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仮面カイザー戦記  作者: 通 行人(とおり ゆきひと)
13/18

第6章(ヒーローサイド) 追跡! JOKERの尻尾を掴め!!

 

 6-①


 廃倉庫での戦いの翌日、私はクラスメイトの安藤雅彦を尾行していた。士多君はまだ体調が万全ではないのでしばらくの間は妹の桃ちゃんが私のパートナーだ。

 あの時、あの戦闘員は『恵ちゃんの席に爆弾を仕掛けた』と言い、実際に恵ちゃんの席に爆弾らしき物が仕掛けられていた。しかし、昨日は西先生の気まぐれで、帰りのホームルームで突然席替えをする事になり、席順が大きく入れ替わったのだ。

 どうして廊下側の一番後ろの席が、現在の恵ちゃんの席だとJOKERの戦闘員は知っていたのか・・・

 あまり考えたくはないが、答えは一つしかない。うちのクラスにJOKERと繋がっている者がいる。


 出席番号3番  安藤 雅彦

 出席番号6番  大野 琢磨

 出席番号9番  崎原 隆久

 出席番号13番  田口 翔平


 そして、この4人が怪しいと踏んだ私達は証拠を掴むべく尾行を開始していた。蛇の道は蛇、城山高校一の不良である彼が悪の軍団と繋がっている可能性が一番高い。追跡開始から30分、今の所特に怪しい所は無さそうだが・・・

「桃ちゃん?」

「は、ハイっ!」

「大丈夫? 緊張してるみたいだけど」

「ぜ、全然大丈夫ですっ!」

 あー、これガッチガチに緊張してるなー。

 実は、桃ちゃんは実戦に同行するのはこれが初めてなのだ。

「安藤君はシロなのかな・・・って、桃ちゃん!?」

 振り返ると、そこには背負っていた〈偽装ギターケース〉をスナイパーライフルモードに変形させ、弾丸を装填している桃ちゃんの姿があった。

「えーっと・・・何をしてるのかなー?」

「先手必勝です、麻酔弾撃ち込んで眠らせましょう。そして、拉致&尋問です!」

「正義のヒーローがそんな事しちゃダメ!! って言うか、その銃と麻酔弾・・・」

「ハイ! 戦闘になるかもしれないので、とりあえず一番強力な奴持って来ましたっ!」

 桃ちゃんが鬼軍曹を前にした新兵のように直立不動で答えた。

「いや死ぬから!! 生身の人間に対怪人用麻酔弾なんて撃ち込んだら永遠の眠りについちゃうから!! もし安藤君がシロだったらどうするつもりなの!?」

「いや、でもあの人めちゃくちゃ悪そうですよ、JOKERの戦闘員じゃなくてもクロですよきっと!」

 血走った目でライフルを構えた桃ちゃんを私は慌てて止めた。

「彼がクロと分かるまで発砲はダメ!!」

「・・・分かりました。あっ、でもコレ弾丸を装填したままだとギターケースモードに戻せないんです。ど、どうしましょう・・・」

 私は30m先に転がっている空き缶を指差した。

「うーん、じゃああそこの空き缶を狙撃してみよっか? 予行練習しておけば少しは緊張も和らぐかもしれないし」

「わ、分かりました」


 “・・・・・・ズドンッ!!”


《うぎゃあーっ!?》


「よし・・・命中!」

「桃ちゃん・・・今、あの空き缶、悲鳴上げなかった?」

「もー、何言ってるんですか由香里さん。空き缶が喋るわけないじゃないですか」

「そ、そうだよね。って言うか・・・・・・安藤君見失ったぁぁぁぁぁ!?」


 その後、私達は川沿いの土手で何か気持ち悪いセミの怪人に襲われている安藤君を発見し、私は仮面カイザーに変身して怪人を撃破する事に成功した。口封じかと思ったのだが、もし口封じならば奴らの事、バカの一つ覚えのように「我々の秘密を知られるわけにはいかん!!」だの「裏切り者は殺す!!」だのとドヤ顔で言うに決まっている。私が今まで戦ってきた悪の軍団はもれなくそうだった。しかしながら、あの怪人の反応を見る限り、どうやら安藤君はシロらしい。次のターゲットを・・・調べ・・・ない・・・と・・・・・・あれ、何だか・・・眠くなって・・・ZZZZZZZZ


