第5章(JOKERサイド) 初陣! はじめてのたたかい!!
5-①
学校で中間テストの結果発表が行われた2日後・・・即ち俺がJOKERに入団後に初めて仮面カイザーと戦う事になるこの日、俺はすこぶる機嫌が良かった。何故ならば・・・
その日の帰りのホームルームの事である。
「そうだ、そろそろ席替えするか」
担任の西先生が突然席替えすると言い出した。
「うん、じゃあ・・・日直の上原、お前クジ作ってみんなに配れ」
「はーい!」
「それと・・・桜井、お前は黒板に席番号書いてくれ」
「分かりました」
恵が1から40までの数字を書いた紙のクジを作ってみんなに配り、桜井さんが黒板に席番号を書いた。
「上原、全員に配ったかー?」
「配りましたー!」
「よーし、じゃあクジに書いてある番号の席に移動しろー」
みんなが移動を始めた。二つ折りにされた紙片を開くと、俺のクジには36と書かれていた。
えーっと36番はっと・・・・・・おっ、ラッキー!
36番は廊下側の列のうしろから2番目の席だった。なかなか良い席だ。俺は新しい席に移動した。
「あっ、ひろひろ!」
「ゲェーッ!? お前が後ろかよー!?」
どうやら俺の後ろは恵が引き当てたらしい。台無しだ・・・せっかくの良いポジションが台無しだ。
「えーっ、何でそんな嫌そうな顔すんの!? ウチが何かした!?」
「何かしただと・・・? お前の罪を数えろよ! 前に俺の後ろの席だった時、授業中にペンで背中をくすぐってくるわ、消しゴムのカス投げてくるわ、定規で背中をバチンってしてくるわ・・・」
「だってー、西先生の授業難しいんやもん」
「上原聞こえてるぞー、何なら補習してやろうか?」
「う・・・」
あぁ・・・明日からの学校生活に暗雲が立ち込めてきやがった。
「あっ、私の席ここなんだ」
「あっ、ゆかりん!」
「なんとっ!?」
さささ、桜井さんキター!
立ち込めた暗雲が一瞬で吹き飛んだ。まさか桜井さんが隣とは・・・・・・神様ありがとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーっ!!
「よろしくね、正木君、恵ちゃん」
「は、ハイィィィッ!」
俺は思わず右腕を斜め上にピッと伸ばして、JOKER式の返事をしてしまった。やべぇ・・・明日から学校が楽しみすぎる。
「あれ、そう言えば・・・ひろひろの前の席って」
皆の移動が終わっても、俺の前の席は空席のままだった。
「ああ、士多の席だな。最後に見たのが、確か中間テストの結果発表の日だったから・・・アイツもう2日も学校来てないのかー。体調大丈夫かな?」
「まっさん心配やなー。なー、ゆかりん?」
「えっ!? う、うん・・・そ、そうだね」
良いなー、士多の奴。桜井さんに心配してもらえて。俺も何だか体調悪い気がしてきた。いや待てよ・・・体調崩して寝込んだりしたら桜井さんと会えないじゃねーか。うん、めっちゃ元気だ、俺。
5-②
・・・と、まぁこんな出来事があり、俺の士気は天を衝かんばかりに高かった。今なら何が来ようが返り討ちに出来るような気がする。
仮面カイザーと戦うにあたって、俺達はまず始めに怪人の作成に取り掛かった。今回は恵がどこかから捕まえて来たカタツムリを元に怪人を作る事になった。捕まえたカタツムリを怪人作製装置に入れて作製開始のスイッチを押すと、ブゥンという低い音を立てて怪人作製装置が起動した。
その後、脇目もふらず、一心不乱にダラダラする事2時間半、アジトに怪人完成を知らせるブザーが鳴り響いた。
ブザーを聞いた俺達は、怪人作製装置の所までやって来た。怪人作成装置のハッチには、装置内の様子を見るための小窓が付いている。俺達は、小窓のカバーを開け、三人で肩を寄せ合いながら中を覗き込んだ。
そして、中の怪人と目があった瞬間、思わずカバーを閉じてしまった。そして、数秒の間のあと、三人の口から、全く同時に、全く同じ感想が出た。
「気持ち悪っ!?」
カタツムリの怪人は、プロレスラーのような、筋肉モリモリマッチョマンなゴツい体格をしていて、両肩にはカタツムリの殻を模した肩当、胸には大きく「J」の字が描かれた胸当て、更には両腕に円形の小型の盾を装備し、背中には大きな殻を背負っていた。そして上半身の防御を厳重に固めているのに、何故か下半身はプロレスラーが穿いているようなショートタイツ一丁・・・・・・しかも裸足という、エキセントリックかつツッコミどころ満載ないでたちなのだが、それらを全部吹き飛ばすインパクトを持っているのが、カタツムリそのままの顔である。子供が見たらトラウマ確定だ。
