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仮面カイザー戦記  作者: 通 行人(とおり ゆきひと)
9/18

第4章(ヒーローサイド) 非道! 正義勘の正体!!

 4-①


 士多君が行方不明になってから3日が経過しようとしていた。始まりは2日前・・・中間テストの結果発表があった日の夕方、秘密基地内の士多君の部屋での事だ。


「士多君、私の部屋のベッドが調子悪いみたいなんだけど見てくれない?」

「えー、僕は正義勘の研究で忙しいんだけど」

 そう言いながら、士多君は動物図鑑をパラパラとめくった。

「何調べてるの?」

「ああ、これ? いや、動物や昆虫の中には何キロも離れた位置にいる仲間を察知出来るものがいるんだよ。君の正義勘もそれに近い能力かもしれないと思ってね」

「ふーん、でも今は私のベッドを・・・」

「ムリだね。何でか知らないけど、あのベッドにはやたらと厳重なセキュリティがかかっていて、司令の認証キーがないとメンテナンスハッチを開くことが出来ないんだよ・・・って言うか、ベッドが無ければ布団で寝ればいいじゃない」

「ヤダ! あのベッドじゃなきゃ疲れが取れないんだよう」

 ちなみに、“あのベッド”とは、司令が一カ月程前に、秘密基地内の私の部屋に設置したベッドの事で、もちろんただのベッドではない。正式名称は確かハイパーミラクルアメイジングスペシャルメディカルマシン・・・だったと思う。

 そのベッドにはジャスティスの誇る超技術が、ふんだんに、惜しみなく、必要以上に盛り込まれているらしく、原理や仕組みは分からないが、凄まじい疲労回復能力を誇り、今ではもう、このベッドで寝ないと、体が重くて仕方ないと感じる程だ。

 今はまだ試作段階で、基地にあるのは私の部屋に設置された一基だけだが、ゆくゆくは全隊員分配備されるらしい。

 ・・・で、そのメディカルマシンの調子が悪い。戦闘後の疲労回復は戦う者にとって、非常に重要な事なのだ。

 士多君は、少しの沈黙の後、ヤレヤレと言わんばかりに溜息を吐いた。

「ハイハイ、また後でね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・パロ・スペシャルっ!!」

「痛だだだだだだた!?」

 私は士多君の背中に背後から飛び乗り、両手両足をガッチリとフックした。士多君が私のパロ・スペシャルから逃れようと顔を真っ赤にして足掻く。

「無駄だー、この技は別名“アリ地獄ホールド”と呼ばれているー、力づくで外そうとすればするほど、技の掛かりが深くなってゆくのだー」

「お兄ちゃーん、宿題手伝っ・・・」

「あっ・・・桃」

 部屋に入ってこようとした桃ちゃんが固まった。

「ち、違うんだ桃、これは・・・」

「おっ・・・お兄ちゃんと由香里さんが何かアクロバティックな体勢で組んず解れつしてるぅぅぅぅぅ!?」

 マンガだったら、頭上に “ガーン!!” という文字が出そうな顔をして、桃ちゃんは走り去ってしまった。

 ちなみに、後で食堂のおばさんに聞いた話だと、私と士多君が、“何だかよく分からないけど卑猥な事してる”と勘違いした桃ちゃんは、食堂の隅でずっと体育座りして、半ば放心状態で「オラ、見てはなんねぇものを見てしまっただ・・・」と呟いていたらしい。

「・・・私のベッド、直してくれる?」

「・・・分かったよ、直す! 直すから!」

 私は、パロスペシャルを解いた。

「さっすが士多君。よっ、天才! マッドサイエンティスト!」

「それ褒めてる!? じゃあ、勝手に弄ったらまた怒られるだろうから、司令に許可をもらって来るよ」

 そう言って士多君は部屋を出て、司令室へと向かい・・・・・・忽然と姿を消した。


 現在、ジャスティストルーパー隊が総出で捜索を行っているが、未だに手がかり一つ見つからない。どういうわけか、司令室の周囲の防犯カメラに映像が残っておらず、目撃者もいないのだ。

学校が終わり、秘密基地に戻ってくると、私はオペレーションルームに向かった。オペレーションルームには捜索隊からの連絡を待つ桃ちゃんがいた。可哀想に・・・あまり寝ていないんだろう。桃ちゃんの全身からは疲労感が漂い、目の下にはくっきりと隈が出来ていた。

「捜索隊からの連絡は?」

「いえ、まだ何も・・・お兄ちゃん、大丈夫ですよね?」

 私は、今にも泣き出しそうな桃ちゃんの肩をしっかり掴んで答えた。

「士多君ならきっと大丈夫! 皆で探してるんだし、きっともうすぐ連絡が・・・」


 “プルルルルルルルル!”