「ゲェーッ!? どどど、どうしよう!? あの時の援護射撃が由香里さんに当たってたー!?」


 6-②


 翌日、私と桃ちゃんはクラスメイトの大野琢磨を追っていた。彼は空手部のエースで、その身体能力に目を付けたJOKER関係者が接触を図っているかもしれない。

 大野君の10mくらい後を二人で尾行しているのだが、桃ちゃんの様子がおかしい。

「・・・桃ちゃん?」

「は、ハイッ!!」

 私は立ち止まって、後ろを歩く桃ちゃんと向かい合った。

「昨日の誤射の事なら私、怒ってないよ?」

「で、でも・・・」

「最初は誰でもあんなものだよ、気にしないで」

「・・・でも、麻酔弾だったから良かったようなものの、あれがもし猛毒ポイズン弾だったら、今頃由香里さんは全身をビクンビクン痙攣させながら口から泡吹いて、全身の毛穴という毛穴からドバドバと盛大に血を吹き出しつつ白目剥いて死んでたんですよ!?」

「う・・・それはちょっとイヤかも」

「うっ・・・うっ・・・・」

 桃ちゃんが泣き出した。桃ちゃんの両眼から大粒の涙がとめどなく流れる。

「わ、私・・・由香里さんみたいに・・・ヒーローになりたくて・・・それで、手柄を立てたくて・・・」

「・・・桃ちゃん!!」

 私は桃ちゃんの両肩に手を置き、目を見据えた。

「その顔は何! その目は! その涙は何! 桃ちゃんの涙で悪の軍団を倒せるの!? この街の平和が守れるの!?」

 私は心を鬼にして桃ちゃんに厳しい言葉をかけた。ちなみに、今言った言葉が、昔見た特撮番組の受け売りなのは秘密だ。

「ゆ、由香里さん・・・っ」

 桃ちゃんが涙を拭って顔を上げた。そこにあるのは戦う者の顔だった。私は大きく頷いた。

「よし! じゃあ今度、ヒーローになる為に必要な超カッコイイポーズの取り方を教えてあげ・・・」

「それは別にいいです」

「・・・・・・・・・・・・うぅぅ」

「ちょっ、由香里さん!? その顔は何ですか! その目は! その涙は何ですか! 何も泣く事無いじゃないですか!?」

「だって・・・だって・・・桃ちゃんのばかー」

「分かりました! 教えてもらいます、教えてもらいますから!」

「・・・・・・分かった」

 それじゃあ気をとりなおして追跡を再開・・・って

「大野君見失ったぁぁぁぁぁ!?」


 その後、生きていたセミ怪人に襲われている大野君を発見した私は、仮面カイザーに変身して二人の間に割って入り、大野君を逃がした。

「セミ怪人・・・生きていたのか!?」

「貴方が倒したと思っていたのは、抜け殻を使ったオ・ト・リ♪ 残念でした〜♪」

 うわー、めちゃくちゃ腹立つ!!

「彼もハズレみたいだし、貴方と遊んでいる暇はないの。じゃあね〜♪」

「待て、逃がさ・・・」


 “コツン!!”


