にしか解らない開放が拓かれた。
「健……さん、ですよね?この場では不釣り合いではありますが、おふたりがお世話になりました。」
「……?」
「小嶋と収が、お世話になりました。」
「いや、あの、小嶋は後輩で…!
いや、『収』が…、いやあの、どちらの…」
「ボクの“兄”です。」
今回の出来事から一歩引いたその話は、すべてが落ち着くまで続いた。後輩が健に対して、指導が厳しかった中にも尊重を感じていたことや、2年前の出来事に由美の事、収の想いなどがふたりの間ですり合わせられていった。そして何よりも大きな揺らぎをもたらしたのは、この不可解な事件が起きている現象として霊的ではなく、心情の気の宿りが招いた結果でもなく、健自身が招いたという意外な事実であった。
ただそれは、気ではなく、自らの計画通りに進んでいるという話である。




