夢中毒
夢心地の続き
僕の幼なじみには、少し変わった奴がいる。
そいつは、自由に夢を見ることが出来るというのだ。
幼い頃には困惑することしか出来なかったが、今となっては嘘だと核心することが出来る。
しかし、彼女にとってはそうでは無いようだ。
先日、久しぶりに彼女と会った。
その時の様子がおかしかった。
「あ、久しぶり!」
夕方コンビニでそう声をかけてきたのは彼女の方だった。
同じマンションに住んでいるとは言え、登下校の時間が合わないものだからしばらくぶりだった。
コンビニを出た僕達は、歩きながら話をした。
「本当、久しぶりだね。そっちの学校はどう?」
僕達は違う高校に通っている。
彼女は私立校に、僕は公立高校に入学したのだ。
「まあまあかな。ただ、私の性に合わない感じ。」
「そうか……。」
そんな風に彼女と話をしているうちに、僕は幼い頃を思い出した。
「ねえ、少し質問がある。」
僕は言うか言わないか迷ったが、言って見ることにした。
「何?」
「えーと……小さい時のこと覚えてる?君が僕に言っていたこと。」
「ああ、夢の話?」
「そう、そのことなんだけど、まだ信じている?」
少し躊躇いがちに僕はそう言った。
「信じているもなにも、事実なんだけど。今でも自由に夢を見ることが出来るし、夢の中で宿題をすることだって出来る。」
僕はぞっとした。
高校生になり少し大人びた感じになった彼女が幼い頃のあの表情とまったく同じになったのだ。
今僕が見ている彼女と記憶の中の彼女が寸分の狂いもなく重なった。
「明美!一人で出掛けちゃいけないってあれほど……祐輔くん…?」
遠くから息を切らしている女性がこちらに向かってくる。
彼女の名前を呼び走ってくる女性の正体を知ることが出来たのは、その人が僕の名前を呼んだ時だった。
「お久しぶりです。おばさん。」
「久しぶり……。明美が何か迷惑をかけなかった?」
「あ、全然大丈夫です。どうかしたんですか?」
「あの子、最近おかしいの。学校へも行かずに一人で何やってるんだか……。それで、病院へ行こうって言っているのだけど聞かなくて……。」
「学校行ってないんですか?」
「ちょっとお母さん!?祐輔に変なこと言わないでよ!!私毎日学校へ行ってるじゃん!」
「明美!貴方は夢を見ているの!目を覚まして!」
そのまま明美とおばさんはちょっとした口論になってしまった。
ここがあまり人の来ない道だったのが幸いだった。
二人の言い分を聞いていると、少しだけわかってきた。
まず、明美が学校に行っていないのは事実なようだ。
しかし、明美は学校へ行っていると思い込んでいる。
これは、夢のせいだと思った。
きっと、彼女は夢と現実の区別がつかなくなってしまったのだ。
夢の中で学校へ行き、架空の友達と戯れる。
目が覚めた彼女はありもしない宿題を夢の中で行っていると思い込んでいるのだ。
しかし彼女とおばさんにこのことを告げたく無いと思った僕は、嘘をついた。
「夢を見ているのは僕です。今もこうやって、夢の中の登場人物と話をしているだけです。したがって、最初から貴方達は存在していないので、そんな小難しいことを考えても無意味です。では。」
きっと彼女とおばさんは間の抜けた表情をしているだろう。
意味わからない話になりましたが、解釈は人それぞれだと思います。