 逃げ出したセミ怪人を追おうとしたら、『撤退しろー!!』という叫びと共に、緑色の細長い物体が飛んできて私の額に命中した。

 ・・・今の声はブラックローズか? どこかに隠れて戦いの様子を窺っていたのか。

 私は地面に落ちた物体を拾い上げた。飛んできたそれは・・・ワサビのチューブだった。

 ・・・って、ワサビ!? 閃光弾でも煙幕でもマキビシでもなく何故ワサビ!? 意味不明だ・・・意味不明過ぎる。

「ふざけた真似を・・・」

『待って下さい!』

 手にしたワサビを投げ捨て、怪人を追おうとしたら、少し離れた位置で待機していた桃ちゃんから通信が入った。

『今投げ捨てたワサビ・・・本当にワサビなんでしょうか?』

「・・・どういう事?」

『考えてもみて下さい。どこの世界に、味方の撤退を援護する為に、敵にワサビのチューブ投げつける奴がいるって言うんですか!?』

「た、確かに・・・」

『もしかしたら、中に爆発物とか猛毒とか細菌兵器とか入っているかもしれません。今からそっちに行きます、そのワサビを刺激しないで下さい』

 その後、私の所にやって来た桃ちゃんが、〈ジャスティス特製瞬間冷凍スプレー〉でワサビのチューブを凍結し、弾丸運搬用の頑丈なケースに慎重に入れ、ロックを掛けた。

 危険物の処理をしている間に、怪人には逃げられてしまったが、奴の『彼はハズレ』という言葉から察するに、大野君もどうやらシロらしい。


 6-③


 さらにその翌日、私達はクラスメイトの崎原隆久を監視するべく図書館にやって来た。現在、私が外から図書館の周囲を警戒し、図書館内では桃ちゃんが崎原君と接触中だ。

 どうしてこうなったかと言うと、昨日大野君の尾行を終えて、二人で基地に帰ってきた際に、士多君が桃ちゃんに放った一言が原因だった。


「って言うか、尾行するのヘタクソ過ぎでしょ!?」

「そ、そんな事無いし・・・」

「いや、あるね。昨日も今日も尾行の途中で目標を見失うし、重要な手掛かりを持ち帰ったのかと思ったら、氷漬けのワサビって・・・訳が分からないよ!」

 士多君の言葉を聞いて、桃ちゃんがあからさまにムッとした顔をした。

「分かったわよ、見失わなければ良いんでしょ! 崎原さんには私が直接会って探りを入れるから!」

「は? いや、いきなり見ず知らずの桃子に話しかけられても・・・」

 売り言葉に買い言葉とは言え、これは士多君の言う事が正しい。

「ご心配無く! 私、崎原さんとは仲良しですから!!」

「ふへっ!?」

「へぁっ!?」

 意外過ぎる告白に思わず変な声が出た。

「た、大変だ・・・崎原君が危ない!!」

「ちょっとお兄ちゃん、それどういう意味!?」

「まぁまぁ、ペイント拳銃を下ろして。でも・・・桃ちゃんももうそんな年頃になったのねぇ」

「何なんですかその遠い目は!? 私と一歳しか年齢違わないじゃないですか!」

 それにしてもまさか崎原君が・・・・・・やるなぁ。

「って言うか、由香里さんはどうして崎原さんを疑ってるんですか?」

「私の推理では・・・」

「ゆ、由香里さんの推理では・・・?」

「彼がクラスで一番、“まさかそんな事をするような子には見えませんでした感”が強いっ!!」

「推理でも何でもなーい!?」

 私の推理を聞いた桃ちゃんがズッコケた。何だか釈然としないが、そんな事より・・・だ。

「ねぇねぇ、いつから二人は付き合ってたの!? ももも、もしかしてもうチューとかしちゃったりとか・・・・・・キャーーー!!」

「何をモジモジしてるんですか・・・崎原さんとはただの読書友達です。私には、崎原さんみたいな優しい人が悪の秘密結社と繋がっているなんて信じられません」

「うーん・・・でも、良い人だからこそ、悪い奴らに騙されている可能性もあるし・・・」

「分かりました。崎原さんの潔白を証明する為にも、私が直接会って様子を探ってみます」


 こうして、私達は崎原君を市立図書館に誘い出し、現在に至る。

 図書館の裏口付近を警戒中、怪人の気配を感じると同時に“フォォォォォー!!”という、テンションのゲージが振り切れたアメリカ人みたいな悲鳴が聞こえた。

 悲鳴は、正面玄関の方から聞こえてきた。急いで正面玄関の方に回り込むと、恵ちゃん、正木君、竹内君の三人と、恵ちゃん達に背後から忍び寄るセミ怪人がいた。

 マズイ、三人共、怪人の存在に全く気付いていない!

