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治療院にて

「ちょ、ティリア。何この大人数……」

「アンワールが今日の治療院の仕事引き受けるって言ったんでしょ」



夕刻。城内にあるレスティリアの魔法病院は治療を待つ兵士たちであふれていた。

昨日の治療を途中で強制終了したうえに今朝は怪我人続出の相互訓練を行い、さらに今日はフェランの軍隊長率いる北方遠征の終了日。治療院がかなりの大忙しになることは百も承知していたから、素直にアンワールの言うことを聞いたのだ。

ちなみにアンワールは弓と魔法を合体させることが出来るため、魔力はそれなりにある。もちろん魔導士ほどではないが。



「あのさあ。ティリアは僕があんまり魔力ないの知ってるよね。軽い怪我なら普通治療で済ますけど、重病人には魔法で治療するしかないじゃん? もう魔力尽きてきたのに、まだどんどん治療希望の兵増えてきてるんだけど?」

「そうだね。今日は北方遠征の終了日だもの。今第三部隊が帰宅したところだから、まだまだ増えるわよ」

「ほんっと勘弁……。報告書製作終わってないし深夜会議もあるんだけど」



報告書製作と深夜会議はアンワールの仕事の一部だ。レスティリアは魔法治療院、フェランは新兵訓練よりさらに早く行われる早朝会議などがある。

こんな状態でも兵たちの手当ては絶対にぞんざいに行わないのがアンワールだ。話しながらも素早く手当てを終わらしていく。しかしそうしている間に既に第四部隊が帰ってきており治療は終わりを見せない。



「第四部隊のみんなお疲れ様。重傷の人から先に順番回してあげてね」

「ティリア、ごめん。この人数は無理っぽい」



疲労困憊しているアンワールを見かねたレスティリアがソファーから立ち上がった。

彼女はテーブルの上のベルを二回鳴らした。



「お呼びでございますか?」

「どうされました? 今日は治療院の仕事お休みだとおっしゃいましたよね?」



魔導病院のスタッフ十数名にレスティリアは告げた。



「そのつもりだったんだけど……予想よりかなり多いみたい。手伝ってもらえるかしら。ごめんね?」



彼女の言葉でてきぱきと仕事にとりかかる魔導士たちを眺めつつ、アンワールはソファーに腰をおろした。



「いくら遠征終了日でもこんなに多いものだったかな。尊敬するよ、ティリア」

「ううん……アンワール一人で何とかなる人数だと思ってた。治療院にくる兵は多くても、魔法使わなきゃ助からないぐらいの重傷人はたいてい死んじゃってるから少ないはずなのよ。なのにこんなにいるってことは……もっとたくさん、死んだのかしら。おかしいわね。予想外。遠征途中に何かあったのかな」



訝しがるレスティリアに、治療待ちの兵士がおずおずと声をかけた。



「あの……説明いたしましょうか? 遠征の帰り際に、敵国の最高指揮官が兵もつれずに一人で姿を見せたのです。何か罠だと思って軍団長は逃げるという判断を下しましたがあちらのほうが動きが早く高レベルの魔法を放って……。結界を張りましたが敵の魔力が強く、魔法を少し弱める程度のことしかできずこのありさまでございます。ティリア様がいてくださったら良かったですのに」


「魔法放ったのは一回だけ? 後数回やればみんな殺せたでしょうに一回だけなの?」

「はい。忽然と姿を消していました」

「そう……。何がしたいのかしら。とにかく物騒ね」

「こりゃ決議会議も深夜会議も長引きそうだな……」



国王、最高指揮官、その他重役が参加する決議会議は午後八時から十時まで。アンワールと各軍隊長が参加する深夜会議は十二時から一時まで。フェランと各軍副隊長、部隊隊長が参加する早朝会議が四時から五時まで。

しかし今日はどの会議も長引くことが目に見えていた。



「面倒ね。きっと長引いた末、遠征には魔導士と治療院スタッフを何人以上連れて行くこと、ってなるのよ。私と私の隊の仕事が大幅に増えるわ」

「レスティリア!」



唐突な大声に身をすくめたレスティリアが見たものは、フェラン……と彼に背負われている人物だった。ぐったりとフェランに体重を預けているその人物はかなりの重傷に見える。



「その人……あなたのとこの軍隊長じゃない、フェラン!」

「ああ。助けられるか? ……大丈夫だよな? 頼む、レスティリア」



普段の勢いをなくし心配そうに尋ねる彼に、治療院の雰囲気が一気に重苦しいものへと変わる。

沈黙した兵たちを前にレスティリアは明るく言った。



「もう! フェランったら雰囲気が重くなるじゃない。全然だいじょーぶ、私の魔法の腕を甘く見ないで頂戴。このぐらいの傷だったらアンワールにだって治せるんじゃない?」

「ティリア、それは勘弁。僕もう魔力残ってないから」


二人のやり取りでいくらかましになったその場の空気。だが内心レスティリアは唇をかみ締めていた。

彼女はフェランの腕を引っ張り集中治療室へと連れて行く。扉を閉めて、言った。



「まずいわよ。他の兵守ろうとしたんでしょうね、魔法まともに喰らってる。彼は魔法耐性鍛えてあるから即死は免れたみたいだけど、かなり酷い。荒療治になるわ。ほら早く、そこに下ろして」



ゆっくりと寝台に下ろされた剣士部隊の軍隊長。彼の顔色を見たレスティリアはすぐさま治療にとりかかったのだった。



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