第7章(ヒーローサイド) 自問! 正義のヒーローとは何か?
7-①
正木君・・・いや、JOKER戦闘員が変身したニセ仮面カイザーが拳を振り上げ突進してきた。
「どりゃあっ!!」
「ぐっ!?」
ニセ仮面カイザーが繰り出してきた拳を腕を交差させて受け止めた。重い一撃だ、装甲越しに衝撃を感じた。
どうやらニセ仮面カイザーのパワーは本物に匹敵するみたいだ・・・だが!!
「でやぁぁぁ!!」
「ぐはあっ!?」
私は相手の腕を取り、一本背負いで地面に叩きつけた。
私は、ヒーローになる為に、物心ついた頃から、滝壺に飛び込まされたり、転がって来る岩を避けさせられたり、ビル解体用の巨大鉄球クレーン車に追いかけ回されたりと、一歩間違えば命を落としかねない地獄のような戦闘訓練を受けさせられてきた・・・
自分と同じ年頃の子が友達と遊びに行ったり、勉強したり、恋をしたりしている間も数々の悪の秘密結社と命懸けの死闘を繰り広げてきた・・・
そして、肉体を化け物に改造され、かつての仲間に反逆者として命を狙われ、守ろうとしていた友達にまで裏切られ、それでも今尚戦い続けている・・・
いくら本物と同等のヒーロースーツを装着しようと、素人なんかに負けるもんか。
もはや、私に残されているのは『正義のヒーローである』という己の矜持だけだ。そして正義のヒーローを名乗る以上・・・絶対に悪を許すわけにはいかない。
「な、なんのっ!!」
「とうっ!」
「ほげえっ!?」
ニセ仮面カイザーが立ち上がって来たので、顔面に跳び膝蹴りを喰らわせて吹っ飛ばした。敵が顔面を抑えて地面をのたうち回る。
首がもげていない所を見ると、厄介な事に、どうやら装甲も本物と同等の防御力があるらしい。まさかJOKERがここまで精巧な偽物を作っていたとは・・・どうやらあの裏切り者の司令は変身ベルトの情報までJOKERに流していたらしい。奴は絶対に許さない。コイツらを倒したら真っ先に殺す。私は起き上がろうと四つん這いになったニセ仮面カイザーの脇腹を爪先で思いっきり蹴り上げた。敵の身体が吹っ飛び、倉庫の壁に叩きつけられる。
「ま・・・待って桜井さん!!」
「命乞いする位なら・・・始めから悪の秘密結社になんかになるな!!」
「違うんだ、俺がJOKERに入ったのには深い理由があるんだ!!」
「深い理由・・・?」
「ああ・・・俺は地球侵略を企むエイリアンから、君を守る為に・・・ぎゃんっ!?」
私はニセ仮面カイザーを思いっきり殴り飛ばした。命乞いの言い訳が宇宙人の侵略とか・・・ふざけてるのか!!
「つくならもっとマシな嘘をつけ!!」
「う、嘘じゃない。本当にエイリアンはいるんだって!! ・・・あっ!! ほ、ほらあいつ!! あいつエイリアンだから!!」
ニセ仮面カイザーが、床にぶっ倒れている銀色の怪人を指差した。怪人は、バスケットボール大の球形の頭部と、球体の底部から無数に生えた触手が絡まりあって、四肢を形成しているという、以前闘った塗料のスプレー型の怪人と同じ特徴を持っていた。
「そいつはJOKERが生み出した怪人だろう」
「ち、違うんだ。おいお前しっかりしろーっ!!」
ニセ仮面カイザーが、ぶっ倒れている怪人に駆け寄り、怪人の上半身を起こして左右の頬にビシバシと激しく連続ビンタを喰らわせるが、怪人はぴくりとも動かない。私はカイザーキックの構えを取った。
「必殺っ・・・」
「わーっ!! ちょっと待って!!」
私がカイザーキックの構えを取ったのを見て、ニセ仮面カイザーのビンタが更に激しさを増す。
「このクソエイリアンが! お前マジでしっかり・・・くっ、首が捥げたぁぁぁぁぁー!? ヤバイヤバイヤバイ! 何とかしてくっつけないと・・・とっ、溶けたぁぁぁぁぁー!?」
ビンタで首を捥がれた銀色の怪人がニセ仮面カイザーの腕の中で液状化した。まぁ、仮面カイザーと同等のパワーであれだけ激しくビンタを喰らわされたら、怪人と言えども首の一つや二つ捥げようというものだ。ニセ仮面カイザーの足下に怪人の染みが広がってゆく。
「必殺っ・・・カイザァァァ・・・」
「わーっ!! わーっ!! あっ、そうだこいつ、こいつもエイリアンだから!!」
ニセ仮面カイザーが両手で自分の変身ベルトを指差した。
「そのベルトがエイリアン・・・?」
「こいつらは色んな物に姿形を変える事が出来る上に、その能力までコピー出来るんだ!! さっきこいつが変身ベルトに化けたのを見たでしょ!?」
「じゃあ正木君が今装着している変身ベルトはそのエイリアンが形を変えたものだと?」
「そう!!」
ぶんぶんと頭を振って偽物が激しく頷いた。
「で、そのエイリアンが地球侵略を企んでいると?」
「そう!!」
「で、正木君はそのエイリアンと手を組んで私に襲いかかるんだ?」
「そう!! あっ、違うそうじゃない!!」
「何か勘違いしてるみたいだから言っておくけど、正木君の話が本当かどうかなんて関係無い、どんな理由があろうと・・・正義のヒーローである私と敵対している時点でお前達は滅ぼされるべき悪だっ!!」
その後も私は偽物を殴り、蹴り、投げ飛ばしたが、敵はゾンビのように何度も立ち上がってくる。そして私は立ち上がってきた偽物を再び殴り、蹴り、投げ飛ばす。
「恵達は・・・殺させない・・・」
「な、何故・・・何故立ち上がってくる!? 悪の秘密結社のくせに!!」
偽物がまたしても立ち上がってきた。
「何故も何も・・・友達が人殺ししようとしてたら誰だって止めるだろうがっ!! ・・・友達を助けるのに秘密結社もヘチマもあるかっ!!」
「くっ、何度立ち上がってこようが私に勝てるものか、地獄に送って・・・」
そこまで言いかけて、私は気付いた。
・・・どうしてだろう、私は正義のヒーローのはずなのに、さっきから悪役みたいな台詞しか吐いてない。これじゃあ私がまるで・・・ハッ!?
一瞬の隙を突かれて、偽仮面カイザーに組み付かれた。私はすかさず相手のボディに膝蹴りを叩き込み、苦痛に身を屈めてガラ空きになった相手の後頭部に、がっちりと組んだ両手をハンマーのように振り降ろした。ニセ仮面カイザーが潰れたカエルのように地面に這いつくばる。
「ハァッ・・・ハァッ・・・しつこい!!」
・・・どうしてだろう、闘い始めてからまだ10分も経っていないのに。
・・・どうしてだろう、ニセ仮面カイザーの攻撃は一撃たりとも喰らってないのに。
・・・どうしてだろう、こんなに胸が苦しいのは。
いや、迷うな。私は正義のヒーローなんだ。相手が誰であろうと悪は倒さねばならない。この一撃で・・・この闘いに終止符を打つ!!
「・・・トドメだ」
私は迷いを振り切るようにカイザーキックの構えを取った。




