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ソング  作者: 奥野鷹弘
後編
20/30

願い

 漠然としたまま歩き続ける健の帰り道の際に、何かが大きくぶつかる鈍い音が聴こえた。それはかすかに普段聴きなじみのないような音で、やけに生々しく、蒸し暑かった昼前さえも凍らせるような嫌気が背中を凍らせた。ウジ虫が湧くようにどこかに一点として野次馬の声が集中しはじめた。居たたまれなくなってきた健は、暗い路地のような道路から人出の多い道路へ駆け込み、帰り道へ急いだ。


 反対車線の車が帰省ラッシュのおかげで、次々と人工ランプを眼に焼き付けていった。白・黄色・オレンジ…そんな色たちが、和哉と健の中学時代をフラッシュバックさせる。

 中学生ながらにしていろんな経験をしていた和哉は、周りより大きく懐を大きくして口にしていたことがあった。思春期に突入すると難しくなる異性たちの攻撃に耐えながらも、『僕は同性だからといって特別な感情が湧かないことがない。なんか、それぞれがカッコよすぎて大好きだ。』と云いつづけていた。それをどこをどう捉えていたのか、周囲はからかいの材料にして偽りの告白や体育の授業をはじめ、校外学習の場所まで発展していた。さすがに家庭事情もあって和哉は耐えられるはずもなく、よく自傷行為をしてしまった後に健によく怒鳴られていたのであった。性差に対して世の中は理解があるように見えるが、和哉の云うその言葉は、いまだに理解のない窮屈な世界だと思わせている。

 怒られているうちが花だというのなら、さてそれ以外は何だというのだろうか…。



 電気も付けずに部屋でうづくまった健は、携帯を取り出し恋人関係になりかけた由美の写真を眺めようとした。日常生活では欠かさず携帯の充電を済ませている健ではあるが、今回は電源を入れても付かないほどの充電切れを起こしていた。朝からあまり食べ物を口にしていなかったこともあり、身体を守るように羽織った毛布を身に着けながら流しへ水を汲みに行った。居るはずもない由美が真横に居るように見えた。目玉焼きぐらいは作れるだろうと挑戦したフライパンが置きっぱなしになっている。買ってきてすぐにたわしで洗ったばかりに、目玉焼きがくっついたまま腐臭を漂わせている。コップ一杯の水がどれだけおいしいか身にも染みた。


 布団をかぶりながら、健は充電している携帯をいじりだした。

 また見知らぬ人からの卑猥なるお誘いや友達追加などのお知らせが届いていた。それに加えて自分に引きこもっている感情を吐き出そうと始めたネット小説の告知用のSNSもお知らせが入っていた。それに紛れ込むように自分の書いた小説に関連付けていた用語が、先ほどの帰り道に聴いたイヤな音と結びついていた。ちなみに健の書いた小説内容は、アイドルグループの握手会に参加できなくての切実な想いからによる無責任な自殺だった。

 そして現実で起きたのが、愛するが故の自分には舞降ってこなかったイベント落選によるファンへの復讐による飛び降り自殺だった。



 トレンドマーク入りされた投稿が、そのSNSを騒がせた。また、その事件映像も拡散されていた。

 自分の帰り道の出来事だと知り動画をまじめな意味で再生しようとした健だったが、なぜか動画がされずに違うものがダウンロードされた。まるでウイルス詐欺のように、携帯へダウンロードされた。気を動転させてものの、健はそのまま思いのままにダウンロードされたファイルを開いてみた。それは音楽ファイルだったらしく、聞き覚えのあるメロディから始まり、女性の歌声が聴き取り始めて携帯を投げ飛ばした。そう、それは…由美を殺したとされる、大原あゆみの『All love』という曲だった。



 暗い部屋を紅い画面で照らすかのように、CDジャケット写真が大きく表示されながら、サビに近づくにつれてバイブ振動によって健のもとへ寄ってくる。包まっていた毛布を投げては携帯を覆い隠し、大きなディスプレイの携帯を手探りでなんとか歌の停止を試みた。なんとか上手くいったように思えたが、そのあと直ぐに、何か聴き思い出してはいけない鈍い大きな音が耳に伝わった。


 『あ・・いたっ』

 という、言葉とともに―—―。

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