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仮面カイザー戦記  作者: 通 行人(とおり ゆきひと)
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第1章(JOKERサイド) 遭遇! 正義のヒーロー!?

 1-①


 “俺”こと、正木ヒロは改造人間でもなければ、人間の自由の為に戦うわけでもない、ごく普通の高校二年生である。

 成績は中の上、運動神経は良くも悪くもなく、友達も普通にいる。

 小説やマンガだったら、読者に「もっとちゃんと設定を考えろよ」とツッコまれてしまうような、至って普通の高校二年生である。

 俺は泉市立城山高校へと続く長い坂道を登っていた。

 どうして月曜日の朝というのはこうもテンションが上がらないのだろう。梅雨明け間近とはいえ、空気はまだじめじめして蒸し暑い。

 俺は汗だくになりながら校門をくぐった。

「正木、とうとうこの近くにも出たよ!」

 二年b組の教室に入るなり、長髪のひょろっとした男子生徒が、興奮した様子で話しかけてきた。クラスメイトの竹内巧だ。

 竹内は幼稚園からの幼馴染みで、高2にもなって年がら年中UFOだの未確認生物だの超常現象だの都市伝説だのといった話ばかりしている大のオカルトオタクである。

 つい最近もチュパカブラだかメカゴジラだかいう未確認生物の話に三時間も付き合わされたばかりである。このくそ暑いのに妙な話に付き合わされてはたまらない。俺は話の腰を完膚無きまでにへし折る事にした。

「トカゲ男の話なら遠慮しとく」

「えぇー、とっておきの最新情報を入手したのに!」

 ちなみにトカゲ男とは、2週間程前から俺達の暮らす泉市を騒がせている、身長およそ2m、大きな赤い目、鋭い爪と牙を持ち、全身を鱗に覆われた二足歩行の怪物である。そのトカゲ男が夜な夜な器物破損を繰り返しているという、一種の都市伝説のようなものである。このオカルトオタクが食い付かない訳が無い。

 しかしながら、ついこないだもどこかの町でフランケンシュタインの被り物をした引ったくり犯が逮捕されたというニュースをテレビでやっていた。トカゲ男も大方、誰かの悪戯だろう。

「けっ、トカゲ男が言葉でもしゃべったか?」

「えぇっ、どうしてそれを?」

「あのなあ・・・」

 アホかコイツは・・・茶化したつもりが、竹内の驚きぶりを見ると、どうやら竹内の最新情報とやらを偶然にも言い当てたらしい。こういった話にはたいてい尾ヒレがつくものだが、明らかに尾ヒレが本体より大きくなっている。

「そんなもんいるわけないだろ。トカゲ男だってどうせ誰かのイタズラだ」

「あーあ、正木は一番最初に殺されるタイプだね・・・」

 竹内が意味不明な事を言い出した。きっと豆腐の角で頭でも打ったに違いない、可哀想に。

「エイリアンが出てくる映画で、大抵最初に殺されるのは「エイリアンなんかいるわけない」と決め付けて行動する奴なんだ・・・そう、今の正木のようにね!」

 何なんだそのどや顔は・・・・・・うざっ。

「アホかっ、もし本物の怪物に遭遇したら坊主にしてやるよ!」

「よし、その言葉忘れないでよ!」


 と・・・竹内とそんな会話をしていたのが、今朝の事である。そして現在、俺と竹内の目の前では本物のトカゲ男と正義のヒーローが闘いを繰り広げていた。


 1-②


 話は少し前に遡る。俺は竹内と二人で学校から家に帰る途中だった。竹内の頭の中はトカゲ男の事でいっぱいなのだろう。校門を出てから三十分近く、飽きもせずトカゲ男の話をしていた。

「だから、今までの情報を総合すると、トカゲ男の正体はチュパカブラの可能性が高いわけなんだよ」

 本当かどうか分からん情報を総合することに一体何の意味があると言うのか。

 竹内の、トカゲ男=チュパカブラ説を聞き流しつつ歩いていると、目の前に〈この先工事中・危険なので絶対に通行禁止!〉と書かれた看板が現れた。

「またか、さっきから何でこんなに工事ばっかりしてるんだろう?」

 うんざりした様子で竹内が言った。

 確かに竹内の言う通り、さっきからやけに工事中や通行止めの看板が多い気がする。おかげで家まで徒歩15分程度の道のりを大きく迂回するはめになり、かれこれ30分も竹内のしょーもない未確認生物の話に付き合わされている。

「あー、もう! 早くしないと超常現象特番が始まっちゃうよ」

「あ、おい・・・」

 竹内は、〈この先工事中・危険なので絶対に通行禁止〉と書かれた看板を無視して先に歩いていった。ここを迂回するとなると、あと15分はトカゲ男の話に付き合わされる事になる。俺は竹内の後に続いた。それからしばらく歩いたが、工事をしている様子はどこにもなかった。

「だから、チュパカブラは宇宙生物じゃないかと僕は睨んでいるんだよ」

「へいへい、すげーすげー」

 竹内の、トカゲ男=チュパカブラ=宇宙生物説を聞き流しつつ歩いていると、人気のない道にさしかかった。周囲は田んぼばかりで元々人通りの少ない道だが、さっきの看板のせいか、俺達以外に通行人はいない。

「ねえ、あれ何だろう?」

ふいに竹内が足を止めた。20メートル程先で道の真ん中に《何か》がうずくまっている。電灯も少なく薄暗い道なのでよく見えないが、犬にしては大きすぎる気がする。

 二人して目を凝らしていると、《何か》は二本の足で立ち上がり、ゆっくりとこっちに近付いてきた。人間だったのか? それが5メートルの距離に近付いたとき、俺は息を呑んだ。鋭い爪と牙、鱗に覆われた皮膚、そして暗闇の中真っ赤に光る大きな目、明らかに、人間でないものがそこにいた。

