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すくえあたうん!

ガールズトーク -仁義なきバスト戦争

作者: 箱猫

※前作『Honey Dip Fruit』の番外編。

※バスト戦争なんてタイトルですがメインは女子のお喋り。

三花さん、ちょっと失礼しますね。

そう言って和服の少女、藁谷莉丑わらがいりうしは活発そうな少女、釘隠三花くぎかくしみつかのポロシャツをめくった。

釘隠はふぉ!?という鳴き声を上げたがそれっきり抵抗もしない。


「ティーン向けのスポブラですか…なんというか、予想通りですね」

「んー。だってワイヤー邪魔だし」

「そうですか。ありがとうございますもういいですよ」

「うにゃー」


因みに今は放課後になったばかり。

学校が終わりさて部活に行こうという生徒がまだ教室に残ってたりする。

後ろ姿、しかも上だけチラリとはいえ女子の下着姿を拝めたことを役得と感じる男子も大勢居た。


「いきなり何すんのさりゅーしちゃん」

「いえ少し気になりまして。三花さん時子さん呼んできてください」

「いっちーも?」

「是非」


はーいと良い返事を返した少女は勢い良く教室を飛び出す。

戻ってきた彼女の両手には2人の少女の腕があった。

サイドアップの少女、槌上時子つちがみときこと長い前髪の少女、藤林無花果である。


「痛いよ三花ちゃん」

「一体どういうことなの…」

「りゅーしちゃん連れてきたお!」

「ご苦労様でした。お礼と言ってはなんですが、おはぎ召し上がってくださいな」

「裁縫針入ってない?」

「勿論」

「じゃ食べるー」


釘隠は藁谷が指した鞄を漁り目当ての物を見つけた。

一方連れて来られた2人は未だ混乱の中である。


「さて、お二方」

「は、はい」

「なんでござんしょ」

「率直にいいます。上を脱ぎなさい」

「嫌だ!」

「断る!」

「あら誰がお願いですと言いました?」

「命令なの!?」

「強めのお願いです」

「莉丑ちゃんの強めのお願い=強制じゃないですかやだー」

「まぁ良いです。無花果さん。」

「は、はい」


突然の名指しに藤林は凍りつく。

こんな状況は後の展開のフラグである。藤林はそのことを嫌というほど知っていた。

何せ相手は花蜂高校の姦し三人娘“丑三つ時”がひとり藁谷莉丑。頭の良さはこの中では群を抜いている。


「先日の放課後」

「!」

「…おや、こんな所に携帯電話が」

「やめて、止めてください。何でもするから」

「ん?今なんでもすると言いましたよね?」

「…わかったよ、好きにして」

「脱いでくれないんですか」

「いやまだ人いるでしょ?脱げないから!」


うら若き乙女の1人として、嫁入り前の肌はやすやす見せられない。というのが藤林の言い分である。

それを言ったら釘隠はどうなるんだという話になるが彼女は別格である。


「まぁ上から覗けば済む話です。無花果さんちょっと上のボタン2・3個外してもらえませんか?」

「ま、まぁそれくらいなら」


プチプチとボタンを外す藤林。

おはぎを食べる釘隠。

放課後ってなんぞ?と問いかける槌上。

秘密、ですと答える藁谷。

藤林を録画する少年。


………。


「ゆき君!?」

「いっちゃんのストリップ映像いただきましたー」


ビデオカメラ片手にこんにちはしてきたのは白詰幸色。まん丸お目目が可愛らしい男子である。

あまりにも自然に混ざっていたせいでその場に居た全員の目が丸くなる。違和感は海外旅行に行ってしまったらしい。


「スト…!?ち、違うのそういうんじゃないの!」

「こんな往来で脱ぐとか大胆だなお前」

「ぎゃー!しづ君もいらっしゃる!」

「あ、男子には出て行ってもらったから大丈夫だよ」

「…交渉、した」

「とき君こい君交渉って何?何したのねぇ!」

「所謂」

「ひとつの…」

「話し合い(物理)」

「がんばった……!」


達成感に満ち溢れた薄荷虎一の目を直視した科野獅弦がついつい頭を撫でてしまったのは仕方のないことである。彼は意外と犬に弱い。

藤林も撫でようとしたが、彼のやったことは褒められたことではないので我慢した。

因みに針槐解徒はというと、そんな藤林をデジカメで撮影している。

白詰といい彼といいやりたい放題だが、彼らはこれでも進学校の生徒である。人間見かけ、というより肩書によらないものだ。


「え、なんで居るの」

「どうせ無花果ちゃんの鞄かどっかに盗聴器でも仕込んでるんでしょ、そんでこの騒ぎを聞きつけて校門から競歩で来たんだよ」