「変・・・身ッ!! とおっ!!」

 走りながら仮面カイザーに変身し、そのジャンプ力を駆使して怪人の所まで一気に跳躍する。

「フンッ!」

「ひでぶっ!?」

 着地と同時に、怪人の顔面に右ストレートを叩き込んで殴り飛ばす。何とか間に合った。

「逃げるんだ君達!」

「あっ、ハイ」

 恵ちゃん達が逃げたのを確認すると、私は三度怪人と対峙した。

「セミ怪人め・・・今日こそ貴様を倒す!!」

「いいわ、私の最強の攻撃・・・貴方に受け止める勇気があるかしら?」

 安っぽい挑発だが、例え挑発だと分かっていようと、ヒーローたる者、悪党の挑戦から逃げるわけにはいかない。正々堂々と真正面から受け止めた上でこれを叩き潰すのだ!!

「いいだろう・・・来い!!」

「行くわよ、セミ忍法奥義っ!」

 セミ怪人が怪しげなステップを踏みつつ、両手で円を描くような怪しげな構えをとった。

「・・・・・・・・・〈バルたんスペシャル萌え萌え煙幕っ!!〉」

「何ィ!?」

 ピンクの煙によって視界が一瞬で奪われる。そして煙が晴れた時、セミ怪人の姿はどこにも無かった。

 慌てて桃ちゃん達の方を見たが何事も無かったかのように二人は話している。もしセミ怪人の狙いが崎原君ならば、煙幕で私の視界を封じている内に崎原君を襲撃していたはずだ。彼も違うという事なのか。

 それにしても、こうも予想が外れるとは・・・このままではクラス全員尾行するハメになるかもしれない。

 私は大きな溜息を吐いた。


 だがしかし、私は思いもよらない形でJOKERの尻尾を掴む事となる。


 6-④


 それは、崎原君の尾行をした翌日の事だった。


 私は容疑者その4、田口翔平の調査を終え、基地へと帰る途中だった。

 その日、私は田口君に接触を図り、探りを入れた。調査の結果、田口君にはJOKERとの繋がりは無いと分かり、あのセミ怪人の撃破にも成功したものの、怪しいと思っていた4人がことごとく無関係だったという事で、調査が振り出しに戻ってしまった。こうなってくると次は誰を調査するべきなのか。

 陽が沈み始めて暗くなってゆく空を見上げつつ、頭を悩ませながら歩いている内に、以前トカゲ怪人と戦った道に差し掛かった。左右を田んぼと竹薮に挟まれた一本道は相変わらず人通りが無く、心臓の音が聞こえてきそうなほど、しんと静まり返っている。

「・・・お前、怪人だな?」

 不意に、背後から声をかけられた。ドキリとして思わず振り返ったが、そこには一匹の黒猫がいるだけだった。

「幻聴・・・かぁ」

 例え身体が改造されようと、正義の味方であると決めたはずなのに、やはり心のどこかでは、自分が人ならざる者になった事を受け入れられずにいるという事なのか・・・

「・・・気にしないようにしてたつもりだったんだけどなー」

 自嘲する私を見て、黒猫は不思議そうに首を傾げた。凛々しい顔立ちの猫だ。首輪はしていないようだが、野良猫だろうか。なんとなく触ってみたくなって、私は黒猫に近付いた。

 人間慣れしているのか、私が近付いても逃げ出そうとはしない。私は、鼻歌を歌いながら黒猫をひょいっと抱き上げた。

「迷子の迷子の子猫ちゃん〜あなたのお家はどこですか〜♪ っと」

「・・・JOKER本部だが?」

「うぉらぁ!!」

 私は思わず黒猫をぶん投げた。ぶん投げられた黒猫は空中でくるりと回って体勢を立て直すと、音も無く地面に着地した。

「貴様、いきなり何をする!?」

「の、野良猫が喋った・・・!?」

「ムッ、失礼な! 私は野良猫などではない・・・“かいねこ”だ!!」

 いやいやいや、野良猫か飼い猫かなんてどうでも・・・んん!? あー、そういう事か。怪しい猫と書いて、怪人ならぬ“怪猫”というわけかっ・・・・・・潰す!!

