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ソング  作者: 奥野鷹弘
前編
11/30

11.焦げた臭い

「なぁ、由美…その住所で間違ってないか?」

「え?いや、間違いないけど…」

「んなら、ナビがぶっ壊れてるって事だな。じゃなければ、取り壊されたんだろ?」

「…そうなのかな。」そう由美は呟いて、健の車から降り立った。


徒歩10分圏内には駅やコンビニ、郵便局もあり、緑が多く自然豊かな町だった。それが原因なのか、目の前に広がるポツンとした更地らしき空き地。この周囲だけ手をつけられないのか、周りから発展が遅れているようにも見えた。車から覗いていた健も降り立ち、由美の方へと歩み寄った。

晴天な空気の中、ようやく風が吹き付けた。見えてる更地を囲む木々たちがざわついたあとに、微かに香ばしい臭いが鼻についた。健が鼻をこする間に、由美は一言呟いた。

「焼け跡の匂い…」

健はそのつぶやきを聴いて、匂いの原因を知った。


そんな異様に見える光景が目についたのか、70代くらいおばぁちゃんが二人に声を投げ掛けた。

「どしたんだい?もう、そこには何もありゃしないよ。」

そんなおばぁちゃんの声にピクッとして、二人は向き合って、おばぁちゃんの方へと振り向いた。おばぁちゃんは少しにこやかな顔をしながら近付いて、辺りを見渡しながら続けて喋った。

 「最近の若者ったら物好きだねぇ。あんたたちも、肝試しかい?いや、昼間っから来ても意味ないわねぇ~。あんたたちも若くてガヤガヤするのもいいけど、人様んちは礼儀っちゅうものを慎まなきゃダメよ。なんだい…その顔は…。あひゃひゃ…すまないねぇ。てっきり、ネットだとかで映像をアップする、なんチャラチューバー?っていう若者かと思ったわい。んで、なんだい?見ての通り何にもありゃへんのに、辺りをキョロキョロして。」

 話しかけてきたおばあぁちゃんは、少しおっちょこちょいな部分があるようだ。それにしても、若者が多く尋ねるとか肝試しとか。何チャラチューバーはきっと、動画のアップ主の事だろうけど礼儀がなってない奴らだ。と、健は心の奥で思った。そして、このおばぁちゃんに話を聴いてみれば何か解るかもしれないと話を切り出してみた。

 「あの、おばぁちゃん?ココ、何があったんですか?おばぁちゃんの話によると、建物らしきものがあったと感じたんですけど…」

 おばぁちゃんは眉間にシワを寄せながらも、口にしようかしないか考えているらしく、ゴモゴモと口を動かしていた。そんな表情を見ながら由美は、照り付ける太陽と暑さを見極め、おばぁちゃんの横にしゃがみこみ声をかけた。

 「おばぁちゃん。無理なお話してごめんね。それに、今日はとても暑いからおばぁちゃん倒れちゃうよ。もし話しても大丈夫だったら、おばあちゃんの家でお話してくれても大丈夫だよ。」

 由美の声掛けに図々しさを感じながらも、こんな炎天下で他の話を切り出すのも考え物だとも思ったため、内心、由美の心遣いにホッとした。そんな心遣いに打ち解けたのか、少し悩んだだけなのかおばぁちゃんは案内するとコクリと頷いたのであった。


 車とともに、あの場所から数10メートル先におばぁちゃんのアパートがあった。二人は案内されながら、部屋へと上がり込み、言われるがままにちゃぶ台を前にした座布団に座り込んだ。おばぁちゃんはそのまま玄関から台所に立ち、ひっくり返ったコップを2つ棚から取り出し布巾で拭いて、氷を入れ、冷蔵庫からの麦茶を注ぎ込んだ。カランカランを涼しい音を立ててこちらに来る間、健は失礼にあたるような見かたで辺りを見渡した。部屋にあるのは、間に合わせのカレンダーとハンガーにぶら下がった服。奥をチラリと覗けば、まだそんなに年月が経っていなそうな敷布団たち。今時の電化製品があると思えば、電話機と小さなテレビ。それと、取り付けのインターフォンのみ。そのほかはまるで最近引っ越してきたような、軽々しい生活に見えた。もしやと思い、健はおばぁちゃんがお茶を運んで一息ついたときに質問しようと考えた。

 ゆっくりながらもお茶を運んできたおばぁちゃんは、ほんの少し穏やかに「お茶、飲んでって。」とシワシワの手で、二人にお茶を差し出した。二人が息をそろえて「いただきます。」と口にしたのを、くすみ笑いしながら健よりも先に、自ら、あの更地について語り始めた。それは健の想像したように、あの更地はおばぁちゃんも住んでいた、封筒にも記載されていた『裏野ハイツ』という木造の住宅の焼け跡更地だった。

 ではなぜ、裏野ハイツが焼けてしまったかというと、それは先ほどのおばぁちゃんの話にあった、動画のアップ主による不意による事故で火事を起こしたことが原因だった。裏野ハイツはそもそも一般的に人が住んでいた住居なのだが、常識を知らの者たちのイタズラなのか、それともどこからかの流れた噂だけに心を奪われ一般常識を無視したが動画のアップ主たちが、視聴数を稼ぐために動画をアップしていった。もちろんながら、それらは通告され削除されアカウントが停止された。そんな中でも、姑息な動画編集をする輩もいて成功すれば、一日で万という数字は簡単だった。それに乗っかった一人が火事を起こしてしまった。しかし、その火事を起こしてしまった一人も巻き沿いにあったといい、警察に対しては「声を録るために、火の儀式をしていたら、急に風が吹き、裏野ハイツに燃え移ってしまった。」と話したという。住人たちは火事を起こした本人に弁償させようとしたが、人間としての形状がなく返せないことを知り、住人たちは狂気に満ちながらも心を大きくして事を静かに収めたという。

 そんな出来事は今年の春ごろだったらしく、おばぁちゃんも何だかやりきれないという顔つきで語り尽くしてくれた。


 由美はこの話でお腹でいっぱいにしながらも、健は大原あゆみについて聞きたいと、どこか話の糸口を探していた。ふとお年寄りだということを忘れていた健は、おばぁちゃんに何年ハイツに住んで居たのか尋ねてみることにした。

 今まで流ちょうに話していたおばぁちゃんなのだが、お漏らしを我慢するかのようにもぞもぞと言葉を濁しながら「・・・20年…ぐらい、かしらね…。」とつぶやいた。明らかにおかしいと感じた健は、思い切って大原あゆみの名前を出してみた。一瞬怖い顔をして睨みつけてきた感じがしたが、おっとりした雰囲気で「その人が・・・どうかしたのかね?」と以外にも話に便乗をしてくれたので、躊躇なく伺うことにしてみた。

 

健は、突き進めてく。

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