「走らない辺り礼儀を弁えてる感じがして正直ムカつきます」

「瞬歩かも」

「出来ない、と言い切れない所が恐ろしい…」


次々と入ってくる部外者の彼らを藁谷、釘隠、槌上の3人はただただ眺めていた。

例の映画鑑賞会の日に公開告白してきたという男子達。藁谷は針槐推し、槌上は科野推し、釘隠はいっちゃんの好きにすれば良いよ推しである。


「まぁ…うちの学校制服無いですからね。入りやすかったんでしょう」

「警備員仕事しろ」

「それは酷です時子さん。警備員さん今日おじいちゃんお一人なんですよ?」

「筋骨隆々のね」

「筋肉隆々じゃなくて?」

「辞書には筋骨隆々で収録されてますよ」


彼女らの通う花蜂高校は私服登校が許可されている。

なのでみな思い思いの服で登校しているのだ。

和服の藁谷がその最たる例である。

彼女は私服登校が出来るというただそれだけの理由でこの高校を受験した。

因みに筋骨隆々の警備員藤田さんは御年75歳である。


「角度ばっちり。いい絵が撮れたどー」

「ダビング」

「19800円ね」

「くっそ金取んのかよ」

「これでも知り合い価格に設定してるんですよー?」


通常ならお金じゃ買えない代物です。と笑顔の白詰。

それ以外で価値のある物であれば買えるという意味の発言なのだがそれに関しては誰もツッコまなかった。人間誰でも自分が一番大事なのである。

ここで言えることはただひとつ、彼は他人にこのお宝映像を見せようとはかほども思ってない人間であるということだ。


「ところで今日の下着は?パステルブルーの縞?」

「え」

「個人的には白地に赤い花の刺繍がされてるのだと思う」

「ちょっと」

「最近買った黒地にビビットピンクレースのやつ」

「なんで」

「…薄ピンクのレース」

「そんなピンポイント」

「あら針槐さん正解です。白地に赤い花の刺繍。慎ましいというか、可愛らしいというか」

「ぜ、全員後で事情聴取するからね…っ!」

「大きさもまぁ…過不足ない感じですね」

「大事なのは感度だっつの」

「寧ろ…それが、いい」

「大きすぎても手に余るというか、目のやり場に困るよね」

「伸びしろもほしいもんね!」

「でもおっぱい自体は脂肪だから感度高くないんだよ」


全くどうでもいい補足である。


「しかし無花果さんが勝負下着を買うなんて」

「意外だにゃー」

「ちょっ!?」

「黒のピンクレースですって」

「本気だねぇ」

「背伸びっての分かるなぁ」

「ちが、違うの!勝負下着とかそんなんじゃ」

「確かに色っぽい=黒ってイメージは強いよね。テラテラした素材だと尚更」

「もしかしたらオープンクロッチかも…」

「流石にそれは引きます」

「ベビードールならまだ…」

「や、止めてぇ…!」


顔を真っ赤にしてその場でしゃがみこんでしまう藤林。無理もない話だ。

白詰と針槐は持ってきたデジカメで藤林を撮影している。トレードの交渉も同時進行だ。

一方科野はそれを見てニヤニヤし、薄荷は脳内で可愛いを連呼している。

思いやりとはなんだったのか。


「けどまぁ無花果ちゃん」

「な、なんでしょう…」

「勝負下着ならいっそ紐に挑戦すべきだよ」

「…………。」

「可愛いのいっぱい有るし、無駄にセクシーを演出しなくても…あれ?無花果ちゃん?」



藤林無花果、撃沈。






*


「じゃあ俺ら校門で待ってっから。クッソ外した…」

「なるべく早く来てね。約束通り今日の隣は僕だからね」

「またあとでね!結局針槐先輩の一人勝ちかぁー」

「はやくきて…。惜しかった…」


嵐が過ぎ去った後。

恥ずかしさによりいまだ立ち直れてない藤林は放っておいて、藁谷のターゲットは槌上に移る。


「さぁ時子さん。ワイシャツを脱ぎなさい。さぁ、さぁ!」

「莉丑ちゃんキャラが…」

「正直時子さんが一番気になりますから」


クラスメイトの間でも“槌上時子はその身体で最強の不良を落とした”という噂がまことしやかに囁かれている。

実際は昔からの付き合いで恋人同士になっただけの関係であり、槌上にとってはただのはた迷惑でしか無い噂だ。

藁谷はそんな噂がただの邪推でしかないととうに知っているが、未だに槌上の体型は知らない。


「ダボっとした服と謎によって包まれたその身体、拝見させていただきます」


とう、という掛け声と共に背中側の服がめくられる。

そして藁谷が目を剥く。

その様子に釣られ、釘隠も藁谷とともに背中のそれを見つめた。


「まさか」

「三連ホック…ですって…!?」


