100さい
百歳時代と言われ始めた今、健の瞳に映る景色はどんな想いなのだろうか。
数日前に報道された、お年寄りの男性とセカンドライフを迎えようとしていた二人がであいがしらに交差点で事故を起こしなくなったことを震えたたす。恋に堕ちたのではなく、命を落としたのだ。今の時代からいうと二人ともまだ若い、七十代前半だ。ここ最近もそんな事故は多く、特に八十代の人が多い。だが、本来その人達は……少し前までまでは空で見守っていた人達だということでもある。事故を起こす理由がわからないの前に、事故を起こしても不思議ではないのだろうか―――。
白樺の木々に囲まれたチャペル。木洩れ日の下で躍り舞う蝶は、幸せで飛翔する新郎新婦のように。2人が手にするブーケの花たちは、風と乗り込んで甘い香りを会場を包む。数時間前に健の立ち寄ってきた献花とは反対に、白く美しく儚い束が愛を強くする。
披露宴の時に健に見せた姿は、呪いのせいではなく、前日に妊娠が発覚したからで…これまでのなかでは一番幸せな時を、元後輩と親友の収に似ている新郎は過ごしているのだろうと健は眺めるのである。
微量のアルコールのせいで、いまは閉じ込めておきたい思いが妬みとして出てきそうな感情を必死に隠し、歩いていく姿を祝福する。白いオープンカーでという話から、生きざまをうかがえる綺麗な白髪の男性が迎えに来る。この余韻にしたるように目をつむり、呼吸をした時だった。錆びた鉄の臭いが健の眼と眉間が恐怖に誘った。
「わたし、死んでもいいぐらいシアワセ。ちゃんと云えてなかったコトバ、『大好き、ありがとう』」
元後輩が純白のドレスをなびかせながら、そっとささやいた。
人生とは未知の世界だ。
哀しくも、虚しく、痕をひく。
白いウェディングドレスが紅い花を作り出した。
歓喜で生まれた黄色いが惨事による奇声へと変化した。純白な想いは、時に自分を殺す。純粋な気持ちは、時に自分に呼ぶ。
整理のつかない出来事が、目の前で繰り出していく。また自分の回りに死者が出てしまったこと。祝福を優先したいのに、過去に囚われて陰が出来てたこと。収の声と新郎と重なり、ナイフを突き付けられているように感じてたこと。後輩を見てあげれる形をもてないこと。献花をしてきた事故現場に立ち寄ったこと。愛を呟くたびに咳き込みしていたことに、何かに関連させてしまっていること。
救急隊員が声をかけてきていることに気付かずに、他の参列者に二の腕を鷲掴まれ叩きつけられた、健。景色は変わっても目先にあるのは、純白ドレスで笑う後輩ではなく由美の姿。記憶の回転と意識のスピードが噛み合わなくて、ガラコパス携帯のように折り畳まれる花嫁姿がループする。彼岸花のように模様が入る血は、健にすがるように垂れていた。
由美は、健が新郎の方に声を掛けられるまで笑い続けた。