 身構えた私に対して、怪猫はやれやれといった感じで溜息を吐いた。

「全く、今日は重要な会議だというのに、警護の怪人がサボりとはな・・・」

「・・・私は怪人なんかじゃない」

「ふん、いくら人間のフリをしようと、怪人の匂いは隠せん」

 怪猫の言葉が胸に突き刺さる。腹の底からドロドロとした熱く、ドス黒い感情が込み上げて来るのが分かる。

「私と一緒に本部に戻れ・・・・・・二度は言わん」

 怪猫が二本足で立ち上がり、にゃっと構えた。

 この猫・・・どうやら私の事を怪人だと思っているようだ。この猫について行けば、JOKER本部に辿り着ける。溢れ出しそうになる黒いものを押さえ込み、私は怪猫に頭を下げた。

「・・・申し訳ありませんでした」

「よろしい、ではついて来い」

 怪猫が、近くにあったマンホールの隣に座ると、マンホールの蓋が自動で開いた。

「降りろ」

「・・・ハイ」

 言われるがままにマンホールを降りると、そこは下水道ではなく、謎の地下通路だった。

「しっかりついて来い」

 そう言って猛スピードで走り出した怪猫を追い、私は、まるで迷宮のように入り組んだ地下通路を、右に曲がったり、左に曲がったり、階段を上ったり下りたりと、走り続けた。そうして30分が経過した頃には、私は方向感覚を奪われ、今地上のどの辺りを走っているのかも、どの方角に向かって走っているのかもさっぱり分からなくなってしまっていた。しかも、元々地下である上に電波も遮断されているらしく、GPSも使えない。なるほど、侵入者にアジトの位置を知られないようにする為か。

 更に走り続けること1時間、私の前に分厚そうな金属製の扉が姿を現した。

「少し待っていろ・・・にゃっ!」

 怪猫がジャンプして、扉の脇にある液晶パネルに肉球を押し当てると金属製の扉が左右に開いた。

「よし、行くぞ」

「・・・ハイ」

 怪猫の後に続いて、私はゲートを通過した。ここが・・・JOKER本部。

「首領達は作戦会議室で会議中だ。しっかり警備するように」

「あのー、作戦会議室ってどこでしたっけ?」

「やれやれ、世話の焼ける奴だ」

「えへへ・・・ごめんなさーい」

「こっちだ」

 私は怪猫に案内されて、長い通路を歩き、会議室の前までやってきた。このアジト、かなりの広さがあるようだ。

「会議終了までしっかりと警備しろ」

 そう言い残すと、怪猫はどこかに行ってしまった。

 私は周囲を見回し、人がいない事を確認すると、金属製の扉の前に立った。精神を集中し、神経を研ぎ澄ませると、部屋の中の会話が聞こえてきた。

(それでは諸君、今回新たに開発されたこのスーパーデンジャラス爆弾で、奴等を一匹残らず抹殺するのだ!! ・・・・・・JOKERによる理想の世界のために!!)

(JOKERによる理想の世界のために!!)(JOKERによる理想の世界のために!!)

(JOKERによる理想の世界のために!!)(JOKERによる理想の世界のために!!)

(JOKERによる理想の世界のために!!)(JOKERによる理想の世界のために!!)

(JOKERによる理想の世界のために!!)(JOKERによる理想の世界のために!!)

 怪人にされた“せいで”と言うべきか、“おかげで”と言うべきか、私は盗聴器無しでも壁の向こうの連中の会話をハッキリと聞き取る事が出来た。スーパーデンジャラス爆弾・・・恵ちゃんの席に仕掛けられていたやつの事だ。

(さて・・・では解散の前に、すっかり恒例となった“アレ”をやろうと思う)

 ・・・“恒例のアレ”?

(恒例の・・・・・・仮面カイザーの悪口大会ーっ!!)