「ええー・・・いや、ちょっ・・・きもっ」
「ああ、きもいな・・・」
「うん、きもいね・・・」
「うるせぇぞお前ら!」
怪人作製装置の中から声が野太い声が響いた。
「さっさとハッチを開けやがれ! 開けねえなら装置をぶっ壊してでも出てくぞ!」
「分かった分かった、開けたるからちょっと待ってて」
恵が怪人作製装置のハッチ開閉ボタンを押すと、ハッチが開き、白煙と共に中からカタツムリの怪人が姿を現した。
「仮面カイザーはカタツムリ男のエスカルゴン様が秒殺してやるぜ!」
おお・・・言葉の根拠は分からんが、とにかく凄い自信だ。
「それじゃ、作戦会議すんで」
「そんなもん必要ねえよ、仮面カイザーをどこか逃げ場の無い場所に誘い込め、そしたら俺が秒殺してやるぜ!」
さっきから何でこいつはこんなに自信満々なんだ。
逃げ場が無い場所か・・・そう言えば、ちょうどアジトのすぐ近くに廃倉庫があったっけ。
俺達はエスカルゴンの作戦を採用して、仮面カイザーを近くの廃倉庫に誘い込んで倒す事にした。
5-③
俺達はアジトを出て近くの廃倉庫までやって来た。俺と竹内は左右の鉄扉の取っ手にそれぞれ手をかけ、体重をかけて引っ張った。どうやら鍵はかかっていないようだ、ギギギ・・・と鈍い音を立てて扉が左右に開いた。
倉庫内は高校の体育館ほどの広さがあり、所々にドラム缶やダンボールの箱が散乱していた。倉庫内の全ての窓には格子が嵌められており、俺達が入ってきた扉以外に出入り口は無いようだ。ここならば、仮面カイザーを閉じ込めるのにもってこいだ。こんなに都合の良い場所がこんなに都合の良いタイミングであるとは。
もしこれが小説だったら、読者に御都合主義だと叩かれる所だが、“事実は小説よりも奇なり”なのである。あるものは仕方が無いのである。
作戦の準備は順調に進んでいるかに思えたが、俺はこの作戦の致命的な落とし穴に気付いてしまった。
「ところで、どうやって仮面カイザーをここに誘い込むんだ?」
「えっ・・・」
恵と竹内が固まった。
「なあに、心配するこたぁねえよ」
エスカルゴンが言った。
「正義のヒーローって奴ぁ、悪の組織が悪巧みしてる場所には必ずやって来るって昔から相場が決まってんだ」
カタツムリのくせに何故そんな事を・・・
「言っとくけど、ウチらは悪の組織とちゃうし、正義の組織やし。今やってる事も悪巧みじゃなくて正義巧みやし!」
「正義巧みて・・・」
「そんな事より、俺の勘だと仮面カイザーの野郎はもうこちらに向かっている」
「はぁ? 何でそんな事分かんだよ?」
「不吉な気配がどんどん近付いて来る。ここに来るまであと10分もねぇぞ。お前ら、急いで準備しろ」
そう言うとエスカルゴンは背中の殻の側面を“カパッ”と開いて、中からスポーツバッグを取り出すと、俺達の方へ投げて寄越した。バッグの中には恵の戦闘服と仮面、戦闘員用の覆面2着、それと電磁ウィップ棒が入っていた。
「まあ、この俺が仮面カイザーの野郎を秒殺しちまうからお前らの出番は無ぇけどな」
エスカルゴンはそう言うと豪快に笑った。相変わらずすごい自信だが、本当に大丈夫なのか。
「まあええわ、とりあえず向こうで着替えてくる。三人とも、覗いたらシバくで」
「アホ言ってないでとっとと着替えてこい」
恵は戦闘服をひっ掴むと倉庫の奥の方へ走って行った。俺達は覆面を被ると、工場に落ちていた長さ90センチ程の金属パイプを拾った。
5分後、ブラックローズの戦闘服に着替え終た恵がげんなりした表情で戻って来た。
「何か服がベタベタでネトネトでヌルヌルなんやけど・・・」
恵はエスカルゴンの手をじっと見た。アジトでは気付かなかったが、元がカタツムリの怪人だからなのか、エスカルゴンの全身は謎の粘液で覆われていた。
「お前かコラァ!」
恵はエスカルゴンに跳び蹴りをしようとして粘液で足を滑らし、派手に尻餅をついた・・・・・・まさに一人アトミックドロップ! ひとしきり悶絶した後、尻をさすりながら立ち上がって、尚もエスカルゴンに掴みかかろうとする恵をなだめていたその時だった。
“ヴォォォォォン!”