デザインによって異なるが、バストサイズが大きいブラジャーはその大きな胸をしっかり支えるために二連または三連ホックであることが多い。

恐る恐る2人がタグを見ればE70と書かれていた。

カップサイズはバストのアンダーとトップの差で決まる。2.5cmごとにA、B、Cとカップサイズが変わるのだ。

Eカップ、その差20cm。紛れも無く巨乳である。


「時子ちゃん着痩せするんだよねー…」


漸く恥ずかしさから復活した藤林が槌上に言う。

余談ではあるが藤林は槌上に服を借りたことがあるため体型云々の事は知っていたりする。

人馴れしない槌上が珍しく懐いた人間が藤林である。「こういう所が無花果さんですよねぇ」とは藁谷の言だ。


「えー?最近また太ったんだよ。そういうことじゃない?」

「メジャー持ってきました」

「え」

「メジャー持ってきました」

「は、話せば分かる!」

「問答無用!」


藁谷はメジャーを引き伸ばしながら槌上に迫る。勿論槌上は逃げ出した。全力で。


「いやぁぁ!!!現実怖いぃぃぃ!!!!」

「何言ってるんですかどうせグラビア並みの数値を叩き出すに決まってますよさぁ観念してください」

「グラビアって何?ああいうのは大体サバ読んでるんだよ!」

「それは禁句ですって。ウエスト50cmなんて男の幻想です。」

「だからそんな数値出るわけないじゃない!」

「うふふお人が悪いですねぇ時子さん。出ますよー貴女なら」

「何その信頼怖い!」

「ちょっとそれはズルいです時子さん。私怒りますよ。おこです」

「手段なんて選んでられないよ莉丑ちゃん相手にさっ!」


2人が某ネコとネズミの追いかけっこアニメごっこ(但し本気モード)をしてる一方……。


「おはぎウマー」

「これ食べる?」

「食べるー」

「何で太らないの三花ちゃん…」

「え?太ってるよ?」

「なん、だと…?」

「消費が早いんだー。穴の空いたバケツみたいって言われる。あ、バケツプリン食べたい」

「プリン味のソフトケーキなら」

「食べるー」


釘隠と藤林はお菓子を食べながら談笑していた。

お菓子を食べているのは専ら釘隠である。


「あれ?まだ残ってたんだ」

「あ、ざくちゃんさん」

「こんにちは柘榴坂さん」

「こんにちは藤林さん釘隠さん。それで、これは一体…」

「あ、柘榴坂さん。丁度いいです時子さんを捕獲してください」

「良いよ」

「ぎゃー!ちょっ、止めて柘榴坂さん!」

「…ごめんね?」

「観念してください、ね?」

「ひっ!いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」






*


結論から言うと。

厳正なる測定の結果は藁谷の予想を裏切らないものだった。

つまりグラドルである。巨乳でありながら細いウエストを持つ女子の憧れ体型。

これを太っていると言ったら全国の女子を敵に回すこととなるだろう。


「うぅ、なんてこったウエスト増えてた…!」

「これで増えてたの?凄いね…」


抱きついてくる槌上をよしよしと宥める藤林。

そんな藤林に何を思ったのか後ろから抱きつく釘隠。

あらあらと笑いながら相対するのは知識欲が満たされご満悦な藁谷である。

柘榴坂と呼ばれた少女は未だに状況を飲み込めずにいた。


「これがリア充の力ですか」

「侮りがたしリア充」

「龍くんは貧乳派なの!こんなのあっても需要ないんじゃ意味無いでしょうが!」

「うわぁ私に喧嘩売ってますね時子さん」

「あ、いやその、り、莉丑ちゃんはスレンダーなままでいいと思うよ…」

「言い訳乙、です」


槌上はどうやら地雷を踏んだらしい。流石にたじろいでいる。

止めてあげてと言えるほどの勇気は藤林には無かった。

釘隠はチョコスナックを食べている。


「そういう莉丑ちゃんこそどうなの?スレンダー(笑)みたいな体型だったら私…」

「私?」

「許さない、絶対にだ」

「まぁ怖い。でも私、肉付きの悪い骨の様な貧乳ですよ?」

「でも私よりはあるから良いんじゃない?」

「あのですね。三花さんは身長という武器が有るでしょう。小柄な貧乳は武器です。兵器ですよ。愛嬌がある分質が悪い。」

「にゃー」

「加えて猫属性ですかあざとい。私は身長あって薄っぺらい身体なので需要は無いんですよ残念なことに」

「わ、わかんないよ莉丑ちゃん。モデル体型って言葉もあるし」

「そんなに巨乳になりたいなら、首切って胴体交換すれば良いんじゃないかな?需要が一致するよ」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「あれ?どうしたの?」


