国王陛下との面会
「城門ですね。道案内ありがとうございましたレスティリアさん。……じゃあ私たちはこれで」
「待ったあ! まだ私、いいなんて言ってないよ?」
城門前で二人を引き止めたレスティリアを彼らが訝しげに見る。
「城門入っちまえば安全じゃねぇか。護衛の必要ないだろ?」
「いいじゃない、ついて来てくれたって。もともとそういう約束だったし」
「いいですけど……。何か訳でもあるんですか?」
「うふふ、それは後で分かるよ」
妖艶な笑みを浮かべたレスティリアは、迷い無い足取りで城門へと歩み寄った。
「おい待てレスティリア! 通行書ないと通して貰えないぜ?」
レクスが止めるのを無視して城門の前に立ったレスティリアの姿を見た警備の兵が、慌てたように門を開く。二人は目を疑った。
「レスティリア様」
「ティリア様! 陛下がお探ししていましたよ」
レスティリアはうんざりしたように手を振った。
「分かってるってばー……。それとあっちに居る二人、私が許可するから入れてね」
「はい。了解しました!」
通行書も見せずにすんなり城に入れたことに呆然とする二人。
「レスティリアお前何者……まさか陛下の恋人か!?」
「馬鹿じゃないの。ナティール様は私を拾ってくれた人って言ったでしょ」
「でも通行書なしで城門を通れるのは、かなり地位がある方のみですよ」
探るように言ったサイラスに、レスティリアは口角をあげた。
「すぐに分かるよ。貴方たちが兵士志願に来たのならね」
「大体レスティリア、ここ城の最深部だし! ナティール様が居るとこじゃねーか。恐れ多いから俺帰る!」
警備も厳しい城の最深部だというのに警備兵はレスティリアの姿を見ては頭を垂れ、とうとう国王陛下の居る場所まで来てしまった。
「だーめ! 貴方たちも来るの!」
「しかしレスティリアさん。いきなりナティール様と面会は出来ませんよ。陛下に会うには前もって……」
サイラスの声をかき消したのは、扉の向こうの怒声だった。
「えぇい、ティリアはまだか! 余は待ちくたびれた!」
「ナティール様、落ち着かれて下さいっ!」
「陛下! じきに戻られますからお待ちください」
ぽかんと突っ立っているする二人を見て、レスティリアは肩をすくめる。
「まだ二十超えたばかりだから子供っぽいのよね。怒られてる兵が可哀想だし、中入ろう?」
返事も待たずにぱあんと扉を開け放したレスティリアは、落ち着いた声で言った。王座に座っていたのは闇のように黒くまっすぐな髪を胸の辺りまで伸ばした美青年。整った顔は不機嫌からか、ゆがめられている。
「ナティール様、ただいま戻りました。お待たせして申し訳ありません」
「ん……? やっと帰ってきたかティリア。遅すぎるぞ。あれは持ってきたんだろうな? というかそこにいる奴らは何だ……?」
「ご安心を。ちゃんと持ってまいりましたわ。彼ら、兵士志願したいんですって。ここまでの道案内を頼まれたんです」
ナティールが眉間にしわを寄せた。
レクスとサイラスは嫌な予感がしてすぐさま跪く。
「貴様等のせいでティリアが遅れたのか……。本当なら滅してくれようものを。大事な兵力を消してしまうのは惜しいからな、顔を上げよ」
冷や汗たらたらのレクスとサイラスは顔を見合わせた。
「ナティール様への言い訳って俺らのことかよ……!」
「下手したら斬り殺されますよ……」
彼らの小声に気づかないふりをしたレスティリアはしれと言う。
「黒髪の方がレクス、赤髪はサイラスです。彼ら新人にしては良くやるほうよ。道中、お手並み拝見させて頂きました」
「ふん、明日あたりフェランにでも見てもらえ」
「はっ!」
フェランと言う名前に聞き覚えはなかったが、陛下の御前頷くしかない二人だった。