 壁の向こうで拍手と歓声が上がった。こ、コイツら・・・

(すっかり恒例となったこの大会も、今回で記念すべき20回目を迎えた・・・)

 こんな下らない事を20回もやるな!!

(では、諸君の迸る熱いパトスを容赦無く叫ぶのだ!!)

(ハッ、では私から・・・仮面カイザーのバカヤロー!!)

 壁の向こうで拍手と歓声が聞こえた。って言うか誰がバカヤローだ、バカって言うほうがバカだし!! 

(何でもかんでも技にカイザーって付けてんじゃねー、ネーミングがダサいぞコラー!!)

 ハァ!? だ、ダサくないし!! 超カッコイイし!!

(仮面◯イダーのパクリじゃねーか、このバッタもん野郎ーっ!!)

 ぐぬぬ・・・一番気にしている事を!!

 ・・・その後も、私に対する罵詈雑言は1時間以上続き、誰かが私の悪口を言う度に拍手と歓声が上がった。

(それでは、最後に我らが首領に締めて頂きましょう!!)

(いいぞー)

(待ってましたー!)

(よっ、首領!!)

(えー、コホン。下品なのは我輩の趣味ではないのだが、敢えて言おう! 仮面カイザーの・・・・・・う◯こー!!)

 壁の向こうが“どっ!!”と笑いに包まれた。

 ・・・うんっ! 全員ブッ殺す!!

 私は仮面カイザーに変身し、カイザーパンチで金属製の扉をぶち破った。

「悪を斬り裂く鋼の刃ぁぁぁ・・・仮面カイザァァァ・・・見参ッッッ!!!」

 突然のご本人登場に、その場にいた誰もが鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。しかし、今からお前達が喰らうのは豆鉄砲ではなく、私の正義の鉄拳だ!! ・・・・・・一人3回は殺す!!

 私は部屋の中をグルリと見回した。誰もが状況を理解出来ずに硬直している中で真っ先に逃げ出そうとしている奴がいた。奴の顔を見た瞬間、私はカイザーブレードを振りかざして突進していた。

「貴様ぁぁぁぁぁっ!!」

「そうはさせん!!」

 逃げ出した司令を追おうとする私の前に、真紅の軍服に金色のマントとサングラスというド派手な格好の男が立ち塞がり、鍔に髑髏の意匠を施した剣を構えた。

「我輩の部下に手は出させん!!」

 我輩・・・? あっ、コイツかさっき私の事う◯こって言った奴!! 構うもんか、コイツごと叩き斬って・・・っ!?

 目が合った瞬間、私は反射的に後方に飛び退いていた。私の戦士としての本能が危険を訴えまくっている。何なんだ、今の喉元に刃物を突き付けられたような嫌な感じは!?

 突然飛び下がった私を見て、男が私に問いかけた。

「何故だ・・・何故貴様から怪人の気配がする!?」

「私を怪人に改造しておいて・・・よくもぬけぬけと・・・っ!!」

 男がゆっくりと近付いて来る。奴が一歩近付くごとに悪寒が身体を駆け巡り、全身の震えが強くなる。幾多の命懸けの戦いを潜り抜けてきた私が、無意識の内に後ずさっていた。奴は“敵”などという簡単な言葉で表現できるようなものじゃない。アレは・・・圧倒的な恐怖そのものだ。

「怪人に・・・改造されただと?」

 少し考えた後、男は何を思ったのか手にした剣を投げ捨て、両手を広げて無防備に近付いてきた。

 一歩踏み込んでカイザーブレードを振り下ろせば、きっと案山子を斬るよりも容易く奴を斬り捨てる事が出来るはずだ。それなのに、呼吸は乱れ、手は震え、足が竦んでどうしてもその一歩を踏み出す事が出来ない。

