Cap3 identity
次の日。
俺が目を覚まし,登校していると昨日のように綾さんが挨拶してくれた。
ただし今日は走っていかずに。
「もう学校には慣れた?」
いかにもありがちでありふれた質問だったが,今の俺からすれば彼女と話せる時間のひとつひとつが大事だ。
「うん!今のところ大きな事件もないし。」
事件って…やっぱりこれは天然の出せる技なのか。
「あっ…そういえばまだ言ってなかったんだけど,今日の放課後にこの前道教えてくれた所に来てもらえないかな?」
なんだこの上手く行き過ぎな展開は。
勿論行きますとも。どうせ帰宅途中だし。暇人ですので。
そう言うと彼女は笑顔を見せると,とととっと小走りで行ってしまった。
なるほど…天使スマイルね。
金本が言うのもたまには間違ってないじゃないか。
そういや今日も見張ってたりしないだろうな。
そんな考えはいらなかったようで,金本は遅刻してきた。昼に。
「お前は昼飯を食いに来たのか。」
そんな事を言ってやるとうるせぃと言われその後は最近の映画の話なんかをしていたと思う。
悪いが頭に残っているのは綾さんの言葉と今日のロードショーくらいだ。
そんな虚ろな頭でも内田が何か呟いていたのは分かったが。
その日の体育で俺はサッカーボールを見事顔面でキャッチするという痛々しい荒業を披露し,その痛みも忘れて放課後待ち合わせ場所へと向かった。
そういえば綾さんは掃除だから俺が早く行っても意味がないんだよな。
そう考えつつも待ち合わせ場所に着き,携帯のアプリで暇をつぶすこと約15分。
彼女が向こう側からやってきた。
こんな光景を金本に見られたら生涯恨まれるであろう。
「ごめんなさい!掃除で…」
いえいえ。あなたの為なら何年でも待ちましょう。
そんな気持ちでいた俺にとって15分なんて光のような速度であり待ってる気なんか全く無かったのだ。
これで遅れてきたのが金本だとしたらその15分はとても長く感じられるものであろう。
立っているのも何なのでその辺にあったベンチに腰掛けた。
「えぇっと…まず,私が話したことは誰にも言わないでくれますか?」
もちろんですとも。約束を破るくらいなら死んでしまいそうです。
「それと…理解してもらえないかもしれないんですけど…信じてもらえますか?」
はい。
それだけ言うと彼女は下を向き一瞬躊躇う(ためらう)ような顔をしたかと思うと,上を向いてすぅっと息を吸って俺のほうをしっかりとした目で捕らえて確かにこう言った。
「私は未来に影響を及ぼすことが出来るあなたを改変しようとする分子からあなたを保護する為に未来から来ました。」
「………」
二人分の沈黙が続いた。