どこからともなく、バイクのエンジン音が聞こえてきた。仮面カイザーのバイクの音だ・・・本当に来やがった。その場にいる全員に緊張が走る。
「よし、戦闘員1号・2号、扉の側に隠れろ。仮面カイザーが侵入して来たら、俺の合図で扉を閉めるんだ」
そう言うとエスカルゴンと恵は倉庫の奥の方に隠れた
「わ、分かった」
俺と竹内は左右の扉の脇に空のドラム缶を並べて置き、その陰に隠れた。
それからおよそ1分後、仮面カイザーが現れた。仮面カイザーは扉を通過すると突然立ち止まり、周囲をぐるりと見回した。
口から飛び出して来そうな速さで心臓が脈打ち、手のひらがじっとりと汗ばむ。頼むから早く通り過ぎてくれ!
そう祈っていると仮面カイザーはゆっくりと倉庫の奥へと歩き出した。遠ざかってゆく足音を聞きながら俺はホッと息を吐いた。
そして、仮面カイザーが倉庫の中央にさしかかった時・・・
「今だっ!」
エスカルゴンの合図で、俺達が扉を閉めた次の瞬間、エスカルゴンが扉目掛けて口から粘液を飛ばした。鉄扉の左右の取手を覆うように付着した粘液は一瞬でガチガチに固まり、左右の扉をロックした。これで仮面カイザーは袋のミ○キーマウスだ。
「くっ、閉じ込められただと!?」
仮面カイザーが苦々しげに言った。
「ふっふっふ・・・かかったな仮面カイザー!」
「もう逃げ場はないわ、覚悟しなさい!」
倉庫の奥から、恵とフード付きマントを羽織ったエスカルゴンが現れた。それに合わせて俺と竹内もドラム缶の陰から飛び出し、それぞれ仮面カイザーの左右の斜め後ろに立って、仮面カイザーを取り囲んだ。恵は標準語で話していたが、よく聞くとアクセントやイントネーションが所々変だ。
「みんな、行くわよ! フォーメーションα・・・」
その時、エスカルゴンが恵の命令を待たずに、フードを脱ぎ捨て突撃した。
「エスカルゴン行きます! うおおおおお!」
「カイザーフェンシングーっ!!」
「ギャアーッ!!」
・・・時間にしてわずか3秒、文章にしてわずか3行の出来事だった。
無防備な腹部をカイザーブレードで貫かれたエスカルゴンは一瞬で灰になった。アイツ・・・相手を秒殺するどころか、逆に瞬殺されやがった!
あまりの出来事に俺達はしばし呆然とした。
仮面カイザーがカイザーブレードを再び腰に納めて、ゆっくりと俺達の方を向く。恵が後ずさりながら言った。
「きょっ、今日はこれくらいで勘弁してあげるわ。二人とも撤退・・・って」
俺達は倉庫の扉を見て愕然とした。唯一の出入口である鉄扉の左右の取っ手が、エスカルゴンの粘液でガッチガチに固定されていた。
「とととと閉じ込められただとぉぉぉっ!?」
俺達の絶叫が倉庫に響いた。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ! これはアカン! 今度は俺達が袋の鼠になってしまった。エスカルゴンがなんの活躍も見せないまま倒れてしまった今、俺達が脱出する為には自力で仮面カイザーを倒すしかない。
「ど、どうしよう?」
「戦うしかないやろ! 今こそ試験の恨みを晴らすとき!」
「危ない!」
仮面カイザーが拳を振り上げ突進してきた。仮面カイザーが繰り出して来た右ストレートを、バラバラに散ってなんとか避けたが、俺達の背後にあったドラム缶には大きな穴が穿たれていた。
もし今のパンチが当たっていたら・・・・・・首筋がぞくりとして、背筋を冷たい汗が流れた。
そして、地獄の鬼ごっこが始まった。俺達は必死に倉庫内を逃げ回った。攻撃が当たったらタダでは済まない。つーか、死ぬ! 絶対死ぬ!
