第8章(JOKERサイド) 決着! さらば仮面カイザー!!
8-①
あかん、強過ぎる。桜井さん強過ぎる。
俺は、桜井さんに闘いを挑んだ事を絶賛後悔中だった。
桜井さんと俺の間には、『大人と子供』どころか『怪人と人間』程に圧倒的な力の差があった。
読者のあなたが上の三行を読んでいる僅かの間にも、俺は殴られ、蹴られ、投げ飛ばされて・・・・・・はっ!? 読者? 上の三行? いかん、殴られ過ぎて意味不明な事を口走ってる場合じゃない。しっかりしろ、俺!!
「くっそ・・・」
特撮やマンガだったら、ここで“秘められた力”的な、謎のご都合主義的便利パワーが覚醒して大逆転という流れが“お約束”なのに・・・何でここだけ“お約束”通りじゃないんだよ、神様のアホ!!
ただの高校生である俺には、“秘められた力”など1ミリも無かった。しかし! 1ミリも無くても、それでも俺は立たねばならない。
今逃げ出したら、桜井さんは本当に竹内と恵を殺してしまうかもしれない。アイツらを死なせるわけにも・・・そして、桜井さんを人殺しにするわけにもいかない!!
「へっ・・・どん・・・だけ・・・友達・・・思いなん・・・だ・・・俺っ!!」
「だぁっ!」
「うげぇっ!?」
震える手足に力を込め、何とか仮面カイザーに組み付いたものの、次の瞬間ボディに強烈な膝蹴りを喰らい、あまりの激痛に思わず身を屈めた瞬間、今度は後頭部に鈍器で殴りつけられたような衝撃を受けて、地面に叩きつけられた。
口の中に鉄臭い味が広がる。もう無理、もう無理だ!!
「・・・トドメだ」
視界の端で、仮面カイザーがカイザーキックの構えを取っているのが見えた。
「必殺・・・・・・カイザァァァ・・・・・・」
何とか立ち上がったが、視界がぐらぐらと激しく揺れ、立っているのがやっとだ。もうダメだ、あれを喰らったら・・・!
「キィィィ・・・・・・」
「待てやコラァァァァァ!!」
“ヴォォォォォン!!”
仮面カイザーがジャンプしようとしたその時、仮面カイザーのバイクが桜井さんに突っ込んだ。乗っているのは純白の特攻服にリーゼントの謎の男・・・・・・い、いや、謎なんかじゃない。あれは・・・竹内!? こんな時まで形からかっ!!
仮面カイザーは咄嗟にバイクを掴んで止めようとしたが、竹内がアクセルを全開にすると、支えきれずに壁際まで押し込まれた。壁とバイクに挟まれ、仮面カイザーの身動きが封じられる。
「今だ!!」
「おう! 必殺っ・・・・・・」
今だ!! と言われて、つい必殺技のポーズをとってしまった。体力はもはや限界なのに、いらん事に残り少ない体力を・・・・・・ヒーロー恐るべし!
「カイザァァァ・・・・・・」
上空にジャンプなど到底無理だ。力を振り絞り、片足を引きずりながら一歩ずつ近づいてゆく。あと少し・・・あと少しだ。
「くっ・・・どけぇぇぇっ!!」
「うひゃあっ!?」
バイクと壁に挟まれて動きを封じられていた仮面カイザーは、バイクごと竹内をぶん投げ、俺の方に向き直ろうとしたが・・・・・・遅かった!!
「キィィィック!!」
「ぐはっ!?」
俺の不格好極まりない必殺キックが仮面カイザーに炸裂した。
ベルトに俺のカイザーキックを受けた仮面カイザーは、凄まじい勢いで吹っ飛び、廃倉庫の壁をぶち破って外に転がり出た。
しっ・・・・・・・・・しまったぁぁぁぁぁ!! どのくらいの破壊力があるかも分からないのに、勢いで思いっきりカイザーキックを喰らわせてしまった。桜井さんめちゃくちゃ吹っ飛んでったじゃねーか!!
俺は慌てて桜井さんの安否を確かめようとしたが、一歩踏み出そうとした瞬間、その場で倒れ込んでしまった。全身の筋肉が痙攣してしまい全く動けない。竹内に助けを求めたが、竹内もぶん投げられた際に気を失ってしまっているしい。桜井さんは無事なのか!?
“ガラガラガラガラ!”
身動きが取れないまま2〜3分経過したその時、恵がウルトラハイパーグレートジェノサイドデラックスバスターMk-2よりも更にゴツい武器を載せた台車を押しながら戻ってきた。
「恵っ、ちょうど良い所に・・・」
「仮面カイザー・・・・・・覚悟っ!!」
「んなぁっ!?」
恵がウルトラハイパーグレートジェノサイドデラックスバスターMk-2よりも更にゴツい武器を構えた。その頑強そうな濃緑色の砲身には、炎のような真っ赤な文字でこう書かれていた・・・〈ミラクルスーパーギガントデストロイダイナミックバズーカMk-7〉・・・・・・いや、あんのかよ!? しかも7!?