そんなバストアップ方法は嫌だ。


「どこのゾンビ屋ですか」

「そんなことしたら死んじゃうよ」

「手っ取り早いと思うけど」


至極真面目なのがメガネにおさげの柘榴坂安堵ざくろざかあんどという少女である。

彼女は冗談を言うことはめったにない。


「柘榴坂さんは?」

「え?」

「その、ブラのサイズってどれくらいかなって。そういう話してたんだけど」

「あぁ、だからメジャー…確かBの70、だったと思う」

「普通仲間だね。私もそのくらい」

「そうなんだ」


個人差はあれどB70やC70はこの国ではありふれたサイズである。


「燐灰先生はもうちょっと欲しいみたいな事言ってたんだけど」

「え」

「燐灰先生は」

「いや違うのそうじゃないの。」


大事なことではあるが繰り返されなくてもいいと藤林は嘆いた。


「燐灰先生ってあの人?保健室に居る人?」

「所謂、養護教諭だね」

「えー…と、その」

「お付き合いしてるんですか?」

「あはは、藁谷さんは冗談が上手だね。仮に付き合ってても先生が私みたいな子供に本気になるわけ無いじゃない」

「え、でも保健室で」

「弄りやすいから構ってるだけだよ」

「…遮られた」

「ド、ドンマイ時子ちゃん」


そしてまた藤林の胸の中に逆戻りである。傷ついたでなく疲れたなのが槌上クオリティーだ。


「じゃあタタミンは?結構いい感じに言い寄られてるけど」

「寂しがりなんだよ天河敷くん。ご両親が共働きって言ってたし」

「んーっと、wikiせんせー」

「物珍しさだと思う」

「ナガさん」

「お料理作りに行ってるだけだよ。そんな誤解されるようなことじゃないと思うけど」


げんなりとした顔の丑三つ時である。

どうも彼女らは柘榴坂が苦手らしく、普段あまり近寄ろうとしない。今も必要最低限の会話しかしていないのだ。

藤林はその理由を未だ知らずにいる。


「鈍感というわけでないというのがまた質の悪い話ですよね…」

「本気で誤解してる辺りなんというか…」

「四名様に同情しちゃうね。タタミンなんか初恋だろうに…」

「トラウマ量産機、タイプ柘榴坂」

「うわぁ…」

「これは酷いですね…」

「お、お三方?一体なんのお話を…」

「いっちーが天使に見える」

「なんかこう、著名な絵の前で倒れた少年を天国に連れて行った天使」

「キューピットのようなイメージですね。わかります。」

「ゴメン意味がわからないと怖い話止めて!」

「赤い部屋」

「集合写真」

「イヤホン」

「それ意味がわかると怖い話!分かればいいってもんじゃない!」

「仲良いんだね」

「これを見て仲が良いって柘榴坂さんも結構酷いよね!?」


藤林をいじったことにより3人の表情が晴れやかになった。

藤林からしてみれば『解せぬ』といったところだろう。


「もー。私そろそろ帰る!とき君達待たせてるし」

「まぁ用事も済みましたし…分かりました」

「バイバイいっちー」

「進展あったらツイッターで教えてね」

「嫌だよ拡散されるし!」

「え!?」

「駄目なの?って顔しないで!」

「ではスカイプでお願いします。私9時にはログインしていますので」

「私10時以降出れないからその時は莉丑ちゃんにどうぞ」

「義務化されてるの?言わなきゃダメな事になってるの!?」

「でもちゃんと報告してくれる無花果ちゃんが私は好きだよ」