俺達は障害物や柱を利用してひたすら逃げ続けた。しかし、俺達と仮面カイザーとの身体能力の差は歴然、地獄の鬼ごっこ開始から5分を過ぎた辺りで恵の走るスピードが目に見えて遅くなりだした。くっ、このままじゃ・・・・・・って、おおう!?
仮面カイザーの背中の装甲に大きな亀裂が入っていた。いつの間にあんな傷が・・・まさかエスカルゴンが!? もしかしてアイツ、かなりの強者だったんじゃ・・・・・・いや、無いか。
「逃げてるだけじゃいつかやられる、攻めるぞ。狙いは背中のあの傷だ!」
「よーし、今こそ訓練の成果を見せる時! 戦術その12〈漆黒のつむじ風〉で行くわ!」
「おう」
「わ、分かった」
俺達は仮面カイザーの周囲をぐるりと取り囲んだ。
「いくわよ・・・漆黒のつむじ風っ!」
仮面カイザーの左右に立った俺と竹内は、恵の号令と共に、雄叫びを上げて仮面カイザーの足元に鉄パイプを繰り出した。ちなみに、戦術その12〈漆黒のつむじ風〉とは、俺と竹内が相手に対して左右からひたすら足払いを仕掛け、相手が転んだところで恵が電磁ウイップ棒の一撃を叩き込むという、ご大層な名前の割にかなりセコイ戦術である。
「おらおらおらおらおらーっ」
「うりゃりゃりゃりゃーっ」
「うわっ!?」
仮面カイザーは左右から執拗に足元に繰り出される鉄パイプをかわし続けていたが、ついに足を取られてうつ伏せに転倒した。
「今だ!」
「喰らえぇぇぇーっ!」
恵は、転倒した仮面カイザーに走り寄ると、電磁ウイップ棒を背中の傷目がけて思いきり振り下ろした。激しい閃光とともに火花が散る。
「・・・今の一発は国語の恨みよ!」
恵は、更に電磁ウイップ棒を叩きつけた。
「英語の恨み!」
更にもう一発。
「こいつは物理の恨み!」
更に頭上で長い溜めを作った後、
「そして、こいつは数学Ⅱの恨み!」
恵は渾身の力を込めて電磁ウイップ棒を仮面カイザーの背中に叩き付けた。
お前はナ○パと戦う孫○空か! つーか、どんだけ赤点取ってんだよ!
・・・などと思っていると、仮面カイザーの体が大きく仰け反り、そのままピクリとも動かなくなった。念のため距離を取って2・3回鉄パイプでつついてみる。やはり、動かない。
互いに顔を見合わせた後、俺達は勝利の雄叫びを上げた。
「やったね!」
「俺達の勝ちだ!」
恵はこくりと頷くと、肩を震わせ泣き出した。
「お、おい・・・」
「な、何も泣かなくても・・・」
恥ずかしながら、俺は、生まれてこのかた女性と付き合った事が無い。竹内は、女よりも未確認生物の方が好きという変態だ。要するに二人ともわぁわぁ大泣きしている女をどう扱っていいのか全く分からない。
「そ、それにしても電磁ウイップ棒はスゴイ威力だったなー」
右往左往するしかないこの状況に耐えかねた俺は無理やり話題を変えた。
「うん、あの無敵のヒーロー、仮面カイザーがあの世行きだもんね!」
ん? ちょっと待てよ・・・・・・あの世・・・・・・行き?
