終章 再臨! ヒーロー再び!!
9-①
“腑抜け”
そう、今の俺は、もはや腑抜けの化身と呼んでも差し支えない程に腑抜けていた。
桜井さんが俺達の前から突然姿を消したあの日から、二週間が経過しようとしていた。心底好きになった人とあんな別れ方をしてしまったのだ。ありきたりな表現だが、“心に大きな穴が空いたような”とは、正にこの事、“ウサギは淋しいと死ぬ”という俗説があるが、もし俺がウサギなら即死している所だ。
桜井さんがいなくなったあの日から、俺は一度もアジトに行っていない。
今日も恵と竹内にエイリアン退治に誘われたが、断った。俺のケータイに総統から「これ以上作戦参加を拒むなら、反逆者と見なす!」というメールが届いたが、「うるせー、このカス!!」と返信して着信拒否してやった。
元々世界征服なんてどうでも良かったし、そもそも、JOKERに入ったのは桜井さんをエイリアンの脅威から守るためだった。それなのに、JOKERに入ったがために、守るべき桜井さんと戦うハメになり、挙句の果てに桜井さんの大事なものまで奪ってしまった。いつもいつも一時の激情と勢いに駆られて誤った選択をしてしまう、俺って奴はどうしてこうなんだ!!
せめて一言謝りたかったが、桜井さんの行方は一向に知れなかった。何の手がかりも無しに、どうやって桜井さんを探せば良いのか。俺は、途方も無く途方に暮れていた。
家に帰って、自分の部屋でダラダラとテレビのチャンネルを回していると、俺が5歳位の時にやっていたヒーロー番組、ウルトライジャーの再放送をやっていた。
画面の中では、燃え盛る街を住民達が逃げ惑っている。その様子を見て、プエルトリコヒメエメラルドハチドリの怪人が高らかに笑う。
「人間共、ウルトライジャーは死んだ! 地球は我々の物だ!」
プエルトリコヒメエメラルドハチドリの怪人が、行き止まりに追い詰められたヒロインにトゲつきの金棒を振り下ろそうとしたその時だった。
「待てぇい!!」
ウルトライジャーが現れ、ヒロインに向かって振り下ろされたプエルトリコエメラルドハチドリ怪人の金棒を受け止めた。
「馬鹿な・・・・・・貴様は死んだはず!?」
「悪は絶対許さない! どんな困難があろうとも、この世に悪がある限り・・・・・・正義のヒーローは必ず現れる!!」
こっ、こここここ・・・・・・これだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
俺は、居ても立ってもいられなくなって、家を飛び出した。
9-②
アジトに到着し、作戦会議室のドアを勢い良く開くと、中では恵と竹内の二人と、首領が言い争っていた。
「ほう、自ら処刑されに来るとは殊勝な心掛けだな。反逆者を粛清しに出向く手間が省け・・・はぶぅー!?」
俺は首領をビンタで思いっきり張り倒した。
「そんな事してる場合かっ!! おい、お前ら・・・準備しろ準備!!」
「えっ!? えっ!?」
「な、何の?」
「決まってんじゃねぇか・・・・・・世界征服じゃあああああ!!」
「ま、待て貴様・・・」
首領がよろよろと立ち上がり、作戦会議室を出ようとする俺の前に立ち塞がった。
「一介の戦闘員の分際で、JOKER首領たるこの私に・・・はぶぅー!?」
俺は再び首領をビンタで張り倒した。
「邪魔すんじゃねえ!! やる気が無いなら帰れっ!!」
俺は、武器庫から電磁ウィップ棒を引っ張り出し、アジトを飛び出した。恵と竹内が慌てて俺の後を追う。
途中、覆面を被ってくるのを忘れた事に気づき、アジトに戻って、とりあえず首領にもう一発ビンタを喰らわせてから覆面を被り、再びアジトを飛び出した。
9-③
「うおおおおー、エイリアンはどこだぁぁぁぁぁっ!」
《に、にーにーぢ、いうてひ!?》
《はえかけぬやろび、かなすみなくちなひとぬ、ひまなんまっと、おまななにんしこぶにぎり、あうきこみをせ、てななひおちきうべてぎうれりすう》
《あろまくうちかたぎいれ。ちすきにみおひ・・・・・・“なまはげ”!》
《いろぎ・・・・・“なまはげ”》
《いい、みつぎうにう》
「そぉぉぉぉぉこぉぉぉぉぉかぁぁぁぁぁっ!」
《な、なまはげぎけれ!》
《ぬ、ぬごら!》
俺は、世界を征服すべく、再びエイリアンとの戦いに身を投じていた。
タマの擬態した変身ベルトを使って、(ニセ)仮面カイザーへと変身し、地球侵略を狙う反乱軍エイリアン共を、阿修羅の如くシバき回し、降伏したエイリアンを首領や他の支部に内緒でアジトに連れ込んだ。バレたら面倒なので、降伏したエイリアンの一体をエイリアンレーダーに擬態させ、本物は叩き壊した。これで、本部の連中が急に来てエイリアンレーダーを起動させたとしても、アジト内にうじゃうじゃいるエイリアンが、レーダーに表示される事は無い。
俺は確信していた。
世界征服を続けていれば、いつか必ず桜井さんは現れる。この世に悪がある限り、必ず正義のヒーローは現れるのだ。その為には、まずは世界征服の邪魔になるエイリアン共の排除だ。
そして、今日も今日とてエイリアンを討伐すべく、三人で町外れにやってきた。相変わらず見事な擬態だ・・・しかし、残念ながら道路のど真ん中に郵便ポストを立てる馬鹿はいない。慎重にエイリアンとの距離を詰め、手にした電磁ウィップ棒を振りかぶったその時だった。
“ヴォォォォォン!”
どこからともなくバイクのエンジン音が聞こえてきた。このエンジン音は・・・・・・っしゃあああああ、きたぁぁぁぁぁーっ!!
俺達と郵便ポストの間に一台のバイクが割って入った。バイクに跨っている人物はフルフェイスのヘルメットで顔を隠している。俺は相変わらずだなと思った。
よし、ヒーローの登場とあらばこの台詞を言わねばなるまい。俺は大きく息を吸い込んだ。
「貴様っ・・・何者だ!?」
バイクに乗っていた人物は、バイクから降りると変身ベルトを取り出し、腰に装着した。さぁ盛り上がってまいりました!!
「変・・・身っ!!」
彼女の身体が眩い光に包まれた。あまりの眩しさに俺は思わず目をつぶり、再び目を開けた時、そこには、漆黒のボディスーツに、燃え盛る炎を連想させる真紅の装甲を纏った、何かもう、ヒーローとしか言いようの無いものが立っていた・・・って、アレ!? 赤っ!?
「悪を滅ぼす紅蓮の炎、仮面カイザー2号参上ッ!! “1号に代わって”、俺がこの街を守・・・」
「帰れえええええっ!!」
・・・・・・仮面カイザーとJOKERの壮絶なる戦いはまだ始まったばかりである。
完