「素直さは美徳ですよ」


素直さというより調教の賜物だよ、と内心藤林は思う。

それに、なんだかんだ彼女らのアドバイスは為になるのである。

恋愛のれの字を漸く齧り始めた藤林だ。冷静さとブレーンの藁谷、長年リア充をしてる槌上は心強い味方である。因みに釘隠は人脈方面で大活躍だ。

そんな彼女がおもむろに口を開く。


「…ねぇねぇいっちー」

「ん?あ、これあげる」

「おぉ、期間限定秋の味覚全部詰めまんじゅうだ。ありがとー。あのね、最近被害が多いんだ。だからあの人らから離れないでね」

「えっと…1人で夜道を歩くなってこと?」

「んーちょっと違うけど…まぁ、そんな感じ」


藤林は知らない。

財閥の御令息である針槐解徒、最強の不良の片腕と称される科野獅弦、異国を思わせる金の目と長身を持つ番犬薄荷虎一、可愛らしさで多くのファンを持ちファンクラブ―もはや宗教レベルである―もある白詰幸色。

有名人に囲まれる彼女を疎ましく思う人が多く居ることを、ではない。

そんな人の中でも彼女を害する計画を立てた人、実際行動に移そうとした人を、彼等が消している事をだ。

藤林には普通の男の子を演じる彼らだが、一皮剥けばこんなものである。

彼らは藤林を病的に愛し、病的に執着していた。

釘隠の言う被害とはそんな彼らに消された人のことだ。

釘隠は消された人達を知っている。

故に少し心が痛むのである。消された彼ら彼女らの末路はそれほど凄惨なものだった。


「まぁ自業自得なんだけど…過剰防衛な気もね…」

「何の話?」

「内緒なのだ。ほら早く行ってあげなきゃ。じゃあねいっちー!」

「え、あ、うん。じゃあねみんな」


四人は鞄を肩に掛け小走りに教室を出る藤林を見送る。

……暫しの沈黙。


「結局、何がしたかったの莉丑ちゃん」

「なんてことありません。先日『最低でもDは欲しいよな』などとほざく輩をお見かけしたので口頭でメッタメタにして、それでも収まらなかったのでバストサイズで皆さんを弄ろうかと」

「あ、それハニー君とミルク君だね。巨乳大好き健全な男子中学生。」

「知ってましたか。私三花さんの知らない人に行き当たったこと無いんですけど、知らない人ってどの辺りにいらっしゃるんですか?」

「んーっと、知らない人のが多いよ?」

「範囲が分からないよ。どの範囲で見たら知らない人が多いの」

「世界規模でしたら怖いですねぇ」

「いやいや年下の男の子に容赦無い毒舌を仕掛ける莉丑ちゃんのが怖いよ」

「策謀担当の時子さんに言われたくありません」


あはは。うふふ。

丑三つ時は笑う。


「さて、気も済みましたし、そろそろ帰りましょうか。」

「はーい」

「まんじゅううまい」

「今お腹押したらリバースする?」

「やーん」


うりうりと釘隠のお腹を押す槌上。

そんな2人を見て面白そうに笑う藁谷。


「じゃあね柘榴坂さん」

「ばいばいざくちゃんさん」

「さようなら柘榴坂さん」

「気をつけてね」


丑三つ時が教室を出て、姦しい声が遠くなる。

教室には少女が1人。


「…また嫌われちゃった」


誰に言うでもなく、自分に言うでもなく、柘榴坂は呟く。

その声音に悲壮感は無く、喜びも無い。

当たり前のことを言う彼女は、自分の鞄を肩に掛け教室を後にした。

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