「ミラクルスーパーギガントデストロイダイナミックバズーカMk-7・・・・・・」
恵がミラクルスーパーギガントデストロイダイナミックバズーカMk-7を構えた。その砲口は、まっすぐ俺に向いている。
「ちょっ、待ておま・・・」
「発射ーっ!」
“どかーん!!”
「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
あ、あのバカ・・・・・・死ぬ、もう一発喰らったら確実に死ぬ!!
恵が再びミラクルスーパーギガントデストロイダイナミックバズーカMk-7を構えた。
「これで・・・おわりやー!」
「待って恵ちゃん!」
恵が引き金を引こうとしたその時、気絶していた竹内がむくりと起き上がり、恵を制止した。ナイス竹内!!
「・・・親友の仇だ、トドメは僕が刺す!!」
「何・・・だと!?」
竹内は足元に転がっていた鉄パイプを拾うと、奇声を上げながらこっちに向かって突進してきた。
「きぇぇぇぇぇぇぇぇぇーっ!!」
「ま、待て! 俺だ、正木・・・・・・ぎゃっ!?」
後頭部を鈍い衝撃が襲った。視界がぐにゃりと歪んでゆく。俺の意識はそこで途切れた。
8-②
「・・・・・・・き」
ん?
「・・・・・・さき」
何だ・・・誰かが・・・呼んでる?
「・・・・・・正木っ!」
ぼんやりとしていた意識が次第に輪郭を取り戻してきた。ゆっくりと目を開けると、恵と竹内が顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら俺の顔を覗き込んでいた。
「恵・・・竹内・・・?」
俺は、ゆっくりと上体を起こした。体中がめちゃくちゃ痛い。
「良かった・・・めっちゃ心配したんやで!」
「良かった・・・本当に良かった!」
「お、お前ら・・・」
胸に飛び込んできた二人の肩を、俺はただ黙って力一杯抱いた。
・・・・・・それはそうと、何で俺は気絶してたんだ? 何か記憶が曖昧なんだが・・・・・・・・・・おおぅ?
二人の背後に、やたらとゴツいバズーカ砲のようなものと鉄パイプが転がっているのが見えた。えーっと、確かアレがああなって、コレがこうなって、ソレがそうなったから・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はうあっ!?
「・・・なぁ二人とも、ちょっと頼みがあるんだ。俺に背を向けて、そこに並んで立ってくれないか?」
「へ?」
「ええけど・・・」
二人は、立ち上がると俺に背を向けて並んだ。
「二人とももっと近付いて! そう、ピッタリくっつく感じで・・・・・・ハイ、OK!!」
俺はゆっくり立ち上がり、二人と10m程の距離をとった。
「二人とも、振り向くなよー」
恵と竹内が片手を挙げて応えた・・・・・・・・・よし。
「うぉぉぉぉぉぉぉっ・・・・・・・・・どりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
俺は・・・馬鹿共の背中に、助走をつけた渾身のドロップキックをお見舞いした。
8-③
俺は馬鹿共をコンクリートの床に正座させた。
「お前ら、何してくれてんだコラァ! もう少しで死ぬとこだったじゃねえかコラァ!」
「うぅ・・・だって、ひろひろが仮面カイザーに変身してるなんて思わんかったんやもん・・・」
「ひろひろって呼ぶなコラァ! お前らの目は節穴かっ、指先が尖ってたりとか爪先が反り返ってたりとか本物と違う所がいっぱいあったろうがコラァ!」
「・・・そんなに怒らんでもええやん」
「僕達も悪気があってしたわけじゃないし・・・」
「黙れこのうすらハンマー共が! あんな目に遭わされたら仏様でも三度目を待たずしてお前らにドロップキックするわ! ・・・つーか竹内、お前・・・何なんだそれは!?」
「あぁ、コレ? 雰囲気出るかなと思って・・・」
「特攻服とリーゼントのヅラじゃねえ! お前の隣にいるソイツだ!」
俺は竹内の隣でちょこんと正座している謎の人型の生物を指差した。その生物の体の表面は鈍い銀色に輝き、頭部と思われるテニスボール大の球体の底部から、胴体と思しき部分がちょこんと出ており、更にそこから手と足と思われる突起がそれぞれ二本ずつにょきっと生えていた。シルエットで言うならば、頭をふた回りほど大きくした22世紀のネコ型ロボを想像してもらうと分かりやすいと思う。まぁ早い話が・・・・・・・・・エイリアンじゃねぇかぁぁぁぁぁぁーっ!?