 その時、捜索隊からの緊急無線連絡が入った。

『応答願います。こちらジャスティストルーパー11番隊の鵜中です。ポイントG-3にて士多博士からの緊急SOS通信を傍受し、私達の方で士多博士がいると思われる建物を特定しました!』

「お兄ちゃんの居場所が分かったんですか!?」

 桃ちゃんが机から身を乗り出して応答した。

『ええ。伊達に吟賀警察署で20年刑事をやってたわけじゃありません。元刑事の経験と勘って奴です』

 おおぅ・・・流石はメンバーが元刑事で構成され、“刑事戦隊”の異名を持つジャスティストルーパー11番隊だ。普段は只の冴えないオジサン達にしか見えないのに。でもよく考えたら、20年って事は私が生まれる前から刑事やってるんだもんなー。カッコイイー、超カッコイイー!!

「あ・・・ありがとうございます。鵜中刑事!」

 桃ちゃんは通信機越しに何度も頭を下げた。

『ふふ、刑事と呼ばれるのは随分久しぶりです』

「良かったね桃ちゃん、それじゃあ私も士多君を迎えに・・・」

『いや、それは待って下さい』

 士多君を迎えに行こうとしたら、鵜中隊長に止められた。

『どういう訳か、暗号通信には、桜井隊員以外の人に助けに来て欲しいと・・・』

「そんな!? 一体どうして!?」

『それは分かりません、ひとまず私達で建物の偵察をしてみます。建物はポイントG-3の・・・ハッ!? 何だお前達は!?』

「鵜中さん、どうしたんです!? 鵜中さん!?」

『何をする!? やめろ!!』

「鵜中刑事ーっ!?」

『ギャアアア・・・・』

 バァァァンッという銃声のような音がした後、通信が切れた。桃ちゃんが何度も通信を試みるが通信は繋がらない。11番隊が何者かに襲われているようだ。

「桃ちゃん、私行って来る! 安心して、士多君も鵜中隊長達も私が助け出すから!!」

「お兄ちゃん達を頼みます!」

 私はポイントG-3へと急行した。

 

 4-②


 ポイントG-3に到着した私は、何者かに襲撃され、地面に倒れている鵜中隊長達を発見した。全員意識を失っているが、命に別条は無さそうだ。私は基地で待機している部隊に救護要請を送ると、50m程先に見える5階建てのビルへと向かった。

 周囲には他にもいくつかの建物が建っていたが、私には鵜中刑事が伝えようとしていたのがどの建物なのか分かっていた。あのビルからは・・・・・・邪悪な気配が漂っている。

「変・・・身ッ!!」

 事は一刻を争う。走りながら仮面カイザーに変身して建物内に突入し、ビルの最上階を目指す。きっと、絶対に、間違い無く、士多君はそこにいる。何故なら・・・馬鹿と煙と悪の秘密結社は高い所が好きだと相場は決まっているのだ!!

 エレベーターは閉じ込められる恐れがあるので階段を一気に駆け上がる。

「とうっ!」

 最上階の一番奥の部屋の扉をぶち破って中に入ると、ロープで手足を縛られた士多君が、床に転がされていた。

「士多君、大丈夫!?」

 士多君を解放するべく、駆け寄ろうとしたその時だった。

「・・・・・・危ない!!」

「っ!?」

 怪人の気配を感じると同時に背後からいきなり斬りつけられ、思わず前につんのめった。

 激しい警告音と共にモニターに「背部装甲損傷」の文字が表示される。再び背中に攻撃が来る気配を感じ、前転して間合を取った次の瞬間、私が立っていた場所に鋭い鎌が振り下ろされた。

 振り返ると、そこにいたのは両腕が鋭い鎌になったカマキリの怪人だった。怪人が床に突き刺さった右腕の鎌を抜き、腰を深く落として構える。これは・・・中国拳法の蟷螂拳だ。

 まずい、隙が全く無い。迂闊に間合いに踏み込んだが最期、両腕の鎌に捕らえられて動きを封じられた所に、あの強靭な顎の一撃を喰らうだろう。この怪人・・・・・・かなり手強い。

 ならば、打つべき手は一つしかない、相手が攻撃に転じる瞬間に生じる僅かな隙を狙って一撃で仕留める。私は左手を前に伸ばし、腰を落として構えた。相手も私の意図に気づいているのか、動こうとはしない。この勝負・・・先に動いた方が負ける!

 1分・・・2分・・・互いに身動きできないまま、時間だけが過ぎてゆく。3分・・・4分・・・

 私の集中力が途切れそうになった瞬間、それを察した士多君が叫んだ。

「あっ、交尾前のメスカマキリ!!」

 カマキリ怪人が明らかに動揺した。その一瞬の隙を突いて一気にカマキリ怪人の懐に飛び込む。カマキリ怪人は慌てて鎌を振り下ろそうとしたが、それよりも早く私の渾身の正拳突きがカマキリ怪人のボディを捉えた。数秒の間の後、カマキリ怪人は仰向けにどうと倒れ込み、灰になった。

 怪人を倒した私は士多君の元へ駆け寄り、士多君を縛っていたロープを解いた。ずっと拘束されていたせいか衰弱している。自力で歩くのは難しそうだ。私は、士多君に肩を貸してビルを降り始めた。階段を降りながら、私はずっと気になっていた事を聞いた。