「・・・どうやら怪人に改造されたというのは本当らしいな・・・教えてやろう、貴様が抱く畏れの正体を」

 男が立ち止まり、サングラスを外した。奴の目を直視した瞬間、もはや私は立っているのも困難になって床に片膝を着いてしまった。

「怪人は創造主たる我輩に叛逆出来ぬよう、我輩に対して絶対的畏怖を抱くように造られているのだ。貴様が感じている恐怖は、怪人であるが故のものなのだよ。それにしても・・・並の怪人であれば、我輩の目を直視しただけで、プレッシャーに耐え切れずに気を失う者、恐怖のあまり錯乱する者、命乞いを始める者、心臓麻痺を起こして死ぬ者すらいるというのに、まだ我輩に刃を向けていられるとは・・・敵ながら見事な精神力だ」

 敵が、手を伸ばせば掴めるような距離まで来たが、精神と肉体が切り離されてしまったかのように私の身体は奴への攻撃を拒んでいた。奴を攻撃しようと思えば思う程、心臓を鷲掴みされたみたいに、呼吸が乱れ、身体の震えが酷くなる。

 だ・・・ダメだ、殺られる!!

 脳裏に今までの出来事が次々と浮かんでは消えてゆく、まさかこれが走馬灯なのか。しっかりしろ、私。まだ、パンチの一発、刀の一太刀も交えてないのに走馬灯なんか見てどうする! ヒーローとは、どんな状況でも絶対に諦めない者の事なのだ。何とか打開策を・・・

 その時、不意に数日前の出来事が頭に浮かんだ。



「由香里ちゃん、仮面カイザーの変身ベルトに新機能を搭載したんだ。このシステムを起動した状態でこうすると・・・」

「うおおー、か・・・カッコイイ、超カッコイイよコレ!!」

「でしょー、やっぱ要るよね、コレ!!」

「いや、お兄ちゃんも由香里さんも正気なの!? 私達秘密組織なんですよ!? 目立つ真似してどうするんですか!!」

「えー」

「えー」

「えー、じゃありません!! だいたい、この装置に何の実用性があるって言うんですか!!」

「それはもちろんカッコ・・・」

「カッコイイのは実用性とは言いませんっ!!」




 ・・・これだっ!! ナイス走馬灯!!


 私はベルトに搭載された新機能を起動させると、歯を食いしばりながら、震える両脚に力を込めて立ち上がり、そして、男に背を向けた。

「・・・何の真似だ?」

「悪を斬り裂く鋼の刃・・・」

 今奴に襲われたらひとたまりも・・・いや、余計な事を考えちゃダメだ。

「仮面カイザー・・・」

 目を閉じ、奴を見ないようにした事で、少しだけ恐怖が和らいだ。これなら行ける!!

「・・・見参ッ!!」

 ポーズを取って名乗りを上げた次の瞬間、私の背後で大爆発が起きた。これぞ新機能、〈ヒーローが名乗りをあげた時に背後で起きる謎の大爆発を再現する装置〉だ!!

「ば、爆発したー!?」

「首領ーっ、ご無事ですかーっ!?」

「早く火を消せ、スーパーデンジャラス爆弾に引火する!!」

「駄目だ、間に合わない・・・みんな逃げろー!!」

 爆発によって大混乱に陥った室内から私は転がり出た。部屋の中から連続して爆発音が聞こえる。どうやら奴らの言っていたスーパーデンジャラス爆弾が誘爆しているようだ。ここにいるのは危険だ。私はあのマンホールからこの部屋に辿り着くまでに密かに付けていた目印を頼りに、来た道を全速力で走り抜けた。

 そして、崩壊してゆく敵のアジトから脱出した私に桃ちゃんからの緊急通信が入った。

「桃ちゃん?」

『由香里さん!? 良かった、繋がった』

「一体どうしたの」

『逃げて下さい!! 司令が泉基地の全隊員に由香里さんをJOKERと内通した反逆者として抹殺するよう命令を出しました。お兄ちゃんもジャスティストルーパー隊の人達に連れてかれて・・・ああっ!?』

「桃ちゃん!? 返事をして!! 桃・・・」


 “ズドン!!”


「・・・クッ!?」

 小さな悲鳴が聞こえた後、通信は途絶えた。そして、それと同時に私の足元に銃弾が撃ち込まれた。何処からか狙撃されている。私は暗闇に紛れるようにしてこの場から逃げ出した。


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