「お、お前、ソレ・・・・・・」
「・・・エイリアンです」
俺は、床に転がっていたミラクルスーパーギガントデストロイダイナミックバズーカMkー7を拾い上げ、その砲口をエイリアンに向けた。竹内が慌てて俺とエイリアンの間に割って入る。
「ちょっと待って! 暴力反対! 人類皆兄弟!」
「ねぇからっ! そいつ、人類じゃ、ねぇからぁっ!! 元はと言えば、こいつらのせいで俺と桜井さんは引き裂かれるハメに・・・っ!」
「いやいやいや、引き裂かれる以前にそもそも結ばれてないじゃん」
「うるせー! 汚物は消毒じゃー!」
「この・・・腐れムベンベっ!」
「ぐはっ!?」
竹内にいきなり張り倒された。
「彼らは侵略の為に地球にやって来たわけじゃない!」
「痛てて・・・どうしてそんな事が分かんだよ!?」
「どうしてって、そりゃあエイリアン語を勉強したからに決まってるじゃないか。少しずつだけど、彼と会話できるようになってきたんだよね」
何か今、サラッとスゴイ事言ったぞコイツ。
竹内が言うには、エイリアンが地球にやって来た目的は、地球の文明と友好を結ぶ事で、竹内の隣に座っているエイリアンは、奴らの星の大王の息子・・・つまり、王子で、友好使節団のリーダーだと言うのだ。
「じゃあ、どうしてコイツら人間を襲ってんだよ?」
「地球に降下する直前に反乱が起きたんだ。反乱軍は王子である彼を僕達地球人に殺された事にして暗殺し、それを口実に地球を侵略しようとしてるんだ!」
「嘘くせー、めちゃくちゃ嘘くせー」
「そもそも、ほんまにエイリアンと会話なんかできんのー?」
俺と恵は竹内に疑いの眼差しを向けた。
「じゃあ、今から僕の言う通りに動いてもらうね。まずは「右を向いて」って伝えるね。《むぐんめうと!》」
竹内が発したエイリアン語と思われる謎の言葉を聞いたエイリアンは、すっくと立ち上がると竹内の言った通りに、右を向いた。
「次は「左を向いて」って伝えるね。《ふぢるんめうと!》」
エイリアンが、今度は左を向いた。
「最後は・・・そうだなー「踊って」にしようかな。《あだっと!》」
エイリアンが、腰に手を当て、クネクネと踊り始めた。
「め・・・めっちゃカワイイやん! この子、名前は!?」
「《めしむつしわらつむへほきりれねあ》だよ」
「え・・・?」
「だから、《めしむつしわら・・・
「覚えられへんわ! そやなー・・・なんか丸っこくて球みたいやから・・・・・・よし! この子の名前は“タマ”にしよう!」
このエイリアン王子は、反乱軍に襲われていた所を偶然通りかかった竹内に助けられ、以来、アジトにこっそりと匿われていたらしい。
「よし! じゃねーよ馬鹿野郎! 犬や猫じゃないんだぞ・・・・・・捨ててこい!」
言った瞬間、二人に大ブーイングされた。
「ええー、こんなにカワイイのに!?」
「可愛くてもダメっ! コイツらは侵略者なんだぞ!?」
「正木の鬼ーっ! 悪魔ーっ! ハゲーっ!」
「ハゲはお前もだろうがっ! ダメなものはダメっ!」
「ヤダーっ! めしむつしわらつむへほきりれねあ匿ってくれなきゃ、ヤダーっ!」
「エイリアン飼いたいー! 飼って飼って飼って飼って飼って飼って飼って飼って飼って飼って!」
「ええい! 二人して駄々をこねるんじゃない、鬱陶しい!」
「ええやん、タマはひろひろの命の恩人・・・いや、恩エイリアンなんやで!」
「そーだそーだ! それに王子を殺したりなんかしたら、彼らの星から大軍勢が来て、それこそ取り返しのつかない事になるよ!」
「ああもう!! どうなっても知らねーからな!!」
エイリアン・・・“タマ”が右手を斜め上にピッと伸ばしてJOKERのポーズをとったのを見て、俺は深い溜息をついた。
それはそうと、なんか重要な事を忘れている気が・・・・・・・・・はうあっ!!
「桜井さん、桜井さんはどうしたーっ!?」
「は? 何でゆかりん?」
恵が怪訝な顔をした。
「・・・桜井さんが仮面カイザーだったんだよ」
「うぇぇぇぇぇぇぇっ!? 嘘やろ!?」
嘘だったらどんなに良かった事か。
「僕が気付いた時には、桜井さんの姿はもうなかったよ。どうやら自力でここを離れたらしい」
それを聞いて俺はほっと胸をなで下ろした。
「まさかゆかりんが仮面カイザーやったなんて・・・明日からどんなふうに接したらええんやろ。今日なんか、思いっきりミラクルスーパーギガントデストロイダイナミックバズーカの餌食にしてもうたし・・・」
「それ俺なんですけど!?」
だが・・・恵の言うとおりだ。明日から、どの面下げて桜井さんに会えばいいんだ・・・・・・俺。
・・・・・・しかし、合わす顔が無さ過ぎてJOKER戦闘員の覆面を被ってまで登校したというのに、俺の心配は見事なまでの肩すかしを喰らう事となる。翌朝のホームルームで、桜井さんの突然過ぎる転校が告げられたのだ。