と・・・・・・とんでもない事に気付いてしまった。顔から瞬時に血の気が引いていくのが分かる。
どこからどう見てもヒーローそのものの外見と、化け物じみた強さのせいですっかり忘れていたが、仮面カイザーの中には“人間”が入っているのだ。象をも殺すような高圧電流を流したりしたらどうなるか・・・恵と竹内もその事に気付いたらしく、みるみる顔面が蒼白になってゆく。
俺達は慌てて倒れている仮面カイザーに駆け寄った。
「だっ、大丈夫ですかーっ!?」
声をかけたが、反応がない。
三人で仮面カイザーを仰向けに転がした。竹内が恐る恐る仮面カイザーの左胸に耳を当てる。
「どどど・・・どうしよう、心臓の音が聞こえない!」
「アーマーの上からじゃ聞こえるわけ無いだろ、このバカ!」
「そや! 心臓マッサージや、今日の三時間目の保健体育で習った! ふんっ、ふんっ・・・・・・あかん、心臓の音聞こえへん!」
「いや、だからアーマーの上からじゃ聞こえねーって! つーか、アーマーの上からじゃ心臓マッサージの意味ねーよ!」
俺達は大パニックに陥った。人を殺してしまったかもしれないという恐怖がじわじわと全身に広がり、いやな汗がとめどなく吹き出してくる。
「正義のヒーローのくせに・・・・・・これくらいの事で死ぬんじゃねーよ!!」
祈るような気持ちで叫んだその時、仮面カイザーの指がぴくりと動いた。
「おい、生きてる・・・生きてるぞ! 頑張れ、仮面カイザー!!」
恵と竹内の口からも自然と頑張れという言葉がこぼれ落ちる。頑張れ、仮面カイザー!! 立ち上がれ、仮面カイザー!!
「頑張れぇぇぇーっ!!」
「頑張れぇぇぇーっ!!」
「頑張れぇぇぇーっ!!」
俺達はヒーローショーを見に来た子供のように、必死に声援を送り続けた。頑張れも何も、俺達が仮面カイザーをこんな目に会わせた張本人なのだが。
「う・・・うおおおおおっ!!」
そして、俺達の声援に応えるかのように、仮面カイザーは力強く立ち上がり、それを見た俺達は、ヒーローショーを見に来た子供のように、歓声を上げ、拍手した。
「よ、良かったぁ」
張り詰めていた緊張の糸が切れてしまい、俺達はその場でへなへなとへたり込んでしまった。
だが、そんな俺達をよそに、立ち上がった仮面カイザーは左腰に装着されていたカイザーブレードを手に取って展開し、ゆっくりと歩み寄って来た。無機質な仮面の奥から怒りのオーラのようなものが出ているように感じるのは気のせいではあるまい。
俺達は慌てて仮面カイザーと距離をとろうとしたが、三人とも腰が抜けてしまって上手く走れない。あっというまに倉庫の隅に追い詰められてしまった。
「ちょっ、ちょっとタイム」
仮面カイザーの歩みは止まらない。とうとう俺達と数歩の距離にまで近付いた。カイザーブレードがゆっくりと振りかざされる。
「必殺っ・・・カイザァァァ・・・」
こ、こうなったら・・・・・・!
「ククク・・・・・・ハーッハハハハ、かかったな仮面カイザー!」
仮面カイザーの動きが止まった。
「お前は俺達の作戦にまんまと嵌ったんだ。お前が俺達と戦っている間に、仲間が城山高校の上原恵の席に、新兵器スーパーデンジャラス爆弾を仕掛けた。爆発すれば半径10万kmは一瞬で消し飛ぶ! 今からちょうど10分後だ。こうしている間にもタイムリミットが迫っているぞ!」
お、俺のアホーっ! 何でもうちょっとマシな嘘を思いつかなかったんだ。何だよスーパーデンジャラス爆弾って!? 小学生でもこんな嘘に騙され・・・・・・
「くっ、何て事を・・・お前達の思い通りにはさせない!」
・・・たぁぁぁー!? マジか・・・アホなのか、仮面カイザー!?
仮面カイザーはロックされた扉の前で立ち止まると、カイザーブレードを扉に向かって振るった。
次の瞬間、あの分厚い鉄扉が音を立ててバラバラと崩れ落ちた。あれを俺達に振り下ろそうとしていたのかと思うとゾッとした。
仮面カイザーは倉庫を飛び出し、停めてあったバイクにヒラリと跨ると、猛スピードで走り去って行った。
次の日、学校で事件があった。恵の机が破壊されていたのである。