「・・・どうして私以外の人に助けに来て欲しいって言ったの?」

「そ、それは・・・」

 2階まで降りてきた所で私は足を止めた。

「・・・どうしたの、由香里ちゃん?」

「・・・奥の部屋から怪人の気配がする、ちょっと見てくる」

「行っちゃダメだ!」

 士多君を床に座らせて、奥の部屋へ向かおうとしたら士多君に制止された。

「今は・・・この建物から脱出する事だけを考えるんだ。調査は他のチームに任せよう」

「ダメだよ、今ここで怪人を逃したら街に被害が出るかもしれない・・・すぐに戻って来るから」

「お願いだからあの部屋には行かないでくれ! 行くな!」

 一体どうしたって言うんだろう、士多君は何をそんなに動揺しているんだ? とにかく、街の人々を危険に晒す存在を放置しておく訳には行かない。私は士多君の制止を振り切って怪人の気配がする部屋に行き、そこで思いもよらない物を発見した。

 どうして・・・コレがここに!?

 部屋の中には3台ものハイパーミラクルアメイジングスペシャルメディカルマシンが設置されており、ハッチに着いている金属プレートにはこう書かれていた・・・・・・・・・『怪人作成装置』

 士多君が言っていた言葉が頭をよぎった。“動物や昆虫の中には何キロも離れた位置にいる仲間を察知出来るものがいる”その瞬間、私は理解した。どうして私は怪人の存在を感じとれるようになったのか。どうして司令は士多君が正義勘の研究をしようとするのを疎んじていたのか。そして、どうして私の部屋に設置されていたハイパーミラクルアメイジングスペシャルメディカルマシンを調べようとした士多君が連れ去られたのか。


「うわあああああああああああああっ!!」


 ボーズを取るのも、必殺技の名前を叫ぶのも忘れて、私はハイパーミラクルアメイジングスペシャルメディカルマシンを破壊し尽くした。


 4-③


 その後、私は衰弱した士多君を連れて偽装アパートへ戻った。今、士多君を秘密基地に連れ戻すのは危険な気がする。

 士多君をベッドに寝かせて、話しかけた。

「士多君、さっきのアレは・・・」

「アレは・・・中に入れた生物を怪人に作り変えるマシンだ。僕を連れ去った連中が、さっき君が倒したカマキリの怪人を生み出す所を見た・・・」

「そんな、それじゃあ私は・・・っ」

 そこから先は言葉にならなかった。私は知らないうちに怪人に改造されていたというのか・・・・・・

 頭の中で何かが、“ぶちん!!”と千切れる音がした。制御不能の激しい怒りが体の中を駆け巡る。許さない、絶対に許さ・・・

「許さん・・・絶対に許さんぞぉぉぉぉぉーっ!!」

「・・・えっ!?」

 激しい衝動に突き動かされて勢い良く立ち上がろうとしたが、それよりも先に士多君がベッドから立ち上がって怒りの咆哮を上げた。普段の彼からは想像もつかないような凄まじい叫びに、体が思わずビクンとなった。

「アイツらぁぁぁ・・・断じて許さん!! あの基地の連中は皆殺しじゃぁぁぁーっ!!」

 士多君が部屋の壁を蹴り、テーブルをひっくり返して暴れ回る。

「ちょっ!? 士多君!?」

「いいや・・・アイツらだけじゃない、アイツらの家族、恋人、友人・・・アイツらに関わった奴は全員地獄に叩き落してくれる!! うおおおおおおおおおっ!!」

 部屋を出て行こうとする士多君を背後からパロ・スペシャルに極めた。尚も暴れる士多君を必死に止める。

「ええい、離せぇぇぇぇぇっ、俺は今からあの裏切り者共を殺りに行くんだ!!」

「そ、そんなのダメだって!! まずは、誰が裏切り者かハッキリさせて、そいつを倒さなきゃ。何にも考えずに一人で基地に殴り込んで、手当たり次第に破壊するなんて無謀過ぎ・・・」

 そこまで言ってハッとした。士多君の言っている事は、私自身が怒りに任せてやろうとしていた事じゃないのか。私は改めて士多君の目を見た。暴れながらも、その目はいつもの冷静な、しかしながら苦痛に満ちた目をしていた。

 私はパロ・スペシャルを解いた。

「ありがとう。少しだけ・・・冷静になれた」

「・・・じゃあ、頭を冷やした所でこれからどうするか考えよう」

「うん、分かっ・・・!?」

 その時、首筋がぞくりとした。

「どうしたの?」

「何処かに怪人が現れたみたい」

「・・・行くの?」

「この街には大事な人達がいる。その人達を危険に晒す者は誰だろうと叩き潰す。例え怪人に改造されてしまったとしても、私は・・・正義の味方だから」

 

 新たに現れた怪人を撃滅するべく、私は外に停めてあったシルバーバレットに跨り、アクセルを全開にした。


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