悩みどころの軍隊登録
「私が最高指揮官の内の一人であるフェランだ。陛下が仰っていた二人、とはお前たちのことか?」
「はい、フェラン様。私がサイラスで彼はレクスと申します」
レスティリアのおかげでとんでもないことになった翌日、彼らはフェランのもとを訪れていた。
プラチナブロンドに、白銀の鎧を身に着けているその姿はまさに騎士。最高指揮官の威厳がたっぷりと表れていた。
「兵士志願と言ったな。一度手合わせしてみるか? 私も剣を扱うのでな」
「そんな。フェラン様とですか!?」
息を呑んだレクスを見てフェランが薄く笑う。
「冗談だ。訓練は兵士登録した後だからな。……さて、どこの軍がいい?」
「はい……?」
「兵士はどの指揮官のもとで戦うのかを自由に選べる。この国にいる最高指揮官は今の所三人。アンワールとレスティリア、それに私だ。経験を積めば陛下の軍に入ることもできるぞ」
聞き覚えのある名前に、二人が仰天した。
大声を上げてフェランに詰め寄る。
「れ、レスティリアが!」
「レスティリアさんですか!」
「……何だ? 知り合いか?」
少々後ろへ下がったフェランは疑問符を浮かべて二人に問う。
「あー……えっと、その。軍隊、もう少し考えていいですか?」
「じゃあ兵士登録だけ済ませておくが……。どうした? きちんと説明しろ」
「何でもないです。失礼します!」
へらへら笑ってごまかしたレクスがサイラスを引っ張って、不満げなフェランの前から脱兎の勢いで逃げ出した。ついでと言わんばかりに、途中で出会った兵士を捕まえる。
「すいませんそこの人! レスティリア……様、はどこにいるんだ?」
「レスティリア様? 魔導治療院で兵士の手当てして下さってると思うよ」
「治療院どこだ?」
「この通路の突き当たり」
「分かりました。ありがとうございます」
サイラスが丁寧にお礼を述べてるうちに、レクスは治療院に飛び込んだ。
「レスティリアあああ! お前なんで……、あれ?」
静寂に包まれた治療院。レクスを見つめるレスティリアと兵士の視線が痛い。明らかに不審な人物の乱入に、武器を手にとっている者もいる。
「レスティリア様。お知り合いですか」
「そうでなければ、放り出しますが」
冷たい眼差しでレクスを眺めて不穏な言葉を発する兵士らの問いには答えずに、レスティリアはつかつかとレクスに歩み寄る。
「馬鹿。レスティリア様と呼びなさい。……一般兵の前ではね」
彼だけに聞こえる声でそう言うと、兵士たちのほうを振り返ってレスティリアはにこりと笑った。
「今日の治療はここまで。幸い重病人もいないみたいだからね」
「はい。ありがとうございました」
さすがに最高指揮官には逆らえないのか、治療がまだな兵士もぞくぞくと帰って行く。
「どうしても見てもらいたい人は明日来てねー」
兵士たちがいなくなった部屋にはレスティリアとレクス、それに遅れてやって来たサイラス三人だけが残った。兵士たちを見送ったレスティリアは頭を押さえた。
「まったくもー。どうして乱入するかなあ」
「どうもこうもお前っ……最高指揮官ってフェラン様が……」
「レスティリアさん……本当ですか?」
レスティリアは頷いた。
「だってどうみてもまだちっちゃな女の子……」
「失礼な。私は人造人間だからずっとこのままなのよ。ちなみにナティール様に拾われた時から数えて十四歳なの」
ふいっとそっぽを向いたレスティリアは表情を変えずに言った。
「ていうか、あなた達どこの軍に入ったの?」
「それが……まだ決めてないんです」
困ったように頭をかいたサイラスにレスティリアが助言をする。
「そっかあー。剣を極めるならフェランのとこかな。あの人結構……いや、かなり厳しいけど。陛下命で忠誠心は一番よ。弓ならアンワール。部下思いで優しいわ。魔法なら私。人造人間だからか魔導の最大値が普通の人間より大きいのよね。こう見えても、魔法は得意なの」
レスティリアは一旦言葉を切ると、ゆっくり続けた。
「最終的には自分の好みで決めるといいかな。剣士だけどフェランの厳しさに耐えかねてアンワールのとこに行った人もいれば、弓兵だけど物珍しさで私の軍に入った兵士もいるわ」
「えーどうしよっかな。俺フェラン様のとこ入って剣習いたかったけど厳しいんだろ?」
「ま、好きに決めなさいよ。後から変更もできるし。それより新兵は早朝訓練あるけどいいの? 早く寝ないと明日は二人も参加でしょ?」
レスティリアの言葉を聞いて二人が凍りついた。
「うっわ、早朝訓練かー……。俺寝てくる」
「早めに寝た方がいいですね。では失礼しますレスティリアさん」
「うん。指揮官は三人。フェランとアンワールと私。早朝訓練にはフェランは絶対来るわよ。熱心だから。アンワールもほとんどは。私は気が向いた時にね。後は指揮官直々に頼まれた有力兵士が数名。みんなの名前ぐらいは覚えといた方がいいよ」
「はい。じゃあおやすみなさいレスティリアさん」
「おやすみ」
治療院から出て行こうとしたレクスは突然声を上げた。
「大事なこと忘れてた! レスティリアっ、ナティール様の言い訳に俺ら使っただろう。死ぬかと思ったんだからなー!」
「あれぇ何のことかなあ。ほらほら五月蝿い人は早く帰ってほしいなー!」
すっとぼけたレスティリアはレクスを扉の外へ追い出すと、鏡に映る満月を見つめた。
「久しぶりに面白くなりそう……。明日の新兵訓練、行こうかしら」