「とっ、トカゲ男ぉぉぉぉぉーっ!?」

「ちゅっ、チュパカブラぁぁぁぁぁーっ!?」

 悲鳴と共に俺達は逃げ出した! しかし、トカゲ男は一跳びで軽々と俺達の頭上を飛び越え、俺達の目の前に立ちはだかった。慌てて反対方向に逃げようとしたが、脚がもつれて転んだ。トカゲ男がのしかかってくる。重くて身動きがとれない。助けを求めようと視線を動かして竹内を探すと、かなり遠くまで逃げていた。あいつ、あんなに足が速かったか?

 今朝の竹内の言葉が頭をよぎる。まさか俺は、本当に一番最初に殺されるタイプだというのか!? 死を覚悟したその時だった。


 “ヴォォォォォン!”


 一台のバイクがこちらに向かって来るのが見えた。

 俺は必死に助けを求めたが、バイクのスピードは一向に落ちる気配はない。と、言うか・・・・・・更に加速してる!? 俺の事が見えない距離じゃないだろうに!

 このままではトカゲ男よりも先にあのバイクに轢き殺される。やはり俺は一番最初に殺されるタイプだと言うのか!?

 バイクのタイヤが眼前に迫る。俺は思わず目を閉じた。

 次の瞬間、“どん!”という鈍い衝撃音と共に背中の重さが消えた。おそるおそる目を開けると、俺とトカゲ男の間に一台のバイクが停まっていた。

 フルフェイスのヘルメットで顔は分からないが、バイクに跨っている人物が、トカゲ男を吹っ飛ばして助けてくれたらしい。

「大丈夫か!?」

「は・・・ハイ」

 野太い男の声だった。男は一つ頷くと、颯爽とバイクから降り、おもむろに特撮ヒーローのようなベルトを取り出して腰に装着した。


「変・・・」


 ・・・・・・男がポーズを取っている。この異様な光景を前に、俺の脳内では複数の小さな俺による議論が始まった。


(まさかアレか、アレなのかっ!?)

(いやいやいや、いくら何でもそれはないだろ)

(しかし、この状況で“変”から始まる言葉が他にあるか?)

(アレじゃないとすれば、ま、まさか・・・・・・変態かっ!?)

(それはあり得る。この状況でヒーローごっことか、充分変態だぞ!!)


 男は力強く叫んだ。


「・・・身ッ!!」


 (あっ、“変身”って言った!)と、脳内の俺達が声を揃えた次の瞬間、男の体がまばゆい光に包まれた。あまりの眩しさに俺は思わず目をつぶり、再び目を開けた時、そこには、漆黒のボディスーツに、研ぎ澄まされた刀を連想させる銀色の装甲を纏った、何かもう、ヒーローとしか言いようの無いものが立っていた。

「悪を斬り裂く鋼の刃、仮面カイザー見参ッ!!」


 1-③


 そして話は現在に戻る。全くもって信じがたい光景だ。俺の目の前で、どこかで聞いた事のあるような名前のバッタのヒーロー・・・・・・もとい! バッタもんヒーローとトカゲ男が闘っている。

 ひょっとしてテレビの撮影なのか?

 慌てて周囲を見回したが、撮影機材などどこにもない。目の前の光景は現実なのか?

 トカゲ男は鋭い爪や太い尻尾で仮面カイザーに襲い掛かったが、仮面カイザーはトカゲ男の攻撃をことごとくかいくぐっている。竹内に助け起こされた俺は、戦いの様子を電灯の陰から見ていた。

 仮面カイザーに「危ないから隠れていろ!」と言われたものの、周りは田んぼばかりの一本道で、隠れられるような物が何もない。仕方が無いので俺達は少し離れた位置にあった電灯の後ろ陰に体を横にして直立不動の姿勢で立っていた。頭隠して尻隠さずどころか、頭も尻も丸見えの間抜けこの上ない姿なのだが、そんな事を気にする余裕は俺達にはなかった。

 仮面カイザーはトカゲ男の右ストレートをかいくぐり、カウンターのパンチをトカゲ男の腹に叩き込んだ。トカゲ男の身体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。

「必殺っ・・・」

 仮面カイザーは腰を低く落としてポーズを取った。その間にトカゲ男は立ち上がり、よりにもよって俺達の方に走って逃げて来た。

「カイザァァァ・・・」

 いいから! ポーズとかいいから!

 トカゲ男がすぐそこまで迫ってきた。恐怖で体が動かない。何でだよ! いちいちポーズを決めなきゃならない決まりでもあるのかよ!? キックだろ! どうせキックだろ! 

 俺は恐怖のあまり思わず叫んでしまった。

「早く蹴れぇぇぇぇぇ!!」

「キィィィィック!」

 仮面カイザーは空高くジャンプすると、空中で一回転してキックを放ったが、俺の叫びで仮面カイザーの攻撃に気付いたトカゲ男はカイザーキックをすんでの所でかわし、追撃しようとする仮面カイザーに向けて両目からまばゆい光を放った。目くらましに仮面カイザーが怯んでいる隙にトカゲ男は逃げ去り、仮面カイザーもまた、「今見た事は忘れろ」と言い残してバイクに跨がると、トカゲ男を追って、夜の闇に消えていった。


 ・・・・・・その夜、俺はバリカンを手に取った。


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